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黒幕

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 意識が戻ると目の前には、慶福の姿があった。慶福は「気分は如何ですか?」と久野の顔を覗き込んだ。久野は、「少し頭痛が……」と言って上半身を起こした。

 辺りを見渡すと、晴夏の姿が無い。久野が「光智さんは?」と聞くと、慶福は「催眠誘導が終わるまで、隣りの部屋で休んで頂いてます」と答えた。

 久野が「今何時ですか?」と聞くと、慶福は「2時18分です、それでトリニティの隠し場所の記憶は?」と言った。その時、久野の脳裏にこの部屋で催眠誘導をされる光智の姿が浮かんだ。久野は『何だいまの映像は? 』と思った。

 久野はいま見た映像が、実際に起こった事なのかが知りたくなり、慶福に「光智さんのお父さんも以前ここに来たことが?」と聞くと、慶福は「何故ですか?」と聞き返した。

 久野は「なんとなくそんな気がしたので……」と言うと、慶福は「光智もここジェファソニアンは知っているはずなので、何度かここを訪れていたかも知れませんね」と答えた。

 しかし、久野の脳裏に浮かんだ光智は点滴をしていた。久野は、もしもあの頭に浮かんだ映像が本当で、光智が事故以前に来ていたときの映像であれば、点滴をしているのは変だと思った。すると今度は、慶福と長田がジェファソニアンの応接室で会っている姿が脳裏に浮かんだ。久野は『まただ……  催眠誘導に触発されて、こんな能力が? これが能力で映像が事実だとしたら……』と考えていた。

 久野の脳裏に更なる疑問が浮かぶ『慶福さんと長田さんの2人は、何時から知り合いなんだ……?』と考えていると、慶福がまた「それでトリニティの隠し場所は解ったんですか?」と聞いてきた。

 久野が「400年以上も前の事なので、地形も変わっているでしょうし、行ってみないことには何とも言えませんが……」と言うと慶福は「それでは早速、向かう手配を……」と言った。

 久野は「その前に、友人を外で待たせているので連絡しても良いですか?」と聞いた。 慶福は「来てから大分時間も経ってますし、長田さんも心配しているでしょう、どうぞ連絡してください」と言った。久野は慶福のこの言葉に確固たる疑いを感じた。

 久野は「何故待たせている友人が長田さんだと知っているんですか?」と聞くと、慶福は「確か光智さんから連絡頂いた際、長田さんの車で向かっていると話されたので……」と答えた。

 久野が「車の中で光智さんは、車で向かってるとしか言ってないかと思うのですが…… ?」と言うと、慶福は「あぁ、先ほど催眠誘導を待っている間に、光智さんに聞いたのかもしれませんね」と言った。

 久野は「慶福さんは長田さんをご存知なんですか? 何時から2人はお知り合いなんですか?」と問い詰めた。慶福がしどろもどろで「な、長田さんとはですね……」と言いかけると、奥から「これ以上誤魔化すのは無理でしょう」と声がした。

 慶福と久野が声のする方を振り向くと、そこには晴夏とその後ろに長田の姿があった。久野はそこに長田が居ることに驚き「長田さん……」と言って立ち上がった。

 「久野さん、そんなに興奮しないで、話し合いましょう」と言った長田の手には拳銃が握られ、晴夏の背中に当てられていた。

 久野は、何故長田がここに居るのか、何故こんな事をするのか解らず「長田さんがどうして……」としか言えなかった。「どうして? 前世の記憶を取り戻し、覚醒し始めている久野さんなら、直ぐに慶福さんの事も解ると思ったのですが……」と長田は答えた。

 「慶福さんの事? 何を言ってるのか……?」と慶福の方を見ると、慶福は「私から説明しましょう利休、それとも抛筌斎とお呼びした方が宜しいかな?」と言った。久野は「何故その名前を……?」と言って驚きのあまり固まった。

 「そうですね……」慶福はゆっくりとした口調で話し始めた。慶福は「2年ほど前になるでしょうか、私もこのジェファソニアンを訪れ、催眠誘導の治療を受けました。その時です、私の前世が羽柴であり、秀吉だった事を知りました」と言った。久野は驚きのあまり「秀吉?」と大きな声で聞き返した。

 慶福は「そう、あの歴史で教わった豊田秀吉が自分だったなんて私も驚きました。啓明結社に居た私は、大した能力も無いのに名前ばかりの幹部連中に不満を抱いていた事もあり、信長様が居てくれたらと思いました。私が転生しているのであれば、信長様も転生しているかもしれないと考え、あのとき果たせなかった夢、トリニティを手に入れ信長様を党首にと思いました。そして今度こそは信長様と天下統一…… 能力者だけの世界をと考える様になりました」と言った。久野は「能力者だけの世界って……?」とつぶやいた。

 慶福は久野の言葉など無視して「以前より潜入させられていた八咫烏で利休の情報を得た私は、利休の転生者である光智の身柄確保を急ぎました。これは以前にも話した通り、かくまうとの名目で光智を呼びだしたのですが、その場所に光智は現れなかった。嫌な予感がした私は光智の自宅へ向かい、ガラスを割って侵入しようとすると中からガスの臭いが…… しまったと思ったところへ警官が駆け付け、私は止む無くその場を立ち去るしかなかった」と続けた。晴夏は「あのときの侵入者は、泥棒では無く慶福さんだったのね……」と言った。

 慶福は「ある意味、私が君のお父さんを救ったのだから感謝して欲しい」と言った。晴夏が「慶福さんは父の友人では無かったの?」と言うと、慶福は「光智には友人の私に協力して欲しかったのですが……」と言った。

 慶福は「話しが脱線してしまいましたが、調度そのころ、八咫烏は信長様の転生者を見付け、事故に見せかけ殺害を実行していました、それを知ったころには時既に遅く、信長様は病院へ運ばれ意識不明の状態に…… 諦めきれなかった私は、信長様の意識が戻る事を祈りました。そんな私の願いを叶えてくれたのが他でもない、久野さん貴方です」と話した。

 久野は「そんな……」とつぶやき、八咫烏が長田を殺害しようとした事、自分が信長の転生者である長田を蘇らせてしまった事を知り困惑していた。

 更に慶福は「私は長田さんに接触し、ここを紹介して催眠誘導を受けて貰いました。そして前世での記憶を取り戻した長田さんに全てを話しました」と言った。久野は「ちょっと待ってください、それなら何時から長田さんは自分が信長だったと?」と聞いた。長田は「退院してから初めてカフェオリジナルで会ったでしょう、その2日前だったかなぁ~」と答えた。「あの時には既に……」久野は言葉を失った。

 慶福は「そう、久野さんを光智の娘に会せようと考えたのは長田さんです」と誇らしげに言った。慶福は「光智の娘の会社に勤める友人に夢の話しを持ち掛け、取材に光智さんを寄越して欲しいとお願いしました。その後は知っての通り、久野さん貴方は私達の期待に応えてくれた。私達は機会をみて光智を病院から連れ出し、誘導催眠で利休の記憶を蘇らせようとしました、しかし光智の前世は、貴方の家臣だった十兵衛、それとあの憎き明智光秀だった。私達は戸惑いました、まさか偽の情報を捕ませられていたとは……」と説明して見せた。

 久野が「まさか光智さんが十兵衛……」と驚いていると、晴夏が「それでお父さんは無事なの? 生きているの?」と叫んだ。すると長田は「明智が憎いとはいえ、それは戦国時代の話し、今となっては無闇に殺生するつもりはありません」と言った。慶福が「光智は我々が大事に預かっていますのでご安心ください」と言った。慶福は「話しを元に戻しても宜しいですか?」と言うと「騙された事に気付いた我々は、八咫烏を動かす為、予定を早めテンプル協会からのトリニティ奪還に動きました」と話し出した。

 慶福は「イルミナティがトリニティ奪還に成功すると案の定、八咫烏本部が本物の利休確保に動き出した…… 携帯に届いた利休の情報を見た時は本当驚きました、まさか先ほどまで一緒に居た人物が利休だったなんて。直ぐに長田さんに連絡し、久野さんが自宅に戻る前に戸塚駅で捕まえて欲しいとお願いし、あなた達が駅に着くのを待って、部下達に久野さんの情報を流しました、きっと今頃は久野さんの自宅周辺で帰るのを待ち受けている事でしょう」と言った。すると今度は長田が「私も電話で慶福さんから聞いて驚きましたよ、まさか久野さんが利休だったなんて夢にも思いませんでした」と話し出した。

 長田は「電話を受けてから急いで駅で待ち伏せし、跡を着けたら、2人でガブチョに入るじゃないですか。久野さん1人になるのを待とうとも思ったんですが、夫婦水入らずのとこお邪魔しちゃいました」と言った。晴夏は、からかわれたと思い「何が夫婦水入らずですか! こんな時に冗談は辞めてください!」と怒った口調で言った。すると長田は「冗談なんかじゃありません、久野さんは感じませんか?」と言った。

 久野は『いきなり何の話しをしてるんだこの人は』と思い「はぁ?」と答えた。長田は「感謝して欲しいなぁ~ 、久野さんが抛筌斎と知らなかったとはいえ、妙樹を紹介してあげたんだから」と言った。久野は「光智さんが妙樹?」と言って『誘導催眠で妙樹を見たとき何処と無く雰囲気が似てるとは思ったが……』と思い出す。晴夏が、何の話しをしているかさっぱり解らないといった顔をしていると長田が「光智さんは前世では妙樹という女性で、抛筌斎つまり久野さんの妻だったんですよ」と言った。晴夏は「私が妙樹? 久野さんと……?」と言ったが、長田は「それはさておき……」と、そんな事はどうでも良いかの様に話し始めた。

 長田は「長い歴史の中で、我々の血も薄まってしまった…… 今の私がトリニティを手にしたとして、あれを従えるだけの能力があるとは考えていません。そこで我々は、能力者を集めることにしました、慶福さんの働きもあり、トリニティを手にした我々に、八咫烏から寝返る者も少なくないでしょう。もう1つのトリニティを我々が手にすれば、八咫烏からより多くの能力者が我々の側に着くと考えています。イルミナティでも超能力の研究は進めていますが、いくら能力者を集めた所で、その中から適合する者を選ぶだけの技術はまだありません。歴史上、忽然と姿を消した党首やトリニティを党首が手放したことから見ても、能力の無い者がトリニティを扱うには何らかのリスクが伴う事は容易に想像がつきます。久野さん、貴方ならそのリスクを最小限に抑える事が出来ると私は考えています。それも踏まえて、今度こそは久野さんに手伝って頂きたい、如何ですか?」と言った。

 久野は「トリニティの適合者が見つかり朱雀達を従えた後、能力の無い人達はどうなるんですか?」と聞いた。長田は「このまま放って置いてもいずれ人類は滅びる、遅かれ早かれの違いだと思いますが?」と答えた。久野は「それは能力の無い者は、この世から抹殺するという意味ですか?」と聞くと長田は「そう取って頂いても構いません」と言った。それから慶福が「あまりこういった手は使いたくないのですが、光智の置かれている状況も考慮してください」と付け加えた。
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