世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
537 / 638

戯れ(真面目)

しおりを挟む
 夕食後、リットーさんに連れられて俺と武田さんがやって来たのは、安全地帯の町の右側。まだ開発が進んでいないエリアだ。夜闇の向こうで、光に包まれた闘技場が盛り上がっている。


「はあ……。リットーさん、俺も武田さんも仕事の後で疲れているんですけど」


「でも時間がないのだろう!?」


 それはそうなんだけど。はあ。リットーさんに特訓を頼んだのは俺だし、俺に断る権利はないよなあ。ちらりと武田さんを見遣れば、俺を恨めしそうに睨んでいた。申し訳ない。と心の中で謝っておく。


「それで? 俺たちは何をやらされるんですか?」


 リットーさんはここに来る前にバヨネッタさんに何やら魔道具を借りていたので、それが関係しているのだろう事は薄々分かるが。


「タケダにはこれを被って私と戦って貰う!」


「いや俺を殺す気か!?」


 リットーさんが『空間庫』から取り出したのは、俺もベフメ領で使った頭をすっぽりと覆い尽くすマスクだ。


「大丈夫だ! 人間そう簡単に死にはしない!」


 いや、死ぬよ、リットーさん。


「それから、タケダは『空識』を使うなよ!?」


 言いながらリットーさんは、有無を言わさず武田さんにマスクを被せる。


「それ本当に死ぬやつじゃないか!」


 当然マスクを外してリットーさんに文句を付ける武田さん。


「強くなりたいんだろう!?」


「俺は別にそんな事を願っていない!」


「武田さん、それだと俺たち一生ここに閉じ込められる事になるので、そこは折れてください」


 俺の言にこちらを向いて歯噛みする武田さんだったが、観念したのか、自らマスクを被った。


「何だよこのマスク? 何も見えなきゃ、音も聞こえないんだけど?」


 マスクを被っただけで、目に見えて狼狽える武田さん。俺も覚えがあるなあ。あのマスク、視覚、聴覚、嗅覚を封じる効果があるからなあ。そんな武田さんを横目に俺はリットーさんと向き直る。


「それで、俺は何をすれば良いんですか? まさか武田さんと同じくリットーさんと戦うんですか?」


「いや、ハルアキにはこれを相手にして貰う!」


 そう言ってリットーさんが『空間庫』から出したのは、先程バヨネッタさんから借りたものだった。それは手に収まる程度の陶器で出来た人形ひとがたである。心臓と頭の部分に小さな小さな魔石が埋め込まれ、全体に魔石インクが張り巡らされている。


「それって、何ですか?」


「これはコレダの人形と言ってな! まあ! 実物を見せた方が早いな!」


 とリットーさんがその人形に魔力を通すと、その人形は人間大まで大きくなった。ふむ。予想通りってところか。


「これを相手に組手でもすれば良いんですか?」


「ああ、そうだ!」


 なんだ、簡単じゃないか。と俺がリットーさんの顔色を窺うと、にやりと口角を上げている。これは何かありそうだな。


「おい! 俺はいつまでこうしていれば良いんだ!?」


 俺がリットーさんと話をしている間、律儀にマスクを被っていた武田さんが吠えたところで、会話は中断され、俺と武田さん、二人の特訓が開始された。



 う~む。俺の前に立つコレダの人形だが、一見するだけで分かる。隙だらけだ。だってボーッと突っ立っているだけだもん。とりあえず攻撃してみるか。俺はアニンを曲剣に変化させ、コレダの人形を袈裟斬りにしてみる。


「避けた!?」


『それは避けるだろうよ』


 アニンに的確にツッコまれるが、俺が驚いたのはそこではない。コレダの人形の移動速度が意外と速かった事だ。


「まあ、そうは言っても、俺と同じくらいだけど」


 とコレダの人形に肉薄して、今度こそ人形に一撃を食らわせる。が、これを左腕で防御するコレダの人形。防御もするのか。などと行動を見守っていたら、切断した左腕が元に復元された。


「そんな機能まであるのか?」


 中々に高性能だな。だが甘いなあ、コレダの人形くん。避ける、防御をする、と言う事は、己には弱点があるとこちら側に伝えているも同義じゃないか。そしてその弱点ももう分かっている。あの心臓と頭でキランと光っている魔石だろう。その小さな小さな魔石を壊せば、壊せば……、


「いや! 小さ過ぎるだろ!?」


 人間大になる前の人形の時から思っていたけど、このコレダの人形の魔石はあまりに小さい。0.5カラットもないだろう。まあ、カラットは重さの単位だけど。今はそれは置いておくとして、それを破壊する?


「ハルアキ! 先に言っておくが全体攻撃は駄目だぞ! これはあくまでも『超集中』を会得する為の特訓なんだからな!」


 う。光の剣を我武者羅に振るっている武田さんを見守っているリットーさんに、先に正解を突かれてしまった。だよねえ。こんなの面による全体攻撃で簡単にぶっ壊せるよ。でもそこをあえて剣で攻撃するからこそ、集中力が磨かれるって話だよねえ。このコレダの人形をバヨネッタさんが持っていたのも、きっとバヨネッタさんがこれを使って銃の命中精度を上げる特訓でもしていたからなんだろうなあ。


「はあ……。うし! やるか!」


 と俺がやる気を見せたところで、コレダの人形はしゅるしゅるとしぼむように元の大きさに戻ってしまった。あれ?


「その人形の唯一の欠点と言うべきか、弱点と言うべきか! その人形に使っている魔石は、見て分かる通り小さいからな! すこぶる燃費が悪いんだ! 人間大でいられる時間は一分とないから、その間に倒せ!」


「はあ」


 それで倒せなかったら、自分で魔力を充填させて、また挑む。その繰り返しって訳か。…………面倒臭い。でも『超集中』の身に付け方なんて俺、他に知らないもんなあ。これでどうにかするしかない。出来るだけ回数を少なくクリアする為にも、集中力アゲアゲでいかないとなあ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

最強剣士異世界で無双する

夢見叶
ファンタジー
剣道の全国大会で優勝した剣一。その大会の帰り道交通事故に遭い死んでしまった。目を覚ますとそこは白い部屋の中で1人の美しい少女がたっていた。その少女は自分を神と言い、剣一を別の世界に転生させてあげようと言うのだった。神からの提案にのり剣一は異世界に転生するのだった。 ノベルアッププラス小説大賞1次選考通過

処理中です...