上 下
26 / 36

26. 不味くなかったらしい

しおりを挟む
「三階のテラスで良いかしら?」

「ええ、大丈夫ですわ」

「私は何も分からないので、お任せしますわ」

 ダイニングを出てからの私は、お義姉様達に挟まれて廊下を進んでいる。
 ここ公爵邸の廊下は三人横に並んでも窮屈にならないくらい広々としているから、うっかり躓いたりはしない。

 これが伯爵邸だと二人並んで歩くのが限界だったから、お話ししながら一緒に移動することなんて無かったのよね。
 そもそも私にはお話をする相手が居なかったけれど。

「こんなところにも階段がありますのね」

「ええ、普段はこちらを使っているわ。一応使用人用という事になっているけれど、玄関の方は煌びやかで落ち着かないから。
 ……もしかして、エリシアはまだこの邸の案内をされていないのかしら?」

「ええ、部屋の中だけしか知りませんわ」

「そういうことなら、先にこの邸の案内をしましょう」

 まだ最低限の説明しか受けていなかったから、お義姉様の提案に頷く私。
 最初は何を説明されるのか気になっていると、テラスに繋がる扉の前に着いてしまった。

「ここにテラスがあるわ。
 向かい側の扉は全部使用人達の私室だから、勝手に覗かないように。使用人でもプライベートは守らないといけないから、問題になってしまうわ」

「分かりましたわ。この扉は他とデザインが違いますけれど、どこに繋がっていますの?」

 使用人さん達の私室とは違うデザインの扉が隣にあったから、問いかけてみる。
 するとお義姉様はその扉を開けて、中に入るように促してきた。

「ここはテラスでお茶をするときに、準備に使う部屋よ。
 基本は侍女が全部準備してくれるけれど、急に必要になった時は自分で準備するのに使っているから、もし必要になったらいつでも聞いて」

「ありがとうございます。
 お義姉様もお茶を淹れることがあるのですね!」

「ええ、侍女達のように上手くは出来ないけれど、飲めるくらいには出来るわ」

 そんな言葉を交わしながら部屋を後にして、今度は二階に向かう私達。
 二階は家族の私室が纏まっていて、どこに誰の部屋があるのか教わった。

 お義姉様とヴァイオレット様の私室の中を少しだけ見せてもらう事が出来たけれど、どちらも私が与えられた私室と同じくらいの広さだった。
 どの部屋も同じ大きさで作られていると聞いたから、きっとお義父様とお義母様の私室も同じ大きさなのだと思う。

「次は……ここはダンスや武術の練習に使っている広間よ。
 護身術の練習もここで出来るから、エリシアも早めに習得した方が良いわ」

「護身術……お義父様に相談してみますわ」

「レティでも教えられると思うから、レティと練習する方が良いと思うわ。
 その方が仲良くなれるもの」

「お姉さま、私に先生が務まるとは思えませんわ」

「私よりも上手いのだから、自信を持って。レティなら大丈夫よ」

 案内をしてもらうはずが護身術の練習をすることも決まったりしたけれど、広いお屋敷の中は一通り見終えたみたいで、今度こそテラスに向かう私達。
 けれど、テラスには侍女さんが一人も居なかったから、早速自分たちでお茶の準備をすることになった。

「ちょうど良い機会だから、説明するわね。
 これをこうして……こんな感じよ。エリシアも試してみて!」

「私が淹れるお茶、いつも不味いと言われているのですけれど、大丈夫でしょうか……?」

「茶葉が駄目だった可能性もあるから、一回試してみましょう!」

 こんな風に言われてしまったら断り切れなくて、習ったやり方で試してみる。
 道具は伯爵邸よりもずっと良い物を使えるから、もしかしたら美味しく出来ているかもしれない。

 でも、ヴァイオレット様もお義姉様もすごく楽しそうにしているから、緊張してしまう。

「こんな感じでしょうか……?」

「ええ。大丈夫よ」

 無事に淹れ終えるとお義姉様がそう口にしてくれたけれど、味が大丈夫だとは思えないのよね……。
 だからこれは自分で飲み切ってしまおう。そう思ったけれど、ヴァイオレット様からこんなことを言われてしまった。

「少し味見させてください」

「レティだけ狡いわ。私にも味見させて欲しいわ」

「は、はい。どんなに不味くても怒らないでくださいね」

 そうして最初にヴァイオレット様がお茶を口に含んだのだけど、すぐに口を押えて固まってしまった。
 ……絶望的に不味くて驚いているみたい。やっぱり私はお茶を淹れない方がよさそうね。

「……すごく美味しいわ。
 やり方は同じはずなのに、一体どうなっているの!?」

「本当だわ。侍女長が淹れるのと同じくらい美味しいだなんて驚いたわ。エリシアのお茶を不味いと言う人は舌がどうかしているのよ。
エリシアはもっと自信を持つべきだわ!」

 道具のお陰だと思っていたけれど、侍女長さんが淹れるよりも美味しいと言われてしまったから、元お義母様やコリンナ達の舌がどうにかしていたらしい。
 だから安心したけれど、またお茶を淹れることにならないか不安になってしまう。

 それからはテラスに出て綺麗な庭園を眺めながら色々なことをお話して、あっという間に時間が過ぎていく。
 お茶のお代わりは侍女さんの役目になっていたから、私の心配は杞憂で済みそうだわ。

 けれど、話に夢中になりすぎて夕食の時間に遅れてしまって、三人揃って叱られてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!

夢草 蝶
恋愛
 伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。  しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。  翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。

私を「ウザイ」と言った婚約者。ならば、婚約破棄しましょう。

夢草 蝶
恋愛
 子爵令嬢のエレインにはライという婚約者がいる。  しかし、ライからは疎んじられ、その取り巻きの少女たちからは嫌がらせを受ける日々。  心がすり減っていくエレインは、ある日思った。  ──もう、いいのではないでしょうか。  とうとう限界を迎えたエレインは、とある決心をする。

(完)僕は醜すぎて愛せないでしょう? と俯く夫。まさか、貴男はむしろイケメン最高じゃないの!

青空一夏
恋愛
私は不幸だと自分を思ったことがない。大体が良い方にしか考えられないし、天然とも言われるけれどこれでいいと思っているの。 お父様に婚約者を押しつけられた時も、途中でそれを妹に譲ってまた返された時も、全ては考え方次第だと思うわ。 だって、生きてるだけでもこの世は楽しい!  これはそんなヒロインが楽しく生きていくうちに自然にざまぁな仕返しをしてしまっているコメディ路線のお話です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。転生者の天然無双物語。

(本編完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏
恋愛
 私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。  私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・  これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。  ※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。  ※途中タグの追加や削除もありえます。  ※表紙は青空作成AIイラストです。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

処理中です...