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軽い現実逃避
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「はあ。綺麗な山ね」
バヨネッタさんが窓の外に見える山脈を眺めながら、お茶を傾けている。
「そうでしょう。国の自慢ですから」
とガドガンさん。雪に覆われた青白い山嶺は、エベレストみたいな先の尖った山が連なっており、その中で一つ飛び抜けている山があり、あれがセクシーマンなのだろう。
「あの山の八合目くらいに聖域とされる洞穴があってな。そこでデウサリウス様が修行して神と同化した。との言い伝えが残っている」
武田さんが続く。へえ、デウサリウスって元人間の名前だったのか。修行って様々な宗教の始祖が行っているよな。
「修行ですか?」
「ああ。ポーションをハイポーションに変える修行をしていたんだ」
「…………そうですか」
それ以上何も言えないのですが。ちなみにポーションは零度以下の低温で発酵させれば、勝手にハイポーションになる。俺とオルさんの研究成果だ。
「じゃあ、オルバーニュ財団がハイポーションの生産に成功した事には、思うところがありそうですね」
「そうだな。長年、ハイポーションはあの山の聖域でしか生産出来ないと言われてきた奇跡の秘薬だったからな。それを財団が生産し始めたと知った時は、最初はまた出た『騙り』だと思ったよ」
「『騙り』ですか?」
俺は首を傾げた。「また」と言う事は以前にもあったのか。いや、ハイポーションの需要を考えれば、何度となく偽物が世に出てきていてもおかしくないか。
「そもそもデウサリウス教では、ハイポーションの偽物を作る行為も売る行為も許していないからな。発覚すれば作成者も販売者も死刑だ」
「死刑!?」
俺は思わずバンジョーさんの方へ首を向けていた。しかしバンジョーさんはどこ吹く風と知らん顔をしている。バンジョーさんはデウサリウス教のスパイとして俺たち一行に合流した。時期的にオルさんと俺がハイポーションの生産に成功した後の事だ。何かしらで情報を手に入れて、さぐりを入れてきたのかも知れない。俺、殺されていたかも知れなかったのか。
「何でそんなに極端なんですか?」
「デウサリウス様自身が、ハイポーションの詐欺罪で極刑になっているからだよ」
「…………はあ?」
それはデウサリウスが本当に詐欺をしたのではないのか?
「工藤、デウサリウス様が詐欺したんじゃないの? とか思っているだろう?」
「ええ、そんな事ないですよ~」
何でバレたんだろう。ああ、俺が顔に出易いからか。
「実際には弟子に売られたんだよ」
「弟子にですか?」
「ああ。時の領主に、「お主が最近ハイポーションを配り歩いている者か」と問われたデウサリウスは「はい」と首肯する。すると領主はデウサリウスの弟子の一人を斬り倒した」
「は?」
何そのヤベー領主。
「そしてその領主は言ったのさ、「お主が持つ物が本物のハイポーションだと言うなら、今すぐにその弟子を回復させてみせよ」と」
成程。
「それに従ったデウサリウスは、ハイポーションの入った瓶を持たせていた弟子から受け取り、斬られた弟子に振り掛けた。しかし弟子は少ししか回復しなかった。何故ならその瓶に入っていたのは普通のポーションだったからだ。弟子は瓶の中身をハイポーションからポーションにすり替えていたのさ」
別にハイポーションから水にすり替えていても良かったのでは? それだとやり過ぎだと思ったのかなあ。
「こうしてデウサリウスは極刑となり、あの山の洞穴に幽閉された。餓死か凍死を狙っての事だったのだが、デウサリウスは一年経っても二年経っても、飲まず食わずで微動だにせず生き続け、五年後にその身は天から降り注ぐ光に包まれて昇天し、生きたまま神と同化したんだ」
へえ。凄い話だが、俺にはどこまでが本当なのか分からないな。
「デウサリウス教の与太話なんてどうでも良いわ」
そう口にしたのは、当然バヨネッタさんだ。まあ、バヨネッタさんからしたら既知の話だったろうしな。
「これからどう動くべきか。私たちはそれを選択しなければならないんじゃないの?」
…………それはそうですけど、最初にセクシーマン山を見て現実逃避をしたのはバヨネッタさんだと思う。口には出さないけど。
「でも、困りましたよねえ」
俺はバヨネッタさんに同意するように、腕を組んで身体を椅子の背もたれに預ける。周りを見ても、建設的な意見は出てこない。それだけ行き詰まっているのだ。
ゴウーズ首席枢機卿の話では、デーイッシュ派はここから東南の国境付近のデミスに集まりつつあるそうだ。まあ、国の問題だし、俺たちは放っておいてダンジョン攻略に行けば良い。とならないので困っているのだ。何故ならこのデーイッシュ派が集まっている東南エリアの東に、俺たちの目的地であるビチューレ小国家群があり、目的のダンジョンはその地の南西、コルト国にあるのだ。そう、デーイッシュ派が集まるエリアのすぐ東がコルト国である。
「はあ、困りましたねえ」
これしか口を出ないのは気疲れのせいかな。問題はこのコルト国内にデーイッシュ派が多く、デーイッシュ派が新教を興すとなると、国教をその新教に変える可能性が高く、また、デミスと上手く話し合いが合致すれば、周辺を巻き込んで新国家が生まれる可能性も大いにあるのだ。そうなればデーイッシュ派に睨まれている俺やバヨネッタさんは入国出来ず、コルト国内のダンジョンに到達する事も出来ない。
「ああ、困りました。どうやってぶっ飛ばしてやりましょう」
「サングリッター・スローンで辺り一帯更地にすれば問題解決するんじゃないかしら」
物騒な俺とバヨネッタさんのやり取りに、他の三人が半眼でこちらを見てくる。冗談ですよ、俺はね。
バヨネッタさんが窓の外に見える山脈を眺めながら、お茶を傾けている。
「そうでしょう。国の自慢ですから」
とガドガンさん。雪に覆われた青白い山嶺は、エベレストみたいな先の尖った山が連なっており、その中で一つ飛び抜けている山があり、あれがセクシーマンなのだろう。
「あの山の八合目くらいに聖域とされる洞穴があってな。そこでデウサリウス様が修行して神と同化した。との言い伝えが残っている」
武田さんが続く。へえ、デウサリウスって元人間の名前だったのか。修行って様々な宗教の始祖が行っているよな。
「修行ですか?」
「ああ。ポーションをハイポーションに変える修行をしていたんだ」
「…………そうですか」
それ以上何も言えないのですが。ちなみにポーションは零度以下の低温で発酵させれば、勝手にハイポーションになる。俺とオルさんの研究成果だ。
「じゃあ、オルバーニュ財団がハイポーションの生産に成功した事には、思うところがありそうですね」
「そうだな。長年、ハイポーションはあの山の聖域でしか生産出来ないと言われてきた奇跡の秘薬だったからな。それを財団が生産し始めたと知った時は、最初はまた出た『騙り』だと思ったよ」
「『騙り』ですか?」
俺は首を傾げた。「また」と言う事は以前にもあったのか。いや、ハイポーションの需要を考えれば、何度となく偽物が世に出てきていてもおかしくないか。
「そもそもデウサリウス教では、ハイポーションの偽物を作る行為も売る行為も許していないからな。発覚すれば作成者も販売者も死刑だ」
「死刑!?」
俺は思わずバンジョーさんの方へ首を向けていた。しかしバンジョーさんはどこ吹く風と知らん顔をしている。バンジョーさんはデウサリウス教のスパイとして俺たち一行に合流した。時期的にオルさんと俺がハイポーションの生産に成功した後の事だ。何かしらで情報を手に入れて、さぐりを入れてきたのかも知れない。俺、殺されていたかも知れなかったのか。
「何でそんなに極端なんですか?」
「デウサリウス様自身が、ハイポーションの詐欺罪で極刑になっているからだよ」
「…………はあ?」
それはデウサリウスが本当に詐欺をしたのではないのか?
「工藤、デウサリウス様が詐欺したんじゃないの? とか思っているだろう?」
「ええ、そんな事ないですよ~」
何でバレたんだろう。ああ、俺が顔に出易いからか。
「実際には弟子に売られたんだよ」
「弟子にですか?」
「ああ。時の領主に、「お主が最近ハイポーションを配り歩いている者か」と問われたデウサリウスは「はい」と首肯する。すると領主はデウサリウスの弟子の一人を斬り倒した」
「は?」
何そのヤベー領主。
「そしてその領主は言ったのさ、「お主が持つ物が本物のハイポーションだと言うなら、今すぐにその弟子を回復させてみせよ」と」
成程。
「それに従ったデウサリウスは、ハイポーションの入った瓶を持たせていた弟子から受け取り、斬られた弟子に振り掛けた。しかし弟子は少ししか回復しなかった。何故ならその瓶に入っていたのは普通のポーションだったからだ。弟子は瓶の中身をハイポーションからポーションにすり替えていたのさ」
別にハイポーションから水にすり替えていても良かったのでは? それだとやり過ぎだと思ったのかなあ。
「こうしてデウサリウスは極刑となり、あの山の洞穴に幽閉された。餓死か凍死を狙っての事だったのだが、デウサリウスは一年経っても二年経っても、飲まず食わずで微動だにせず生き続け、五年後にその身は天から降り注ぐ光に包まれて昇天し、生きたまま神と同化したんだ」
へえ。凄い話だが、俺にはどこまでが本当なのか分からないな。
「デウサリウス教の与太話なんてどうでも良いわ」
そう口にしたのは、当然バヨネッタさんだ。まあ、バヨネッタさんからしたら既知の話だったろうしな。
「これからどう動くべきか。私たちはそれを選択しなければならないんじゃないの?」
…………それはそうですけど、最初にセクシーマン山を見て現実逃避をしたのはバヨネッタさんだと思う。口には出さないけど。
「でも、困りましたよねえ」
俺はバヨネッタさんに同意するように、腕を組んで身体を椅子の背もたれに預ける。周りを見ても、建設的な意見は出てこない。それだけ行き詰まっているのだ。
ゴウーズ首席枢機卿の話では、デーイッシュ派はここから東南の国境付近のデミスに集まりつつあるそうだ。まあ、国の問題だし、俺たちは放っておいてダンジョン攻略に行けば良い。とならないので困っているのだ。何故ならこのデーイッシュ派が集まっている東南エリアの東に、俺たちの目的地であるビチューレ小国家群があり、目的のダンジョンはその地の南西、コルト国にあるのだ。そう、デーイッシュ派が集まるエリアのすぐ東がコルト国である。
「はあ、困りましたねえ」
これしか口を出ないのは気疲れのせいかな。問題はこのコルト国内にデーイッシュ派が多く、デーイッシュ派が新教を興すとなると、国教をその新教に変える可能性が高く、また、デミスと上手く話し合いが合致すれば、周辺を巻き込んで新国家が生まれる可能性も大いにあるのだ。そうなればデーイッシュ派に睨まれている俺やバヨネッタさんは入国出来ず、コルト国内のダンジョンに到達する事も出来ない。
「ああ、困りました。どうやってぶっ飛ばしてやりましょう」
「サングリッター・スローンで辺り一帯更地にすれば問題解決するんじゃないかしら」
物騒な俺とバヨネッタさんのやり取りに、他の三人が半眼でこちらを見てくる。冗談ですよ、俺はね。
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