カレカノごっこ。

咲倉なこ

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葛藤。-伊吹side-

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なんで新奈が病院にいるのか分からなかった。

今だに頭が混乱している。

誰かの見舞い?

いや、ブレスレットを俺に渡してきたってことは、やっぱり俺に会いに来たんだよな?

でも俺が入院していることは、蓮と先生しか知らないはず。


「蓮か…」


きっと、蓮が新奈に言ったんだろう。

あんなに誰にも言うなって言ったのに…。


病室の前で立っている新奈を見た時、幻でも見ているのかと思った。

俺がブレスレットを無くしたから。

だから怒りに来たんだって。

「何やってんのよ」って。


でも実際は、全然違った。

俺の失くしたブレスレットを新奈が持ってきてくれた。

こんな俺を見ても、新奈は普通だった。


扉の向こう側で足音が聞こえて、どんどん遠くなっていく。


「ははっ。まじでかっこわる…」


こんな姿、新奈に見られたくなかった。

こんな俺を見て、新奈は幻滅した?

それとも同情した?

何やってんだよ。

こんなことで新奈に病気のことバレるくらいなら、いっそ、お揃いの物なんて買わなきゃよかった。

なのに、調子に乗っちゃってさ。

本当、何やってんだろう。


「でも、元気そうでよかった」


俺はこのザマだけど。

新奈はいつも通りだった。

それならそれでいい。


俺は、ゆっくりとベッドへ向かう。

さっきは動揺のあまり、新奈にひどい言い方をしてしまった。


「ブレスレットのお礼も言えなかったな…」


きっと嫌な思いをさせてしまっただろう。

…だから、それでいいんだって。

もう、俺とは関わることなんか、ないんだから。

それでいいんだ。


「新奈が元気ならそれで…」


俺が独り言を言い終えた時、病室の扉が開いた。

看護婦さんかと思って目を向けると、帰ったはずの新奈がそこにいた。


「なんで…?」

「ちょっと飲み物買いに行ってて。どっち飲む?」


新奈は笑顔でそう言いながら俺に近づいてきた。


「…飲み物も制限あるから」

「あ、そっか、そうだよね…」


新奈は無理して笑って、買ってきた飲み物をカバンにしまった。

そんな新奈を横目で見守る。

新奈の手が、少し震えていた。


なんで…?

帰れって言ったのに。

なんで戻ってくんだよ…。
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