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「さて、どうしたものですかね」


 と皆を見渡したところで、


 ピロン。


 と間の抜けた音とともに、空中にウインドウが現れた。そこにはデイリークエストやらノーマルクエストやら、イベントクエストなんて項目が並んでいる。


『早速だが、ハルアキくんのゲームを参考にさせて貰ったよ』


 どこからともなく頭の中に響くカヌスの声。完全にカヌスの手の平の上で転がされているな。


「これを全てクリアしろ。って事ですか?」


『いいや。先程も言ったが、君たちはレベルが低過ぎる。なので最低でも全員がレベル五十を超えて上限解放をしたうえで、ある条件を満たしたなら、そのエキストラフィールドから解放しよう』


 はあ。面倒な事になった。視線を皆に向けても、全員が辟易しているのが分かる。


「このウインドウ、全員見えていますか?」


 俺の質問に、皆が首肯で返してきた。普通、ウインドウは『鑑定』系統のスキル持ちしか出現しない仕様だ。それが出ているのは幸か不幸か異常事態であり、カヌスに俺たちのスキルを改竄する能力がある事を示唆している。


「皆さんのウインドウには何が表示されています?」


 との俺の質問に答えてくれたのはデムレイさんだった。ウインドウを横にスッスッと動かしながら、情報を開示してくれた。


「自分を『鑑定』して貰った時に分かるようなものだな。レベル、ギフト、スキル、経験技能、魔道具でどんな魔法が使えるか、持ち物なんてのも分かるのは地味にありがたいな」


「経験技能?」


「ハルアキが日頃プレイヤースキルと呼んでいるものよ」


 デムレイさんの聞き慣れない単語に首をひねると、バヨネッタさんが教えてくれた。あれか。


「他人のは視れないんですね?」


 俺の質問に頷くデムレイさんだったが、それに対してダイザーロくんが手を上げた。


「俺は他の人のレベルやスキルなんかも分かります。多分鑑定の片眼鏡を付けているからでしょうけど」


 とダイザーロくんが武田さんの方を見遣れば、武田さんも頷き返してくれた。実は俺も俺より低レベルの武田さん、ダイザーロくん、カッテナさんのステータスは視れているので、ダイザーロくんの推測は正しいだろう。


「さて、ステータスは分かりましたけど、やっぱりそれより気になるのは、ウインドウの他画面に出てくるこれらですかね」


 俺の言に皆が無言になる。最初のウインドウ画面に出てきたのがクエスト関係。更に言えば、他の画面に、ガチャが出来る画面がある。つまり、俺たちのウインドウには、クエスト関係の画面、ガチャ関係の画面、ステータスの画面の三つの画面があるのだ。


「いよいよ、ゲームじみてきましたねえ」


「遊ばれている。と言うより、弄ばれていると言った感じだな」


 武田さんの言葉に皆が頷く。


「とりあえず、ログインボーナスのガチャやっときます?」


 と俺はガチャ画面にあるログインボーナスガチャを指差す。


「工藤は勇者だな」


 武田さんに勇者と言われてもな。


「相手は魔王だぞ?」


 その警戒はもっともだけど、たった七人相手に、ログボで罠を仕掛けてくるかなあ? いや、カヌスならあり得るか。


「俺が行きましょうか?」


 逡巡している間に名乗りを上げたのはダイザーロくんだ。確かにダイザーロくんの幸運があれば、罠をすり抜けられるか。いや、


「ダイザーロくんがやった場合、他の人の参考にならないと思う。ここは俺がやるよ」


「は、はあ」


 俺の意図を理解しておらず、頭の上にハテナマークを浮かべていそうな顔をしているダイザーロくんを横目に、俺は覚悟を決めてガチャ画面のログインボーナスの部分をタッチした。


 しかしてウインドウから出てきたのは、対魔鋼のインゴットだった。


「…………」


『どうだい?』


 どこかから聞こえるカヌスの声がワクワクしているのが分かる。


「これって、換金アイテムか何かですか?」


『換金アイテム?』


「ガチャ画面を見るに、ガチャをするにはお金が必要みたいじゃないですか? でも我々はこのシューと言う単位のお金を持っていないんです。なのでこれを渡されても……」


『え? 今、地上ではシューは流通していないのかい?』


 カヌスの声が動揺している。本当に時勢に疎いんだな。


『シューは古代で広く流通していた金の単位だ。バヨネッタやデムレイであれば持っていると思うぞ』


 とアニンが進言してくれた。


「バヨネッタさん、デムレイさん、どうやら古代で流通していたお金がシューみたいなんですけど、持っています?」


「え? シュー? シーユではなく?」


 バヨネッタさんにデムレイさんも驚いている。どうやら時を経て、古代で流通していたお金の単位は、シューからシーユだと言う事になっていたみたいだ。


「アニンの話では、シーユではなく、シューが正しい発音みたいです」


 愕然としてその場に崩れ落ちる二人。まあ、思い込んでいた常識が覆されたら、それはショックだろう。二人は置いておくとして、


「カヌス様」


『何だい?』


「こちらにも、恐らく多少はシューを持っている者もいるようなのですが、カヌス様の目論見だと、我々はレベルが五十を超えないとここから出られないのですよね?」


『そうだね?』


「どうやってシューを集めさせるつもりだったんですか?」


『…………』


 返答がない。考えてなかったな。


『あー、このゲームのように、ここの魔物を倒したら、シューがドロップするような仕組みに……』


「それはゲーム内だからで、リアルにそれをやられると、贋金扱いになったり、シューの価値が暴落する事になるのですが」


『…………成程』


 この魔王、凄いのかポンコツなのか分からないな。


「ええっと、こう言うのはどうでしょう。シューと言う本当にある貨幣でガチャをするのではなく、このエキストラフィールド独自の貨幣を作り出すのです」


『それ採用で』


「あと、倒した魔物の素材や魔石、このインゴットのようなアイテムと貨幣の交換所や、素材、魔石、インゴットなどを持ち込んだら武器防具を作製してくれる場所、HPMPの回復スポットを、魔物が寄り付かない安全地帯に設置して頂けると助かります」


『成程、エキストラフィールド内に簡単な町が欲しい訳か。流石はゲーム慣れしているね。参考になるよ』


「ははは、本物のクリエイターさんには敵いませんけどね」


『面白い。これは久々にクリエイター魂が燃え上がるよ』


 あ、これは要らん火を点けてしまったかも知れん。はあ。もう俺たちに出来るのはここで生き残る事だけだ。

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