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第1章
34. 黒幕候補
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制服の用意をした日から一週間。
私達は留学生として帝国学院の門をくぐることが出来た。
とはいえここは貴族ばかりの場所だから、油断していると足元を掬われてしまう。
それに依頼されている証拠を集めないといけない。
最初は同じクラスの人達と信頼関係を築くべきだから、大人しくしていた方が良さそうね。
「こちらがAクラスのホームルームになります。
まずは担任である私からお二人を紹介しますので、シエルさんから自己紹介をお願いします」
「分かりましたわ」
「分かりました」
クラウスと声が重なってから少しして、担任の先生がホームルームの扉を開ける。
彼に続けて足を踏み入れると、視線が一斉に集まってきた。
心なしか、ご令息方の視線が多い気がする。
ご令嬢方の視線はクラウスに集まっているから、このAクラスは大丈夫か心配になってしまう。
毒殺未遂の冤罪を着せられるような事件が起こっているのだから、どう考えても大丈夫ではないのだけれど。
「本日から編入性と留学生が加わります。シエル・エイブラムさんとクラウス・レアノルドさんです。
エイブラムさんから簡単に自己紹介をお願いします」
「はい。
シエル・エイブラムと申しますわ。これから宜しくお願いいたします」
私はエイブラム侯爵家の隠し子という設定だけれど、今話したら荒れること間違い無しだから、名乗るだけに留めておく。
クラウスも同じように名乗るだけに留めていたから、自己紹介の時間は直ぐに終わった。
「二人はまだ学内に詳しくないので、積極的に教えてあげて下さい。
それから、エイブラムさんは平民として暮らしていたそうなので、多少の無礼は見なかった事にしてください。
本日の連絡ですが……」
そこからたっぷり十分以上。先生のとても長い連絡が終わって、授業の準備時間になる。
すると、予想していた通り、私はご令嬢方に囲まれてしまった。
クラウスの方はご令息方に囲まれて、早速質問攻めに遭っている様子。
他人事のように見ていると、私も声をかけられてしまった。
「今まで大変だったでしょう?」
「侯爵様には怒っていますの?」
「魔法と剣術、どちらが得意でして?」
「侯爵家に戻る前はどこで暮らしていましたの?」
「すごく可愛らしくて驚きましたわ。お化粧のコツがあったら教えて頂きたいですわ」
同時に五つも質問が飛んできて、どれから答えようか迷ってしまう。
侯爵様からは悪評が立っても良いから、私自身の人気を得るように立ち回って良いと言われている。
だから答えには困らないのだけれど、順位を付けると後でもめそうなのよね。
「同時に聞いても分かりませんわ。順番に質問しましょう」
「そうでしたわね。では、わたくしから」
「いいえ、私から」
仲が良いのか悪いのか分からないけれど、一番をめぐって争いが起きてしまった。
空気は一切凍り付いていないから、放っておいても大丈夫かもしれないけれど、時間も無いから質問に答えようと口を開く。
「屋敷に呼ばれる前の暮らしは大変でしたけれど、支援を頂いていたのでお金には困りませんでしたわ。だからお父様にも怒っていませんの。
剣と魔法なら、剣の方が得意ですわ。私、魔力が極端に少なくて、自由に扱えませんの。
前は帝都の外れで暮らしていましたわ。詳しい場所は口外しないように言われているので、ごめんなさい。
お化粧は侍女さん達のお仕事なので、私には分かりませんわ。今度聞いてみますわね」
「聞き取れていましたの?」
「すごいですわ。もしかして、シエル様って天才なのでしょうか?」
「編入試験は難しいと有名ですけれど、勉強どうしていましたの?」
「天才では無いと思いますけれど、少し前から先生を付けて頂いたので、難しくはありませんでしたわ」
上手く嘘をつくのも王太子妃には求められることだったから練習していたのだけど、こんな形で役に立つとは思わなかった。
でも、避けられるようなことにはならずに済んだから、肩の荷が一つ下りた気がする。
「次、魔法の実技の授業なのですけど、大丈夫そうでして?」
「ええ。魔石は昨日取ってきましたから」
「それなら安心ですわね。……ちょっと待ってください、昨日取ったというのは、一体どこで?」
いけない、地雷を踏んだ気がするわ。
普通の貴族なら魔石は大金出して買うもので、間違っても自ら集めにはいかない。
「帝都の外ですわ。弱い魔物なら倒せますから」
「侯爵様は隠し子だったからって、魔石も買って下さらないのね!
なんて酷いお方なのかしら」
「食事は十分頂いていますから、心配しないでください」
意図せず評判を下げてしまったから、心の中で侯爵様に頭を下げておく。
依頼を達成したら私達は学院を辞める予定だから、その時にクラスの方々に素性を明かすつもりだ。
それまでは罪悪感との戦いだけれど、依頼のためだから仕方ないわ。
「それなら良いのですけれど……」
「心配して下さってありがとうございますわ」
お礼を口にした時、私は一つだけ異質な視線に気付いてしまった。
フィオナ・ファンルーア男爵令嬢。
毒殺未遂の罪を着せられたエイブラム侯爵令嬢のフィーリア様を目の敵にしていた、黒幕候補の人だ。
事件前にはフィーリア様はクラス中から嫌われていたそうだけど、半年前はクラスの人気者だったらしい。
この時点で犯人は決まったようなものだから、気を付けた方が良さそうね……。
それに、魔物を相手にする時と同じ危機感。
すごく……嫌な予感がする。
私達は留学生として帝国学院の門をくぐることが出来た。
とはいえここは貴族ばかりの場所だから、油断していると足元を掬われてしまう。
それに依頼されている証拠を集めないといけない。
最初は同じクラスの人達と信頼関係を築くべきだから、大人しくしていた方が良さそうね。
「こちらがAクラスのホームルームになります。
まずは担任である私からお二人を紹介しますので、シエルさんから自己紹介をお願いします」
「分かりましたわ」
「分かりました」
クラウスと声が重なってから少しして、担任の先生がホームルームの扉を開ける。
彼に続けて足を踏み入れると、視線が一斉に集まってきた。
心なしか、ご令息方の視線が多い気がする。
ご令嬢方の視線はクラウスに集まっているから、このAクラスは大丈夫か心配になってしまう。
毒殺未遂の冤罪を着せられるような事件が起こっているのだから、どう考えても大丈夫ではないのだけれど。
「本日から編入性と留学生が加わります。シエル・エイブラムさんとクラウス・レアノルドさんです。
エイブラムさんから簡単に自己紹介をお願いします」
「はい。
シエル・エイブラムと申しますわ。これから宜しくお願いいたします」
私はエイブラム侯爵家の隠し子という設定だけれど、今話したら荒れること間違い無しだから、名乗るだけに留めておく。
クラウスも同じように名乗るだけに留めていたから、自己紹介の時間は直ぐに終わった。
「二人はまだ学内に詳しくないので、積極的に教えてあげて下さい。
それから、エイブラムさんは平民として暮らしていたそうなので、多少の無礼は見なかった事にしてください。
本日の連絡ですが……」
そこからたっぷり十分以上。先生のとても長い連絡が終わって、授業の準備時間になる。
すると、予想していた通り、私はご令嬢方に囲まれてしまった。
クラウスの方はご令息方に囲まれて、早速質問攻めに遭っている様子。
他人事のように見ていると、私も声をかけられてしまった。
「今まで大変だったでしょう?」
「侯爵様には怒っていますの?」
「魔法と剣術、どちらが得意でして?」
「侯爵家に戻る前はどこで暮らしていましたの?」
「すごく可愛らしくて驚きましたわ。お化粧のコツがあったら教えて頂きたいですわ」
同時に五つも質問が飛んできて、どれから答えようか迷ってしまう。
侯爵様からは悪評が立っても良いから、私自身の人気を得るように立ち回って良いと言われている。
だから答えには困らないのだけれど、順位を付けると後でもめそうなのよね。
「同時に聞いても分かりませんわ。順番に質問しましょう」
「そうでしたわね。では、わたくしから」
「いいえ、私から」
仲が良いのか悪いのか分からないけれど、一番をめぐって争いが起きてしまった。
空気は一切凍り付いていないから、放っておいても大丈夫かもしれないけれど、時間も無いから質問に答えようと口を開く。
「屋敷に呼ばれる前の暮らしは大変でしたけれど、支援を頂いていたのでお金には困りませんでしたわ。だからお父様にも怒っていませんの。
剣と魔法なら、剣の方が得意ですわ。私、魔力が極端に少なくて、自由に扱えませんの。
前は帝都の外れで暮らしていましたわ。詳しい場所は口外しないように言われているので、ごめんなさい。
お化粧は侍女さん達のお仕事なので、私には分かりませんわ。今度聞いてみますわね」
「聞き取れていましたの?」
「すごいですわ。もしかして、シエル様って天才なのでしょうか?」
「編入試験は難しいと有名ですけれど、勉強どうしていましたの?」
「天才では無いと思いますけれど、少し前から先生を付けて頂いたので、難しくはありませんでしたわ」
上手く嘘をつくのも王太子妃には求められることだったから練習していたのだけど、こんな形で役に立つとは思わなかった。
でも、避けられるようなことにはならずに済んだから、肩の荷が一つ下りた気がする。
「次、魔法の実技の授業なのですけど、大丈夫そうでして?」
「ええ。魔石は昨日取ってきましたから」
「それなら安心ですわね。……ちょっと待ってください、昨日取ったというのは、一体どこで?」
いけない、地雷を踏んだ気がするわ。
普通の貴族なら魔石は大金出して買うもので、間違っても自ら集めにはいかない。
「帝都の外ですわ。弱い魔物なら倒せますから」
「侯爵様は隠し子だったからって、魔石も買って下さらないのね!
なんて酷いお方なのかしら」
「食事は十分頂いていますから、心配しないでください」
意図せず評判を下げてしまったから、心の中で侯爵様に頭を下げておく。
依頼を達成したら私達は学院を辞める予定だから、その時にクラスの方々に素性を明かすつもりだ。
それまでは罪悪感との戦いだけれど、依頼のためだから仕方ないわ。
「それなら良いのですけれど……」
「心配して下さってありがとうございますわ」
お礼を口にした時、私は一つだけ異質な視線に気付いてしまった。
フィオナ・ファンルーア男爵令嬢。
毒殺未遂の罪を着せられたエイブラム侯爵令嬢のフィーリア様を目の敵にしていた、黒幕候補の人だ。
事件前にはフィーリア様はクラス中から嫌われていたそうだけど、半年前はクラスの人気者だったらしい。
この時点で犯人は決まったようなものだから、気を付けた方が良さそうね……。
それに、魔物を相手にする時と同じ危機感。
すごく……嫌な予感がする。
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