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呑気者
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避ける、避ける、避ける、肉薄したところで振るった俺の上段斬撃を、陶器の腕でいなすコレダの人形。くっ、巧い。
「ふううう」
いなされたところで一旦距離をおいて、もう一度攻撃に転じようとしたら、ぷしゅ~と空気が抜けるようにしぼむコレダの人形。またこれだよ。コレダの人形を相手にする時の最大の難点だな。すぐしぼむ。俺はしぼんだコレダの人形を拾い上げた。
どうしたものか。と手に収まるコレダの人形を見詰めていても、事は進展しない。他の三人も頑張っているのだし、俺も出来る事をしなければ。
ステータスの中に精神と言う値があるのだから、レベル四十オーバーの俺にも相応の集中力は備わっているはずだ。それなのにこんな小さな人形一つに悪戦苦闘している。こんな事している場合ではないのだが。
恐らく俺と同じくらいのレベル帯であろうシンヤたち勇者一行は、全員『超集中』が使えるのだから、レベル的に俺に『超集中』の修得が無理な訳ではないだろう。となると、
「何か他に問題がある?」
首を傾げる俺を、腹の中でアニンが笑った気がした。
「アニンは気付いているのか?」
『逆にハルアキが気付いていない事の方が驚きだ』
そうか。傍から見たら、そんな丸分かりの問題なのか。と俺は誰もいない空き地で、ごろんと仰向けに寝転んだ。造られたフィールドだと言うのに、夜空が奇麗だ。
『本当にハルアキは呑気だな。そんなだからこんな簡単な特訓もクリア出来ないんだ』
アニンよ。呑気とは言ってくれる。俺を何だと思っているんだ? 呑気なのはこのエキストラフィールドを楽しんでいるバヨネッタさんたちの方だろう? 俺はいつでもこのエキストラフィールドから出られるように心配しているよ。
『大局的にはそうかも知れんな』
大局的には、ねえ。それだと、局所的にはそうじゃない。と言外に語っているようなものだ。…………いや、もしかして、アニン、俺に何が足りないのか教えてくれているのか?
『さて、どうだかな。我はどこまで行っても道具よ。この世の滅亡などどうでも良い』
そっちこそ呑気じゃないか。道具と言うなら、いざって時に役立ってくれないと困るな。
『そうだな。それも使い手次第だがな』
確かに。戦闘中に呑気になんてしていられない。いや、戦闘開始時に既に武器になっていて貰わないと…………。
「ああ~、何かちょっと分かったかも」
俺は『瞬間予知』があるから、攻撃を仕掛けられたら即座に反応出来るけど、いざこちらから攻撃を仕掛ける。となったら、俺は直ぐ様攻撃出来るだろうか? …………う~ん、出来る気がしないな。本来の俺はそれこそ呑気なスロースターターだ。
覚悟を決めて一歩前に進むのに、ある程度時間が必要になるタイプ。それが俺だ。極端な話、人を殺すのを躊躇い、そこから目を逸らし、引き伸ばし続けてきたような人間だ。人を初めて殺した時だって、覚悟を決めたのは、民間人が攻撃されてからだった。あの時、いや、もっと前から覚悟を決めていられれば……。
手に持ったコレダの人形を、眼前に持ってきて見る。コレダの人形は俺に対して攻撃してこない。避けるか防御するかだ。つまり俺の『瞬間予知』に引っ掛からないのだ。だから反射的に攻撃する事が出来ず、それ故に俺の集中力は頂点まで達せず、散漫な集中力でコレダの人形の相手をする事になるから、ずるずると戦闘が長引き、コレダの人形がしぼんでしまう。
となると、俺のやるべき事は決まった。戦闘になる以前から集中力を高い状態で維持し、それからコレダの人形を人間大まで大きくし、一息に集中力を頂点まで高めて急所を攻撃すれば良いのだ。
『方針は決まったようだな』
「ああ。どうやらアニンが言う通り、俺は呑気だったらしい。教えてくれてありがとう」
『はて? 我に何か教えた覚えはないな』
そう言う事にしておこう。
俺は起き上がると、一度息を吐いて、精神統一し、集中力を高め、『共感覚』が『武術操体』が『全合一』が、程良く体内の状態を良好に維持しているのを感じ取ってから、アニンを曲剣に変化させると、コレダの人形に魔力を注ぎ込む。すると宙に投げられたコレダの人形は直ぐ様人間大まで大きくなり、だらんと隙だらけの姿を晒すのだった。
このいつでも倒せそうな見た目に騙されては駄目だ。相手は避けと防御に特化した強者だ。俺は一度深呼吸して、自分なりに集中力を極限まで高めると、一気にコレダの人形との距離を詰め、人形を袈裟斬りにする。
キン。
胸の前で腕をクロスさせて防御に徹したコレダの人形だったが、俺の攻撃がその腕ごと人形の胸を斬り裂く。
(当たった!)
これまでいくら曲剣を振っても当たらなかった心臓部の魔石に、俺の曲剣が届いた。良し! これで、……これでどうなるんだ? と考えてしまったのが良くなかった。
「うおっ!?」
何とコレダの人形は活動停止になるどころか、足で反撃してきたのだ。それをすんでのところで躱し、これで活動停止にならないのなら、残る頭の魔石も! と攻撃に移ろうとしたところで、ぷしゅ~としぼむコレダの人形。早くない?
『魔石が一つに減った事で、活動時間が短くなったのだろう』
とのアニンの言に納得する。となると一撃目を当てた後に、コレダの人形が反撃してくるのも考慮したうえで、直ぐ様二撃目を当てないとならないのか。ふ~む。更に集中力を上げないといけないな。
『そうだな。それより、魔石を一つ壊してしまったが、この人形は正常に動くのか?』
「あ」
しぼんで地面に転がっているコレダの人形を見遣る。コレダの人形に使う魔石って小さいんだよなあ。ま、まあ、魔石インクの文様は複雑だけど? これも所詮初心者に集中力を磨かせる為の魔道具なんだし? これと同等の小さな魔石をくっつければ復活するでしょ?
『そうか?』
俺は『空間庫』からある程度の大きさの魔石を取り出すと、それをアニンをナイフにして小さく削り出し、それを壊れてしまった人形の心臓部に埋め込んだ。そして起動するかどうか確認する為、コレダの人形に魔力を流し込む。すると直ぐ様人間大まで大きくなるコレダの人形。なんと言うか、流石は練習用の魔道具。丈夫でありがたい仕様だ。
「良し! 直ぐ様再開だ!」
と俺が声を上げたところで、コレダの人形は直ぐ様しぼんでしまった。あれえ? 良く良く見れば俺が削り出した魔石は、その前までの魔石よりも小さい。つまり活動時間がその分短くなってしまったと言う事だ。
「…………ふふ、計画通りだ」
『嘘つけ』
「ふううう」
いなされたところで一旦距離をおいて、もう一度攻撃に転じようとしたら、ぷしゅ~と空気が抜けるようにしぼむコレダの人形。またこれだよ。コレダの人形を相手にする時の最大の難点だな。すぐしぼむ。俺はしぼんだコレダの人形を拾い上げた。
どうしたものか。と手に収まるコレダの人形を見詰めていても、事は進展しない。他の三人も頑張っているのだし、俺も出来る事をしなければ。
ステータスの中に精神と言う値があるのだから、レベル四十オーバーの俺にも相応の集中力は備わっているはずだ。それなのにこんな小さな人形一つに悪戦苦闘している。こんな事している場合ではないのだが。
恐らく俺と同じくらいのレベル帯であろうシンヤたち勇者一行は、全員『超集中』が使えるのだから、レベル的に俺に『超集中』の修得が無理な訳ではないだろう。となると、
「何か他に問題がある?」
首を傾げる俺を、腹の中でアニンが笑った気がした。
「アニンは気付いているのか?」
『逆にハルアキが気付いていない事の方が驚きだ』
そうか。傍から見たら、そんな丸分かりの問題なのか。と俺は誰もいない空き地で、ごろんと仰向けに寝転んだ。造られたフィールドだと言うのに、夜空が奇麗だ。
『本当にハルアキは呑気だな。そんなだからこんな簡単な特訓もクリア出来ないんだ』
アニンよ。呑気とは言ってくれる。俺を何だと思っているんだ? 呑気なのはこのエキストラフィールドを楽しんでいるバヨネッタさんたちの方だろう? 俺はいつでもこのエキストラフィールドから出られるように心配しているよ。
『大局的にはそうかも知れんな』
大局的には、ねえ。それだと、局所的にはそうじゃない。と言外に語っているようなものだ。…………いや、もしかして、アニン、俺に何が足りないのか教えてくれているのか?
『さて、どうだかな。我はどこまで行っても道具よ。この世の滅亡などどうでも良い』
そっちこそ呑気じゃないか。道具と言うなら、いざって時に役立ってくれないと困るな。
『そうだな。それも使い手次第だがな』
確かに。戦闘中に呑気になんてしていられない。いや、戦闘開始時に既に武器になっていて貰わないと…………。
「ああ~、何かちょっと分かったかも」
俺は『瞬間予知』があるから、攻撃を仕掛けられたら即座に反応出来るけど、いざこちらから攻撃を仕掛ける。となったら、俺は直ぐ様攻撃出来るだろうか? …………う~ん、出来る気がしないな。本来の俺はそれこそ呑気なスロースターターだ。
覚悟を決めて一歩前に進むのに、ある程度時間が必要になるタイプ。それが俺だ。極端な話、人を殺すのを躊躇い、そこから目を逸らし、引き伸ばし続けてきたような人間だ。人を初めて殺した時だって、覚悟を決めたのは、民間人が攻撃されてからだった。あの時、いや、もっと前から覚悟を決めていられれば……。
手に持ったコレダの人形を、眼前に持ってきて見る。コレダの人形は俺に対して攻撃してこない。避けるか防御するかだ。つまり俺の『瞬間予知』に引っ掛からないのだ。だから反射的に攻撃する事が出来ず、それ故に俺の集中力は頂点まで達せず、散漫な集中力でコレダの人形の相手をする事になるから、ずるずると戦闘が長引き、コレダの人形がしぼんでしまう。
となると、俺のやるべき事は決まった。戦闘になる以前から集中力を高い状態で維持し、それからコレダの人形を人間大まで大きくし、一息に集中力を頂点まで高めて急所を攻撃すれば良いのだ。
『方針は決まったようだな』
「ああ。どうやらアニンが言う通り、俺は呑気だったらしい。教えてくれてありがとう」
『はて? 我に何か教えた覚えはないな』
そう言う事にしておこう。
俺は起き上がると、一度息を吐いて、精神統一し、集中力を高め、『共感覚』が『武術操体』が『全合一』が、程良く体内の状態を良好に維持しているのを感じ取ってから、アニンを曲剣に変化させると、コレダの人形に魔力を注ぎ込む。すると宙に投げられたコレダの人形は直ぐ様人間大まで大きくなり、だらんと隙だらけの姿を晒すのだった。
このいつでも倒せそうな見た目に騙されては駄目だ。相手は避けと防御に特化した強者だ。俺は一度深呼吸して、自分なりに集中力を極限まで高めると、一気にコレダの人形との距離を詰め、人形を袈裟斬りにする。
キン。
胸の前で腕をクロスさせて防御に徹したコレダの人形だったが、俺の攻撃がその腕ごと人形の胸を斬り裂く。
(当たった!)
これまでいくら曲剣を振っても当たらなかった心臓部の魔石に、俺の曲剣が届いた。良し! これで、……これでどうなるんだ? と考えてしまったのが良くなかった。
「うおっ!?」
何とコレダの人形は活動停止になるどころか、足で反撃してきたのだ。それをすんでのところで躱し、これで活動停止にならないのなら、残る頭の魔石も! と攻撃に移ろうとしたところで、ぷしゅ~としぼむコレダの人形。早くない?
『魔石が一つに減った事で、活動時間が短くなったのだろう』
とのアニンの言に納得する。となると一撃目を当てた後に、コレダの人形が反撃してくるのも考慮したうえで、直ぐ様二撃目を当てないとならないのか。ふ~む。更に集中力を上げないといけないな。
『そうだな。それより、魔石を一つ壊してしまったが、この人形は正常に動くのか?』
「あ」
しぼんで地面に転がっているコレダの人形を見遣る。コレダの人形に使う魔石って小さいんだよなあ。ま、まあ、魔石インクの文様は複雑だけど? これも所詮初心者に集中力を磨かせる為の魔道具なんだし? これと同等の小さな魔石をくっつければ復活するでしょ?
『そうか?』
俺は『空間庫』からある程度の大きさの魔石を取り出すと、それをアニンをナイフにして小さく削り出し、それを壊れてしまった人形の心臓部に埋め込んだ。そして起動するかどうか確認する為、コレダの人形に魔力を流し込む。すると直ぐ様人間大まで大きくなるコレダの人形。なんと言うか、流石は練習用の魔道具。丈夫でありがたい仕様だ。
「良し! 直ぐ様再開だ!」
と俺が声を上げたところで、コレダの人形は直ぐ様しぼんでしまった。あれえ? 良く良く見れば俺が削り出した魔石は、その前までの魔石よりも小さい。つまり活動時間がその分短くなってしまったと言う事だ。
「…………ふふ、計画通りだ」
『嘘つけ』
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