475 / 625
BBQ
しおりを挟む
なんか、がっつりBBQしているな。竜の口先でBBQセットを『空間庫』から取り出したデムレイさんは、当たり前のように肉を俺たちに振る舞い始めた。
「変わらないわねえ」
としみじみ口にするバヨネッタさん。
「こうやって同じ飯を喰らえば、仲間との親睦も深まるってもんだ」
網の上で焼き上がった分厚い肉を、デムレイさんはひょいひょいと皆の皿に置いていく。それをカッテナさんとダイザーロさんが手伝っている。ダイザーロさんは大きな肉の塊を切り分け、カッテナさんは付け合わせの担当だ。俺も手伝おうとしたのだが、二人に「使徒様にさせられません」と止められてしまった。
カッテナさんが今作っているのは、先の宮殿でバヨネッタさんが喜んで食べていた野菜とチーズのカプレーゼだ。出来上がったら、椅子とテーブルを出してのんびりしているバヨネッタさんのテーブルに置く。
「野菜のチーズ挟みか。美味いよな」
ちらりとバヨネッタさんに目をやるデムレイさんだったが、火の番をしているので食べる暇がないのだ。仕方ないので、俺はカッテナさんに渡されたカプレーゼを持ってデムレイさんに近付き、今まさに肉を焼いているデムレイさんに食べさせてあげた。
「う~ん! やっぱりビチューレ水牛のチーズは最高だな!」
喜ぶデムレイさんだったが、それにしても水牛か。確かモッツァレラチーズも水牛の乳から作られていたはず。食べた感想がモッツァレラに近くなるのも道理か。
「宮殿でも出されましたし、ここら辺は水牛の飼育が盛んなんですか?」
「まあな。川ばかりの場所だからな。牛よりも水牛の方が圧倒的に多いよ。食べるだけでなく、水麦とか野菜を育てるとかの為に、農耕用にも使うしな」
成程なあ。
「そうだ」
と俺は『空間庫』からアルミホイルを取り出すと皿の形に成形し、それをBBQセットの端に置かせて貰う。その中にビチューレ水牛のフレッシュチーズと牛乳、バターを入れてちょっと混ぜれば完成。簡単チーズソース。
「良いなそれ!」
「でしょう?」
家族キャンプの時に良く作っていたんだよねえ。などと思い出しながら、俺は完成したチーズソースを肉に掛けて皆に渡していく。「美味い美味い」と食べてくれるのは嬉しい事だ。
皆の喜ぶ姿にこちらまで喜んでいたら、何やら視線を感じる。その方を向けば、竜と目があった。あれ? アルティニン廟の竜って、こっちを見ていたっけ? まあでも、まな板の上で死んだ魚と目が合うようなものか。と気にせずチーズソース掛けの肉を持って自分の席に戻ろうとして、俺はやはり自分が竜に視線を向けられているのを感じるのだった。
「武田さん、あの竜って」
俺は横の武田さんに耳打ちするが、武田さんは何とも微妙な顔だ。
「工藤が何を言いたいのかは分かる。が、あの竜の腹の中が、地下界に繋がっているのも事実なんだよ」
「それって、俺たちあの竜の口を開けられたとして、尻の穴から出ていくんですか?」
それを聞いて吹き出す武田さん。
「汚いわね、タケダ」
俺の発言のせいで、武田さんがバヨネッタさんに怒られてしまった。
「違うんですよ、バヨネッタさん。俺が、竜の口から入ったら、出口はどこなんだろうって……」
「…………」
うわあ、皆から露骨に嫌な顔をされちゃったよ。確かにこれは飯時にする話じゃあなかったな。
「大丈夫だ、工藤。向こうの出口も竜の口だったからな」
と武田さんの口から聞いて、全員がホッとしていた。流石に肛門から出るのは気持ち的に頂けない。
「いきなり飯が不味くなるような話をするなよなあ」
デムレイさんに咎められてしまった。
「すみません。この竜と目が合ってしまったもので」
「ああ。この竜が生きている。って話か」
「え!? この竜、生きているんですか!?」
カッテナさんは驚いて包丁を落としてしまった。
「多分な。伝承を調べた感じだと、あの要塞設計士カヌスの最後の作品であるらしい」
「嘘でしょう!? カヌスの最後の作品は、空中鯨艦『天獄のキョウハ』のはずよ」
デムレイさんの話に驚くバヨネッタさん。カヌスの事は覚えている。稀代のダンジョンメイカーと言われる要塞設計士で、オルドランドでは移動要塞『幻惑のカイカイ虫』や、首都の不沈要塞『無窮の逆さ亀サリィ』を造った人だ。
「今までの定説だな。だが歴史の探求をしていれば、その定説がひっくり返る事なんてザラだろう?」
そうデムレイさんは腰に手を当てにやりと笑う。対するバヨネッタさんは悔しいのか拗ねているのか首を横に向けてしまった。
「じゃあ、このアルティニン廟は、カヌスの設計したダンジョンなんですね?」
「そうだ。正式名称を不抜隧塔『貪食の双頭竜アルティニン』と言う」
双頭竜が地上から地下界まで貫いて埋まっているのか。しかし、
「アルティニンはそのままなんですね」
「サリィだって後世の人間が付けた名前だ。アルティニンもそうだろうな。カヌスの作品には、こう言った俗名が付いているものといないものがあるんだよ」
成程なあ。
「で、あれは生き物と見て良いんですかねえ?」
そこでバヨネッタさんもデムレイさんも武田さんの方を見遣る。
「そうだなあ。人が作り出した化け物を、生物と言うのか。言うならばどこからを生物とするのかは微妙なところだな。工藤の腹の中にいる化神族だって、生物かと言われれば微妙だろ?」
確かに。
『失敬な。我は生きているぞ』
まあまあ。ここら辺、人によって線引きが難しいところだよなあ。アネカネなんかだと、スキル『生命の声』で、AIでも生命と認識するからなあ。この竜も生命判定しそう。そうか!
「アネカネに頼んで、この竜に口を開けてくれるように頼んで貰うとか?」
「へっ」
バヨネッタさんに鼻で笑われてしまった。
「何千年と職務に忠実な存在が、今更、情で動く訳ないでしょう」
そう言うものかねえ。
「変わらないわねえ」
としみじみ口にするバヨネッタさん。
「こうやって同じ飯を喰らえば、仲間との親睦も深まるってもんだ」
網の上で焼き上がった分厚い肉を、デムレイさんはひょいひょいと皆の皿に置いていく。それをカッテナさんとダイザーロさんが手伝っている。ダイザーロさんは大きな肉の塊を切り分け、カッテナさんは付け合わせの担当だ。俺も手伝おうとしたのだが、二人に「使徒様にさせられません」と止められてしまった。
カッテナさんが今作っているのは、先の宮殿でバヨネッタさんが喜んで食べていた野菜とチーズのカプレーゼだ。出来上がったら、椅子とテーブルを出してのんびりしているバヨネッタさんのテーブルに置く。
「野菜のチーズ挟みか。美味いよな」
ちらりとバヨネッタさんに目をやるデムレイさんだったが、火の番をしているので食べる暇がないのだ。仕方ないので、俺はカッテナさんに渡されたカプレーゼを持ってデムレイさんに近付き、今まさに肉を焼いているデムレイさんに食べさせてあげた。
「う~ん! やっぱりビチューレ水牛のチーズは最高だな!」
喜ぶデムレイさんだったが、それにしても水牛か。確かモッツァレラチーズも水牛の乳から作られていたはず。食べた感想がモッツァレラに近くなるのも道理か。
「宮殿でも出されましたし、ここら辺は水牛の飼育が盛んなんですか?」
「まあな。川ばかりの場所だからな。牛よりも水牛の方が圧倒的に多いよ。食べるだけでなく、水麦とか野菜を育てるとかの為に、農耕用にも使うしな」
成程なあ。
「そうだ」
と俺は『空間庫』からアルミホイルを取り出すと皿の形に成形し、それをBBQセットの端に置かせて貰う。その中にビチューレ水牛のフレッシュチーズと牛乳、バターを入れてちょっと混ぜれば完成。簡単チーズソース。
「良いなそれ!」
「でしょう?」
家族キャンプの時に良く作っていたんだよねえ。などと思い出しながら、俺は完成したチーズソースを肉に掛けて皆に渡していく。「美味い美味い」と食べてくれるのは嬉しい事だ。
皆の喜ぶ姿にこちらまで喜んでいたら、何やら視線を感じる。その方を向けば、竜と目があった。あれ? アルティニン廟の竜って、こっちを見ていたっけ? まあでも、まな板の上で死んだ魚と目が合うようなものか。と気にせずチーズソース掛けの肉を持って自分の席に戻ろうとして、俺はやはり自分が竜に視線を向けられているのを感じるのだった。
「武田さん、あの竜って」
俺は横の武田さんに耳打ちするが、武田さんは何とも微妙な顔だ。
「工藤が何を言いたいのかは分かる。が、あの竜の腹の中が、地下界に繋がっているのも事実なんだよ」
「それって、俺たちあの竜の口を開けられたとして、尻の穴から出ていくんですか?」
それを聞いて吹き出す武田さん。
「汚いわね、タケダ」
俺の発言のせいで、武田さんがバヨネッタさんに怒られてしまった。
「違うんですよ、バヨネッタさん。俺が、竜の口から入ったら、出口はどこなんだろうって……」
「…………」
うわあ、皆から露骨に嫌な顔をされちゃったよ。確かにこれは飯時にする話じゃあなかったな。
「大丈夫だ、工藤。向こうの出口も竜の口だったからな」
と武田さんの口から聞いて、全員がホッとしていた。流石に肛門から出るのは気持ち的に頂けない。
「いきなり飯が不味くなるような話をするなよなあ」
デムレイさんに咎められてしまった。
「すみません。この竜と目が合ってしまったもので」
「ああ。この竜が生きている。って話か」
「え!? この竜、生きているんですか!?」
カッテナさんは驚いて包丁を落としてしまった。
「多分な。伝承を調べた感じだと、あの要塞設計士カヌスの最後の作品であるらしい」
「嘘でしょう!? カヌスの最後の作品は、空中鯨艦『天獄のキョウハ』のはずよ」
デムレイさんの話に驚くバヨネッタさん。カヌスの事は覚えている。稀代のダンジョンメイカーと言われる要塞設計士で、オルドランドでは移動要塞『幻惑のカイカイ虫』や、首都の不沈要塞『無窮の逆さ亀サリィ』を造った人だ。
「今までの定説だな。だが歴史の探求をしていれば、その定説がひっくり返る事なんてザラだろう?」
そうデムレイさんは腰に手を当てにやりと笑う。対するバヨネッタさんは悔しいのか拗ねているのか首を横に向けてしまった。
「じゃあ、このアルティニン廟は、カヌスの設計したダンジョンなんですね?」
「そうだ。正式名称を不抜隧塔『貪食の双頭竜アルティニン』と言う」
双頭竜が地上から地下界まで貫いて埋まっているのか。しかし、
「アルティニンはそのままなんですね」
「サリィだって後世の人間が付けた名前だ。アルティニンもそうだろうな。カヌスの作品には、こう言った俗名が付いているものといないものがあるんだよ」
成程なあ。
「で、あれは生き物と見て良いんですかねえ?」
そこでバヨネッタさんもデムレイさんも武田さんの方を見遣る。
「そうだなあ。人が作り出した化け物を、生物と言うのか。言うならばどこからを生物とするのかは微妙なところだな。工藤の腹の中にいる化神族だって、生物かと言われれば微妙だろ?」
確かに。
『失敬な。我は生きているぞ』
まあまあ。ここら辺、人によって線引きが難しいところだよなあ。アネカネなんかだと、スキル『生命の声』で、AIでも生命と認識するからなあ。この竜も生命判定しそう。そうか!
「アネカネに頼んで、この竜に口を開けてくれるように頼んで貰うとか?」
「へっ」
バヨネッタさんに鼻で笑われてしまった。
「何千年と職務に忠実な存在が、今更、情で動く訳ないでしょう」
そう言うものかねえ。
0
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?
レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。
異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。
隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。
だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。
おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!?
幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する
あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。
俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて
まるでない、凡愚で普通の人種だった。
そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。
だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が
勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。
自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の
関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に
衝撃な展開が舞い込んできた。
そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる