世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
522 / 639

対ミイラ剣士(前編)

しおりを挟む
「ほう。準備が出来たのか?」


「ひとまず、かなあ」


 地下六十階。俺たちは野球ドームのような大きな空間の中央で立つ、シンヒラーへと話し掛ける。


「…………まあ良い。俺のやる事は決まっている。死ね」


 光の剣を顕し、当然の権利とばかりに一歩こちらへ踏み込んだシンヒラー。対して『時間操作』タイプAでこのフロア全体に対して俺は時間を遅くさせる。が、それでもシンヒラーの速度は速い。そこへカッテナさんが抵抗低下の眼鏡で更に速度を落とさせた。


「行くわよ」


 それを確認したところで、バヨネッタさんの号令で俺たちは地下六十階フロアへと足を踏み出した。


 そうなると起動する魔法陣の数々。そしてその中から様々なリビングウェポンたちが現れる。剣、槍などの単純な分け方でなく、剣も短剣、長剣、曲剣など様々で、槍も長槍、短槍、突撃槍に投げ槍、他にも斧や鈍器に弓なんてものまでありやがる。武器の見本市かな?


 その武器の多さに俺が武田さんを振り返ると、首を左右に振る武田さん。成程、大ボスであるシンヒラーがいる事で、このフロア自体が広がり、武器種が増えたと思うべきか。まあ、やる事は変わらないんだけど。


 俺とカッテナさん、デムレイさん、ダイザーロくん、ミカリー卿がシンヒラーを足止めしている間に、武田さんがバヨネッタさんを『転置』でこのフロアの奥にある台座に送る。これでバヨネッタさんで台座を起動させれば、少なくともリビングウェポンの無限湧きは止められる。まあ、その後に中ボスである阿修羅骸骨戦士が出てくるが、大量の敵を相手にするのと、ボス二体を相手にするなら、ボス二体の方がマシとの結論が出たので、今回はこれで行く事が決定した。


 俺たちが中央に位置するシンヒラーに接近すると、シンヒラーは当然のようにリビングウェポンの一つである長剣を、光の剣を持たない左手で握り、二刀流で構えた。


 視線で皆と合図を送り合うと、レベル五十となったデムレイさんが、最初は俺だと頷き返す。そしてシンヒラーのやや上空を囲うように、円形に現れる十個の時空を歪めるバスケットボール大の渦。その渦の一つから、高速で何かが射出された。それを当たり前のように光の剣で縦真っ二つに斬り裂くシンヒラー。その斬り裂かれたものは床面に着弾して、その威力からもうもうと土煙を上げる。それは普通であれば宇宙の彼方にあるはずの物体。たとえ大地の引力に引き込まれても、そのほとんどが大気で燃え尽きるもの。隕石。


 デムレイさんがレベル五十から上限解放して獲得したスキルは、『隕星』。宇宙の彼方から隕石を呼び込み、地上に落とすそれは、地下にあるダンジョンにあっても、時空を歪めて対象者に降ってくる凶星であった。


 これに手応えを感じたのであろうデムレイさんは、ドンドン行くぞ。とばかりに、十ある射出口から、ドンドンと隕石の雨を降らせ、シンヒラーをその場に足止めしていく。その間俺たちはデムレイさんが攻撃を受けないように、リビングウェポンの相手だ。


 剣が舞い、槍が飛び、斧が振るわれ、鈍器が暴れ回る。案外厄介なのが弓だ。遠距離なうえに使い手のいない弓は、こちらからはほぼ線でしかない。俺の『時間操作』タイプAでこのフロアの時間が遅くなっているから対処出来ているが、普通にやったらかなり厄介だったろう。これにはミカリー卿が積極的に魔法で対応していた。


 ミイラ男の口角が上がる。どうやら強敵との戦闘は望むところであるらしい。戦闘狂め。なら望み通りにしてやる。ちらりとミカリー卿、カッテナさんとダイザーロくんを見遣れば、俺の意図を察した三人。ミカリー卿が風魔法で群がる武器群を吹き飛ばし、その隙に短機関銃とブリッツクリークで、『隕星』の相手に慣れてきたシンヒラーに向けて撃ちはじめる。


 これで完全にシンヒラーはフロアの中央に足止めされた。更に追い討ち。とばかりに、俺の『重拳』の重力でシンヒラーをその場に繋ぎ止め、更に更にミカリー卿の数々の拘束魔法が、シンヒラーの動きを封じる。


 これなら! とデムレイさんを見れば、既にデムレイさんは次の手に移っていた。『隕星』は魔力を注ぎ込めば込む程に、その隕石が大きくなる。つまり、レベル五十を超えるデムレイさんであれば、


 ゴゴゴゴゴゴ……ッッ!!


 直上の空間が渦を巻いて歪み、その中から直径十メートルは軽く超える小天体が姿を現し、流石のシンヒラーもその顔を歪めた。が、重力と拘束魔法で動きを封じられたシンヒラーに逃げる手立てなどあるはずもなく、小天体の直撃によって、シンヒラーがいた場所は、轟音とともに高い天井に届く程の大量の土砂を巻き上げ、そして重力によって地に、巻き上げられた土砂が落ちてくる。それを武田さんのヒカルが結界を張って受け止める。それを確認して、俺は『時間操作』タイプAを解除した。


「くはあ、悪いが俺はもう魔力ゼロだからな。これでシンヒラーが生きていたら、お前らで対処してくれ」


 とへたれ込むデムレイさん。流石にあの規模のスキルをバンバン放つのは無理だろう。


「これはやったんじゃないか?」


 ヒカルの結界で土砂の直撃を免れた俺たちは、フロアの半分を形成するに至ったクレーターの中心に埋まる隕石を見ながら、武田さんのそんな言葉をバックに、事の動向に身構えていた。が、これでどうにかなる程、甘くはなかったようだ。


 隕石のすぐ横に現れたのは魔法陣。


「ダイザーロくん」


「はい」


 言わずもがなとダイザーロくんが魔法陣にブリッツクリークのレールガンを撃ち込むも、そこから出てきた腕が、剣で弾丸を弾き飛ばした。マジかよー。と事の成り行きを見守れば、出てきたのは六本の腕を持った骸骨だった。あれが武田さんの言っていた中ボスだろう。そしてその中ボスが、手に持つ一本の剣で横の隕石を斬り崩すと、その中から、腕も足も使いものにならなくなった、満身創痍と言った感じのシンヒラーが現れた。だが消滅していないと言う事は、倒し切れなかったと言う事だろう。


 だがどうするか? ここで一気に攻勢に出るべきか? と逡巡していると、


「早く攻撃しなさい!」


 とその場にバヨネッタさんの声が響く。それによって弾かれるように二体のボスに全員が攻撃を撃ち込む。銃弾が、魔法が、熱光線が、二体のボスがいた場所に降り注ぎ、巻き上げられた土煙によって二体の姿が見えなくなったところで、その攻撃が止まり、土煙が引くのを待ち構えてる。


 しかして土煙が引いたその場所に、シンヒラーも中ボスもおらず、


「ふはははははは! 楽しいじゃねえか! やっぱり戦いは楽しくなくちゃなあ!」


 とクレーターから離れたところで声を上げるシンヒラーの姿があった。だがそれは今までのシンヒラーと少し違い、自身の使いものにならなくなった手足の代わりに、骨で出来た六つの腕と二つの足を備えていた。


「大ボスと中ボスで合体とかマジかよー」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...