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帰りたい

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 世界が変転した。元いた宇宙船内のような場所から、いきなり森の中、しかも高さ百メートルを超えるような巨木に囲まれたエリアに放り込まれたのだ。


「エクストラフィールドを用意した。ここで存分に己を磨いてくれ給え」


「は?」


 あまりの事態の変動、カヌスの発言に、口から呆けた声が漏れる。


「ハルアキくん、君の質問への返答だよ。このアルティニン廟は攻略難易度をレベル五十以上に設定していてね。それを下回るレベルで攻略されては困るのだよ」


 困るって、そんな理由で別フィールドを用意されても、こっちの方が困る。


「これは君たちを思っての事だと理解して貰いたい」


 こっちの意を汲んでか、カヌスはそんな事を口にした。


「我々の事を思って、ですか?」


 聞き返す俺に、頷き返すカヌス。


「そうだ。そこのセクシーマンなら、君たちが地下界と呼ぶ場所がどれだけ危険か、このまま低レベルの仲間を連れて行ったらどうなるか、理解していると思うが?」


 カヌスに話を振られた武田さんを見れば、武田さんは難しい顔をしていた。


「アルティニン廟を抜けた先は、確かに低レベルで挑めば危険な場所だ。だが安全地帯がない訳でもない。凶悪な魔物たちと安全マージンを取れば、それなりの成果が期待出来る。と少なくとも俺は思っている」


「ふむ。君の答えはそうなのか」


 武田さんの言に、顎に手を当て、考え込むような仕草をするカヌス。そしてそれを終えると、もう一度武田さんへと視線を向けた。


「セクシーマン、君は地下界についてどれだけの知識を有している?」


「どれだけ、と言われてもな。魔王が己の身が危なくなったら逃げ込む場所。くらいか」


 俺の認識もそんな感じだ。加えるなら大量の魔石が取れると聞いている。


 これに対してカヌスの返答は嘆息だった。明らかにこちらの知識不足を指摘している。


「何故魔王は地下界に逃げ込むと思う?」


 また問い掛けか。


「確か、地下界には魔王にも比肩する魔物が跋扈しているからとか。それで時間稼ぎ的な?」


 こうして口にすると、いくら魔石が大量にあるからって、そこに向かおうとしている俺たちが馬鹿みたいだな。


「そうだね。地下界、そこには魔王に比肩する、いや、正確に言葉にすれば、『魔王』が多数存在している」


 …………うん? 『魔王』が多数存在している? どう言う事?


「地下界━━、正確には無窮界と言うのだけれど、そこには果てのない空と大地と海があり、その大地の上で、かつてその大世界の王に反旗を翻した者たちが、世界永劫負担の刑の下に、小世界を背負っているのだよ」


 何じゃそりゃ? スケールが大き過ぎて理解が追い付かない。


「つまり、我々がいるこの世界は、その無窮界と呼ばれる大世界の一部である小世界であると?」


 ミカリー卿ナイスです! そう言う事か。言うなればこの小世界は地球であり無窮界と呼ばれる地下界が宇宙のような関係だと考えれば想像し易い。となると、


「これまでの魔王が無窮界に逃げ込む理由は、その無窮界の王に助力を乞う為、ですか?」


 俺の答えは当たりだったらしく、カヌスはにっこり笑顔で鷹揚に頷き返した。しかしそうなると問題だ。


 俺たちの考えでは地下界は誰のものでもないから、開発事業みたいな事をしたところで、誰も文句を言ってこないと思っていたが、地下界に所有者がいるとなると、無断で立ち入れば事を荒立てる事になる。


「この世界の下の無窮界にも、統治者がおられるのですか?」


「ああ。ブーギーラグナと言う魔王だ」


 魔王の土地なのか。そこで余所者の魔王を倒す為にあれこれやれば、軋轢を生むのも当然。当然?


「何故、この世界の下を統治している魔王は、前回セクシーマンとバァが戦った時に、バァに肩入れして勝たせなかったんですか?」


 おかしな話だ。バァに限らず、これまでにも何人かの魔王が地下界に逃げているみたいだし、その手助けをしてもおかしくないはず。


「ああ、ブーギーラグナは強者を好む魔王でね。だから保身の為に逃げ出すような者は、たとえ同じ魔王であっても助けるような事はしないんだよ」


「だから、アルティニン廟を踏破する資格として、レベル五十以上を求めている訳ね」


 とバヨネッタさん。


「そう言う事だね」


 はあ。厄介な話を聞かされてしまった。これじゃあ俺たちが考えた計画がパーじゃないか。この話はシンヤたちとも共有しないとマズい話だ。それに地下界━━無窮界には多数の魔王が存在すると言う。それをカヌスは当然の事のように言っていた。となると、無窮界は魔王たちの領域だと考えるのが妥当。そして無窮界自体に王が存在するとの話から導き出される答えは、無窮界は多数の魔王を従える大魔王によって支配されていると言う事だ。


「…………はあ。カヌス様。我々はこのアルティニン廟から手を引きますから、ここから出して貰う事は出来ないでしょうか?」


「面白い冗談だね。勇者と英雄たちの発言とは思えない」


 ははは。『英雄運』は持っていても、英雄になった覚えはないんですけどね。


「我々の目的は地下界にある豊富な魔石資源なんです。それがあなたが今持っているゲーム機(スマホ)のアイテムのように、手を伸ばしたところで手に入れられないどころか、逆にこちらが実害を被るとなると、このアルティニン廟を攻略する意味がないどころか、出来れば早くこの情報を持ち帰って、この世界と我々がいる異世界とで情報共有したいんですけど」


「ハルアキくんはまるで商人のような思考をするんだね」


「商会持ちなので」


 俺の発言の何が面白かったのか、これを聞いてくつくつと腹を抱えてひとしきり笑ったカヌスは、何やら空中にウインドウを出しては操作して、誰かと連絡をし始めた。


「????、????」


『???????????????????????????????????????』


 ウインドウに誰かの影が浮かび上がり、カヌスがその人物? に対して話し掛けたら、相手側が物凄い勢いで返してきた。何を話しているのか、相手が誰なのか聞くと怖いので、アニンには聞かない。


『????????????????????????????????????????』


「????、??????、????」


『??、?????????????』



 十分程の話し合いを終えたカヌスは、ウインドウを閉じると、笑顔でこちらに向き合った。何と言うか、その笑顔が黒くて怖い。


「ブーギーラグナと話し合いを付けた」


 今!? 俺と同じ事を思ったのだろう。皆の身体がビクリと動いた。


「我が城まで来たのなら、相応の歓迎を持ってもてなそう。だそうだ」


 それってあれですよね? 強者特有の、そちらの利を通したいのなら、こちらを倒してみせよ。みたいなやつですよね?


「さあ、舞台は整えたよ。せいぜい頑張って僕を楽しませてくれ」


 パチン。


 とカヌスが指を鳴らすなり、カヌスと、椅子とテーブルが消え、森が殺気でざわめき出す。うっわあ、明らかにアルティニン廟の魔物たちよりも高レベルの魔物の気配がするんですけど。って言うかカヌスのやつ、マジで俺のスマホ持って行きやがった。と俺は『聖結界』を展開しながら心の中で初代魔王に文句を言った。

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