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26. 不味くなかったらしい
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「三階のテラスで良いかしら?」
「ええ、大丈夫ですわ」
「私は何も分からないので、お任せしますわ」
ダイニングを出てからの私は、お義姉様達に挟まれて廊下を進んでいる。
ここ公爵邸の廊下は三人横に並んでも窮屈にならないくらい広々としているから、うっかり躓いたりはしない。
これが伯爵邸だと二人並んで歩くのが限界だったから、お話ししながら一緒に移動することなんて無かったのよね。
そもそも私にはお話をする相手が居なかったけれど。
「こんなところにも階段がありますのね」
「ええ、普段はこちらを使っているわ。一応使用人用という事になっているけれど、玄関の方は煌びやかで落ち着かないから。
……もしかして、エリシアはまだこの邸の案内をされていないのかしら?」
「ええ、部屋の中だけしか知りませんわ」
「そういうことなら、先にこの邸の案内をしましょう」
まだ最低限の説明しか受けていなかったから、お義姉様の提案に頷く私。
最初は何を説明されるのか気になっていると、テラスに繋がる扉の前に着いてしまった。
「ここにテラスがあるわ。
向かい側の扉は全部使用人達の私室だから、勝手に覗かないように。使用人でもプライベートは守らないといけないから、問題になってしまうわ」
「分かりましたわ。この扉は他とデザインが違いますけれど、どこに繋がっていますの?」
使用人さん達の私室とは違うデザインの扉が隣にあったから、問いかけてみる。
するとお義姉様はその扉を開けて、中に入るように促してきた。
「ここはテラスでお茶をするときに、準備に使う部屋よ。
基本は侍女が全部準備してくれるけれど、急に必要になった時は自分で準備するのに使っているから、もし必要になったらいつでも聞いて」
「ありがとうございます。
お義姉様もお茶を淹れることがあるのですね!」
「ええ、侍女達のように上手くは出来ないけれど、飲めるくらいには出来るわ」
そんな言葉を交わしながら部屋を後にして、今度は二階に向かう私達。
二階は家族の私室が纏まっていて、どこに誰の部屋があるのか教わった。
お義姉様とヴァイオレット様の私室の中を少しだけ見せてもらう事が出来たけれど、どちらも私が与えられた私室と同じくらいの広さだった。
どの部屋も同じ大きさで作られていると聞いたから、きっとお義父様とお義母様の私室も同じ大きさなのだと思う。
「次は……ここはダンスや武術の練習に使っている広間よ。
護身術の練習もここで出来るから、エリシアも早めに習得した方が良いわ」
「護身術……お義父様に相談してみますわ」
「レティでも教えられると思うから、レティと練習する方が良いと思うわ。
その方が仲良くなれるもの」
「お姉さま、私に先生が務まるとは思えませんわ」
「私よりも上手いのだから、自信を持って。レティなら大丈夫よ」
案内をしてもらうはずが護身術の練習をすることも決まったりしたけれど、広いお屋敷の中は一通り見終えたみたいで、今度こそテラスに向かう私達。
けれど、テラスには侍女さんが一人も居なかったから、早速自分たちでお茶の準備をすることになった。
「ちょうど良い機会だから、説明するわね。
これをこうして……こんな感じよ。エリシアも試してみて!」
「私が淹れるお茶、いつも不味いと言われているのですけれど、大丈夫でしょうか……?」
「茶葉が駄目だった可能性もあるから、一回試してみましょう!」
こんな風に言われてしまったら断り切れなくて、習ったやり方で試してみる。
道具は伯爵邸よりもずっと良い物を使えるから、もしかしたら美味しく出来ているかもしれない。
でも、ヴァイオレット様もお義姉様もすごく楽しそうにしているから、緊張してしまう。
「こんな感じでしょうか……?」
「ええ。大丈夫よ」
無事に淹れ終えるとお義姉様がそう口にしてくれたけれど、味が大丈夫だとは思えないのよね……。
だからこれは自分で飲み切ってしまおう。そう思ったけれど、ヴァイオレット様からこんなことを言われてしまった。
「少し味見させてください」
「レティだけ狡いわ。私にも味見させて欲しいわ」
「は、はい。どんなに不味くても怒らないでくださいね」
そうして最初にヴァイオレット様がお茶を口に含んだのだけど、すぐに口を押えて固まってしまった。
……絶望的に不味くて驚いているみたい。やっぱり私はお茶を淹れない方がよさそうね。
「……すごく美味しいわ。
やり方は同じはずなのに、一体どうなっているの!?」
「本当だわ。侍女長が淹れるのと同じくらい美味しいだなんて驚いたわ。エリシアのお茶を不味いと言う人は舌がどうかしているのよ。
エリシアはもっと自信を持つべきだわ!」
道具のお陰だと思っていたけれど、侍女長さんが淹れるよりも美味しいと言われてしまったから、元お義母様やコリンナ達の舌がどうにかしていたらしい。
だから安心したけれど、またお茶を淹れることにならないか不安になってしまう。
それからはテラスに出て綺麗な庭園を眺めながら色々なことをお話して、あっという間に時間が過ぎていく。
お茶のお代わりは侍女さんの役目になっていたから、私の心配は杞憂で済みそうだわ。
けれど、話に夢中になりすぎて夕食の時間に遅れてしまって、三人揃って叱られてしまった。
「ええ、大丈夫ですわ」
「私は何も分からないので、お任せしますわ」
ダイニングを出てからの私は、お義姉様達に挟まれて廊下を進んでいる。
ここ公爵邸の廊下は三人横に並んでも窮屈にならないくらい広々としているから、うっかり躓いたりはしない。
これが伯爵邸だと二人並んで歩くのが限界だったから、お話ししながら一緒に移動することなんて無かったのよね。
そもそも私にはお話をする相手が居なかったけれど。
「こんなところにも階段がありますのね」
「ええ、普段はこちらを使っているわ。一応使用人用という事になっているけれど、玄関の方は煌びやかで落ち着かないから。
……もしかして、エリシアはまだこの邸の案内をされていないのかしら?」
「ええ、部屋の中だけしか知りませんわ」
「そういうことなら、先にこの邸の案内をしましょう」
まだ最低限の説明しか受けていなかったから、お義姉様の提案に頷く私。
最初は何を説明されるのか気になっていると、テラスに繋がる扉の前に着いてしまった。
「ここにテラスがあるわ。
向かい側の扉は全部使用人達の私室だから、勝手に覗かないように。使用人でもプライベートは守らないといけないから、問題になってしまうわ」
「分かりましたわ。この扉は他とデザインが違いますけれど、どこに繋がっていますの?」
使用人さん達の私室とは違うデザインの扉が隣にあったから、問いかけてみる。
するとお義姉様はその扉を開けて、中に入るように促してきた。
「ここはテラスでお茶をするときに、準備に使う部屋よ。
基本は侍女が全部準備してくれるけれど、急に必要になった時は自分で準備するのに使っているから、もし必要になったらいつでも聞いて」
「ありがとうございます。
お義姉様もお茶を淹れることがあるのですね!」
「ええ、侍女達のように上手くは出来ないけれど、飲めるくらいには出来るわ」
そんな言葉を交わしながら部屋を後にして、今度は二階に向かう私達。
二階は家族の私室が纏まっていて、どこに誰の部屋があるのか教わった。
お義姉様とヴァイオレット様の私室の中を少しだけ見せてもらう事が出来たけれど、どちらも私が与えられた私室と同じくらいの広さだった。
どの部屋も同じ大きさで作られていると聞いたから、きっとお義父様とお義母様の私室も同じ大きさなのだと思う。
「次は……ここはダンスや武術の練習に使っている広間よ。
護身術の練習もここで出来るから、エリシアも早めに習得した方が良いわ」
「護身術……お義父様に相談してみますわ」
「レティでも教えられると思うから、レティと練習する方が良いと思うわ。
その方が仲良くなれるもの」
「お姉さま、私に先生が務まるとは思えませんわ」
「私よりも上手いのだから、自信を持って。レティなら大丈夫よ」
案内をしてもらうはずが護身術の練習をすることも決まったりしたけれど、広いお屋敷の中は一通り見終えたみたいで、今度こそテラスに向かう私達。
けれど、テラスには侍女さんが一人も居なかったから、早速自分たちでお茶の準備をすることになった。
「ちょうど良い機会だから、説明するわね。
これをこうして……こんな感じよ。エリシアも試してみて!」
「私が淹れるお茶、いつも不味いと言われているのですけれど、大丈夫でしょうか……?」
「茶葉が駄目だった可能性もあるから、一回試してみましょう!」
こんな風に言われてしまったら断り切れなくて、習ったやり方で試してみる。
道具は伯爵邸よりもずっと良い物を使えるから、もしかしたら美味しく出来ているかもしれない。
でも、ヴァイオレット様もお義姉様もすごく楽しそうにしているから、緊張してしまう。
「こんな感じでしょうか……?」
「ええ。大丈夫よ」
無事に淹れ終えるとお義姉様がそう口にしてくれたけれど、味が大丈夫だとは思えないのよね……。
だからこれは自分で飲み切ってしまおう。そう思ったけれど、ヴァイオレット様からこんなことを言われてしまった。
「少し味見させてください」
「レティだけ狡いわ。私にも味見させて欲しいわ」
「は、はい。どんなに不味くても怒らないでくださいね」
そうして最初にヴァイオレット様がお茶を口に含んだのだけど、すぐに口を押えて固まってしまった。
……絶望的に不味くて驚いているみたい。やっぱり私はお茶を淹れない方がよさそうね。
「……すごく美味しいわ。
やり方は同じはずなのに、一体どうなっているの!?」
「本当だわ。侍女長が淹れるのと同じくらい美味しいだなんて驚いたわ。エリシアのお茶を不味いと言う人は舌がどうかしているのよ。
エリシアはもっと自信を持つべきだわ!」
道具のお陰だと思っていたけれど、侍女長さんが淹れるよりも美味しいと言われてしまったから、元お義母様やコリンナ達の舌がどうにかしていたらしい。
だから安心したけれど、またお茶を淹れることにならないか不安になってしまう。
それからはテラスに出て綺麗な庭園を眺めながら色々なことをお話して、あっという間に時間が過ぎていく。
お茶のお代わりは侍女さんの役目になっていたから、私の心配は杞憂で済みそうだわ。
けれど、話に夢中になりすぎて夕食の時間に遅れてしまって、三人揃って叱られてしまった。
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