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国宝級

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「光の剣、ですか」


 俺の後ろで倒れる金属ゴーレムなど目もくれず、俺の視線は武田さんが持つ光の剣に釘付けだった。


「まあ、そうだな」


 そんな、あっさりと言うなあ。嬉しくないのかな? 光の剣と言えば、男子の夢じゃないですか。


「結構な斬れ味のようね?」


 ゴーレムが武田さんによって倒された事で、バヨネッタさんたちがゆっくりと近付いてきて、光の剣に付いて触れる。


「まあな。これには苦渋を舐めさせられたからな」


「苦渋、ですか?」


 首を傾げる俺に、武田さんが教えてくれた。


「今後、大ボスにこれを使ってくる奴が現れるんだよ。これが厄介なんだ」


 成程。それは面倒そうだな。


「グラシーは倒したそいつからこの剣を接収して、喜々として使っていたけどな」


 グラシー? 誰それ? と俺がバヨネッタさんたちの方を見遣ると、


「勇者セクシーマン一行の一人よ。聖騎士グラシー。確かその光の剣ってモーハルドの国宝じゃなかったかしら」


「ああ、あっちはな。これは劣化版みたいだ」


 それでも強そうだ。武田さんは前世で化神族のオルガンを使っていたって話だし、聖騎士が光の剣か。見てみたいけど、大ボスが使ってくるのか。


「まあ、鎧のミノタウロスなんかの、対魔鋼を装備している魔物には通用しないけどな」


 ああ、それで反応が微妙なのか。確かに対魔鋼とは相性悪そうだ。


「でもこれで、今まで戦闘力がなかった武田さんも、ついに戦闘力を手に入れましたね」


「工藤、嫌な事言うな」


 目をすがめて睨まれても、事実ですし。



 それからは武田さんの独壇場だった。武田さんが持つ『空識』と『転置』は光の剣と相性が良かったのだ。更にヒカル、片眼鏡を合体させた眼鏡と、空間と時間を完全に掌握した武田さんの前に、敵などいなかった。


 そこら辺をうろつくアンデッドな魔物たちなら、その辺の石ころと『転置』で場所を入れ替えて、目の前に現れたところを一薙ぎして終わり。更にその死体? で『転置』させてどんどん魔物を狩っていく。


 中ボスとして現れた蛇の尾を持つライオンのキメラにしても、ヒカルと連携し、場所を入れ替えつつ、危なげなくその首を斬り落としてみせたのだった。俺は改めてこの人が勇者だったと認識させられた。


 なので地下五十二階の鍵穴三つの宝箱を守るリビングメイルも任せようとしたのだが、


 キンッ!


 と言う軽い音で光の剣が霧散した。


「対魔鋼か! バヨネッタ!」


「人を便利屋扱いしないで欲しいわね」


 言いながら、バヨネッタさんはリビングメイルの上に巨大な黄金の重石を生み出してみせる。が、それに反応して回避しようとするリビングメイル。


「甘いな」


「させないよ」


 デムレイさんは『岩鎧』で、俺は『五閘拳・土拳』で、リビングメイルの周囲に壁を作り出して動きを封じる。そこへ落ちてくるバヨネッタさんの黄金の重石。


 ドガシャンッ!


 と金属が潰れる音とともに、リビングメイルだったものが残った。それを『空間庫』に回収する。


「どうやら対魔鋼って、魔法を反射する性能は高いけど、柔らかい金属みたいですね」


「そうね。ベイビードゥなんかも鎧に使っていなかったし、合金として使うのが良いのかも知れないわね」


「そうなると性能が落ちないか?」


 とデムレイさんが話に入ってきた。


「遠距離からの魔法攻撃に対する防御壁なんかには良いんじゃないですかね?」


「それ、対魔鋼がどれだけ必要になってくるんだよ」


「あはは、確かに。それにしても、光の剣を手に入れたばかりで、対魔鋼のリビングメイルをぶつけてくるとか、嫌な事してきますねえ」


「このダンジョンが嫌らしくなかった事の方が少ないぞ」


 それもそうか。とデムレイさんに頷き返す。


「ダイザーロくん、中身は何だった?」


 今回鍵穴三つの宝箱を開ける権利を得たのはダイザーロくんだった。その中身が気になって問い掛ける。


「イヤリングですね」


 と渡して見せてくれたのは、片耳用のイヤリングだった。


能力向上のイヤリング:MPを注ぐ事で、MP以外のステータスを向上させる。


「へえ、ステータスを全体的にアップさせる魔道具か。普通に良いやつが出たね」


「やっぱりダイザーロはリアルラックが良いよな」


 と武田さんも羨ましそうだ。まあ確かに、ダイザーロくんって、ステータスの幸運値が俺に次いで高いんだよねえ。レベルの事を考えると、異様に高いと言える。それに俺は『英雄運』のせいで幸運値が高いと言っても、決して良い事ではないしなあ。


「ダイザーロくんって別に、ギフトを持っている訳でもないんですよねえ」


「そうだな。でもたまにいるんだよ。一つのステータスが異様に高いやつ。バヨネッタは魔力量が異様に多いしな」


 そうか。確かに何かに特化している人って、地球にもいるもんな。ダイザーロくんもそんな感じの人なのか。などと俺はダイザーロくんが渡してくれたイヤリングをもてあそんでいた。その形は、耳に挟む部分の下に、円筒形の飾りが付いている。


「ん?」


「どうかしたんですか?」


「ちょっとね」


 俺はその形が気になって、円筒形の飾りの部分をいじくり回してみた。すると、ぱかりとフタが外れて、中からもう一回り小さい、親指の先程の大きさの円筒形のものが出てきた。


「ちょっ!? ハルアキ様!?」


「これって……」


「人工坩堝ね」


 俺の驚きの声に答えてくれたのはバヨネッタさんだ。


「人工坩堝!? これがですか!?」


 バヨネッタさんの発言に、ダイザーロくんたちが驚いている。


「ええ。あなたたちが持っている武器の人工坩堝は、ゴルードが造ったものだから、驚きでしょうけど、私とハルアキは、前にシンヤが持っている霊王剣の人工坩堝を見た事があるから知っているのよ。古代文明期の人工坩堝は、それだけ小さいの。ゴルードでもまだ完全には再現出来ないのよ」


 ダイザーロくん的には、開いた口が塞がらないって感じだな。


「まあ、古代文明の人工坩堝は一つでも貴重だから、大事にすると良いかも? 確かパジャンのラシンシャ天が持っている護剣カスタレって短剣が、同じく人工坩堝が一つ付いている武器だから」


「それ、国宝級って事ですよね?」


「そうなるかな」


 言いながら俺はフタを閉じて、ダイザーロくんにしっかり握らせる。滅茶苦茶震えているな。


「あまり気にしないで良いわよ。ダンジョンを半分も行かずにこのレベルの代物が出てきたって事は、今後も出てくる可能性が高いって事だから」


 言いながらバヨネッタさんの視線は武田さんの光の剣に向けられていた。成程、あの光の剣にも人工坩堝が使われている可能性は高いか。その視線に気付いた武田さんが、自ら剣をいじくり回す。


「お、開いた。確かに俺の剣にも人工坩堝が入れられているな。と言うか、容量的にもういくつか入りそうだ」


「へえ、バージョンアップするタイプなんですね」


「まあ、いくらバージョンアップしても対魔鋼に弾かれるし、バージョンアップする程、魔力の消費量も増えるから、レベルの低い俺には扱いが難しいけどな」


 とから笑いする武田さんに、俺もから笑いで返すしかなかった。

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