610 / 632
仁義を切る
しおりを挟む
「ええ~と、いくつか質問しても?」
「ワタクシは構いませんよ。ただ、この竜は時間が経つ程に強化されていきますが、それでもよろしいなら」
成程。武田さんの話では、スケルトンドラゴンだったはずの竜が、今はフレッシュゾンビドラゴンとなっているのだし、そのような仕様なのだろう。とは言え、聞きたい事はあるので、俺は皆の方へ振り返る。皆もこの状況に疑問があるのだろう。質問したい俺に同調するように、首肯してくれた。
「ええ、それでは、あなたがガローインさんだと言うのは分かりました。ではその竜は何でしょう?」
「この竜はこのフロアの守護者。あなた方が言うところの、中ボスですね」
成程。このアルティニン廟では、五体の大ボスは階層を問わず自由に動き回れる。そして二十階層ごとのワープゲートはそのフロア独特の仕掛けで守護されていた。地下二十階は無限湧きする骸骨兵たち。地下四十階は雷の雨が降り注ぐ部屋で、雷耐性のある怨霊たちに、『恐怖』持ちの中ボス怨霊。地下六十階ではリビングウェポンに中ボスの阿修羅骸骨、そして大ボスのシンヒラー。地下八十階は部屋全体がドロドロゾンビで出来ており、地下百階では化神族のデュラハンが待ち受けていた。ならここ地下百二十階を守護しているのが中ボスなのも頷ける。だが、
「その竜のステータスにも、あんたと同じ『ガローイン』って名前が付けられている理由は?」
武田さんが気になった事を尋ねてくれた。
「この竜はカヌス様から頂いたスキルにより、ワタクシが運用している魔物ですので、デフォルトでそのような名前となっているのですよ」
ああ、この人、RPGの主人公の名前を初期から変更せずに、元から付いているデフォルトの名前や、『ああああ』で始めるタイプか。
「それで、このフロアのクリア条件なのですが、『ガローイン』本人であるあなたを倒せば通過出来るのか、そちらの竜の『ガローイン』を倒せば良いのか、どちら何でしょう?」
俺が尋ねると、答える前にガローイン(女)は後ろを振り返った。
「奥に魔法陣があるのが見えますか?」
確かにこのフロアの最奥に、これまでにも見てきたワープゲートの魔法陣がある。
「あれに五つの翠玉像を台座に置くと、地上へとワープゲートが開きます」
それは知っている。ちらりと武田さんを見遣っても頷いたので、正しい情報だろう。
「つまり、ここで竜やあなたを無視して、台座に翠玉像を置いても、地下界、無窮界へは行けないと?」
「そうです。この竜の中に、カヌス様を模した黄金像が封じられています。これを倒し、その黄金像を台座の中央に置く事で、無窮界への扉は開かれるのです」
この竜を倒すのは絶対って事か。
「では俺たちが相手をするのは、その竜だけって事ですか?」
「…………」
返答がない。無言でこちらを見詰められると、怖いんですけど。ガローイン(女)はしばらくこちらを見詰めていると、「はあ」と軽く嘆息をこぼし、己がここにいる理由を話し始めた。
「あなた方はここまで来るのに、ジオと出会していない事を不思議に思いませんでしたか?」
それは思ったし、俺の質問の一つでもあった。なのでガローイン(女)の問いに首肯を返す。
「ジオは今回のあなた方の侵攻に手出ししない旨を、カヌス様に上申しました」
そうなのか。理由は……やっぱりあの安全地帯の町の運営が大変だからかな?
「理由は、あの仮初めの町の運営に注力したいとの説明でしたが……」
そこで俺に冷徹な視線を向けるガローイン(女)。フロアの冷たさも相まって、鳥肌が立つ。
「ワタクシの見解では、情でも湧いたのでしょう。それとも共に町の運営をしたあなたへ仁義を切ったか」
仁義を切るか。仁侠モノを想像するものもいるが、ビジネス用語だ。おっさんビジネス用語などとも言われるので、年配の社会人が使う言葉だが、意味としては新しい職場に配属された者が、前任者に倣い、業界独特のルールやマナーを守って、あいさつ回りなどで他部署や社外と顔合わせをして筋を通しておき、以後の仕事を円滑に進める事を指す。今回の場合は、ジオが俺の代わりにカヌスに対して仁義を切ってくれたのだ。
それだけジオが俺を高く評価してくれていたと言う事であり、今後の六領地同盟の事を考えると、ここで俺を優遇しておく事が、後々役に立つと判断しての事だろう。もしかしたら、他の五領地へも、根回しがてら仁義を切ってくれているかも知れない。
「まあ、ここで死にゆくあなた方に、情けを掛けたところで、無駄と言うものですが」
ガローイン(女)としては納得していないようだ。
「それで、ジオの代わりに、ガローインさん自ら出張ってきたと?」
ガローイン(女)の目が細まる。それとともにフロアの温度が更に下がった。これは何か地雷を踏んだかな?
「あなたたちはカヌス様の面子に泥を塗りました。死ぬ理由はそれだけです」
たかがゲームで。と言いたいところだが、どうやら彼女にとってカヌスとは唯一絶対の存在のようだ。その存在へ唾を吐きかけた俺たちは、到底赦される存在ではないのだろう。
「質問はそれでお終いですか?」
「そうですね」
「では死んでください」
ガローイン(女)から、殺気がまるで冷気で出来た無数の槍のように俺たちへ襲い掛かってきた。これに晒されながら、俺たちは二体のガローインとの戦闘に突入する。
「ワタクシは構いませんよ。ただ、この竜は時間が経つ程に強化されていきますが、それでもよろしいなら」
成程。武田さんの話では、スケルトンドラゴンだったはずの竜が、今はフレッシュゾンビドラゴンとなっているのだし、そのような仕様なのだろう。とは言え、聞きたい事はあるので、俺は皆の方へ振り返る。皆もこの状況に疑問があるのだろう。質問したい俺に同調するように、首肯してくれた。
「ええ、それでは、あなたがガローインさんだと言うのは分かりました。ではその竜は何でしょう?」
「この竜はこのフロアの守護者。あなた方が言うところの、中ボスですね」
成程。このアルティニン廟では、五体の大ボスは階層を問わず自由に動き回れる。そして二十階層ごとのワープゲートはそのフロア独特の仕掛けで守護されていた。地下二十階は無限湧きする骸骨兵たち。地下四十階は雷の雨が降り注ぐ部屋で、雷耐性のある怨霊たちに、『恐怖』持ちの中ボス怨霊。地下六十階ではリビングウェポンに中ボスの阿修羅骸骨、そして大ボスのシンヒラー。地下八十階は部屋全体がドロドロゾンビで出来ており、地下百階では化神族のデュラハンが待ち受けていた。ならここ地下百二十階を守護しているのが中ボスなのも頷ける。だが、
「その竜のステータスにも、あんたと同じ『ガローイン』って名前が付けられている理由は?」
武田さんが気になった事を尋ねてくれた。
「この竜はカヌス様から頂いたスキルにより、ワタクシが運用している魔物ですので、デフォルトでそのような名前となっているのですよ」
ああ、この人、RPGの主人公の名前を初期から変更せずに、元から付いているデフォルトの名前や、『ああああ』で始めるタイプか。
「それで、このフロアのクリア条件なのですが、『ガローイン』本人であるあなたを倒せば通過出来るのか、そちらの竜の『ガローイン』を倒せば良いのか、どちら何でしょう?」
俺が尋ねると、答える前にガローイン(女)は後ろを振り返った。
「奥に魔法陣があるのが見えますか?」
確かにこのフロアの最奥に、これまでにも見てきたワープゲートの魔法陣がある。
「あれに五つの翠玉像を台座に置くと、地上へとワープゲートが開きます」
それは知っている。ちらりと武田さんを見遣っても頷いたので、正しい情報だろう。
「つまり、ここで竜やあなたを無視して、台座に翠玉像を置いても、地下界、無窮界へは行けないと?」
「そうです。この竜の中に、カヌス様を模した黄金像が封じられています。これを倒し、その黄金像を台座の中央に置く事で、無窮界への扉は開かれるのです」
この竜を倒すのは絶対って事か。
「では俺たちが相手をするのは、その竜だけって事ですか?」
「…………」
返答がない。無言でこちらを見詰められると、怖いんですけど。ガローイン(女)はしばらくこちらを見詰めていると、「はあ」と軽く嘆息をこぼし、己がここにいる理由を話し始めた。
「あなた方はここまで来るのに、ジオと出会していない事を不思議に思いませんでしたか?」
それは思ったし、俺の質問の一つでもあった。なのでガローイン(女)の問いに首肯を返す。
「ジオは今回のあなた方の侵攻に手出ししない旨を、カヌス様に上申しました」
そうなのか。理由は……やっぱりあの安全地帯の町の運営が大変だからかな?
「理由は、あの仮初めの町の運営に注力したいとの説明でしたが……」
そこで俺に冷徹な視線を向けるガローイン(女)。フロアの冷たさも相まって、鳥肌が立つ。
「ワタクシの見解では、情でも湧いたのでしょう。それとも共に町の運営をしたあなたへ仁義を切ったか」
仁義を切るか。仁侠モノを想像するものもいるが、ビジネス用語だ。おっさんビジネス用語などとも言われるので、年配の社会人が使う言葉だが、意味としては新しい職場に配属された者が、前任者に倣い、業界独特のルールやマナーを守って、あいさつ回りなどで他部署や社外と顔合わせをして筋を通しておき、以後の仕事を円滑に進める事を指す。今回の場合は、ジオが俺の代わりにカヌスに対して仁義を切ってくれたのだ。
それだけジオが俺を高く評価してくれていたと言う事であり、今後の六領地同盟の事を考えると、ここで俺を優遇しておく事が、後々役に立つと判断しての事だろう。もしかしたら、他の五領地へも、根回しがてら仁義を切ってくれているかも知れない。
「まあ、ここで死にゆくあなた方に、情けを掛けたところで、無駄と言うものですが」
ガローイン(女)としては納得していないようだ。
「それで、ジオの代わりに、ガローインさん自ら出張ってきたと?」
ガローイン(女)の目が細まる。それとともにフロアの温度が更に下がった。これは何か地雷を踏んだかな?
「あなたたちはカヌス様の面子に泥を塗りました。死ぬ理由はそれだけです」
たかがゲームで。と言いたいところだが、どうやら彼女にとってカヌスとは唯一絶対の存在のようだ。その存在へ唾を吐きかけた俺たちは、到底赦される存在ではないのだろう。
「質問はそれでお終いですか?」
「そうですね」
「では死んでください」
ガローイン(女)から、殺気がまるで冷気で出来た無数の槍のように俺たちへ襲い掛かってきた。これに晒されながら、俺たちは二体のガローインとの戦闘に突入する。
0
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す
佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。
誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。
また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。
僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。
不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。
他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる