世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
462 / 639

してやったり

しおりを挟む
「リコピン、サングリッター・スローンを浮かせておくのに、どれくらいの人工坩堝が必要になる?」


『三分の一、十個もあれば十分です』


「なら残りはこちらが使わせて貰う。バヨネッタさんの魔力をこちらへ」


『了解しました』


 言うなりリコピン経由でバヨネッタさんの魔力が俺に流れ込んでくる。そんな中、俺は円を描くように踊りだした。武田さん、バンジョーさん、イヤルガムは何を始めたのか不思議がっていたが、これは五閘拳を使う上で大事な前運動なのだ。俺は三人を無視して武踊を踊りながら、俺とバヨネッタさんの交ざった魔力を、サングリッター・スローン全体へと行き渡らせていく。そうやってサングリッター・スローン内の人工坩堝に俺とバヨネッタさんの魔力が浸透していき、高回転を始める。


「おい! 大丈夫なんだろうなあっ!?」


 不安そうに席にしがみつく武田さん。バンジョーさんとイヤルガムも同様だ。だが俺は今三人に返事をしている場合ではないのだ。高回転を始めた人工坩堝それぞれで高魔力が暴れ出し、その制御に神経をすり減らさなければならない。その間もスピンクスはこちらへ攻撃をやめる事はなく、操縦室の床面はスピンクスの攻撃を避ける度に揺れる。


 そして一度こちらから距離を取ったスピンクスがサングリッター・スローンの遥か上空へと飛び上がる。そうしてその巨大な突撃槍を両手に持ち、急降下してくるスピンクス。地球最速のはやぶさは、落下速度が最速であり、その最大速度は時速三百九十キロにも及ぶと言う。そんな猛禽類とは比べものにならない巨大な怪物が、高高度からこちらへ迫ってきていた。


「でもそれ、失策だったね」


 俺は武踊を既に終え、上空を見上げながら呟いた。


「リコピン!」


 アニン経由で俺の指示を汲み取ったリコピンが、サングリッター・スローンをギリギリでスピンクスの攻撃から躱す。俺たちの横を通り過ぎるスピンクス。そのスピンクスに向かって、俺は、俺とバヨネッタさんの魔力が浸透した二十個の人工坩堝と、俺の坩堝によって生み出された重拳の一撃を、未だ下降中のスピンクスに撃ち出した。


 ズドーーーンッッッッ!!!!


 耳をつんざく爆音と振動の後、地煙がもうもうと地面から噴き上がり、周囲を覆い隠した。何も見えなくなった為に、スピンクスや俺たちを覆っていたオーロラもどうなったのか分からない。魔力を使い過ぎて全合一が使えないからだ。サングリッター・スローンには魔電ハイブリッドバッテリーがあるから墜落する事はない。なので煙が落ち着くまでその場で待機していると、やがて煙が晴れ、その隙間から空が見える。そこにオーロラはなかった。


「倒した。って事か?」


 武田さんがこちらを振り返るが、それはまだ言い切れない。俺はリコピンに指示して地上まで降りると、そこには底が見えない程の大穴が開き、その底まで降るとスピンクスだった者たち、ノウリヤたちの死体が転がっていた。


「先を急ごう」


 そう口にしたのはバンジョーさんだ。確かに彼女たちを弔ってあげる時間はない。キャンピングカーを追おうとしたところで、


「その前に」


 と武田さんが、『転置』を使って二次テスト挑戦者たちと己の従魔であるヒカルを回収する。何が起こったのか理解出来ていない二次挑戦者たちに事情を説明しつつ、俺たちはサングリッター・スローンを飛ばす。


 説明を武田さんに任せ、オレはまだ眠っているバヨネッタさんを後方の私室のベッドに寝かせると、その世話をカッテナさんに任せて操縦室に戻った。



 先を行くキャンピングカーにはすぐに追いついた。


 ダダダダダダ……ッッ!!


 重機関銃で威嚇射撃すると、キャンピングカーはすぐに止まる。早くないか? と違和感を覚えながらも、俺たちはサングリッター・スローンをキャンピングカーの横に着陸させる。


 二次挑戦者たちは直ぐ様サングリッター・スローンを出ると、キャンピングカーを包囲した。俺と武田さん、バンジョーさんはサングリッター・スローンの中だ。見た目は普通のキャンピングカーだが、改造が施されていても不思議じゃない。緊張感が高まる中、後部座席から袖が銀糸で彩られた白いローブを着た男たちが出てきた。


「ニートニー大司教にカズ大司教!? それにデーイッシュ派の司教たち!」


 二次挑戦者たちと一緒にキャンピングカーを囲っていたイヤルガムは、流石に相手の顔を知っていたようだが、大司教に司教? デーザン卿だかマキシマ卿だかの枢機卿じゃないのか?


「私はハルアキです。そのキャンピングカーの中を改めさせて頂いてよろしいですか?」


 おれがマイク越しにスピーカーで尋ねると、大司教たちはにやりと口角を上げて後部座席へのドア前を譲った。当然の如く一番初めにイヤルガムが突入し、その後にあの電ナイフ使いなど、前線組が突入したのだが、そこから出できたのは、扇情的な服装をした女性たちだった。


「どう言う事でしょう?」


 流石にあんな扇情的な服装をした女性たちが枢機卿とは思えない。俺が横の武田さんに意見を求めたところで、バンジョーさんに通信魔法が入った。


「なんだって!?」


「どうしました!?」


 俺が尋ねると、バンジョーさんは苦虫を噛み潰したような顔で口を開いた。


「首都マルガンダを、多数の天使が包囲しているそうだ」


 天使? もしかして人工天使か? くっ、やられた! デミス平原を囮に使って、俺たちがストーノ教皇から遠ざかったところを狙ったのか!


「はっはっはっはっはっはっ」


 と横から笑い声が聞こえ、不謹慎だな。と振り向けば、武田さんがこちらが凍えるような目をして声だけ笑っていた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...