世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
363 / 625

狭い溝

しおりを挟む
 コンコンコン。


「お疲れ様です」


 ほとんど授業中寝ていた俺は、放課となるや飛び起きて魔法科学研究所へとやって来た。受付で記名して入館証を貰うと、オルさんの研究室のドアをノックする。


「うわ……」


 ドアを開けたら大勢の人がいて、少し目を見張ってしまった。


「いやあ工藤くん! 待っていたよ!」


 と一番に俺に話し掛けてきたのはオルさんではなく、この研究所の主任研究員であり、種子島でのロケット打ち上げにも手を貸して頂いた立花女史だった。


「え? あ? はい? え? 何で立花さんが?」


「君のヒーラー体から色々分かる事があってねえ。今、この研究所ではヒーラー体がホットなトレンドになっているんだよ」


 へえ、そうなのか。まあ、昨日オルさんと話しただけでも色んな気付きがあったからなあ。


「それで、何かわかったんですか?」


 昨日ここを発つ時に、それなりに『清塩』で生成した塩を置いてきたからなあ。分かった事があるのだろう。


「そうだね、分かった事もある。けれどその前に、君、天賦の塔でどんなスキルを授かったんだい?」


 え? ドキッとして周囲を見回すと、研究室にいる全員が俺の方を見ていた。何か関係あったのか? 言いたくないとは言えない雰囲気だ。


「いやねえ、工藤くんが天賦の塔に向かった後、君のヒーラー体で色々実験をしていたんだ」


 俺が言い難そうにしていると、何か言い出す前に、気を使ってか立花さんが話し始めた。


「それで分かったんだけど、君や回復系のスキルを持つ人間と、ポーションに含まれるヒーラー体や他人を癒せる治癒系のスキルを持つ人間とでは、ヒーラー体の遺伝子構造が違う事が判明したんだよ」


 へえ、そうなんだ。まあ、俺、治癒系スキル持っていないもんな。


「正確には治癒系スキルを持つ人間は、両方のヒーラー体を持っているんだけどね」


 成程。治癒系のヒーラー体を持っているベナ草が、自身を回復させられないのは、回復系のヒーラー体を持っていないからなのかな。


「と言う訳で、治癒系のヒーラー体をヒーラー体1型、新たに君から見付かった回復系のヒーラー体をヒーラー体2型と呼称させて貰う事にしたよ」


「それは、別に構いませんけど」


「それで、君が残してくれた塩を調べていたら、何と解毒作用がある事が分かってね。これが『清塩』だから邪気払いで毒を無毒化するのか、回復系ヒーラー体だから毒を無毒化出来るのか、この場で議論していたら、何と途中で解毒作用が強化されたじゃないか。これは工藤くんが天賦の塔で新たに手に入れたスキルが関係していて、それが分かれば、この解毒作用がどちらなのか分かると思ってね。それで君が来るのを待っていたんだ」


 ああ、そう言う事か。でも俺の新スキルかあ。はあ。


「…………『ドブさらい』です」


「は?」


 その場にいた研究員全員が首を傾げた。


「『ドブさらい』です。何か、浄化系スキルの最下位だそうです」


「浄化系かあ」


 これを聞いて立花さんをはじめ半数が頭を抱えた。


「そうだよ、毒は人体からしたら異物だもんなあ、それで傷付いた部分を回復させるのではなく、入ってきた毒を浄化系スキルで分解して無毒化していたんだなあ」


「と言う事は、2型は回復系なだけでなく浄化系でもあるのか?」


「それは工藤くんのギフトだろう?」


「ギフトである『清塩』から、2型のヒーラー体が発見された理由は?」


 研究員の一人が何か発言すれば、そこから俺を放ったらかしにして始まる議論。なんだろうか、『ドブさらい』を笑われなかった事を喜ぶべきか、放ったらかしにされた事を泣くべきか、複雑な心境だ。


「そう言えば、塔で武田さんとも話していたんですけど、どうやらヒーラー体は人間なら全員持っている可能性があるんじゃないかって……」


 この研究室の波に乗る事にした俺が、天賦の塔で武田さんと話していた事を口にした途端、全員の注目が俺に集まった。


「それはどう言う事だい?」


 オルさんが俺に問うてきた。


「ほら、天賦の塔が出来た時、『小回復』のスキルを獲得した人間が大量に出たじゃないですか」


「ああ!」と研究員たちから声が上がる。だが半分近くが首を捻っていたので、情勢には疎いのかも知れない。


「だから、発現条件はオルさんと話した事でしょうけど、そもそも人間はヒーラー体を身体に隠し持っているんじゃないかと」


「確かにその可能性はあるな。となると2型がベースで1型は変異体って事にならないか?」


「確かに、その線が有力だな」


「いいえ、待って。でもベナ草は2型のヒーラー体を持っていないわ。2型がベースであると決め付けるのは時期尚早じゃないかしら?」


 そしてまた始まる議論の嵐。まあ、楽しそうで何よりだな。


「ハルアキくん、ハルアキくん」


 オルさんに手招きされて近くに寄る。


「『ドブさらい』ってどんなスキルなんだい?」


 キラキラした目で尋ねられては答えるしかない。俺は武田さんが口にした事を『記録』から呼び出して答える。


「ふむ。狭所や溝渠かあ」


 腕組みするオルさんの視線の先には机があり、そこにはズラリと試験管が並べられている。試験管には無色透明の液体が入れられていた。


「何です? その試験管」


「ああ、これは毒の試液を入れた試験管に、ハルアキくんの塩を加えたものだよ」


 言われれば試験管の底に塩が溶けずに残っている。


「もう無毒化しているんですか?」


「ああ。試液には色が付けられていたんだけど、もう無色透明だろう? 無毒化している証拠さ。何なら飲んでみせようか?」


「やめてください」


 それで何かオルさんの身体に異常が出たら、俺のせいになりそうだ。


「それで、その試験管の何が気になるんですか?」


「うん。試験管も狭所と言えば狭所だよねえ」


 ああ、そう言われればそうかも。


「だから効果が良く発揮された。と?」


「うん。かなあ? ってレベル。それで、ものは試しなんだけど、確か『清塩』って、塩の粒を集めて色んな形に出来るんだよねえ?」


「? はい」


 基本はベナ草の花だけど、それ以外にも出来るは出来る。


「細い管に成形する事は可能かい?」


「細い管、ですか?」


 ああ、細い管なら狭所であり溝渠って事になるのか。そこに毒液を通せばそれだけで無毒化すると?


「細い管って、どのくらいですか?」


「血管くらいかなあ」


 細過ぎじゃない!? いや、心臓辺りや太ももの大動脈ならそれなりに太いのか。でも確かに、それが分かれば俺の身体はいくら毒を体内に注入されても、無毒化可能と言う事になるのか。飲む前から酒とか酔わなくなりそうだな。


「とりあえず、直径五ミリからいかせてください」


 俺は塩で真っ直ぐな管を成形した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...