5 / 73
カフェデート。
5
しおりを挟む職員室に日誌を出して、皆藤くんと一緒に学校を出る。
なんだか皆藤くんの隣を歩いているなんて不思議な気分だ。
ついさっきまではただのクラスメイトで、あんまり喋ったこともなかったのに。
「すげー楽しみなんだけど」
皆藤くんは満面の笑みを私に向けて、弾むように歩いている。
さっき「好きにならないで」と言った時の皆藤くんの表情がウソみたい。
「あのカフェ、そんなに行ってみたかったの?」
「…それもあるけど、デートなんて初めてだからさー」
皆藤くんのその発言は、さすがに聞き捨てならなかった。
「またまたー、なんの冗談?」
「え?」
「え?って、え?」
キョトンとしている皆藤くんに私の疑念は募るばかり。
「まさか本当にデートしたことないの?」
「だからそう言ってるじゃん」
いやいやいや、信じられない。
あんなに女子に大人気の皆藤くんが、本当にデートをしたことがないだなんて。
「分かった。そう言って女子を喜ばそうとしてるんだ。キミが初めてだよって特別感だして?さすが皆藤くんだなー」
本当に顔もよければ喋るのも上手で、これは惚れざるを得ないよなと客観的に分析する。
「あー、信じてないなー。本当なのに」
そう言って少しいじけている皆藤くんはちょっとだけかわいい。
まあ、そういう事にしといてあげよう。
校門を出たあたりで、皆藤くんはある提案を持ちかけてくる。
「せっかくのデートなんだし、苗字で呼ぶのやめない?」
あれ。
ただカフェに行くだけだと思ってたけど、皆藤くんはデートっぽいことをしようとしている?
「なんで?」
「なんでって、皆藤と井上って呼び合ってても、なんか雰囲気でないじゃん」
「…別に良くない?苗字で慣れてるし」
さすがに皆藤くんを名前呼びにするなんてハードルが高い。
でもそう思っているのは私だけで、これが男女の一般的な距離のつめ方なの?
恋愛経験ほぼ皆無の頭の中で考えたってどれが正解かなんて分からない。
「にいな」
苗字でいいって言ってるのに、不意に名前を呼ぶ皆藤くん。
私の目をまっすぐに見て名前を呼ぶ彼の瞳に、ドクンと心臓が波を打つ。
…って、違う違う!
これは不意を突かれてびっくりしたただけであって、決してキュンとしたわけじゃない!
急に名前を呼ばれて動揺しただけ。
でも動揺してしまったせいで、うまく言葉が出てこない。
「えっと…」
「なんか、照れるね」
「そ、そうだね」
…本当に皆藤くんは照れてるの?
そんな風にはとても見えない。
「俺のことも呼んでよ」
「…まあ、そのうちね?」
別に皆藤くんにとって名前を呼ぶことなんて、大したことないのかもしれないけど。
私は男子を名前で呼ぶなんてやっぱりちょっと恥ずかしい。
「なんでだよー、渉くんのことは名前で呼んでんのに」
そう言いながら悲しげな表情をする皆藤くん。
確かに、意識したことは無かったけど渉は名前呼びだ。
でも渉は物心つく前からそう呼んでたからなー。
「渉と比べられても」
「いいなー渉くんは。ねー、1回でいいから。呼んでみて?」
ううう…。
甘えた声に誘惑的な表情の皆藤くん。
さすがモテる男は違う。
女の子がNOとは言えない術を熟知している。
そもそもデートを断れなかった時点で、私の負けは決定している。
「…い、伊吹くん?」
私がなんとか名前を呼ぶと、皆藤くんはにっこり微笑みながら、
「なーに?」
と首を傾げた。
「なーにって、呼んでって言ったから呼んだだけだよ!」
照れ臭くなって、つい強めに言ってしまった。
やばい、こんな事で動揺しちゃったら、恋愛偏差値低いことがバレる。
それはさすがに恥ずかしすぎる。
「新奈って、可愛いね」
私のどこにそう思ったのか、はたまたカレカノ気分を味わっているだけなのか。
皆藤くんの言葉はどれも、全然信用がならなかった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる