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王国一つになる

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「もう、放っておけないんですか、それ?」


 俺の願いを武田さんが苦い顔で噛み潰す。


「俺たちがアルミラージで竜の口を開いた後、どこがその口を閉めるんだ?」


 そう言う話になるのか。


「俺たちが中から閉めれば良くないですか? 俺の転移門もありますし」


「ハルアキ、何で俺が『転置』でアルティニン廟の中に転移していないか、考えていないのか?」


 ああ、成程。一度入ったら出入り口からしか出られない訳か。


「それなら、一気に地下界まで駆け抜けましょう! 地下界なら俺の転移門を使えますよね? 最初から地下界に『超空間転移』で転移門を設置する計画ですし」


 俺のやる気に対して、遠い目をする武田さん。


「おれが挑戦した時は、地下界まで下りるのに、十回以上掛かったなあ」


「十回以上、ですか?」


「大丈夫だ。ペッグ回廊と同じで、途中にワープポイントがあるから、それでショートカット出来る」


 そう言われてもなあ。


「コルト王家じゃ駄目なんですよねえ?」


 アルティニン廟があるのはコルト王家の領地だ。なら金毛の角ウサギをコルト王家が保管していても不思議じゃない。


「今回、ビチューレの九王家全てがウサギ肉を提供して、協力してくれたからねえ。それにもしもコルト王家だけに金毛の角ウサギを渡していたら、それこそビチューレで戦争の火種となっていたかも知れない」


 とミカリー卿の言。


「モーハルドやオヨボ族に渡しても、そうなりますかね?」


 首肯で返された。となるとクドウ商会で保管するのも日本とビチューレで軋轢を生みそうだ。


「確かビチューレって、王たちによる合議制ですよね?」


「ハーナ王家領の宮殿で今やっている最中だよ」


 はあ。ビチューレにとって金毛の角ウサギは王家の象徴だ。それを一王家が独占するとなると、王家の正統性の証明になりかねない。たとえそれが二千年以上前のウサギ肉でないとしても。


「全く、腹立たしい」


 俺たちが顔を突き合わせて、どうするべきかと悩んでいたところ、バヨネッタさんの通る声がそれを中断させる。そして全員の耳目がバヨネッタさんに注がれた。


「行くわよ、ハルアキ」


「え? あ、はい?」


 外へ出ていくバヨネッタさんに、訳が分からず付いて行く俺。と言うか皆。外に出れば、そこはハーナ王家の宮殿前であった。どうやら合議の決定が下ればすぐに動けるように、ここで待機していたらしい。そんな中、バヨネッタさんはまるで我が家であるかのように、ズンズンと宮殿の中へと進んでいく。宮殿にそれを止める者はいない。バヨネッタさんがデウサリウス教の使徒だからだ。



 バンッ!


 勢い良く開かれた扉に、合議の行われていた議場の注目はこちらへ向けられた。九人の王様が円卓を囲み、その右腕であろう大臣? 宰相かな? そんな感じの人たちがその後ろに座っている。


「待ちくたびれたわ」


 バヨネッタさんの言に、コルト王家のチーク王やハーナ王家のビクチュ王、それに他の王家の王様たちが申し訳なさそうに頭を下げる。


「申し訳ありません、使徒様。王家として正統性があり、金毛の角ウサギを持つに足るのは、第一王位継承権を持っていた、我がハーナ王家であります。それだと言うのに、他の者たちが口出しを……」


「何を言っている。第一であったのは親であろう。その前に親が死に、第一継承権は我が王家に移ったのだ」


 と知らない王様が口を挟んできた。


「簒奪と言うのが正しいのではなくて?」


「そもそも第一、第二継承者ともに、継承者として優秀であったとは言えぬ。天よりギフトを与えられ、民草とともに生きる道を選んだ、我が王家こそが……」


「馬鹿な。先王が逝去なされた時、軍を率いて隣国よりの侵攻を食い止めた我が王家こそが……」


 はあ。これじゃあ合議と言うより罵り合いだ。


「黙りなさい!!」


 バヨネッタさんが怒声を発すれば、一瞬で静まり返る議場。まるで親に怒られた子供だな。


「ギャアギャア煩いのよ! そんなに自分たちの血筋を正当化させたいなら、今から自らの手で角ウサギを討ってきなさい!」


 反論する者はいない。それはそうですよねえ。前王家が分裂してから五十年経っているんだから、その間に何かまとめる方向で話し合い出来なかったのかねえ? 親族間で政略結婚とか? 駄目か?


「さて、ではあなたたちに問うわ。金毛の角ウサギを持つ者が、ビチューレにおいて王であるのよね?」


 そうですよねえ、バヨネッタさん。…………バヨネッタさん!? 俺が横のバヨネッタさんを見遣ると、不敵に口角を上げており、それを見た各王家の王様たちは顔を青くしている。え? マジで? 本気?


「だったら私が王よ! 今日から私がビチューレの王、いえ、バヨネッタ王国の初代王となるわ!」


「はあああっ!?」


 驚きで裏返った声を発したのは俺だけじゃない。そのばにいた全員が同じように声を発していた。


「いや、それは……」


「文句があるなら、今ここで私を討ち倒して金毛の角ウサギを取り上げれば良いわ」


 ハーナ王家のビクチュ王が何か言おうとしたところで、バヨネッタさんは無理矢理黙らせた。だって無理だもん。バヨネッタさんは曲がりなりにもデウサリウス教の使徒なのだ。しかも天使が使徒と任じたのだ。その使徒を殺したとなれば、世界中のデウサリウス教徒を敵に回す事になる。そんな事出来る訳ない。


「あの、バヨネッタさん」


「何?」


「王様がどんな事をする職業なのか、分かって発言したんですよね?」


「ふんぞり返っていれば良いんでしょう。後は従僕、いえ、首席宰相であるあなたが運営しなさい」


 うそん。俺が首相? 国の運営なんてした事なければ、出来るとも思えないんですけど?

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