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汝隣人を愛せよ
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なんだかんだ『虚空』の検証をしているうちに、時間は夜になっていたので、検証を一旦打ち切り、宿へと戻って来た。
「何それ?」
俺としては珍しく、夕飯にステーキを頼み、検証で疲れた身体に活力を入れながら、脂身の少ない野趣溢れるステーキを食べていれば、同卓でポタージュとムサカを食べているバヨネッタさんとカッテナさん、それに一緒に戻って来たダイザーロくんと、自然と俺の新しいスキル、『虚空』の話となった。と言うか、ギリシア料理のムサカとか、そんなのまで出してくるのか、侮れないな、この食堂。
「鑑定の説明文が分かり辛いので、憶測半分ですけどね。善行を行えば行う程、能力の威力が上がっていく仕様なんじゃないかと」
「善行ねえ。基準とかあるの?」
「人は生まれによって人になるのではなく、行為(業)によって人になる。なんて教えもありますし、この場合の業は陰徳、人知れず善行を行えば、必ず良い報いがあらわれる。って感じかと」
業(カルマ)は仏教やヒンドゥー教なんかのインド哲学だし、陰徳は中国三大宗教の一つ、儒教の教えだけど。
「益々分からないわねえ。つまり、善行の対象は『人』オンリーって事?」
「多分? まあ、ここには八人しか『人』がいないので、検証には人手が足りないんですけど。要は、汝隣人を愛せよ。って事じゃないですかね? この安全地帯の町では、魔物も隣人の範疇に入りそうではありますけど」
汝隣人を愛せよ。はまた別の宗教だったっけ? う~ん、『虚空』を使いこなすのは難しそうだ。などと思いを巡らせていると、あからさまにバヨネッタさんが嫌そうな顔になった。
「どうかしましたか? やっぱり、魔物と仲良くは飛躍し過ぎですかね? でもミデンも魔物ですし……」
と俺が宥めようと言葉を重ねれば、バヨネッタさんは首を横に振るった。
「別に、このエキストラフィールドでは、魔物の冒険者たちともパーティを組んで、ダンジョン攻略をするのも当たり前だから、そこに意見は挟まないわ。ただ私がその言葉が嫌いなだけよ」
「そうなんですか?」
と言うか、この世界にも同じような言葉があるんだな。
「私がその言葉を聞いたのは、私がまだ魔女島に住んでいた頃だったわ。魔力が多く、周囲に対して不遜な態度を取りがちだった私へ、尊敬する父が、そのように諭してくれたの」
珍しいな。バヨネッタさんが過去話をするなんて。と言うか、不遜な態度を取りがちだった。って、今でも変わらないと思うけど。
「それを聞いた私は、たとえ尊敬の対象である父の言葉であっても、これだけは聞き入れられない。と顔では分かった振りをして頷き、この言葉とは裏腹に、隣人を見たら悪党と思え。と言う認識で生きる決意をしたくらいだから」
人を見たら泥棒と思え。って言葉が歌舞伎にあるが、まあ、確かに、バヨネッタさんならそっちの考え方していても不思議じゃないか。
「嫌がらせでもされていたんですか?」
本人は何の気なしに尋ねたのだろう。カッテナさんの一言に、バヨネッタさんがまた顔をしかめる。
「まあ、ね。うちの隣りに住んでいたのが、ロコモコだった。ってだけの話よ」
「うわあ~」
俺を含めて、思わず三人で同情の声を漏らしてしまった。現魔王軍六魔将の一人である『狂科学者』のロコモコ。彼女の悪行は俺たちも知っている。
魔女島では正式な魔女になる為に、生贄として罪人を殺すと言う儀式があるのだが、ロコモコは己のギフト『解剖』とスキル『合成』により、罪人とバヨネッタさんのお父さんを合成させ、バヨネッタさんに父殺しをさせたのだ。そんな悪行をしておいて、本人は魔女島から出奔し、今や魔王軍の六魔将の一人である。そりゃあ、隣人を愛するなんて気は湧かないよなあ。
「この話はここまでにしましょうか」
俺の言に、うんうんと強く頷くカッテナさんとダイザーロくん。
「別に気を使わなくても良いわよ。もう過去の話だし」
そう口にするバヨネッタさんだったが、ロコモコの話をしてから、まとっているオーラが完全に負に傾いているんだよなあ。
「ぜ、善行と言うなら、ハルアキ様はかなり善行を行っていると思いますよ」
陰鬱な雰囲気の中、ダイザーロくんが口を開く。
「え? 俺、そんな善行していたっけ?」
記憶力には自信があるが、記憶にない。
「むしろ人を殺している俺は、悪行を犯していると考えた方が妥当だと思うけど?」
人殺しが善人とは言えないだろう。そんな俺の態度に、ダイザーロくんは呆れたように眉根を下げる。
「ご自身の武功を考えてください。オルドランドのベフメ領での一件から始まり、同首都のサリィではムチーノ侯爵とノールッド大司教の陰謀を防ぎ、エルルランドからパジャン天国では魔王軍に身体を乗っ取られた勇者シンヤ様を助け、更には地球にてアンゲルスタと言う怪しげな宗教国家から、世界そのものを助けました。モーハルドでも国家を救ったと言っても過言ではありません。殺した人間と助けた人間を天秤に掛けたなら、今後どれだけ人を殺したところで、ハルアキ様の天秤は善行に傾きますよ」
こちらも珍しく鼻息荒く熱弁するダイザーロくん。自身の上司が悪人だと思いたくないのかなあ? う~ん。でもそう言うものかねえ? オルドランドのサリィや、モーハルドの聖都マルガンダでの行動は陽徳に当たるだろうから、判断し兼ねるなあ。
「何それ?」
俺としては珍しく、夕飯にステーキを頼み、検証で疲れた身体に活力を入れながら、脂身の少ない野趣溢れるステーキを食べていれば、同卓でポタージュとムサカを食べているバヨネッタさんとカッテナさん、それに一緒に戻って来たダイザーロくんと、自然と俺の新しいスキル、『虚空』の話となった。と言うか、ギリシア料理のムサカとか、そんなのまで出してくるのか、侮れないな、この食堂。
「鑑定の説明文が分かり辛いので、憶測半分ですけどね。善行を行えば行う程、能力の威力が上がっていく仕様なんじゃないかと」
「善行ねえ。基準とかあるの?」
「人は生まれによって人になるのではなく、行為(業)によって人になる。なんて教えもありますし、この場合の業は陰徳、人知れず善行を行えば、必ず良い報いがあらわれる。って感じかと」
業(カルマ)は仏教やヒンドゥー教なんかのインド哲学だし、陰徳は中国三大宗教の一つ、儒教の教えだけど。
「益々分からないわねえ。つまり、善行の対象は『人』オンリーって事?」
「多分? まあ、ここには八人しか『人』がいないので、検証には人手が足りないんですけど。要は、汝隣人を愛せよ。って事じゃないですかね? この安全地帯の町では、魔物も隣人の範疇に入りそうではありますけど」
汝隣人を愛せよ。はまた別の宗教だったっけ? う~ん、『虚空』を使いこなすのは難しそうだ。などと思いを巡らせていると、あからさまにバヨネッタさんが嫌そうな顔になった。
「どうかしましたか? やっぱり、魔物と仲良くは飛躍し過ぎですかね? でもミデンも魔物ですし……」
と俺が宥めようと言葉を重ねれば、バヨネッタさんは首を横に振るった。
「別に、このエキストラフィールドでは、魔物の冒険者たちともパーティを組んで、ダンジョン攻略をするのも当たり前だから、そこに意見は挟まないわ。ただ私がその言葉が嫌いなだけよ」
「そうなんですか?」
と言うか、この世界にも同じような言葉があるんだな。
「私がその言葉を聞いたのは、私がまだ魔女島に住んでいた頃だったわ。魔力が多く、周囲に対して不遜な態度を取りがちだった私へ、尊敬する父が、そのように諭してくれたの」
珍しいな。バヨネッタさんが過去話をするなんて。と言うか、不遜な態度を取りがちだった。って、今でも変わらないと思うけど。
「それを聞いた私は、たとえ尊敬の対象である父の言葉であっても、これだけは聞き入れられない。と顔では分かった振りをして頷き、この言葉とは裏腹に、隣人を見たら悪党と思え。と言う認識で生きる決意をしたくらいだから」
人を見たら泥棒と思え。って言葉が歌舞伎にあるが、まあ、確かに、バヨネッタさんならそっちの考え方していても不思議じゃないか。
「嫌がらせでもされていたんですか?」
本人は何の気なしに尋ねたのだろう。カッテナさんの一言に、バヨネッタさんがまた顔をしかめる。
「まあ、ね。うちの隣りに住んでいたのが、ロコモコだった。ってだけの話よ」
「うわあ~」
俺を含めて、思わず三人で同情の声を漏らしてしまった。現魔王軍六魔将の一人である『狂科学者』のロコモコ。彼女の悪行は俺たちも知っている。
魔女島では正式な魔女になる為に、生贄として罪人を殺すと言う儀式があるのだが、ロコモコは己のギフト『解剖』とスキル『合成』により、罪人とバヨネッタさんのお父さんを合成させ、バヨネッタさんに父殺しをさせたのだ。そんな悪行をしておいて、本人は魔女島から出奔し、今や魔王軍の六魔将の一人である。そりゃあ、隣人を愛するなんて気は湧かないよなあ。
「この話はここまでにしましょうか」
俺の言に、うんうんと強く頷くカッテナさんとダイザーロくん。
「別に気を使わなくても良いわよ。もう過去の話だし」
そう口にするバヨネッタさんだったが、ロコモコの話をしてから、まとっているオーラが完全に負に傾いているんだよなあ。
「ぜ、善行と言うなら、ハルアキ様はかなり善行を行っていると思いますよ」
陰鬱な雰囲気の中、ダイザーロくんが口を開く。
「え? 俺、そんな善行していたっけ?」
記憶力には自信があるが、記憶にない。
「むしろ人を殺している俺は、悪行を犯していると考えた方が妥当だと思うけど?」
人殺しが善人とは言えないだろう。そんな俺の態度に、ダイザーロくんは呆れたように眉根を下げる。
「ご自身の武功を考えてください。オルドランドのベフメ領での一件から始まり、同首都のサリィではムチーノ侯爵とノールッド大司教の陰謀を防ぎ、エルルランドからパジャン天国では魔王軍に身体を乗っ取られた勇者シンヤ様を助け、更には地球にてアンゲルスタと言う怪しげな宗教国家から、世界そのものを助けました。モーハルドでも国家を救ったと言っても過言ではありません。殺した人間と助けた人間を天秤に掛けたなら、今後どれだけ人を殺したところで、ハルアキ様の天秤は善行に傾きますよ」
こちらも珍しく鼻息荒く熱弁するダイザーロくん。自身の上司が悪人だと思いたくないのかなあ? う~ん。でもそう言うものかねえ? オルドランドのサリィや、モーハルドの聖都マルガンダでの行動は陽徳に当たるだろうから、判断し兼ねるなあ。
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