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互いに名乗りを
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「ふう」
地下九階フロアを攻略し終え、俺たちは現在地下十階へ向かう階段を下りているところだ。
「…………」
「…………」
バヨネッタさんとデムレイさんが無言なので、自然と全員無言となり、パーティの雰囲気が重い。これはここまで来るのに、取り逃がした宝箱がいくつかあるからだ。そのせいで二人が不機嫌になっている。
「さあさあ、気持ちを切り替えていきましょう」
「…………」
俺が場を盛り立てようとして、バヨネッタさんに睨まれてしまった。
「ハルアキはお気楽ね」
気楽なつもりはないんですけど。
「もしかしたら、取り逃がした宝箱に、レアな物が入っていたかも知れないのよ?」
それはそうかも知れないですけど、そんな文句を俺に言われてもな。
「バヨネッタはまだ良い。ここは自国領なのだ。いつだって来られるだろう。しかし俺はこの国の人間じゃないんだ。アルティニン廟のダンジョン攻略の申請を出して、そう易々と通してはくれないのだろう?」
デムレイさんが恨みがましく俺を見てくる。だが確かに、前回のベイビードゥのような可能性を考えると、このアルティニン廟の入り口を、簡単に開けさせる訳にはいかない。開け閉めにもアルミラージや金毛の角ウサギが必要なのだ。
「…………自前でアルミラージと金毛の角ウサギの両方を用意してきてくだされば、探索許可を出しても良いですけど」
「アルミラージはともかく、金毛の角ウサギは相当な難易度のミッションなのだが?」
「それはこのアルティニン廟内部も、変わらないと思いますけど?」
俺の言に閉口するデムレイさん。武田さんの話では、このアルティニン廟は、難易度の高いフロアもあれば低いフロアもある。との話だったのだが、どうにも俺たちの遭遇するフロアは難易度が高いものが多く、低いフロアは、ここまでで四階層だけだった。
「ついてないですよね」
とカッテナさんが呟けば、全員の視線が俺に向く。ほう? それは俺の『英雄運』のせいだと言いたい訳ですかな? でも俺自身、悪い方にと言うか、面倒臭い方に運が傾いている気はするので、反論はしない。
「そろそろ次のフロアですね~」
などとわざとらしく痛い視線を受け流しながら、階段を下る足が止まった。ドッと悪寒が全身を走り、汗が吹き出る。ゆっくり皆の方を振り返ると、皆も同じような感じだった。唾を飲み下し、
「次の階、絶対にボスがいますね。気を引き締めていきましょう」
自分に言い聞かせるような俺の言葉に、全員が頷き、一步一步ゆっくりと階段を下りていく。そうして着いた地下十階フロアは、どこまでも広い空間だった。恐らくスタジアムが十個は入るくらいは広い。その広い空間の中央に、巨大な戦鎚を担いだ緑髪の女戦士が立っていた。
「エルデタータだ」
武田さん曰く、それがあのボス魔物の名前であるらしい。
「順当に来たか」
「順当、ですか?」
と言う事は、あの女戦士が一番弱いボスと言う事になるが、いや、まとっている闘気とか、明らかにベイビードゥよりも上なんですけど? と言うか全員でかかっても勝てる気がしないんですけど?
「下手にこちらから攻撃を仕掛けるなよ。あいつは『反撃』が使えるからな」
キーライフルで今にもエルデタータを攻撃しようとしていたバヨネッタさんを、武田さんが牽制した。これにバヨネッタさんは不服そうな顔をしながらも、キーライフルでの遠距離射撃は取り止める。
「あのレベルで『反撃』とか使われたら、こっちが全滅なんですけど」
『反撃』って、ようするにカウンターだからなあ。倍返しだよねえ。いや、認識されなければカウンター取れないんだっけ? まあ、あのレベルじゃどんな攻撃も『反撃』で返してくるか。
「ああ、しかもエルデタータはベイビードゥと違って礼節を重んじるタイプだ。名乗りもせずに陰から攻撃なんて事をすると、怒りで攻撃力が上昇するタイプなんだ」
うへえ。これはバヨネッタさんが攻撃しないでくれて助かったな。武田さん止めてくれてありがとう。
「じゃあ、まずはあいさつからですか?」
「ああ、そうすればこちらにも勝機が見えてくる」
勝機が? あいさつしただけで弱くなるタイプなのか? 何それ?
何であれ、俺たちは下手にエルデタータを刺激しないようにしながら、その女戦士の元まで歩いていった。近付くと分かるが、身体が若干透けている。怨霊とか亡霊の類の魔物らしい。そして何より魔王クラスの闘気をまとっている。いや、魔王なんて目じゃないぞ。『反撃』がなくても勝てるイメージが湧かない。
「来たか」
エルデタータが担いでいた戦鎚を床に置くと、ドスンッ!! とこの広いフロア全体が揺れる程の振動が起きた。あんなの食らったら、ぺちゃんこなんてレベルじゃない。五体四散で肉も骨も残らなそうだ。
「ふむ。ベイビードゥの与太話かと思っていたが、事実であったか」
とエルデタータが、俺たちの後方に控える武田さんを見遣る。
「そっちも復活していたとは思わなかったよ」
「ダンジョンだからな。何が起きても不思議はあるまい」
武田さんの返答に、腕を組んで微苦笑を浮かべるエルデタータ。
「あいさつが大事とか言って、二人だけで話を進めるつもり?」
そこに割って入れるバヨネッタさんの心の強さよ。眼前のエルデタータは、確実にバヨネッタさんさえ瞬殺出来る強さだと、肌で感じられるだろうに。
「そうであったな。戦士たるもの。まずは名乗りを上げる事から始めねば」
とエルデタータは足を肩幅まで開いて両手を腰に当て、このフロア中に響き渡る程の大声で名乗りを上げたのだ。
「我が名はエルデタータ! このアルティニンを踏破せんとする外敵より、それを死守するよう創造主より仰せつかった五体の兵のうちが一体である! さあ! いざ、尋常に私と戦え!」
あまりの大声で耳がキーンとなる。思わず耳を塞いでしまった。そしてその後に訪れる何とも形容し難い静寂。
「ええ~、そちらにこちらが名乗らないのは無礼と言うものですね」
俺が居住まいを正して深く一礼すると、エルデタータもちゃんとお辞儀で返してくれた。うん? これから戦うんだよね? まあ良い。
「私の名はハルアキと申します。最近になりましてこのアルティニン廟の上に出来ました新興国、バヨネッタ天魔国で首席宰相をさせて頂いているものです」
「ふむ。上の国は変わったのか」
「はい。そして私の横にいらっしゃるのが、その天魔国の長を務められておられる、バヨネッタ天魔陛下であらせられます」
「ほう? 国の長が自らここへ乗り込んで来た訳か」
「そうよ。私からしたらむしろこっちがメイン。国造りなんてその過程よ」
本当にそうなんだよなあ。
「ふふ。嫌いじゃないぞ、その行動力」
エルデタータ的にはありなんだ。
「続きまして、こちらにおられるのが、デウサリウス教の元教皇にして現枢機卿であらせられます、ミカリー卿です」
「ほっほう! 今度は宗教のトップか! 面白い! そして強そうだな!」
受けが良いな。
「そしてカヌス氏のダンジョンを含め、数々のダンジョンや遺跡を踏破してきました、遺跡ハンターをされているデムレイ氏」
「ふ~ん、創造主様の別のダンジョンをねえ?」
やはりエルデタータの言う創造主は、カヌスの事だったのか。
「セクシーマンの事はご存知でしょうから、あと二人、バヨネッタ陛下と私の従者となります、カッテナとダイザーロです」
俺の紹介に頭を下げるカッテナさんとダイザーロくん。
「この七名にて、挑ませて頂きたく存じます」
俺が再び深く一礼し、顔を上げると、エルデタータをすぐにでも戦おうと、満面の笑みを浮かべていた。
「そうだな。では、始めるか!」
と戦鎚を担ぎ直したエルデタータは、何と七人に分裂したのだった。
地下九階フロアを攻略し終え、俺たちは現在地下十階へ向かう階段を下りているところだ。
「…………」
「…………」
バヨネッタさんとデムレイさんが無言なので、自然と全員無言となり、パーティの雰囲気が重い。これはここまで来るのに、取り逃がした宝箱がいくつかあるからだ。そのせいで二人が不機嫌になっている。
「さあさあ、気持ちを切り替えていきましょう」
「…………」
俺が場を盛り立てようとして、バヨネッタさんに睨まれてしまった。
「ハルアキはお気楽ね」
気楽なつもりはないんですけど。
「もしかしたら、取り逃がした宝箱に、レアな物が入っていたかも知れないのよ?」
それはそうかも知れないですけど、そんな文句を俺に言われてもな。
「バヨネッタはまだ良い。ここは自国領なのだ。いつだって来られるだろう。しかし俺はこの国の人間じゃないんだ。アルティニン廟のダンジョン攻略の申請を出して、そう易々と通してはくれないのだろう?」
デムレイさんが恨みがましく俺を見てくる。だが確かに、前回のベイビードゥのような可能性を考えると、このアルティニン廟の入り口を、簡単に開けさせる訳にはいかない。開け閉めにもアルミラージや金毛の角ウサギが必要なのだ。
「…………自前でアルミラージと金毛の角ウサギの両方を用意してきてくだされば、探索許可を出しても良いですけど」
「アルミラージはともかく、金毛の角ウサギは相当な難易度のミッションなのだが?」
「それはこのアルティニン廟内部も、変わらないと思いますけど?」
俺の言に閉口するデムレイさん。武田さんの話では、このアルティニン廟は、難易度の高いフロアもあれば低いフロアもある。との話だったのだが、どうにも俺たちの遭遇するフロアは難易度が高いものが多く、低いフロアは、ここまでで四階層だけだった。
「ついてないですよね」
とカッテナさんが呟けば、全員の視線が俺に向く。ほう? それは俺の『英雄運』のせいだと言いたい訳ですかな? でも俺自身、悪い方にと言うか、面倒臭い方に運が傾いている気はするので、反論はしない。
「そろそろ次のフロアですね~」
などとわざとらしく痛い視線を受け流しながら、階段を下る足が止まった。ドッと悪寒が全身を走り、汗が吹き出る。ゆっくり皆の方を振り返ると、皆も同じような感じだった。唾を飲み下し、
「次の階、絶対にボスがいますね。気を引き締めていきましょう」
自分に言い聞かせるような俺の言葉に、全員が頷き、一步一步ゆっくりと階段を下りていく。そうして着いた地下十階フロアは、どこまでも広い空間だった。恐らくスタジアムが十個は入るくらいは広い。その広い空間の中央に、巨大な戦鎚を担いだ緑髪の女戦士が立っていた。
「エルデタータだ」
武田さん曰く、それがあのボス魔物の名前であるらしい。
「順当に来たか」
「順当、ですか?」
と言う事は、あの女戦士が一番弱いボスと言う事になるが、いや、まとっている闘気とか、明らかにベイビードゥよりも上なんですけど? と言うか全員でかかっても勝てる気がしないんですけど?
「下手にこちらから攻撃を仕掛けるなよ。あいつは『反撃』が使えるからな」
キーライフルで今にもエルデタータを攻撃しようとしていたバヨネッタさんを、武田さんが牽制した。これにバヨネッタさんは不服そうな顔をしながらも、キーライフルでの遠距離射撃は取り止める。
「あのレベルで『反撃』とか使われたら、こっちが全滅なんですけど」
『反撃』って、ようするにカウンターだからなあ。倍返しだよねえ。いや、認識されなければカウンター取れないんだっけ? まあ、あのレベルじゃどんな攻撃も『反撃』で返してくるか。
「ああ、しかもエルデタータはベイビードゥと違って礼節を重んじるタイプだ。名乗りもせずに陰から攻撃なんて事をすると、怒りで攻撃力が上昇するタイプなんだ」
うへえ。これはバヨネッタさんが攻撃しないでくれて助かったな。武田さん止めてくれてありがとう。
「じゃあ、まずはあいさつからですか?」
「ああ、そうすればこちらにも勝機が見えてくる」
勝機が? あいさつしただけで弱くなるタイプなのか? 何それ?
何であれ、俺たちは下手にエルデタータを刺激しないようにしながら、その女戦士の元まで歩いていった。近付くと分かるが、身体が若干透けている。怨霊とか亡霊の類の魔物らしい。そして何より魔王クラスの闘気をまとっている。いや、魔王なんて目じゃないぞ。『反撃』がなくても勝てるイメージが湧かない。
「来たか」
エルデタータが担いでいた戦鎚を床に置くと、ドスンッ!! とこの広いフロア全体が揺れる程の振動が起きた。あんなの食らったら、ぺちゃんこなんてレベルじゃない。五体四散で肉も骨も残らなそうだ。
「ふむ。ベイビードゥの与太話かと思っていたが、事実であったか」
とエルデタータが、俺たちの後方に控える武田さんを見遣る。
「そっちも復活していたとは思わなかったよ」
「ダンジョンだからな。何が起きても不思議はあるまい」
武田さんの返答に、腕を組んで微苦笑を浮かべるエルデタータ。
「あいさつが大事とか言って、二人だけで話を進めるつもり?」
そこに割って入れるバヨネッタさんの心の強さよ。眼前のエルデタータは、確実にバヨネッタさんさえ瞬殺出来る強さだと、肌で感じられるだろうに。
「そうであったな。戦士たるもの。まずは名乗りを上げる事から始めねば」
とエルデタータは足を肩幅まで開いて両手を腰に当て、このフロア中に響き渡る程の大声で名乗りを上げたのだ。
「我が名はエルデタータ! このアルティニンを踏破せんとする外敵より、それを死守するよう創造主より仰せつかった五体の兵のうちが一体である! さあ! いざ、尋常に私と戦え!」
あまりの大声で耳がキーンとなる。思わず耳を塞いでしまった。そしてその後に訪れる何とも形容し難い静寂。
「ええ~、そちらにこちらが名乗らないのは無礼と言うものですね」
俺が居住まいを正して深く一礼すると、エルデタータもちゃんとお辞儀で返してくれた。うん? これから戦うんだよね? まあ良い。
「私の名はハルアキと申します。最近になりましてこのアルティニン廟の上に出来ました新興国、バヨネッタ天魔国で首席宰相をさせて頂いているものです」
「ふむ。上の国は変わったのか」
「はい。そして私の横にいらっしゃるのが、その天魔国の長を務められておられる、バヨネッタ天魔陛下であらせられます」
「ほう? 国の長が自らここへ乗り込んで来た訳か」
「そうよ。私からしたらむしろこっちがメイン。国造りなんてその過程よ」
本当にそうなんだよなあ。
「ふふ。嫌いじゃないぞ、その行動力」
エルデタータ的にはありなんだ。
「続きまして、こちらにおられるのが、デウサリウス教の元教皇にして現枢機卿であらせられます、ミカリー卿です」
「ほっほう! 今度は宗教のトップか! 面白い! そして強そうだな!」
受けが良いな。
「そしてカヌス氏のダンジョンを含め、数々のダンジョンや遺跡を踏破してきました、遺跡ハンターをされているデムレイ氏」
「ふ~ん、創造主様の別のダンジョンをねえ?」
やはりエルデタータの言う創造主は、カヌスの事だったのか。
「セクシーマンの事はご存知でしょうから、あと二人、バヨネッタ陛下と私の従者となります、カッテナとダイザーロです」
俺の紹介に頭を下げるカッテナさんとダイザーロくん。
「この七名にて、挑ませて頂きたく存じます」
俺が再び深く一礼し、顔を上げると、エルデタータをすぐにでも戦おうと、満面の笑みを浮かべていた。
「そうだな。では、始めるか!」
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