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風習
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「『清塩』だな」
「『清塩』、ですか?」
日本のマンションに戻ってきて、武田さんに『空識』で鑑定して貰ったら、当然だけどあっさりギフトの名前が分かった。
ちなみにシンヤのギフトは『覚醒』らしい。その能力は、スキルや武器などの様々なものの性能を大幅に引き出すと言うもの。これでシンヤは霊王剣の性能を上げて戦う事が出来る。それを知ったシンヤはかなり嬉しい吉報だったらしく、ウチのリビングで小躍りしている。下に響くからやめて欲しい。
だが今はそんな事よりも、
「何ですか? 『清塩』って?」
「お清めの塩だよ」
そのまんまの返答。
「盛り塩みたいな?」
「そんな感じだな。向こうでもこちらでも、塩には邪気を祓う力があるようだ」
やっぱりそんな感じの能力なのか。
「でもメカラン、魔王が提供してきたのに塩味でしたよ?」
「人間だって多少の毒は口にするだろう?」
確かに、他の動物には毒だったり、摂取量で中毒になるものもあるとは聞くな。
「使えますかね?」
「使い方次第だろう。邪気を祓うんだ、魔族には有効なんじゃないか?」
確かに。ああ、あの場で一回トモノリ相手に試してくれば良かった。
「あと、なんか花が咲くんですけど、それって関係あるんですか?」
「花? いや、言っている意味が分からん」
武田さんが首を傾げるので、俺は『清塩』を武田さんの前で実践する事にした。テーブルの上に手を翳すと、何もない空間に白い塩が現れて塊となり、ニョキッと白い二葉が生えたかと思うと、そこから茎が伸びて葉が生えて花を咲かせた。
「ベナ草だな。何でベナ草なんだ?」
言いながら武田さんが花に触ると、花は脆く崩れて小さな山となった。
「いや、こっちが聞きたいんですけど」
「他の花には変えられないのか?」
ああ、どうだろうか? 他の花にも変わるのかな? 俺はとりあえず、薔薇になれ! と念じながら目の前の塩の小山に手を翳す。
「なりましたね」
「なったけど、薔薇の花だけ出来て、しかもその中心からやっぱりベナ草がニョッキリ生えたな」
「はい」
良く分からないが、ベナ草は『清塩』においてマストと言うかデフォルトなのかも知れないな。でも薔薇にも変わるから、形を変えられない訳でもないのか。
とそこでウチのインターホンが鳴る。玄関まで出迎えに行けば、近くのスーパーへ買い出しに行っていた女性陣が立っていた。バヨネッタさんにアネカネ、ミウラ嬢にラズゥさん、ゴウマオさん、そして荷物持ちとしてついて行ったタカシにヤスさん、サブさんだ。
「たっだいまあ! どう? ギフトは解明したの?」
元気な帰宅のあいさつとともに、アネカネが尋ねてくる。武田さんとは入れ違いだったからな。気になっていたのだろう。
「ああ、まあね」
「なによ、歯切れが悪いわね。そんなに使えないギフトだったの?」
バヨネッタさんが首を傾げて尋ねてくるが、俺は腕を組んでうんうん唸るしかない。
「使えないかどうかは…………、どうにも良く分からない部分がありまして」
俺が明後日の方を向けば、皆がそっちを向くが、そちらに答えなど存在しない。
「ベナ草ね」
「ベナ草だわ」
「ベナ草ですね」
「ベナ草じゃない」
次々とまるで当然と言わんばかりに口にする女性陣。ゴウマオさんだけは頷いているだけだが。
「何がおかしいの?」
とバヨネッタさんが尋ねてくる。
「いや、何でベナ草なんだろうと」
「ギフトの能力って『清塩』なんでしょ?」
「はい」
「ならベナ草でしょ」
そうなのか? 俺が首を傾げている横で、武田さんが何かを思い出したような顔になった。
「ああ、そうか! 『清塩』だからベナ草なのか! そう言えばそんな風習あったな!」
風習? 俺は良く分からないアピールでまた腕を組んで首を傾げる。
「そうか、こっちにはベナ草自体がないものな」
武田さんが訳知り顔で口にすれば、女性陣も納得の顔に変わる。
「そう言う事ね。向こうの世界では、魔物除けに町や村、家の周囲に、ベナ草の花の型に固めた塩を置くのよ。それを清塩と言うの」
とバヨネッタさんが説明してくれた。成程、納得だ。それならギフト『清塩』でベナ草が生えてくるのも理解出来る。…………出来るか?
「何でベナ草の花なんですか?」
俺が尋ねると、皆の視線は自然とラズゥさんに向けられた。そう言えばこの人聖女だもんな。宗教系の人なら知っているかも。
「悪いけれど私も知らないわ」
知らなかった。
「清塩にベナ草の花の型を使うのは、相当古い習俗だから、起源が分からないのよ。神話にも出てくるくらいだから、神話が編纂された当時には、清塩の習俗は存在していたと考えられているわ」
「神話にですか?」
「ええ。昔々、とある村で子供の失踪が続発して、その原因は魔物であると村人たちは特定したの……」
なんか昔話を始めた。
「……でも魔物はどれだけ村の警備を厳重にしても、家の戸締まりを厳重にしても、それをすり抜けるように子供をさらってしまう。これに困っていた村に、ある日一人の旅人がやってきたの。ボロボロの旅人を敬遠して、近付かないようにしていた村人たちだったけれど、それを見兼ねたある一家がその旅人を受け入れた。一家は三人家族だったのだけど、実は子供がもう一人いて、その子供は魔物にさらわれた後だった。また子供がさらわれたらどうしよう。と怖がる一家に、旅人が授けた知恵が……」
清塩と言う事なのだろう。
「……清塩よ。ベナ草の花の形に固めた塩を、家の四つ角に置きなさい。そうすれば魔物は近付く事が出来ず、あなた方は安寧に生活を送れるだろう。とね。その後村を出ていった旅人の言う通りに、家の四つ角に清塩を置くと、不思議と家が清められた気がして、魔物も近付かなくなったそうよ……」
ほう。成程ね。歴史のあるものだったんだ。と感心していたら続きがあった。
「……その後他の家もこれを真似して清塩をするようになり、村に平和が訪れた頃、また村に旅人がやって来たの。今度は綺麗な身なりの一行で、彼らは神の足跡をたどって旅をしているのだと言う。そして清塩に気付いた彼らは、これは誰の提案かと村の長に尋ねた。そこで村の長がある旅人が授けてくれたと正直に答えると、これは我らが主神の御業なり。これをもってすれば、魔物は近付かず、この村は終生栄えるであろう、と。つまり清塩とは元極神君がこの世に授けた御業なのよ」
…………続きは蛇足だったな。
「ちょっと待て。その話、最後の部分改ざんしているだろう? あの話に出てくるのはデウサリウス様だ」
といらんちょっかいを出す武田さん。
「はあ? 元極神君に決まっているでしょう?」
バチバチだな。まあ地球の神話にも地域は違うのに似たものってのはあるからな。日本神話のイザナギとイザナミと、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケーとか。世界の終末に洪水が起こったりとかね。まあ、俺としては何でベナ草の花なのか分かってスッキリしたから良いや。
「『清塩』、ですか?」
日本のマンションに戻ってきて、武田さんに『空識』で鑑定して貰ったら、当然だけどあっさりギフトの名前が分かった。
ちなみにシンヤのギフトは『覚醒』らしい。その能力は、スキルや武器などの様々なものの性能を大幅に引き出すと言うもの。これでシンヤは霊王剣の性能を上げて戦う事が出来る。それを知ったシンヤはかなり嬉しい吉報だったらしく、ウチのリビングで小躍りしている。下に響くからやめて欲しい。
だが今はそんな事よりも、
「何ですか? 『清塩』って?」
「お清めの塩だよ」
そのまんまの返答。
「盛り塩みたいな?」
「そんな感じだな。向こうでもこちらでも、塩には邪気を祓う力があるようだ」
やっぱりそんな感じの能力なのか。
「でもメカラン、魔王が提供してきたのに塩味でしたよ?」
「人間だって多少の毒は口にするだろう?」
確かに、他の動物には毒だったり、摂取量で中毒になるものもあるとは聞くな。
「使えますかね?」
「使い方次第だろう。邪気を祓うんだ、魔族には有効なんじゃないか?」
確かに。ああ、あの場で一回トモノリ相手に試してくれば良かった。
「あと、なんか花が咲くんですけど、それって関係あるんですか?」
「花? いや、言っている意味が分からん」
武田さんが首を傾げるので、俺は『清塩』を武田さんの前で実践する事にした。テーブルの上に手を翳すと、何もない空間に白い塩が現れて塊となり、ニョキッと白い二葉が生えたかと思うと、そこから茎が伸びて葉が生えて花を咲かせた。
「ベナ草だな。何でベナ草なんだ?」
言いながら武田さんが花に触ると、花は脆く崩れて小さな山となった。
「いや、こっちが聞きたいんですけど」
「他の花には変えられないのか?」
ああ、どうだろうか? 他の花にも変わるのかな? 俺はとりあえず、薔薇になれ! と念じながら目の前の塩の小山に手を翳す。
「なりましたね」
「なったけど、薔薇の花だけ出来て、しかもその中心からやっぱりベナ草がニョッキリ生えたな」
「はい」
良く分からないが、ベナ草は『清塩』においてマストと言うかデフォルトなのかも知れないな。でも薔薇にも変わるから、形を変えられない訳でもないのか。
とそこでウチのインターホンが鳴る。玄関まで出迎えに行けば、近くのスーパーへ買い出しに行っていた女性陣が立っていた。バヨネッタさんにアネカネ、ミウラ嬢にラズゥさん、ゴウマオさん、そして荷物持ちとしてついて行ったタカシにヤスさん、サブさんだ。
「たっだいまあ! どう? ギフトは解明したの?」
元気な帰宅のあいさつとともに、アネカネが尋ねてくる。武田さんとは入れ違いだったからな。気になっていたのだろう。
「ああ、まあね」
「なによ、歯切れが悪いわね。そんなに使えないギフトだったの?」
バヨネッタさんが首を傾げて尋ねてくるが、俺は腕を組んでうんうん唸るしかない。
「使えないかどうかは…………、どうにも良く分からない部分がありまして」
俺が明後日の方を向けば、皆がそっちを向くが、そちらに答えなど存在しない。
「ベナ草ね」
「ベナ草だわ」
「ベナ草ですね」
「ベナ草じゃない」
次々とまるで当然と言わんばかりに口にする女性陣。ゴウマオさんだけは頷いているだけだが。
「何がおかしいの?」
とバヨネッタさんが尋ねてくる。
「いや、何でベナ草なんだろうと」
「ギフトの能力って『清塩』なんでしょ?」
「はい」
「ならベナ草でしょ」
そうなのか? 俺が首を傾げている横で、武田さんが何かを思い出したような顔になった。
「ああ、そうか! 『清塩』だからベナ草なのか! そう言えばそんな風習あったな!」
風習? 俺は良く分からないアピールでまた腕を組んで首を傾げる。
「そうか、こっちにはベナ草自体がないものな」
武田さんが訳知り顔で口にすれば、女性陣も納得の顔に変わる。
「そう言う事ね。向こうの世界では、魔物除けに町や村、家の周囲に、ベナ草の花の型に固めた塩を置くのよ。それを清塩と言うの」
とバヨネッタさんが説明してくれた。成程、納得だ。それならギフト『清塩』でベナ草が生えてくるのも理解出来る。…………出来るか?
「何でベナ草の花なんですか?」
俺が尋ねると、皆の視線は自然とラズゥさんに向けられた。そう言えばこの人聖女だもんな。宗教系の人なら知っているかも。
「悪いけれど私も知らないわ」
知らなかった。
「清塩にベナ草の花の型を使うのは、相当古い習俗だから、起源が分からないのよ。神話にも出てくるくらいだから、神話が編纂された当時には、清塩の習俗は存在していたと考えられているわ」
「神話にですか?」
「ええ。昔々、とある村で子供の失踪が続発して、その原因は魔物であると村人たちは特定したの……」
なんか昔話を始めた。
「……でも魔物はどれだけ村の警備を厳重にしても、家の戸締まりを厳重にしても、それをすり抜けるように子供をさらってしまう。これに困っていた村に、ある日一人の旅人がやってきたの。ボロボロの旅人を敬遠して、近付かないようにしていた村人たちだったけれど、それを見兼ねたある一家がその旅人を受け入れた。一家は三人家族だったのだけど、実は子供がもう一人いて、その子供は魔物にさらわれた後だった。また子供がさらわれたらどうしよう。と怖がる一家に、旅人が授けた知恵が……」
清塩と言う事なのだろう。
「……清塩よ。ベナ草の花の形に固めた塩を、家の四つ角に置きなさい。そうすれば魔物は近付く事が出来ず、あなた方は安寧に生活を送れるだろう。とね。その後村を出ていった旅人の言う通りに、家の四つ角に清塩を置くと、不思議と家が清められた気がして、魔物も近付かなくなったそうよ……」
ほう。成程ね。歴史のあるものだったんだ。と感心していたら続きがあった。
「……その後他の家もこれを真似して清塩をするようになり、村に平和が訪れた頃、また村に旅人がやって来たの。今度は綺麗な身なりの一行で、彼らは神の足跡をたどって旅をしているのだと言う。そして清塩に気付いた彼らは、これは誰の提案かと村の長に尋ねた。そこで村の長がある旅人が授けてくれたと正直に答えると、これは我らが主神の御業なり。これをもってすれば、魔物は近付かず、この村は終生栄えるであろう、と。つまり清塩とは元極神君がこの世に授けた御業なのよ」
…………続きは蛇足だったな。
「ちょっと待て。その話、最後の部分改ざんしているだろう? あの話に出てくるのはデウサリウス様だ」
といらんちょっかいを出す武田さん。
「はあ? 元極神君に決まっているでしょう?」
バチバチだな。まあ地球の神話にも地域は違うのに似たものってのはあるからな。日本神話のイザナギとイザナミと、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケーとか。世界の終末に洪水が起こったりとかね。まあ、俺としては何でベナ草の花なのか分かってスッキリしたから良いや。
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