世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
447 / 632

もう一戦

しおりを挟む
「う、う~ん……」


「お?」


 俺の横で眠っていたカッテナさんが目を覚ました。すると直ぐ様ガドガンさんが手を添えて声を掛ける。


「大丈夫? 手足の痺れとかない?」


 声を掛けられてもボーッとしていたカッテナさんだったが、ようやく脳が覚めてきたのか、ガドガンさんの質問に手をグーパーしてから返答する。


「痺れは感じません。頭が少しクラクラしますけど」


「そう。そのくらいなら問題ないわね」


 と安心するガドガンさん。麻酔の後遺症は残らなかったようだ。マチコさんの出番はなさそうでコチラも安心した。


 段々と事態の把握が出来てきたカッテナさんは、不安そうな顔でこちらを見上げて尋ねてきた。


「私は負けたんですね」


 しょぼんと肩を落とすカッテナさんだったが、


「いや、負けてないですよ」


 との俺の答えに、目を丸くする。


「勝ってもいないですけどね。引き分けです」


「引き分けですか?」


 何故引き分けたのか、本人は理解出来ていないようだ。


「私は言いましたよね? 相手に降参させた方の勝ちだと。ガドガンさんはカッテナさんを眠らせてしまったので、降参させられなかったんですよ」


 俺の説明にようやく理解が追い付いたらしい。自分の介抱をするガドガンさんが、バツが悪そうな顔をしているのを見て、俺の説明が真であると分かったようだ。


「ダルジールに血煙を使わせたのは失敗だったわ」


 溜息をこぼすガドガンさん。


「まあ、今回は痛み分けと言う事で、遺恨はなしでお願いしますよ」


「それは、はい。元々恨みなんてありませんから」


 とのカッテナさんの発言に、一人相撲を取っていた事にようやく気付いたらしいガドガンさんは、顔を真っ赤にして、その真っ赤になった顔を見られたくないのか、両手で覆う。


 はあ。やっとこっちは人心地ついたな。そして向こうか。と俺が視線を送るグラウンドの中央では、ミカリー卿とマチコさんが向かい合っていた。


「本当にやるんですか?」


「せっかくの機会ですから」


 ミカリー卿はその顔に微笑を湛えたまま、そんな返答である。対するマチコさんは辟易した顔だ。今すぐこの面倒事から辞去したい気分なのだろう。俺もそうだ。そして俺に、どうにかして欲しい。と視線を送られても困る。


「はあ。じゃあ一戦だけでお願いします」


 梯子を外されたマチコさんは、恨みがましそうにこちらを半眼で見てくるが、マチコさんとミカリー卿のどちらを敵に回したくないかと言われれば、圧倒的にミカリー卿なのだ。なのでミカリー卿が納得する形で事を進めさせて貰う。それはマチコさんも分かっているのだろう。視線は送ってきても、直接文句を言ってはこなかった。


「ルールは先程と一緒です。マチコさん、分かっていると思うけど、わざと負けるのはなしですから」


「…………分かっています」


 葛藤のある返答だった。俺はそこにはあえて触れず、『聖結界』で二人を覆うと、


「始め!」


 とさっさと勝負を開始させる。


 開始早々懐から本を取り出したミカリー卿。魔導書型の魔導具か。魔法使いの王道だけど、今まで遭遇していないな。対するマチコさんは両の拳を握って構えているだけだ。正確には蔓草つるくさで編まれたグローブとグラディエーターサンダルを着けているが。あれは魔導具ではなさそうだ。


「さあ、いこうか」


 言うなりミカリー卿の周囲に無数の氷の矢が出現し、それらがマチコさん目掛けて襲い掛かる。だが高速で飛来する氷の矢を難なくいなしていくマチコさん。高速のフットワークで避けながら、避けられないと判断した矢を拳で叩き落していく。


「おお! マチコさんやるな」


「でしょう!」


 俺はマチコさんを褒めたのだが、何故だか横でガドガンさんが胸を張っている。気持ちは分かるけどね。


「マチコは身体の鍛え過ぎによる筋肉痛なんかも、『範囲再生』で回復させて、ドンドン自己強化していくから、身体能力は同レベル帯よりも数段上なんです」


 とガドガンさん。成程。筋肉の超回復が出来るのか。レベルのある世界できっちり筋トレしているとなると、そのプレイヤースキルは相当なものだろう。現に目の前ではミカリー卿の氷の矢に慣れてきたマチコさんが、前後左右に矢を躱しながら、フットワーク軽くミカリー卿へと近付いていく。


 しかしマチコさんが近付けば、ミカリー卿が更に矢の数を増やし、増加した矢がマチコさんに襲い掛かる。が、それに対するマチコさんの対応はシンプルなものだった。頭と心臓だけを手でガードして、ミカリー卿へと突進していったのだ。


 氷の矢なんて気にも止めない。傷を受けた直後から『範囲再生』で回復させていくのだ。これが出来るからの突進だった。


 そしてミカリー卿に接近したマチコさんは、左拳を斜め下から突き上げるようにミカリー卿の脇腹に叩き込んだ。


 ドズンッ!!


 重く鈍い音が、マチコさんのパンチがどれだけ強烈だったかを物語っていた。俺も思わず眉根を寄せてしまった程だ。あれは内蔵まで響いたな。長齢のハーフエルフ相手にエグい事するなあ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎    2024年8月6日より配信開始  コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。 ⭐︎書籍化決定⭐︎  第1巻:2023年12月〜  第2巻:2024年5月〜  番外編を新たに投稿しております。  そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。  書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。    改稿を入れて読みやすくなっております。  可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。  書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。 いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。 山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。 初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15をつけました ※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。  作品としての変更はございませんが、修正がございます。  ご了承ください。 ※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。  依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。

未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした

星ふくろう
恋愛
 カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。  帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。  その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。  数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。    他の投稿サイトでも掲載しています。

チート願望者は異世界召還の夢を見るか?

扶桑かつみ
ファンタジー
 『夢』の中でだけ行くことのできる、魔法と魔物が存在する異世界『アナザー・スカイ』。  そこに行くには、神様に召喚されなくてもいいし、トラックに跳ねられて死んで転生しなくてもいい。だが、眠っている間の夢の中だけしか行くことができなかった。  しかも『夢』の中で異世界に行く事ができるのは、一人ではなく不特定多数の多くの若者たちだった。  そして夢を見ている間に異世界で丸1日を過ごすことができるが、夢から覚めれば日常が待っているので、異世界と日常の二重生活を毎日に送ることとなる。  このためヴァーチャル・ゲームのようだと言われる事もあった。  ある日、平凡な高校生の一人も、『夢』の向こうにある異世界『アナザー・スカイ』に行けるようになり、『夢」の向こうにある異世界で活動できる常人よりはるかに高い身体能力を持つ身体を与えられる。  そしてそこで知り合った美少女と旅をしつつ、昼間は退屈な現実世界の日常と交互に繰り返す毎日が始まる。 (最初に第一部の原型を書いたのが2012年の秋。その時は、一度書き上げた時点で満足して、発表する事無く長い間お蔵入りさせました。  それを大幅にリファインし、さらに第二部以降を追加で徐々に書き進めたものになります。  全体としての想定年代は、物語内でのカレンダーが2015年を想定。) 【小説家になろう、カクヨムでも掲載中。】

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。

落ちこぼれ“占い師”が造る 最強ギルド! ~個性豊かな仲間や年下王女に頼られる“ 立派なギルマス”になってました~

薄味メロン
ファンタジー
 神に与えられる力は、平等じゃない。  合格率99%と言われる冒険者の試験を受けた俺は、“占い師”の力を持つ事を理由に、不合格を言い渡されていた。  金はない。  金を得る手段もない。  そんな日々の中で【禁忌】を成功させた俺は、  ・素早さを奪われた獣人の少女   ・金属が持てない鍛冶師  ・平民を母に持つ第4王女   …………。  そんな仲間たちと出会い、  誰からも尊敬される“ギルマス”に成り上がる。

普通?なお嬢様は追いかけられ、捕まり、諦める。

楼雫
ファンタジー
ルナ・メルティーナです。 メルティーナファミリー次期ボスである私ですが……今は内政部署のティーナとして過ごしてます! ファミリー内で味方を増やし早くファミリーを継ぎたいです! 今日も師匠を追いかけて…書類と一緒に平和に過ごします! ...あれ??どうして捕まったのかなぁ?? 追いかけられて、捕まるのは後半に予定しております。 乙女ゲーム要素も後半です。 作者は豆腐メンタルなため中傷的な言葉は辞めてください。 処女作なのでお手柔らかに……

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...