世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
368 / 632

いつから、どこから

しおりを挟む
「ハルアキくん! 何があったの!?」


 あまりの展開に脳がついていけず、ボーッとしていたところで、オルさんが肩を揺さぶり話し掛けてきた。折れた左腕に響くのでやめて欲しい。


「君に連絡しようとしたら、いきなり連絡が取れなくなったから、もしかして何かあったんじゃないかと、武田くんたちに協力を仰いだんだ。そうしたら、いるだろうレストラン周辺にハルアキくんの姿が影も形もないって……」


 影と聞いてハッとした。


「オルさん、バヨネッタさんが来た時に、祖父江兄妹が訪ねてきませんでしたか?」


「祖父江兄妹? さあ、どうかな? と言うか彼らなら、新世界庁が出来てから、桂木長官の命で定期的にここに来ているよ」


 定期的にか。まあ、ここには異世界調査隊に参加し、モーハルドで研究していた人間も少なくない。定期的に来ていても怪しまれないな。


「祖父江兄妹がどうかしたのかい?」


「俺をさらったのは祖父江兄妹です」


 俺の言葉にその場がざわついた。そして皆の視線が辺りを探すようなものに変わる。


「望月くんはどうした?」


 誰だ? 望月って? いや、この場で名前が出るんだ。祖父江兄妹の関係者だろう。


「いません。先程までこの研究室にいたはずなのに」


 それを聞いて研究員たちは呆然としていた。仲間から裏切り者が出る可能性は考えてなかった。と言ったら嘘になるだろうけど、実際にそれが発覚すれば、どうすれば良いのか、頭の中が真っ白になるのは分かる。俺もついさっきそうだったから。


「祖父江兄妹って、確か工藤と同じ学校に通っている二人だよな? そいつらが何かやらかしたって事か?」


 祖父江兄妹に詳しくない武田さんが、尋ねてくる。それに首肯する俺。そして大きく溜息を吐く。説明するのも気が重い。


「祖父江兄妹は桂木長官が創設した異世界調査隊のメンバーで、本人たち曰く、忍者の末裔だとかで、俺と情報交換なんかをしながら、良い関係が築けていたと思っていたんですけどねえ」


「あいつらが悪事に加担するとは思えないけど」


 タカシが二人を擁護する。人気のない学校の階段で、良く四人で昼食を摂りながら情報交換していたっけ。


「俺もそう思いたいよ。それに戦争にどっちが善とか悪とか、あまり関係ないから」


 俺の説明に対して、俺を非難するように眉根を寄せるタカシ。


「何であれ、俺が小太郎くんの『影獣』に呑まれて、どこか分からない場所に転移させられたのは事実だ」


「あれは影で出来た空間庫とでも呼ぶべき異空間だった」


 武田さんが補足説明をしてくれた。やっぱり異空間だったのか。武田さんのスキルがなかったら、あの中で死んでいたな。そう思いながら、いつの間に戻ってきたのか、武田さんに寄り添うヒカルを見遣る。


「何でハルアキを襲ったんだ?」


 まだ納得いかないタカシが食い下がる。


「この研究所にバヨネッタさんが来た時に、俺の塩を盗んだらしい。どうやら俺の塩はどこかの誰かにとって、存在していて欲しくないものだったようだ」


「そいつの差し金だと? 洗脳や催眠、魅了に掛けられていたんじゃないのか?」


「どうかな? 少なくとも魔に対して効果があるらしい俺の『清塩』は反応しなかった。スキルによる精神操作の線は半々だな」


 腕組みをするタカシ。まだ信じられないって顔だ。タカシの姿を見て、ズキンと左腕が痛む。もう『回復』がないから、このまま放置していても治らないんだった。


「どうかしたのかい?」


 左腕を押さえる俺に、オルさんが心配そうに声を掛けてきた。


「すみません、百香に左腕を折られて」


「え? でも『回復』が……」


「そっちは小太郎くんに『奪取』で奪われました」


 俺の説明に研究室の面々が声を失う。その中で一人の女性研究員が俺の元にやって来て、左腕に『治癒』スキルを掛けてくれた。


「向こうさんも本気だな」


 一人武田さんだけが冷静に発言する。


「ええ。何でも『逆転(呪)』ってスキルまで付与されましたから」


「『逆転(呪)』!? そんなものまで持ち出してきたのか!? 呪系のスキルは一度付いたら、解呪のスキルがないと外せないぞ」


 これには武田さんも驚きらしい。でも解呪のスキルがあるのはありがたい。


「そんなに本気なら、政府の方もやばいんじゃないのか!?」


 武田さんに言われてハッとなった。そうだ。新世界庁には桂木配下の人間が多数いる。新世界庁自体が現行日本政府の旗振り役で、色んな省庁に出入りしているんだ。下手すれば一気に日本が転覆するぞ。


 俺は直ぐ様スマホで辻原議員に電話を掛けた。コール一回ですぐに辻原議員が電話に出る。


「辻原さん、桂木の事なんですけど……」


『桂木いッ!? 今はそんなやつの事はどうでも良い! 高橋首相が消えた!』


 はっ!? 消えた!? 高橋首相が!?


「消えたってどう言う事ですか!?」


『こんなご時世だからな。首相自ら天賦の塔がある各所に遊説に回られているのだが、愛知の天賦の塔での遊説の帰り、消息を断ったんだ』


 くっ、先手を打たれたか!


「辻原さん、その事件には新世界庁長官の桂木が関わっている可能性があります。すぐに彼の確保をしてください」


『何だと!? 分かった! すぐに警察を新世界庁に差し向ける!』


 言って辻原議員の方から電話が切られた。


「何か、首相が行方不明とか何とか……」


 電話が切れたのを見計らって、タカシが不安そうに声を掛けてきた。


「ああ。愛知で消息を断ったらしい」


 タカシが、研究員たちが息を飲む。


「…………愛知か」


 独り言を呟いた武田さんは、ノートパソコンを取り出すと、何やら調べ始める。


「武田さん? どうかしましたか?」


「愛知と言えば織田信長のお膝元だぞ」


 あ。そう言えば織田信長って、愛知は尾張の武将だっけ。となると、桂木は魔王ノブナガと繋がっていた?


 皆が武田さんを注視する中、武田さんが口を開く。


「祖父江、地名、で調べてみたら、愛知の木曽川周辺の地名らしい。尾張で調べたら、尾張の端っこって出たよ。桂木は他の地方だし、もしかしたら繋がっているのは、桂木じゃなく祖父江兄妹の方かも知れないな」


「甲賀、ですか?」


「多分な」


 甲賀忍者は伊賀忍者と並ぶ、日本の有名忍者流派だ。元は織田信長と対立する六角氏に仕えていたが、織田信長にこれを倒され、以後、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康に仕える事になる。


「甲賀の名前としては出てきていないが、忍者だからないのも当然だろう。逆に望月は甲賀の名前として出てきた」


 いったいどこから魔王ノブナガと繋がっていたんだ? ノブナガの生前からか? それならどうやって織田信長が異世界に転生した事に気付いたんだ? スキル持ちがいたのか? 分からない事ばかりだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

処理中です...