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いなくならないで

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先生と離れるのが名残惜しくて。
そのままずっと抱きしめていたら、本鈴が鳴って。
先生が俺からそっと離れていく。

「行かなきゃ…」
先生も名残惜しそうな感じに見えるのは気のせいだろうか。
先生は俺の腕をすり抜けてドアに手をかけた。

「今日、図書館で待っててもいいですか?」
去っていく先生に恐る恐る聞いてみる。

「うん…」
先生は頷いてくれた。
それって、来てくれるってことでいいんだよな?

「待ってます」
先生の返事が嬉しすぎて、つい顔が緩んでしまう。


先生が教室を出ていった後、一気に力が抜けて。
もう動ける気がしなくて。
授業が始まってるけど、しばらくその場所でただぼーっと教室の窓の外を眺めていた。

あんなに想いを寄せていた先生が、さっきまで目の前にいて。
先生を間近で感じることができて、こんなに幸せなことが今まであっただろうか。

先生は学校を辞めたあとも俺に会ってくれる。
そう思うと本当に嬉しくて。

学校で会えなくなるのは寂しいけど、先生が先生じゃなくなるんだから、もう何も気にする必要なんてない。
その分これからはもっともっと先生に触れたいって、そう思ったんだ。



放課後、図書館で先生を待っていると、先生は来てくれて。
いつもみたいに、俺の目の前の席に座る。

別に何かを喋るわけでも、視線を合わせるわけでもなく。
ただ同じ空間にいる。
俺は本を読んで、先生は資料を広げている。
それだけでも嬉しくてしょうがなくて。
先生のこと諦めないでよかったなって思った。

それから毎日のように先生と図書館で会った。
本当は先生と話したり、先生に触れたい気持ちはたくさんあるけど、今は我慢。
そう思いながら過ごした。
先生が学校を辞めるその日まで。





12月22日。
2学期最後の登校日。

終業式が終わって、最後のHRで先生とのお別れ会が開かれた。
先生は生徒たちに囲まれて、写真を撮ったり花束を貰ったりしてる。
泣いてる子もいて、先生ももらい泣きをしていた。
そんな先生を遠くから眺めていた俺に、柾木は言った。

「夕惺はいかなくていいの?」
「いいよ、別に」

多分だけど、柾木は俺が先生に好意があることを知ってる。
「ふーん」
俺の言葉に気のない返事をする柾木。

いいんだ。
だって、これからはいつでも会えるから。
約束したから。

ぼーっと遠目で先生を眺めていると目が合って。
先生はぎこちなく笑った。
その笑顔が少し不自然に感じて。
でも、きっと学校を辞めるのが寂しいからだと、その時は気にもとめなかった。



だって。
先生も俺と同じ気持ちだって、思ってたから。
だから、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。



先生と会えなくなってから1年半。


後悔するのはいつも手遅れになってからだ。
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