世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
578 / 639

抜け穴

しおりを挟む
 ぱちりと目を覚ますと、見知らぬ天井……、いや知っているな。俺がいつも止まっている安全地帯の町の宿屋の天井だ。


「あ、起きられましたか」


 声のした方へ顔を向けると、椅子に座ったダイザーロくんが、こちらを心配そうに覗いている。


「ああ、うん」


 だるい身体を起こすと、ダイザーロくんが背中を支えてくれた。


「ありがとう。…………俺、どれくらい仮死状態だったの?」


「三日です」


 神丹を飲んだ時は七日ギリギリだった事を考えると、意外と短かったな。天仙法だと考えると、三倍か、一ヶ月は掛かると覚悟していたが、たった三日かあ。


「大丈夫ですか?」


「う~ん、お腹空いているかな」


 三日とは言え、何も食べていなかったし。いや、その前、岩山のダンジョンから帰ってきてから食事してないや。


「俺、食堂行って、何か軽いもの作って貰ってきます」


 そう言って部屋から出て行こうとするダイザーロくんを止める。


「良いよ。俺が下に行く。皆食堂にいるみたいだし」


「分かりました」


 立ち上がった俺は、首肯するダイザーロくんの肩を借りて、一階の食堂へと下りていった。



「早かったな!」


 俺にいち早く気付いたリットーさんが、階段を下りてくる俺たちに声を掛けてきた。それに笑顔を返しながら、ゆっくり階段を下りると、バヨネッタさんがいる卓に座る。


「それで、どうだったの?」


 俺を椅子に座らせてくれたダイザーロくんが、食堂に軽食を頼みに行くのを見送ったところで、バヨネッタさんが尋ねてきた。皆も気になっているのだろう。俺を見ている。


「久し振りの友人に会いました」


「友人に?」


 首を傾げる武田さんに、俺は首肯で返す。


「リョウちゃん、……え~と、桑田涼って言う、あの天使が引き起こした事故で、俺やタカシ、シンヤなんかと一緒に事故に巻き込まれて、死んだ友達です」


「ああ、工藤が仲の良かった五人の内の一人か」


 これにも首肯で返す。


「金丹を飲むと、一度死んで超越者として生まれ変わるみたいだし、工藤はその時に天国にでも行って、再会でもしたのか? いや、天国も地獄も存在しないんだったな。人間死ねばその魂は数日で世界を構成する魔力となって消えるんだった。となると、その友達は異世界転生でもしていたか?」


「まあ、そんなところになるんですかね。転生先はこの世界ゲームの運営でしたけど」


「なっ!?」


 これには仲間全員が驚いていた。


「マジかよ?」


「ええ。何を考えてそんなものになったのか、俺には全く見当も付きませんけど。見た目はまんま天使でしたね」


「私やパジャン殿とは違うのか!?」


 リットーさん的にはそこが気になるところか。


「完全に運営でしたね。話の内容から推察するに、俺たちを今の役につかせるのが目的だったみたいで、今後介入はしてこないみたいです」


「でもハルアキには会いに来たのよね?」


 不審がるバヨネッタさん。『慧眼』である程度の未来は幻視出来ても、既に起こった過去は見通せないだろうからなあ。


「まあ、あいつは出会った時から掴みどころのないやつだったので、今回俺と会ったのも、気まぐれでしょう」


 俺の説明にもあまり納得していないようだが、バヨネッタさんとしては、俺が旧友に会った事は些末事であるようで、


「それで? ハルアキはどんなギフトとスキルを、そのオトモダチから授かったのかしら?」


 バヨネッタさんの顔が、怪訝な顔から面白いものを期待する顔になっている。まあ確かに、面白いだろうけど、使いどころがなあ。などと思っていると、ダイザーロくんが俺の前に食事を持ってきてくれた。豆粥と野菜ジュースだ。俺は野菜ジュースで喉を潤しながら、『空間庫』から一冊の大学ノートと万年筆を取り出した。


「『クリエイションノート(模造品)』と『フィックスペン(模造品)』?」


『空識』で鑑定した武田さんが、大学ノートと万年筆が何なのか声に出す。まあ、それを聞いても他の皆の頭には?マークが浮かんでいるだろうけど。


「説明させて頂くと、俺は三種の超越者のうち、王、虚空王と言う存在となりました」


 ふむふむ。と皆が頷く。


「どうやら俺のギフトは三つが統合して、『虚空』と言うギフトになったようです」


「それは、強くなったの? 弱くなったの?」


 バヨネッタさんの疑問ももっともだ。


「さあ? 俺も今起きたばかりで、使い心地は分かりません。リョウちゃんの説明では、『虚空』とは、何もなく、全てが存在する。のだそうです」


「矛盾していないかい?」


 とはミカリー卿。そうなんだよなあ。俺もそう思う。でも、


「この世界が全て魔力と時空で出来ていると前提すると、全ての物質や事象は魔力と時空に還元し、また魔力と時空は物質や事象へと姿を変える訳で、トータルで、俯瞰で見たらこの世界全てが夢で現実な訳です」


「ふむ。面白い考え方だね」


「デウサリウス教にはないが、ゼラン様が極神教の教えにそのようなものがあると、言っておられたな!」


 ミカリー卿が信仰する一神教であるデウサリウス教にはなく、ゼラン仙者などが説く多神教の極神教にはあるのか。宗教哲学的な違いなんだろうか?


「それで? 『虚空』の検証はまた後にして、そのノートとペンは何なの?」


 バヨネッタさん的には、宗教哲学よりも目の前のノートとペンらしい。


「この『クリエイションノート(模造品)』に『フィックスペン(模造品)』でスキルを書くと、そのスキルが使えるようになるんです」


「はあっ!?」


 うん。そりゃあ皆驚くよね。


「それがあれば、魔王を今すぐ殺す事も可能って事!?」


 バヨネッタさんが食い気味に尋ねてきた。まあ、確かにそれが今回の戦争を終わらせるのに一番手っ取り早いよねえ。


「すみません、この『フィックスペン(模造品)』って、命秒、命をインクにする代物みたいで、魔王を倒すような強力なユニークスキルを書くと、それだけで俺の命が尽きます」


 俺の説明に、バヨネッタさんだけでなく、皆ががっくりと肩を落とす。


「まあ、世の中そんなに上手くいかないわよねえ」


 はい。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...