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異変
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「何が目的なんだ? トモノリ」
しびれを切らしたシンヤが、トモノリに詰問するが、汗がやばいな。それ程にこの話のショックが大きかったのだろうか?
「このクソみたいなゲーム世界はさ、魔王になる事が生き様の頂点じゃないんだよ」
ゆっくりとしゃべるトモノリ。俺たちと言うより、自分に語り掛けるようだが、その声のトーンには熱さがあった。
「まさか、大魔王にでもなる。なんて馬鹿な事言わないよな?」
「お! 流石はハルアキ、男子心を忘れていないな」
くだらな過ぎる。
「そんな事の為に他の人の人生を滅茶苦茶にするつもりか!?」
「そうだ」
トモノリの返答に喉が詰まる。それ以上は何も言わせない。そんな有無を言わせない圧があった。身体から汗が吹き出て、胃が熱くなる。
「大魔王ってのは、そんなになりたいものなのか?」
トモノリからの圧を感じていないのか、一人平然としているタカシが尋ねた。
「天使に下位や上位があり、それによって出来る事が違うように、魔王も、魔王のままじゃ出来ない事、大魔王にならなければ成せない事があるんだよ」
「その為に、俺たちに犠牲になれと」
俺の問いに首肯するトモノリ。
「別に全員が全員俺の糧になる訳じゃないさ。特にナイトメアモードの人生を送るような人たちは、俺としては欲しい人材だ。魂として取り入れず、人材として活かしたまま、有効に活用していきたいね」
はあ。他者は自分の糧であり道具。自分の目的の為ならば他者の人生を滅茶苦茶にしても良いと言う訳か。考え方が俺たちとは乖離してきているのだ。その考え方がもう魔王のそれなんだよなあ。
「大魔王になれば、それだけ出来る事が増えるのか?」
「まあな。大魔王になれば、他の世界に侵攻出来る。他の世界の勇者を殺して、俺たちが理想とする新しい世界をそこでも構築出来る。そうやって俺たちは、運営の作り上げたクソみたいな世界全てを、俺たちのやり方で運営する世界に塗り替えるつもりだ」
…………いや、野望の壮大さよ! え? この世界や地球だけでなく、地球がある宇宙全体とか、恐らく他にもあるだろう異世界とか、全部か? 俺の考えを察したトモノリが、鷹揚に頷いてみせた。
「それは、こちらとしても見過ごせないわね」
パソコンの向こうで浅野が、能面のような表情の分からない顔で、トモノリを見詰めていた。
「あの体験をして、三者三様の進路となったんだ。いずれはかち合っていたさ」
言ってトモノリは軽く肩をすくめる。
「そんな、簡単な問題な訳ないだ……ろ……」
文句の一つもぶち撒けたくて、大声を出そうとしたのに、身体に力が入らなくて、俺はレジャーシートに倒れ込んでしまった。そして襲い来る腹痛。
「ハルアキ!? シンヤも!?」
タカシの声にシンヤの方を見遣れば、シンヤも俺と同じように腹を押さえて苦しんでいた。
「どうやら、ようやく効き目が出てきたみたいだな」
苦しみながら見上げれば、トモノリがこちらを睥睨している。
「何……だと?」
「お前らが食べたメカランは、ちょっと変わった食べ物でな。ああ、大丈夫。毒とかの類いではないから」
いや、この突き刺すような腹痛に滝のような全身の汗。絶対毒だろ?
「ほらあ、あんなの食べるから腹壊すんだよ」
とタカシ。確かにな。あそこで無理して食べる代物でも無かった。何でムキになって食べたのか。ああ、腹壊す時って、大概こう思うんだけど、また賞味期限をちょっと切れたものとか食べちゃうんだよなあ。
「う、う、うわああああああああああああ!!?」
シンヤが腹の痛みに耐えかね、腹を押さえてゴロゴロ転がり始めた。右へゴロゴロ、左ヘゴロゴロ。丘の上の草原を、草を撒き散らしながら転がる。うう。俺も我慢出来ない。
「ああああああああああ!!」
そうやって俺も声を上げて草原を転がる。右へ左へ、または頭を支点に円を描くように転がり、エビのように反らせたり丸まったり、とにかくじっとしていられない。
「うわああああああああああ!!」
「ああああああああああああ!!」
俺とシンヤの二人は丘の上をそこら中転がり回り、腹痛は全身の痛みへと変わり、滝のように吹き出ていた汗は、逆にピタリと止まってしまった。もう汗が出尽くしたのだ。それとともに全身の痛みは引いていき、代わりに倦怠感で身体がズーンと重くなって、指先少しも動かせなくなってしまった。遠くで誰かの声がするが、何を言っているのか聞き取れない。そのまま意識が遠退いていく。
目を覚ました。仰向けになっていた。気絶していた? 何分? 何時間? 魔大陸と言う敵地で、気絶してしまうなんて馬鹿か。いや、馬鹿だからこんな事になったのか。俺は身体を起こそうとするが出来ず、何とかして横を向くと、白い何かの向こうに、ムキムキの筋肉男になっているシンヤがいた。何だあれ?
「おお。ハルアキも起きたか」
「ハルアキ、シンヤが!」
呑気なトモノリに慌てふためくタカシ。
「どう……なっている?」
尋ねる声がカスカスだ。汗で水分を全部取られたからだろう。
「なあに、大丈夫だって。言ったろ?」
「大丈夫……って、シンヤ……普通じゃない……だろ?」
「発現したんだよ。秘めたる力が」
そう口にするトモノリの糸目はシンヤに釘付けで、口角が上がってワクワクしているのが見て取れた。
「秘めたる……力……?」
「ああ。メカランと言うのは、日本語にすると『神の祝福』と言うんだ」
『神の祝福』? つまりシンヤは新しいスキルに目覚めたって事か? …………いや、違うな。
「ギフト……か」
「正解」
当たったからなんだ? いや、ギフトが獲得出来たなら大収穫か?
「何のギフトだ?」
「俺は『空識』を持っていないんでね。正式名は分からんが、これだけ筋肉ムキムキになっているところを見ると、シンヤのギフトはそっち系だろうな」
そうだろうな。シンヤはスキルも『加速』や『怪力』だからな。案外筋肉に並々ならぬ思い入れがあるのかも知れないな。
「俺としては、分かり易いシンヤより、ハルアキのギフトの方が気になるけどな」
とワクワク顔でこちらを見遣るトモノリ。俺のギフトだと? 言われて周囲に気を配れば、俺の周りは俺を中心に真っ白い花畑になっていた。何これ?
しびれを切らしたシンヤが、トモノリに詰問するが、汗がやばいな。それ程にこの話のショックが大きかったのだろうか?
「このクソみたいなゲーム世界はさ、魔王になる事が生き様の頂点じゃないんだよ」
ゆっくりとしゃべるトモノリ。俺たちと言うより、自分に語り掛けるようだが、その声のトーンには熱さがあった。
「まさか、大魔王にでもなる。なんて馬鹿な事言わないよな?」
「お! 流石はハルアキ、男子心を忘れていないな」
くだらな過ぎる。
「そんな事の為に他の人の人生を滅茶苦茶にするつもりか!?」
「そうだ」
トモノリの返答に喉が詰まる。それ以上は何も言わせない。そんな有無を言わせない圧があった。身体から汗が吹き出て、胃が熱くなる。
「大魔王ってのは、そんなになりたいものなのか?」
トモノリからの圧を感じていないのか、一人平然としているタカシが尋ねた。
「天使に下位や上位があり、それによって出来る事が違うように、魔王も、魔王のままじゃ出来ない事、大魔王にならなければ成せない事があるんだよ」
「その為に、俺たちに犠牲になれと」
俺の問いに首肯するトモノリ。
「別に全員が全員俺の糧になる訳じゃないさ。特にナイトメアモードの人生を送るような人たちは、俺としては欲しい人材だ。魂として取り入れず、人材として活かしたまま、有効に活用していきたいね」
はあ。他者は自分の糧であり道具。自分の目的の為ならば他者の人生を滅茶苦茶にしても良いと言う訳か。考え方が俺たちとは乖離してきているのだ。その考え方がもう魔王のそれなんだよなあ。
「大魔王になれば、それだけ出来る事が増えるのか?」
「まあな。大魔王になれば、他の世界に侵攻出来る。他の世界の勇者を殺して、俺たちが理想とする新しい世界をそこでも構築出来る。そうやって俺たちは、運営の作り上げたクソみたいな世界全てを、俺たちのやり方で運営する世界に塗り替えるつもりだ」
…………いや、野望の壮大さよ! え? この世界や地球だけでなく、地球がある宇宙全体とか、恐らく他にもあるだろう異世界とか、全部か? 俺の考えを察したトモノリが、鷹揚に頷いてみせた。
「それは、こちらとしても見過ごせないわね」
パソコンの向こうで浅野が、能面のような表情の分からない顔で、トモノリを見詰めていた。
「あの体験をして、三者三様の進路となったんだ。いずれはかち合っていたさ」
言ってトモノリは軽く肩をすくめる。
「そんな、簡単な問題な訳ないだ……ろ……」
文句の一つもぶち撒けたくて、大声を出そうとしたのに、身体に力が入らなくて、俺はレジャーシートに倒れ込んでしまった。そして襲い来る腹痛。
「ハルアキ!? シンヤも!?」
タカシの声にシンヤの方を見遣れば、シンヤも俺と同じように腹を押さえて苦しんでいた。
「どうやら、ようやく効き目が出てきたみたいだな」
苦しみながら見上げれば、トモノリがこちらを睥睨している。
「何……だと?」
「お前らが食べたメカランは、ちょっと変わった食べ物でな。ああ、大丈夫。毒とかの類いではないから」
いや、この突き刺すような腹痛に滝のような全身の汗。絶対毒だろ?
「ほらあ、あんなの食べるから腹壊すんだよ」
とタカシ。確かにな。あそこで無理して食べる代物でも無かった。何でムキになって食べたのか。ああ、腹壊す時って、大概こう思うんだけど、また賞味期限をちょっと切れたものとか食べちゃうんだよなあ。
「う、う、うわああああああああああああ!!?」
シンヤが腹の痛みに耐えかね、腹を押さえてゴロゴロ転がり始めた。右へゴロゴロ、左ヘゴロゴロ。丘の上の草原を、草を撒き散らしながら転がる。うう。俺も我慢出来ない。
「ああああああああああ!!」
そうやって俺も声を上げて草原を転がる。右へ左へ、または頭を支点に円を描くように転がり、エビのように反らせたり丸まったり、とにかくじっとしていられない。
「うわああああああああああ!!」
「ああああああああああああ!!」
俺とシンヤの二人は丘の上をそこら中転がり回り、腹痛は全身の痛みへと変わり、滝のように吹き出ていた汗は、逆にピタリと止まってしまった。もう汗が出尽くしたのだ。それとともに全身の痛みは引いていき、代わりに倦怠感で身体がズーンと重くなって、指先少しも動かせなくなってしまった。遠くで誰かの声がするが、何を言っているのか聞き取れない。そのまま意識が遠退いていく。
目を覚ました。仰向けになっていた。気絶していた? 何分? 何時間? 魔大陸と言う敵地で、気絶してしまうなんて馬鹿か。いや、馬鹿だからこんな事になったのか。俺は身体を起こそうとするが出来ず、何とかして横を向くと、白い何かの向こうに、ムキムキの筋肉男になっているシンヤがいた。何だあれ?
「おお。ハルアキも起きたか」
「ハルアキ、シンヤが!」
呑気なトモノリに慌てふためくタカシ。
「どう……なっている?」
尋ねる声がカスカスだ。汗で水分を全部取られたからだろう。
「なあに、大丈夫だって。言ったろ?」
「大丈夫……って、シンヤ……普通じゃない……だろ?」
「発現したんだよ。秘めたる力が」
そう口にするトモノリの糸目はシンヤに釘付けで、口角が上がってワクワクしているのが見て取れた。
「秘めたる……力……?」
「ああ。メカランと言うのは、日本語にすると『神の祝福』と言うんだ」
『神の祝福』? つまりシンヤは新しいスキルに目覚めたって事か? …………いや、違うな。
「ギフト……か」
「正解」
当たったからなんだ? いや、ギフトが獲得出来たなら大収穫か?
「何のギフトだ?」
「俺は『空識』を持っていないんでね。正式名は分からんが、これだけ筋肉ムキムキになっているところを見ると、シンヤのギフトはそっち系だろうな」
そうだろうな。シンヤはスキルも『加速』や『怪力』だからな。案外筋肉に並々ならぬ思い入れがあるのかも知れないな。
「俺としては、分かり易いシンヤより、ハルアキのギフトの方が気になるけどな」
とワクワク顔でこちらを見遣るトモノリ。俺のギフトだと? 言われて周囲に気を配れば、俺の周りは俺を中心に真っ白い花畑になっていた。何これ?
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