誰にも邪魔させない

咲倉なこ

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誰に向かって言ってんの?

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すると、怯えている私のすぐ横で「は?」と小さな声が聞こえた。




「誰に向かって言ってんの?」


柊は私と繋いでいる手とは反対の手で、女の子と顎をギュッと掴んだ。


一瞬にして緊張感が漂う。




「お前に言われたくねーんだよ。ブサイク勘違いクソ女が!!」






え…?




柊は他校の女の子にそう言い放ち、私の手をそのままギュッと引っ張って、駅の入り口に向かった。


怒っているのか歩くスピードが速く、私は小走りでついて行くのがやっとだった。


「ちょっと…柊!」


「何?」


柊はめちゃくちゃ不機嫌だ。


声の感じで分かる。




「いいの?あんなこと言って!」


本当は穏便に済ませたかったんじゃないの?


だから私を連れて行ったんだよね?


あんなこと言って、逆恨みとかされたらどうするの?




「いーんだよ、別に」


「でもあの子、柊のことが…」


本当に好きそうだった。


好きな人からあんなこと言われたら立ち直れないよ。


擁護するつもりはないけど、もし自分が言われたと思うとさすがに辛い。




「海莉は、あんな奴の味方すんの?」


「そう言う訳じゃないけど」


もう少しやり方があったんじゃないかなって思ったの。




「海莉は何も分かってない」


「え?」


分かってないって何…?




急にぴたっと歩くのをやめた柊にぶつかりそうになる。


「ちょっと急に止まらな…「海莉はさ、あいつにあんなこと言われてイヤなじゃかったの?」


私が喋り終わる前に、柊の言葉が被さった。


「そりゃイヤだけど、でも言われても仕方ないのかなって…」


今までだって、柊に釣り合わないとかブサイクだとか散々言われてきたから。




「本気でそう思ってんの?」


柊の目つきがさっきより鋭くなる。


てか何で私、柊に怒られてるの…?




「あの子の方が私より全然可愛いし…」


言われても仕方ないかなって。




「まじでありえないんだけど」


「…ありえないって何?」


柊は何に対して怒ってるのか、全然分からない。


疑問が募る一方の私に、思っても見ない言葉が飛び込んできた。




「海莉を傷つけるヤツは絶対許さない」




え…。




それって、私をかばってくれたってこと…?




「だって海莉をいじめていいのは、俺だけだから」




柊は最後に不敵に笑って、また歩き始める。


手は握られたまま。




なんなの…。


自分でも顔が赤くなるのが分かるくらい、今の柊の言葉にドキッとした。




分かってるんだ。


柊は口では冷たいこと言って、横柄な態度で私に接してくるけど、本当は誰よりも優しい。


柊は柊なりのやり方で私を守ってくれている。




だからこそ、期待してしまいそうな自分を抑えるのに、いつも必死なんだ。
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