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白日昇天

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「これからのハルアキの返答次第かな」


 何だよ、それ。


「ハルアキは、天使になるつもりはない?」


 まるで学校の購買で何か頼むかのような軽さで、そんな事を口にするリョウちゃん。


「それは、超越者として、天使、王、仙者の中から、天使を選ぶ。って話ではなく?」


 リョウちゃんは俺の問い返しに頷いてみせる。


「そうだね。超越者の天使は、このPlay The Philosopher 4D 内での限定的な天使だね。『超越者』だから、管理者である天使、地球のカロエルとか、異世界の魔天使ネネエルからの干渉は受けないから、そこは安心して」


 そこは気になっていた。モーハルドの聖都マルガンダで、L魔王が人造天使を従属させていたから。天使であるリットーさんやパジャンさんが、魔天使ネネエルと戦う事になったらどうなるのか。『超越者』の天使なら、問題ないのか。


「で、リョウちゃんが言う天使って言うのは、PTPの運営側である天使、つまり今のリョウちゃんみたいにならないか? ってなお誘いでオーケー?」


 俺の問いに頷くリョウちゃん。急展開だな。


「どうしてそんな話になっているの?」


「ハルアキが『英雄運』と聖属性のギフトを持ち、プレイヤースキルで『有頂天』を持っているうえで、レベル五十で白日昇天を行ったからかな」


「白日昇天?」


 知らない単語が出てきたな。


「ハルアキ的には、天仙法って言った方が通じるかな」


 天仙法!? ゼラン仙者のところで神丹を飲んで、尸解仙法を行ったから、次は地仙法かと思っていたら、それをすっ飛ばしていきなり天仙法を行っていたのか。


「天仙法は、レベル五十かつ『有頂天』が扱え、『英雄運』と聖属性のギフト持ちが、衆人環視の下、真昼に金丹を飲む事が条件なんだ」


 リョウちゃんがそのように説明してくれるが、……うん。条件をクリアしているな。レベルは五十だし、『有頂天』を扱えるし、『英雄運』も聖属性の『清浄星』のギフトも持っているし、真昼に金丹を飲んだ。衆人環視って話だが、どうやらそこは魔物でも問題ないようだ。


「別に俺は意図して天仙法を試した訳じゃないぞ」


「そうだね。ハルアキのご主人様の発案だからね」


 バヨネッタさんは、こうなる事を『慧眼』で見抜いていたのか? う~ん、『慧眼』がどこまで見れるのか分からないから、何とも言えないな。


「それで? どうする? 天使になる?」


 にこにこ笑顔でリョウちゃんが答えを迫る。が、俺はそれに対して自然と首を横に振っていた。頭に浮かんだのがバヨネッタさんの悲しむ顔だったからだ。


「まあ、そうだろうね。ハルアキもどんな歴史でも変わらないなあ」


 あらかじめ分かっていたとでも言うような、諦観のような顔をするリョウちゃん。どうやら別の歴史でも俺は天使にはならなかったようだ。


「天使にならなかった場合、天仙法ってどうなるんだ? もしかして死ぬ?」


 バヨネッタさんがそんな事を言っていたし。


「それはないよ」


 リョウちゃんの言にホッとする。となると、ここが前回のPTP上位ユーザー限定ショップと同じ構造である事を考えると、尸解仙法で『有頂天』を買ったように、またギフトやスキル、アイテムなんかが買えるって感じかな? それに天仙法なら、『有頂天』よりも凄いギフトやスキルが手に入るかも。それに前回はマナポーションの入手に失敗して、周りからこっぴどく怒られたからなあ。あれだけは確保しておきたい。


「ふふっ。わくわくが止まらない。って顔だね」


 笑うな。顔に出るのは昔からだ。って知っているだろうに。


「わくわくしているところ悪いけど、天仙法はショップじゃないんだ」


「違うの!?」


 なんだよ。期待させるなよ。自分でも分かるくらいテンションだだ下がりだ。


「まあまあ。やりようによっては、ショップよりも便利だから、期待してよ」


「期待ねえ?」


 俺のジト目にも、リョウちゃんのアルカイックスマイルは変わらない。


「ハルアキ、机の中をあらためてみてよ」


 机の中? そう言えば、なんで学校の机なのか? とは思っていたけど、机に何か入れてあったのか。と俺がガサゴソと机の中をあさると、


「ノートにペン?」


 出てきたのは一冊の大学ノートと、黒い万年筆だった。ノートの表紙には俺の名前が書かれている。いや、何これ? なんかこれを手に取って困惑している俺を見ながら、リョウちゃんがドヤァって顔をしているのが少し腹立たしいのだが?


「これが何だって言うんだよ?」


 ペラペラと大学ノートを捲ってみると、前半部分に俺のスキル、プレイヤースキルが書かれている。そして後半には何も書かれていない。白に薄い青の線が引かれているだけだ。


「えー、説明して貰って良い?」


「仕方ないなあ」


 腹立つからドヤ顔はやめて欲しい。


「まずハルアキが今持っている三つのギフト、『英雄運』に『清浄星』、『超時空操作』が一つとなり、『虚空』と言うギフトになる」


 成程? まあ、三つは多いと思っていたけど、それが合体するのか。バヨネッタさんなんかは元々ギフトなしだったし、そこは良いか。俺があれこれ考えている間も、リョウちゃんは話を先に進める。


「それで『虚空』と言うギフトを持つハルアキは、特別なスキルが使えるようになる資格を獲得したんだ」


「特別なスキル?」


「そう。それに必要になってくるのが、その『クリエイションノート』と、『フィックスペン』さ」


「『クリエイションノート』と『フィックスペン』?」


 俺が困惑しながら問い返すと、鷹揚に頷くリョウちゃん。


「まあ、その名前の通りの代物でね、所持者がそのノートにそのペンでスキルを書くと、そのスキルが使えるようになる。ってやつ」


「はあっ!?」


 リョウちゃんの説明に、思わず声が裏返ってしまった。しかし、でも、それって、


「もしかして、この世に存在しないスキルでも、自分で「こんなのが良いなあ」ってスキルをノートに書いたら、それが使えるようになる。って事か!?」


「そう言う事。何せ、『虚空』と言うのは、何もなく、また、全てが存在すると言う特殊な存在だからね。使えるスキルも相応なものになるんだよ。ノートは持ち出し禁止だから、ここで書いて貰う事になるけど、ヤバいでしょ?」


 ヤバいなんてものじゃない! こんなのチートだろ!? 自分が考える最強のスキルが使えるようになるって事じゃないか!


「興奮しているところ悪いけど、更に説明させて貰うと、『クリエイションノート』にはちゃんとスキル名と矛盾しないスキルの効果を書かないとスキルは発動しないし、それを書く『フィックスペン』のインクは命秒だから、長ったらしい説明文は命を削るよ。しかも創造した、書き切ったら、完成した都度スキルの強力さに応じて相応の命秒が支払われる制約付きだよ。強力なユニークスキルなんて書こうものなら、死ぬと思っておいた方が良いよ。でないと上限のないトンデモスキルがバンバン生み出せちゃうからね」


 成程。スキルを生み出すのに、命を捧げないといけないのか。バヨネッタさんが下手したら死ぬ。って言っていたのはこれかな?

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