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1. 死にかけています
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(私はもう死ぬのね……)
薄れていく意識の中、私はそんなことを思った。
もう一週間も食事をとれていないから、動きたくても身体に力が入らない。
医学の知識が無い私でも、これだけ弱っていれば命が危ないことくらい理解出来てしまう。
今はなんとか身体を起こせているけれど、立ち上がることは出来なかった。
それなのにお義母様と義妹達は弱った私を嘲笑して、愉悦に浸っている。
さっきだって「惨めだわ」とわざわざ笑いに来たくらいだ。
実父であるはずのお父様はお義母様の機嫌を優先して助けてくれず、伯爵領の事が忙しいと毎日屋敷を空けている。
前回帰ってきたのは、もう一ヶ月以上も前のこと。
お父様は私が使用人未満の扱いを受けていることを知っているのに、何度相談しても、何度助けを求めても現実は変わらなかった。
逃げ出すことは許されず、勝手に食事をすることも出来ない日々。
私の味方をしてくれていた侍女達は、まかないを私に分けてくれていたことが義母に見つかって解雇されてしまったから、すぐに助けてくれる人も居ない。
今残っている使用人達も私を慕ってくれていて、義母達には協力していないけれど……クビになれば家族共々野垂れ死ぬことになるから、私に手を貸すことも出来ないのよね。
他人の命を奪うことはしたくないから、私も侍女たちに助けを求めたりはしていない。
クビにされた侍女たちが助けに来てくれるはずだけれど、もう一週間も状況は変わっていない。
物置小屋で死ぬなんて……今は亡きお母様に申し訳ないし、お義母様達に負けた気がして悔しいから嫌だけれど、もう意識を保っていられなくて。
私は意識を手放した。
◇
それからどれくらい経ったのだろう。
私は扉の鍵を開けようとする物音で意識を取り戻した。
横になっていると鞭で打たれるから必死に身体を起こそうとしたのに、いくら力を入れても起き上がることは出来ない。
そうしていると、ついに扉が開けられて……一番見たくない顔が視界に映った。
鞭で打たれる。そう思って身構える私。
けれど、鞭が飛んでくるときの風切り音は聞こえてこなかった。
「喜びなさい、エリシア! お前に縁談が来たわ!」
代わりに聞こえてきたのは、お義母様のとても嬉しそうな声。
この縁談が私への助け舟と気付いたら、きっと今の笑顔は跡もなく消えると思う。
自分で言うことではないけれど、こんなにボロボロな令嬢が居ることがバレれば……もうバレているから今更なのだけど……この事だけで立派な醜聞。
喜べる状況では無いはずないから、お義母様は馬鹿に違いないよね……。
そう思っていたら、お義母様が喜んでいる理由が明かされた。
「お前の嫁ぎ先はアイシューヴ公爵様ですって!
あのお方、女癖が悪くて後妻になった五人のご令嬢を病ませたそうだわ。お前も酷い目に遭うのね!」
嬉々として要らない情報を語られているけれど、死にそうになるまで虐げられている今の状況よりは絶対に良いに決まっている。それに、これは私への助け舟だ。
だから表情には出さなかったけれど、この縁談は私にとってすごく嬉しいこと。
公爵家なら食事は毎食出てくるはずだし、どんなに酷くても今よりもずっと良い場所で眠れるはずなのだから。
けれど、そんな期待はすぐに裏切られることになってしまった。
「お母様、アレをこのまま嫁がせるおつもりですか?
こんなボロボロで弱っている令嬢が居ると知れたら、醜聞どころで済まないと思います。最悪、取り潰しに……。
だからしっかり磨き上げないと、縁談は消えると思います」
「それもそうね! 流石は私の優秀な息子だわ!」
私にとっては義弟のエルウィンの言葉を聞いてお母様はそんなことを口にすると、鼻を押さえながら私に近付いてきた。
「立ちなさい! その汚い身体を何とかしなかったら、鞭で打つわよ!」
「そん……な……」
腕を引っ張られたけれど、無理だという言葉は出せなかった。
しばらく水も飲めていないから、掠れた声が出るだけ。
「お母様……コレ、弱りすぎているので死ぬかもしれませんよ。
餓死させたと発覚すれば……」
「大変です奥様!
本日中にアイシューヴ公爵様がいらっしゃるそうです! それでエリシアお嬢様を連れ帰ると……」
「何ですって!? 絶対に間に合わないわ……!
そうだわ! 急な病で死んだことにしましょう! 餓死するのも時間の問題だし、そこの川に捨ててきなさい! そうすれば見つからないわ!」
一瞬にして表情を険しくし、侍女達に命令するお義母様。そこの川というのは、このお屋敷の横を流れている流れが急な川のこと。そこに落とされたら、泳ぎが得意な人でも命は無いと言われているのよね。
そこに私を落とせばどうなるか、考えるまでもない。
だから侍女達は首を振って、命令を拒否する姿勢を見せた。
平民が貴族を殺せば一家処刑されるのだから、よほど忠誠心が高くないとこんな命令には従わないはずなのよね。
貴族だって、貴族を殺せば極刑は免れないから、お義母様は使用人に押し付けたいみたい。
私はもう抵抗出来ないから諦めているけれど……。
「遠くにアイシューヴ公爵家の馬車が見えました! あと十分ほどで到着されると思われます!」
「何ですって!? もう時間がありませんわ!」
いよいよ慌てたお義母様は私の両腕を掴むと、そのまま勢いよく引き摺って川に向かい始める。
そして川に投げ出されて、背中から冷たい水の中に落ちてしまった。
幸いにも顔だけは水の上に出せているから溺れてはいない。でも、冷たい水が身体の感覚をあっという間に奪っていく。
早く岸に上がらなきゃ……。
そう思っても、身体は言うことを聞かないから、ただ流れに身を任せることが出来ない。
私は凍え死ぬ運命だったのね……。
どれくらい流されたのか分からないけれど、諦めそうになった時。
「今助けるから頑張れ!」
知らない男性の声が聞こえた。
薄れていく意識の中、私はそんなことを思った。
もう一週間も食事をとれていないから、動きたくても身体に力が入らない。
医学の知識が無い私でも、これだけ弱っていれば命が危ないことくらい理解出来てしまう。
今はなんとか身体を起こせているけれど、立ち上がることは出来なかった。
それなのにお義母様と義妹達は弱った私を嘲笑して、愉悦に浸っている。
さっきだって「惨めだわ」とわざわざ笑いに来たくらいだ。
実父であるはずのお父様はお義母様の機嫌を優先して助けてくれず、伯爵領の事が忙しいと毎日屋敷を空けている。
前回帰ってきたのは、もう一ヶ月以上も前のこと。
お父様は私が使用人未満の扱いを受けていることを知っているのに、何度相談しても、何度助けを求めても現実は変わらなかった。
逃げ出すことは許されず、勝手に食事をすることも出来ない日々。
私の味方をしてくれていた侍女達は、まかないを私に分けてくれていたことが義母に見つかって解雇されてしまったから、すぐに助けてくれる人も居ない。
今残っている使用人達も私を慕ってくれていて、義母達には協力していないけれど……クビになれば家族共々野垂れ死ぬことになるから、私に手を貸すことも出来ないのよね。
他人の命を奪うことはしたくないから、私も侍女たちに助けを求めたりはしていない。
クビにされた侍女たちが助けに来てくれるはずだけれど、もう一週間も状況は変わっていない。
物置小屋で死ぬなんて……今は亡きお母様に申し訳ないし、お義母様達に負けた気がして悔しいから嫌だけれど、もう意識を保っていられなくて。
私は意識を手放した。
◇
それからどれくらい経ったのだろう。
私は扉の鍵を開けようとする物音で意識を取り戻した。
横になっていると鞭で打たれるから必死に身体を起こそうとしたのに、いくら力を入れても起き上がることは出来ない。
そうしていると、ついに扉が開けられて……一番見たくない顔が視界に映った。
鞭で打たれる。そう思って身構える私。
けれど、鞭が飛んでくるときの風切り音は聞こえてこなかった。
「喜びなさい、エリシア! お前に縁談が来たわ!」
代わりに聞こえてきたのは、お義母様のとても嬉しそうな声。
この縁談が私への助け舟と気付いたら、きっと今の笑顔は跡もなく消えると思う。
自分で言うことではないけれど、こんなにボロボロな令嬢が居ることがバレれば……もうバレているから今更なのだけど……この事だけで立派な醜聞。
喜べる状況では無いはずないから、お義母様は馬鹿に違いないよね……。
そう思っていたら、お義母様が喜んでいる理由が明かされた。
「お前の嫁ぎ先はアイシューヴ公爵様ですって!
あのお方、女癖が悪くて後妻になった五人のご令嬢を病ませたそうだわ。お前も酷い目に遭うのね!」
嬉々として要らない情報を語られているけれど、死にそうになるまで虐げられている今の状況よりは絶対に良いに決まっている。それに、これは私への助け舟だ。
だから表情には出さなかったけれど、この縁談は私にとってすごく嬉しいこと。
公爵家なら食事は毎食出てくるはずだし、どんなに酷くても今よりもずっと良い場所で眠れるはずなのだから。
けれど、そんな期待はすぐに裏切られることになってしまった。
「お母様、アレをこのまま嫁がせるおつもりですか?
こんなボロボロで弱っている令嬢が居ると知れたら、醜聞どころで済まないと思います。最悪、取り潰しに……。
だからしっかり磨き上げないと、縁談は消えると思います」
「それもそうね! 流石は私の優秀な息子だわ!」
私にとっては義弟のエルウィンの言葉を聞いてお母様はそんなことを口にすると、鼻を押さえながら私に近付いてきた。
「立ちなさい! その汚い身体を何とかしなかったら、鞭で打つわよ!」
「そん……な……」
腕を引っ張られたけれど、無理だという言葉は出せなかった。
しばらく水も飲めていないから、掠れた声が出るだけ。
「お母様……コレ、弱りすぎているので死ぬかもしれませんよ。
餓死させたと発覚すれば……」
「大変です奥様!
本日中にアイシューヴ公爵様がいらっしゃるそうです! それでエリシアお嬢様を連れ帰ると……」
「何ですって!? 絶対に間に合わないわ……!
そうだわ! 急な病で死んだことにしましょう! 餓死するのも時間の問題だし、そこの川に捨ててきなさい! そうすれば見つからないわ!」
一瞬にして表情を険しくし、侍女達に命令するお義母様。そこの川というのは、このお屋敷の横を流れている流れが急な川のこと。そこに落とされたら、泳ぎが得意な人でも命は無いと言われているのよね。
そこに私を落とせばどうなるか、考えるまでもない。
だから侍女達は首を振って、命令を拒否する姿勢を見せた。
平民が貴族を殺せば一家処刑されるのだから、よほど忠誠心が高くないとこんな命令には従わないはずなのよね。
貴族だって、貴族を殺せば極刑は免れないから、お義母様は使用人に押し付けたいみたい。
私はもう抵抗出来ないから諦めているけれど……。
「遠くにアイシューヴ公爵家の馬車が見えました! あと十分ほどで到着されると思われます!」
「何ですって!? もう時間がありませんわ!」
いよいよ慌てたお義母様は私の両腕を掴むと、そのまま勢いよく引き摺って川に向かい始める。
そして川に投げ出されて、背中から冷たい水の中に落ちてしまった。
幸いにも顔だけは水の上に出せているから溺れてはいない。でも、冷たい水が身体の感覚をあっという間に奪っていく。
早く岸に上がらなきゃ……。
そう思っても、身体は言うことを聞かないから、ただ流れに身を任せることが出来ない。
私は凍え死ぬ運命だったのね……。
どれくらい流されたのか分からないけれど、諦めそうになった時。
「今助けるから頑張れ!」
知らない男性の声が聞こえた。
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