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第1章
13. 旅の始まり
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「ついでで出来そうな依頼も探して行こう」
王都を発つ前のこと、クラウスがそんな提案をしてきた。
実績が欲しい私はもちろん快諾して、依頼掲示板とにらみ合いをしている。
冒険者ギルドで依頼を受けた後は期限までに報告義務があるのだけど、場所はどの支部でもいいらしい。
「身代わり妻……? こんなのもあるのね」
「シエルは絶対にやらなさそうだな」
「当然よ」
妻の代わりになって欲しいという依頼はDランクの仲では一番報酬が良いけれど、中身を見れば受けてはいけない類のものだとすぐに分かる。
報酬や待遇には良い事ばかり書いてあっても、依頼を終えた後も暗殺の対象になる可能性が高い危険なもの。
それにアルベールの貴族とは関わりたくないから、受ける選択はあり得ないわ。
「これはどうかしら?」
「ゴブリン千体の討伐か。討伐の証になる魔石を拾うのが面倒だから、効率は良くないぞ」
「簡単に見えて大変なのね……」
魔石は魔物の身体の中心に入っていて、取り出すためには解体しないといけないらしい。
それを千体となると、気が遠くなりそうね。
「とりあえず、これとこれだな」
「オークの角とワイバーンの牙……? ワイバーンって厄介な相手なのよね?」
ワイバーンと遭遇したら即逃げろ。幼い頃から何度も言われてきたことで、危険な魔物なのは知っている。
依頼ランクもBだから初心者の私には難しいと思う。
クラウスがどんなに強くても、私のせいで逃げられてしまう未来が想像出来てしまった。
「失敗しても罰金があるだけだから、気にしなくて良い」
「気にするわよ……」
功績には関わらなくても、生活に関わってしまうわ。
「魔法もある。絶対成功するから大丈夫だ」
「信じるわね」
受ける依頼を決め終えたら、いよいよ出発。
けれども、王都から出る時に通らないといけない門で騎士団に止められてしまった。
クラウスさんが。
「お前、何者だ! シエル様をどうするつもりだ!」
「私は攫われてなんかいませんわ」
私が婚約破棄されたことは門番までは伝わっていないみたいで、誘拐されているものと勘違いされている様子。
今は男装中なのだけど、顔を知られているから気付かれてしまったのね……。
「隠密ですか。失礼しました」
「気遣いありがとう。通っても良いかしら?」
「もちろんでございます」
本来は面倒な手続きがあるのだけど、顔を知られているお陰で素通り出来てしまった。
「始めて護衛無しで町の外に出たわ……」
王都の目の前だけれど、ここはもう魔物が跋扈している危険場所。
緊張のせいで鼓動が普段よりも煩い気がしてしまう。
「怖いのか?」
「ええ」
「俺が居るから大丈夫だ。これでもSランク。
その辺の魔物相手なら何万といても守り切るさ」
そう言いながら、鞄の中から剣を取り出すクラウス。
どう見ても鞄に収まる大きさではないから、驚いてしまう。
「ありがとう。
ところで、その鞄はどうなっているの?」
「これはマジックバッグだから、馬車に積めるくらいの物は入る」
「マジックバッグも持っているのね……」
マジックバッグは空間魔法が付与されている魔道具で、価値もかなり高い。
貴族でも中々手が出ないから、、私は触ったことも無いけれど、クラウスは平然と使っている。
Sランク冒険者は想像以上に稼げるらしい。
マジックバッグ、私も欲しいかも……。
羨ましく思いながら、足を進めていく。
まだ王都の城壁が近くに見えるけれど、少し離れたところには魔物の姿が見える。
私達は余計な戦闘をしないで体力を残す方針で行動しているから、襲ってこない魔物は全て無視だ。
「この辺の魔物ならシエル一人で対処出来ると思うから、襲われたら練習も兼ねて戦ってみてもらえるかな?」
「分かったわ」
こう言われると不安になってしまって、思わず腰に下げている剣の存在を確かめてしまった。
けれど魔物は待ってくれない。
危険な空気を感じてから少しして、早速魔物が襲ってくる。
「あれはガルムといって、Cランクに指定されてる。犬に似てるけど火魔法を使ってくる。
油断はしないように」
「ちょっと待って? 私Dランクよ?」
「大丈夫大丈夫。危なくなったら助けるから。
ほら、回復ポーションも沢山ある」
そういう問題じゃないと叫びたいけれど、魔物は空気なんて読んでくれない。
覚悟を決めてガルムに向かって剣を構える。
その直後、火の玉が勢いよく飛んできた。
「おぉ、流石。避けるの上手いなぁ」
後ろから呑気な声が聞こえるけれど、無視してガルムと距離を詰めていく。
けれど距離が近くなれば魔法を避けるのも難しくなっていく。
「どうやって倒すのよ!?」
「そのまま斬れば大丈夫!」
「無理無理! 先に私が火だるまになるわよ!?」
「当たっても大したことないから大丈夫!」
怖いから防御魔法を使う私。
けれど、不思議なことに火の玉には当たらずに倒すことが出来た。
捕まえたら料理の道具に使えるかしら?
攻撃魔法を使えない私にとって、火魔法は重宝するのよね……。
王都を発つ前のこと、クラウスがそんな提案をしてきた。
実績が欲しい私はもちろん快諾して、依頼掲示板とにらみ合いをしている。
冒険者ギルドで依頼を受けた後は期限までに報告義務があるのだけど、場所はどの支部でもいいらしい。
「身代わり妻……? こんなのもあるのね」
「シエルは絶対にやらなさそうだな」
「当然よ」
妻の代わりになって欲しいという依頼はDランクの仲では一番報酬が良いけれど、中身を見れば受けてはいけない類のものだとすぐに分かる。
報酬や待遇には良い事ばかり書いてあっても、依頼を終えた後も暗殺の対象になる可能性が高い危険なもの。
それにアルベールの貴族とは関わりたくないから、受ける選択はあり得ないわ。
「これはどうかしら?」
「ゴブリン千体の討伐か。討伐の証になる魔石を拾うのが面倒だから、効率は良くないぞ」
「簡単に見えて大変なのね……」
魔石は魔物の身体の中心に入っていて、取り出すためには解体しないといけないらしい。
それを千体となると、気が遠くなりそうね。
「とりあえず、これとこれだな」
「オークの角とワイバーンの牙……? ワイバーンって厄介な相手なのよね?」
ワイバーンと遭遇したら即逃げろ。幼い頃から何度も言われてきたことで、危険な魔物なのは知っている。
依頼ランクもBだから初心者の私には難しいと思う。
クラウスがどんなに強くても、私のせいで逃げられてしまう未来が想像出来てしまった。
「失敗しても罰金があるだけだから、気にしなくて良い」
「気にするわよ……」
功績には関わらなくても、生活に関わってしまうわ。
「魔法もある。絶対成功するから大丈夫だ」
「信じるわね」
受ける依頼を決め終えたら、いよいよ出発。
けれども、王都から出る時に通らないといけない門で騎士団に止められてしまった。
クラウスさんが。
「お前、何者だ! シエル様をどうするつもりだ!」
「私は攫われてなんかいませんわ」
私が婚約破棄されたことは門番までは伝わっていないみたいで、誘拐されているものと勘違いされている様子。
今は男装中なのだけど、顔を知られているから気付かれてしまったのね……。
「隠密ですか。失礼しました」
「気遣いありがとう。通っても良いかしら?」
「もちろんでございます」
本来は面倒な手続きがあるのだけど、顔を知られているお陰で素通り出来てしまった。
「始めて護衛無しで町の外に出たわ……」
王都の目の前だけれど、ここはもう魔物が跋扈している危険場所。
緊張のせいで鼓動が普段よりも煩い気がしてしまう。
「怖いのか?」
「ええ」
「俺が居るから大丈夫だ。これでもSランク。
その辺の魔物相手なら何万といても守り切るさ」
そう言いながら、鞄の中から剣を取り出すクラウス。
どう見ても鞄に収まる大きさではないから、驚いてしまう。
「ありがとう。
ところで、その鞄はどうなっているの?」
「これはマジックバッグだから、馬車に積めるくらいの物は入る」
「マジックバッグも持っているのね……」
マジックバッグは空間魔法が付与されている魔道具で、価値もかなり高い。
貴族でも中々手が出ないから、、私は触ったことも無いけれど、クラウスは平然と使っている。
Sランク冒険者は想像以上に稼げるらしい。
マジックバッグ、私も欲しいかも……。
羨ましく思いながら、足を進めていく。
まだ王都の城壁が近くに見えるけれど、少し離れたところには魔物の姿が見える。
私達は余計な戦闘をしないで体力を残す方針で行動しているから、襲ってこない魔物は全て無視だ。
「この辺の魔物ならシエル一人で対処出来ると思うから、襲われたら練習も兼ねて戦ってみてもらえるかな?」
「分かったわ」
こう言われると不安になってしまって、思わず腰に下げている剣の存在を確かめてしまった。
けれど魔物は待ってくれない。
危険な空気を感じてから少しして、早速魔物が襲ってくる。
「あれはガルムといって、Cランクに指定されてる。犬に似てるけど火魔法を使ってくる。
油断はしないように」
「ちょっと待って? 私Dランクよ?」
「大丈夫大丈夫。危なくなったら助けるから。
ほら、回復ポーションも沢山ある」
そういう問題じゃないと叫びたいけれど、魔物は空気なんて読んでくれない。
覚悟を決めてガルムに向かって剣を構える。
その直後、火の玉が勢いよく飛んできた。
「おぉ、流石。避けるの上手いなぁ」
後ろから呑気な声が聞こえるけれど、無視してガルムと距離を詰めていく。
けれど距離が近くなれば魔法を避けるのも難しくなっていく。
「どうやって倒すのよ!?」
「そのまま斬れば大丈夫!」
「無理無理! 先に私が火だるまになるわよ!?」
「当たっても大したことないから大丈夫!」
怖いから防御魔法を使う私。
けれど、不思議なことに火の玉には当たらずに倒すことが出来た。
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