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性懲りもなく

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「へえ、流石は使徒様だ。勘が鋭くていらっしゃる」


「答えになっていないですね」


 俺は言いながら曲剣をイヤルガムへ向けた。


「使徒様、ルールを作る時は、もっと厳格に定めないと駄目ですよ。でないと、俺みたいなのが現れる」


「ああ、イヤルガムさん自ら次期教皇候補者として、この戦いに参加したんですか」


「……分かっていたんですか?」


 俺の返答に驚くイヤルガム。


「当然ですよ。そう言った人間も出てくるだろう想定で、あのルールは作成していますから。でなければ、デーイッシュ派だって締め出していました」


 イヤルガムは俺の答えに黙り込む。だがその顔は納得していない事を如実に物語っていた。


「何故、次期教皇選出からデーイッシュ派を排除しなかったのか? って聞きたいですか?」


 首肯するイヤルガム。


「東南部のデーイッシュ派に不穏な動きがある事は、イヤルガムさんなら知っていますよね?」


「ゴウーズから聞いたんですか? ならその情報をあいつに流したのは俺です」


 でしょうね。


「現在、この世界は一丸となって魔王と対峙しなければなりません。それなのに国家の分裂なんてやっている場合ではないんですよ。それなら、自分たちにも主流派に返り咲くチャンスがあると思わせて、適度にガス抜きさせてやれば、今回だけでも独立国家設立は見送ってくれると思いまして」


「そんな理由ですか。デーイッシュ派は、あなたに手懐けられるような連中じゃあありませんよ。大体、デーイッシュ派の誰かに一撃入れられたらとか、考えなかったんですか?」


 もっともな意見です。


「だから『聖結界』で囲ったんですよ。この結界は敵意や害意のある行動に対して、跳ね退けたり、弱体化させたりする効果がありますから。イヤルガムさんも馬鹿な行動して、結界外に弾き飛ばされていましたね」


 俺の言にイヤルガムは歯軋りする。


「流石はレアスキルですね」


 嫌味かな?


「まあ、敵意や害意にしか反応しないので、真っ当な心根で私に挑んでくる人間は結界を素通りしてしまうんですけどね。だから、イヤルガムさんが本当にコニン派の人々を憂いてこの戦いに臨んでいるのは分かります。だからって、お情けで一撃食らうつもりはありませんけど」


「それは残念です」


 言ってイヤルガムは大剣を顔の横に立てて構えた。それに対して俺は海賊曲剣をくるくると回して重拳の威力を上げていく。この男は気絶でもさせないと諦めそうにない。それが難しいんだけど。


 じりじりと俺とイヤルガムの距離が詰まり、一触即発とまで気合いが高まった時だった。


 バキバキバキ……ッッッ!!!


 思わぬ異音に俺たちの動きが止まる。原因は平原に張っていた『聖結界』にひびが入ったからだ。その思わぬ事態に俺は一気にイヤルガムから距離を取り、全合一で周囲を確認する。ひびは『聖結界』の外、取り残されたデーイッシュ派のいる辺りから広がってきていた。このままだと『聖結界』が壊れる。いや、張り直せば良いのだが、それよりも壊れる理由による。何度でも壊せるのなら、張り直す意味がない。


 意識をデーイッシュ派のいる『聖結界』外縁に集中させると、そこにいたのは、身の丈が人間の二倍はある人型の何かだ。その背には三対六枚の翼が生えている。そんな巨人が千体はいる。


「何だあれ?」


 思わずそのまんま声を漏らしてしまった。そして記憶がフラッシュバックする。


「人工天使か!」


 俺がそう口にしたのと、『聖結界』が破壊されたのは同時だった。


「バヨネッタさん!」


『こちらでも確認出来ているわ。あいつら性懲りもなく未だあの研究を続けていたのね』


 サングリッター・スローンから聞こえてくるバヨネッタさんの声は苦々しい。


 人工天使━━。オルドランドの首都サリィで無実の罪を晴らす為に、神明決闘裁判に臨んだ時に、その黒幕だったムチーノ侯爵とノールッド大司教が融合して変貌したのが、顔が二つに手が四本ある天使だった。あの研究をしていたのがデーイッシュ派だったのだが、既に研究は廃止に追い込まれていたと思っていたが、まだ続けられていたのか。しかもあの時よりも強力になっているようだ。


 俺は直ぐ様サングリッター・スローンに乗り込もうと動き出すが、その前にイヤルガムが立ちはだかる。


「邪魔だ!」


 思わず語気が強くなってしまった。


「逃げるのか!」


「そんな場合じゃないんだよ! このままだとあんたの予想通りに戦いではなく、デーイッシュ派によるコニン派への蹂躙が始まる! それはなんとしてでも止めなければならない! この戦場にいる全員にそれを通達するだけだ!」


「そんな言い訳を!」


 ああもう! 融通の利かない人間だな!


「だったらあんたも一緒に来い!」


 言ってイヤルガムの腕を掴むと、俺はイヤルガムを引き摺りながらサングリッター・スローンへと入っていった。



「バヨネッタさん!」


 操縦室に入ってくると、全面モニターには遠くで空中に浮いている千体の人工天使たちの姿があった。


「何だあれは?」


 異形の姿を目にして、イヤルガムがそんな言葉をこぼす。


「あれはデーイッシュ派が秘密裏に研究していた人工天使です」


「人工……天使?」


 俺の言葉に反応するが、イヤルガムの目はモニターに釘付けだ。


「ええ。人と人を融合させて、上位の存在へと昇華させる研究をデーイッシュ派は行っていました。俺とバヨネッタさんが潰した一体だけじゃなかったのか」


「そのようね。デーイッシュ派のいた辺りをスキャンして見たけれど、半分程の人影がなくなっていたわ。あの千体、恐らくは三千人の戦士を融合させて造り出したんでしょうね」


 約三人で一体を造り出しているのか。三千人が犠牲になった事を悲しむべきか、五千人全員でなかった事を喜ぶべきか。


「デーイッシュ派は何考えているんだ?」


「逃げ惑う姿も見えるし、デーイッシュ派全体の総意ではなく。一部の候補者が暴走して人工天使を造り出したんだろう」


 首を傾げる俺に、武田さんがモニターを操作して詳しく状況を見せてくれた。


「分かりました。バヨネッタさん、マイク使いますね」


 俺は自分の席に座ると、デスクのマイクを使って戦場にいる全員に向けて、今回の次期教皇選出の試練は中止となった旨を伝え、己の身を守る事を最優先して行動するように伝えた。

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