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Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀
1ー28・こいつは偽物
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結果的に、レイが仕組んだユイトとフィオナの会合は無駄にはならなかった。
ユイトとして話した時、学園とは違い丁寧な言葉遣いだったフィオナ。
敬語が崩れて、距離感の近くなったミユとまったく逆だった。ああして話してからは、学園の彼女の方が、ユイトには偽りみたいに思えていた。
「カル、ずっと一緒に」
「ああ、ずっと一緒だ」
舞台の上で向き合う偽物レイとフィオナ。
「で、後はキスシーンで終わり。完璧ね」
満足そうなダーシャの声で、終了する練習演劇。
まだ本番まで1週間ほどの余裕を残し、とりあえず劇自体はほぼ完璧な出来となっていた。
ーー
空き教室に集まっていた小道具係の3人。
「順調だけど、なんか妙な感じするね」
唐突なエミィ。
「ユイト、なんか全然平気そうになってたし、別の心配事あってそれ所じゃないみたい」
いつの間にかすっかりだった。
ユイトは、フィオナと至近距離で向き合っても平気になっていたようだった。
「彼らしいです。その通りかもしれません」
ミユはそう思う。
「それはわたしもわかるよ」
フィオナを救出する時の戦いの事を思い出すリリエッタ。
その時は、状況が状況なので別にリリエッタも意識していなかったが、最初セキュリティマシンをユイトが破壊した時、その風の攻撃にリリエッタが巻き込まれないよう、彼は抱きしめてきた。
後々になって思い返すと、普段のユイトの異性への耐性のなさからは考えられないほどに、彼は平然としていた。つまりそれ所じゃない場合は、ユイトは女の子との接触を気にしなくなるわけである。
「まあ、わたしたちに言ってこないなら、危険な事ではないですよ」
ミユには、ユイトが気にしている事の予想もついていた。
「そう、だろうね」
リリエッタにもだ。
つまり単にユイトは気づいたのだろう。
フィオナが自身の心につけた仮面に。
ーー
練習が終了してから。
少しひとりで考えたい事があるからと、ミユたちには先に帰ってもらい、舞台の上に居残っていたユイト。
「ユイト」
呼ばれた本名に振り返ると、そこにいたのはリリエッタ。
「リリエッタちゃん、なんで?」
「さあ、ただミユたちと一緒に帰ってないみたいだったから、なんとなく」
このふたりが、ふたりだけで話すのは、前にユイトの正体がバレてしまった時以来。
「ねえ、リリエッタちゃん」
聞いていいものかわからなかった。いつかミユは、自分の口からは言える事でないと言っていた。
「レイくんとフィオナちゃんの間に、昔、何があったの?」
それでもユイトは聞いた。
知りたいと思った。
「わたしも、詳しくは知らないんだ」
ただリリエッタが知っていたのは、3年ほど前。
まだレイのサギ王子という異名もあまり浸透していなかった頃。
とあるパーティーで、フィオナはレイと会って、彼との間に何かがあった。
「何があったかは聞いてないんだよ。聞いてほしくなさそうだしね。わたしには聞けない」
でもはっきり確かな事があった。
「あの子変わっちゃったんだ。まるで、心に仮面をつけたみたいになっちゃったの」
それは今や、ユイトが感じている、普段のフィオナの印象と同じ。
「レイとの」
サギ王子でなく、レイと言った。
「あいつとの正式な婚約の話がきた時、ほんとは乗り気でなかったあの子の母親を説得したのは、あの子なんだって」
「フィオナちゃんが?」
「ツキシロ家当主との結婚なんて、小貴族のアルデラント家としては願ってもない事だと」
「それは、そんなのでも」
まるでフィクションで描かれるような政略結婚。
「あんな子じゃなかったんだ。ううん、そんな子じゃないんだ。ほんとはあの子」
「リリエッタちゃん」
何も言えない。ユイトには何も。
「なあユイト。ずっと、ずっとでなくても、なるべくここにいてほしい」
背を向けたリリエッタ。
「前も言った通り、あんたなら、わたしは全然いいからさ」
そして彼女は去った。
ーー
ユイトが麗寧館に帰ってきたのはもう夕方頃。
「ただいま」
彼は、レイとミユにそれだけ言って、一目散に自室に入って行った。
「何かあったのかな?」とミユ。
「さあ、でもいい顔してたぜ」
レイは笑顔で返した。
部屋に入ると、すぐに通信機を起動させる。遠く、故郷である、地上世界のアルケリ島へと繋がる通信。
「お兄ちゃん?」
すぐに応答してくれた妹。スクリーンに映されたその顔の頬には、赤い調味料らしきものがついている。
「ごめん、食事中だった?」
「いや、ちょうど今食べ終わったとこだよ」
恥ずかしげに、布で頬を拭うカナメ。
「それで、何かあったの? なんだかそんな雰囲気だけど」
兄の事などモニターごしでも、彼女にはお見通し。
「うん」
ただ心強かった。
ずっと一緒に生きてきたたったひとりの妹。
「カナメ」
そして改まって、少し情けなくも兄は告げた。
「おまえにお願いがあります」
ーー
暮らしている貸家から、それほど近いとはいえない、とある廃墟に入ってきたガーディ。
「おれに何の用だ?」
「かっこよさげな後輩の男の子からの熱い視線を感じてさ。きみ、最近よくわたしを見てるでしょう?」
「何の用だと聞いてるんだ。オリヴィア・ジーテニール」
現れた彼女にエレメントガンを向ける。
精霊エネルギーを固めた弾丸を放つ、無能力者である彼の最大の武器。
「エレメント素材の銃。て事はやはりあなたは無能力者なのね」
精霊エネルギーを放つ、精霊素材の銃など、彼がコード能力者ならば、それはつまり敵の能力と共に、自分の能力まで封じてしまう、まぬけな武器でしかない。
「知ってて、おれを呼び出したんだろ」
それがわかっているからこそ、ガーディもあっさり、無能力者の証拠であるその武器を見せたのだ。
そもそもオリヴィアは、無能力者である事をバラされたくなければ、と脅す事でガーディを呼び出していた。
「それで、何の用なんだ?」
三度目の問い。
「噂通り、可愛げのないガキね。ちょっとあなたに聞きたい事があるの」
彼女はそう言った。
ーー
また、同じ頃。
ラートリー家が所有する屋敷のひとつにある、リーズイことアルーゼの研究室。
「ネージ、非常に面白い事がわかった」
呼び出した友人が来るや、興奮した様子で告げるアルーゼ。
「面白い事?」
スクリーンにスロー再生されていた、この前の自分とサギ王子の戦いを見るネージ。
しかし特に何か、違和感とかは感じない。
「こいつは偽物だよ。そこに映ってるサギ王子」
「は?」
あっさりと告げられたアルーゼの結論に、思わずネージはすっとんきょうな声をあげる。
「間違いない。こいつの特殊技能は、本当は解析なんかじゃないんだ」
「わかるの?」
「恐ろしいことに、こいつは解析で予測できるはずのタイミングより早く、相手の動きを予測してる。ほぼ間違いなく単に勘だよ、これは」
「勘って」
「相当に戦闘慣れしてるんだと思う。けど戦いかたがあまり洗練されていない感じもする。これは多分、こいつが地上世界出身だからだよ」
かなり鋭く真実に近づいていたアルーゼ。
「彼が、偽物」
「まだある。驚きの事実」
そしてアルーゼは、モニター画面を切り替えた。
偽物のレイに代わって表示されたのは、ガーディの模擬戦時の映像。
「ガーディ?」
もうひとりの解析使いのはずの同級生。
「彼も解析じゃない」
「いや、それどうなってんの?」
ネージにはまさに、何がどうなってるのかさっぱりわからない。
「ああ、どうなってるかは正直わからん」
また画面を偽王子へと戻すアルーゼ。
「ただこいつの方は本当に興味深い。この基本技能の使い方。おそらくこいつの本当の特殊技能は再創造だ」
「再創造、て何?」
ネージはその能力を知らなかった。
ユイトとして話した時、学園とは違い丁寧な言葉遣いだったフィオナ。
敬語が崩れて、距離感の近くなったミユとまったく逆だった。ああして話してからは、学園の彼女の方が、ユイトには偽りみたいに思えていた。
「カル、ずっと一緒に」
「ああ、ずっと一緒だ」
舞台の上で向き合う偽物レイとフィオナ。
「で、後はキスシーンで終わり。完璧ね」
満足そうなダーシャの声で、終了する練習演劇。
まだ本番まで1週間ほどの余裕を残し、とりあえず劇自体はほぼ完璧な出来となっていた。
ーー
空き教室に集まっていた小道具係の3人。
「順調だけど、なんか妙な感じするね」
唐突なエミィ。
「ユイト、なんか全然平気そうになってたし、別の心配事あってそれ所じゃないみたい」
いつの間にかすっかりだった。
ユイトは、フィオナと至近距離で向き合っても平気になっていたようだった。
「彼らしいです。その通りかもしれません」
ミユはそう思う。
「それはわたしもわかるよ」
フィオナを救出する時の戦いの事を思い出すリリエッタ。
その時は、状況が状況なので別にリリエッタも意識していなかったが、最初セキュリティマシンをユイトが破壊した時、その風の攻撃にリリエッタが巻き込まれないよう、彼は抱きしめてきた。
後々になって思い返すと、普段のユイトの異性への耐性のなさからは考えられないほどに、彼は平然としていた。つまりそれ所じゃない場合は、ユイトは女の子との接触を気にしなくなるわけである。
「まあ、わたしたちに言ってこないなら、危険な事ではないですよ」
ミユには、ユイトが気にしている事の予想もついていた。
「そう、だろうね」
リリエッタにもだ。
つまり単にユイトは気づいたのだろう。
フィオナが自身の心につけた仮面に。
ーー
練習が終了してから。
少しひとりで考えたい事があるからと、ミユたちには先に帰ってもらい、舞台の上に居残っていたユイト。
「ユイト」
呼ばれた本名に振り返ると、そこにいたのはリリエッタ。
「リリエッタちゃん、なんで?」
「さあ、ただミユたちと一緒に帰ってないみたいだったから、なんとなく」
このふたりが、ふたりだけで話すのは、前にユイトの正体がバレてしまった時以来。
「ねえ、リリエッタちゃん」
聞いていいものかわからなかった。いつかミユは、自分の口からは言える事でないと言っていた。
「レイくんとフィオナちゃんの間に、昔、何があったの?」
それでもユイトは聞いた。
知りたいと思った。
「わたしも、詳しくは知らないんだ」
ただリリエッタが知っていたのは、3年ほど前。
まだレイのサギ王子という異名もあまり浸透していなかった頃。
とあるパーティーで、フィオナはレイと会って、彼との間に何かがあった。
「何があったかは聞いてないんだよ。聞いてほしくなさそうだしね。わたしには聞けない」
でもはっきり確かな事があった。
「あの子変わっちゃったんだ。まるで、心に仮面をつけたみたいになっちゃったの」
それは今や、ユイトが感じている、普段のフィオナの印象と同じ。
「レイとの」
サギ王子でなく、レイと言った。
「あいつとの正式な婚約の話がきた時、ほんとは乗り気でなかったあの子の母親を説得したのは、あの子なんだって」
「フィオナちゃんが?」
「ツキシロ家当主との結婚なんて、小貴族のアルデラント家としては願ってもない事だと」
「それは、そんなのでも」
まるでフィクションで描かれるような政略結婚。
「あんな子じゃなかったんだ。ううん、そんな子じゃないんだ。ほんとはあの子」
「リリエッタちゃん」
何も言えない。ユイトには何も。
「なあユイト。ずっと、ずっとでなくても、なるべくここにいてほしい」
背を向けたリリエッタ。
「前も言った通り、あんたなら、わたしは全然いいからさ」
そして彼女は去った。
ーー
ユイトが麗寧館に帰ってきたのはもう夕方頃。
「ただいま」
彼は、レイとミユにそれだけ言って、一目散に自室に入って行った。
「何かあったのかな?」とミユ。
「さあ、でもいい顔してたぜ」
レイは笑顔で返した。
部屋に入ると、すぐに通信機を起動させる。遠く、故郷である、地上世界のアルケリ島へと繋がる通信。
「お兄ちゃん?」
すぐに応答してくれた妹。スクリーンに映されたその顔の頬には、赤い調味料らしきものがついている。
「ごめん、食事中だった?」
「いや、ちょうど今食べ終わったとこだよ」
恥ずかしげに、布で頬を拭うカナメ。
「それで、何かあったの? なんだかそんな雰囲気だけど」
兄の事などモニターごしでも、彼女にはお見通し。
「うん」
ただ心強かった。
ずっと一緒に生きてきたたったひとりの妹。
「カナメ」
そして改まって、少し情けなくも兄は告げた。
「おまえにお願いがあります」
ーー
暮らしている貸家から、それほど近いとはいえない、とある廃墟に入ってきたガーディ。
「おれに何の用だ?」
「かっこよさげな後輩の男の子からの熱い視線を感じてさ。きみ、最近よくわたしを見てるでしょう?」
「何の用だと聞いてるんだ。オリヴィア・ジーテニール」
現れた彼女にエレメントガンを向ける。
精霊エネルギーを固めた弾丸を放つ、無能力者である彼の最大の武器。
「エレメント素材の銃。て事はやはりあなたは無能力者なのね」
精霊エネルギーを放つ、精霊素材の銃など、彼がコード能力者ならば、それはつまり敵の能力と共に、自分の能力まで封じてしまう、まぬけな武器でしかない。
「知ってて、おれを呼び出したんだろ」
それがわかっているからこそ、ガーディもあっさり、無能力者の証拠であるその武器を見せたのだ。
そもそもオリヴィアは、無能力者である事をバラされたくなければ、と脅す事でガーディを呼び出していた。
「それで、何の用なんだ?」
三度目の問い。
「噂通り、可愛げのないガキね。ちょっとあなたに聞きたい事があるの」
彼女はそう言った。
ーー
また、同じ頃。
ラートリー家が所有する屋敷のひとつにある、リーズイことアルーゼの研究室。
「ネージ、非常に面白い事がわかった」
呼び出した友人が来るや、興奮した様子で告げるアルーゼ。
「面白い事?」
スクリーンにスロー再生されていた、この前の自分とサギ王子の戦いを見るネージ。
しかし特に何か、違和感とかは感じない。
「こいつは偽物だよ。そこに映ってるサギ王子」
「は?」
あっさりと告げられたアルーゼの結論に、思わずネージはすっとんきょうな声をあげる。
「間違いない。こいつの特殊技能は、本当は解析なんかじゃないんだ」
「わかるの?」
「恐ろしいことに、こいつは解析で予測できるはずのタイミングより早く、相手の動きを予測してる。ほぼ間違いなく単に勘だよ、これは」
「勘って」
「相当に戦闘慣れしてるんだと思う。けど戦いかたがあまり洗練されていない感じもする。これは多分、こいつが地上世界出身だからだよ」
かなり鋭く真実に近づいていたアルーゼ。
「彼が、偽物」
「まだある。驚きの事実」
そしてアルーゼは、モニター画面を切り替えた。
偽物のレイに代わって表示されたのは、ガーディの模擬戦時の映像。
「ガーディ?」
もうひとりの解析使いのはずの同級生。
「彼も解析じゃない」
「いや、それどうなってんの?」
ネージにはまさに、何がどうなってるのかさっぱりわからない。
「ああ、どうなってるかは正直わからん」
また画面を偽王子へと戻すアルーゼ。
「ただこいつの方は本当に興味深い。この基本技能の使い方。おそらくこいつの本当の特殊技能は再創造だ」
「再創造、て何?」
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