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冒険野郎
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「ようやっと来たか、バヨネッタよう」
アルティニン廟、その竜の口の前で俺たちを待っていたのは、熊のような大男だった。服装から冒険者、いや、冒険野郎と表現した方がしっくりくる。なんかバラエティ番組で芸人が探検家のコスプレをした感じを思い描いてくれれば、その服装も想像付くだろう。髪は緑の雑じった枯葉色で、瞳は深海のように青い。
「久し振りね、デムレイ」
バヨネッタさんが気軽に声を掛けているので、旧知の仲なのだろう。そのデムレイさんは、俺を見付けるなり近寄ってきて、俺の頭に手を置いた。びっくりした。熊に襲われるかと錯覚してしまった。
「お前がハルアキだな?」
「え? はい。何で俺の名前を?」
その圧に負けて思わず素で答えてしまった。
「オルから定期的に手紙と一緒に写真が送られて来るからな。名前と顔だけは嫌でも覚えちまったぜ」
オルさんが定期的に連絡? この人、オルさんとも知り合いなのか? しかし俺は全くこのデムレイと言う人に心当たりがない。俺は助けを求めるようにバヨネッタさんに視線を送ったが、何でちょっと離れた所で、「彼がデムレイよ」みたいな顔をしているんですか? これ、自分で聞かないと解決しないやつだ。
「あのう、すみませんデムレイさん。俺には全く記憶にないのですが? 俺と関係あるんですか?」
俺の質問は酷くデムレイさんを傷付けたらしく、いきなり涙目になった彼は、どう言う事か? とバヨネッタさんを振り返る。
「そう言えば、目的地がこのビチューレのアルティニン廟である事以外、ハルアキに余り説明していなかった気が……」
「バヨネッタよ~。俺とお前の仲だろう? そこはきっちり説明しといてくれよ~」
何とも悲しそうな声を上げるデムレイさんだが、二メートルはあろう大男なので、その所作が似合っていない。人によっては可愛らしく感じるのかも知れないが。
「仕方ないでしょ。こっちも色々大変だったのよ。ハルアキ、ほら、あれよ、クーヨンで話したでしょう?」
とデムレイさんのフォローに回るバヨネッタさん。こんなバヨネッタさんを見るのも珍しい。しかしクーヨンで話? クーヨンではこのビチューレに新たにダンジョンが発見されたから、俺がモーハルドに行くついでに、ビチューレのダンジョンに行こう。って話に……、いや、バヨネッタさんがビチューレに行くついでに、俺がモーハルドに行く事になったんだっけ? とにかく、誰かがビチューレでダンジョンを発見したからってオルさんが……、
「ああ! あの時話題に上がったビチューレで遺跡発掘をしている人!」
「そう! それが俺! デムレイ!」
成程ね。誰かと思っていたけど、すっきりした。そう言えば忍者軍団との戦いの後、パジャンのペッグ回廊に行くか、ビチューレのアルティニン廟に行くかって時にも、少し話に出てきていたっけ。すっかり忘れていたな。
「確かデムレイさんの発掘したダンジョンが、このアルティニン廟だったんですよね?」
「ああ。ビチューレ王朝は五十年前の跡目争いで分裂して、遺跡なんかの管理が疎かになっちまっててな。このアルティニン廟も、俺が見付けるまで鬱蒼とした木々の中に埋もれていたんだぜ?」
へえ。まあ、ウサギの入っていた金器を鋳潰して金印にしてしまったくらいだし、この遺跡ダンジョンに興味なかったんだろうなあ。
「それで中に入れずに、一年以上も私たちの到着を待ち続けていたのよね」
とバヨネッタさんによる補足が入る。
「入れなかったんじゃない。入らなかったんだ。国から許可が下りなかったんだよ」
「真面目ねえ。そんなの気にして入らなかったの?」
確かに。バヨネッタさんなら問答無用でこのダンジョンに突撃していた可能性が高いな。
「入らなかった。と言う事は、このダンジョンに入る算段がもうついているんですか?」
俺の質問に目を逸らすデムレイさん。
「結局、入れなかった。が正しいんじゃない」
「ここの鍵はコルト王家が管理しているとかで、俺にはその鍵を使う許可が下りなかっただけだから」
あはは。
「デムレイさん、それなんですけど……」
俺はデムレイさんに事の経緯を説明した。
「何だそりゃあ!? 結局コルト王家でもビチューレの他の王家でも、この遺跡の口を開けられないって事じゃねえか!」
一年以上待たされて、憤懣やる方ないのも分かる。
「なあ、もうこの口壊して良いよな?」
と竜の口を指差すデムレイさん。この人もバヨネッタさん側の人になのか。
「それをやられると、地下界から地上に魔物が出てきてしまう可能性が高いので、最終手段にして貰えるとありがたいんですが」
「ぐぬぬ。地下界の魔物は強いと、様々な伝承に残っているからな。その悲劇を俺が引き起こす訳にはいかないか」
お。バヨネッタさんよりは話が通じるかも。
「まあ、そう言う事よ」
とデムレイさんをたしなめるバヨネッタさん。どの口が言っているの?
「しかし、それならどうするんだ?」
「まずは情報共有しましょう。この一年でデムレイがこのダンジョン周りを調べて分かった事と、こちらの情報をすり合わせて、そこから答えを導く。今やれるのはこれくらいね」
「成程。となると……」
となると?
「飯だな!」
え? 何で? と言うか俺たちさっき宮殿で王族からご馳走して貰ったばかりなんですが?
アルティニン廟、その竜の口の前で俺たちを待っていたのは、熊のような大男だった。服装から冒険者、いや、冒険野郎と表現した方がしっくりくる。なんかバラエティ番組で芸人が探検家のコスプレをした感じを思い描いてくれれば、その服装も想像付くだろう。髪は緑の雑じった枯葉色で、瞳は深海のように青い。
「久し振りね、デムレイ」
バヨネッタさんが気軽に声を掛けているので、旧知の仲なのだろう。そのデムレイさんは、俺を見付けるなり近寄ってきて、俺の頭に手を置いた。びっくりした。熊に襲われるかと錯覚してしまった。
「お前がハルアキだな?」
「え? はい。何で俺の名前を?」
その圧に負けて思わず素で答えてしまった。
「オルから定期的に手紙と一緒に写真が送られて来るからな。名前と顔だけは嫌でも覚えちまったぜ」
オルさんが定期的に連絡? この人、オルさんとも知り合いなのか? しかし俺は全くこのデムレイと言う人に心当たりがない。俺は助けを求めるようにバヨネッタさんに視線を送ったが、何でちょっと離れた所で、「彼がデムレイよ」みたいな顔をしているんですか? これ、自分で聞かないと解決しないやつだ。
「あのう、すみませんデムレイさん。俺には全く記憶にないのですが? 俺と関係あるんですか?」
俺の質問は酷くデムレイさんを傷付けたらしく、いきなり涙目になった彼は、どう言う事か? とバヨネッタさんを振り返る。
「そう言えば、目的地がこのビチューレのアルティニン廟である事以外、ハルアキに余り説明していなかった気が……」
「バヨネッタよ~。俺とお前の仲だろう? そこはきっちり説明しといてくれよ~」
何とも悲しそうな声を上げるデムレイさんだが、二メートルはあろう大男なので、その所作が似合っていない。人によっては可愛らしく感じるのかも知れないが。
「仕方ないでしょ。こっちも色々大変だったのよ。ハルアキ、ほら、あれよ、クーヨンで話したでしょう?」
とデムレイさんのフォローに回るバヨネッタさん。こんなバヨネッタさんを見るのも珍しい。しかしクーヨンで話? クーヨンではこのビチューレに新たにダンジョンが発見されたから、俺がモーハルドに行くついでに、ビチューレのダンジョンに行こう。って話に……、いや、バヨネッタさんがビチューレに行くついでに、俺がモーハルドに行く事になったんだっけ? とにかく、誰かがビチューレでダンジョンを発見したからってオルさんが……、
「ああ! あの時話題に上がったビチューレで遺跡発掘をしている人!」
「そう! それが俺! デムレイ!」
成程ね。誰かと思っていたけど、すっきりした。そう言えば忍者軍団との戦いの後、パジャンのペッグ回廊に行くか、ビチューレのアルティニン廟に行くかって時にも、少し話に出てきていたっけ。すっかり忘れていたな。
「確かデムレイさんの発掘したダンジョンが、このアルティニン廟だったんですよね?」
「ああ。ビチューレ王朝は五十年前の跡目争いで分裂して、遺跡なんかの管理が疎かになっちまっててな。このアルティニン廟も、俺が見付けるまで鬱蒼とした木々の中に埋もれていたんだぜ?」
へえ。まあ、ウサギの入っていた金器を鋳潰して金印にしてしまったくらいだし、この遺跡ダンジョンに興味なかったんだろうなあ。
「それで中に入れずに、一年以上も私たちの到着を待ち続けていたのよね」
とバヨネッタさんによる補足が入る。
「入れなかったんじゃない。入らなかったんだ。国から許可が下りなかったんだよ」
「真面目ねえ。そんなの気にして入らなかったの?」
確かに。バヨネッタさんなら問答無用でこのダンジョンに突撃していた可能性が高いな。
「入らなかった。と言う事は、このダンジョンに入る算段がもうついているんですか?」
俺の質問に目を逸らすデムレイさん。
「結局、入れなかった。が正しいんじゃない」
「ここの鍵はコルト王家が管理しているとかで、俺にはその鍵を使う許可が下りなかっただけだから」
あはは。
「デムレイさん、それなんですけど……」
俺はデムレイさんに事の経緯を説明した。
「何だそりゃあ!? 結局コルト王家でもビチューレの他の王家でも、この遺跡の口を開けられないって事じゃねえか!」
一年以上待たされて、憤懣やる方ないのも分かる。
「なあ、もうこの口壊して良いよな?」
と竜の口を指差すデムレイさん。この人もバヨネッタさん側の人になのか。
「それをやられると、地下界から地上に魔物が出てきてしまう可能性が高いので、最終手段にして貰えるとありがたいんですが」
「ぐぬぬ。地下界の魔物は強いと、様々な伝承に残っているからな。その悲劇を俺が引き起こす訳にはいかないか」
お。バヨネッタさんよりは話が通じるかも。
「まあ、そう言う事よ」
とデムレイさんをたしなめるバヨネッタさん。どの口が言っているの?
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「まずは情報共有しましょう。この一年でデムレイがこのダンジョン周りを調べて分かった事と、こちらの情報をすり合わせて、そこから答えを導く。今やれるのはこれくらいね」
「成程。となると……」
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