世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
343 / 638

茶菓子

しおりを挟む
「これ、何?」


 メイドさんによって皆の前に置かれた茶菓子。その茶菓子が載った皿を持ち上げ、目の前で凝視する。黒と青のコントラストがとても美しいのだが、真っ青なゼリーの上に、真っ黒い得体の知れない何かが載っている物体は、食欲をそそるとは言えない。


「メカランだ」


「メカラン?」


 名前を教えられても何だか分からん。俺たちはとりあえず茶菓子は後にして、お茶の方を先に頂く事にした。


 白い陶器で出来た茶器は、周りを金で彩られている。中に注がれているのは、これまた紫色のお茶である。だから何でこんなに食欲のそそらない色のものを出すかなあ。


「あ、でも匂いは甘いですよ」


 とはシンヤの言。確かに匂いを嗅げばほのかに甘い。どこか花を想わせる匂いだ。花だと思えば、口を付けるのもやぶさかではないか。と俺に何かを期待するシンヤとタカシに先んじて、お茶を一口すすってみた。


「どうだ?」


 タカシが不安を喉の奥に隠した声で尋ねてきた。


「う~ん。一口目はほのかに甘い。けどその後にピリピリする渋みが舌に広がる」


「それは何だか美味しくなさそうだねえ」


 俺の意見を聞いて、眉間にシワを寄せるシンヤ。


「そうか? 慣れれば面白いぞ」


 とトモノリはこのお茶をゴクリと飲むと、茶菓子もフォークで一口大に切り分けて口に放り込んだ。


「うん。面白い」


 面白いってなんだよ? 食事に、それも味覚に面白さは求めていないのだが?


 覚悟を決めたのか、シンヤとタカシの二人もお茶を一口飲んだが、やはり口当たりの甘さににっこりした後、ピリピリする渋みに苦い顔をしていた。


「この調子だと、茶菓子も期待出来ないな」


 俺がぼそりとそんな事を言えば、ふてくされた顔をするトモノリ。


「ハルアキが言ったんだろう? 茶菓子用意しろって。いきなりだったからこれでも頑張った方なんだぞ」


「頑張ってこれかよ。王としてどうなんだそれ?」


「魔王なんて戦ってなんぼだからねえ。食なんてどうでも良いんじゃない?」


「食の発展が望み薄なら、トモノリに付くのはなしかな」


 と俺、シンヤ、タカシの三人による散々なけなしっぷりに、トモノリの機嫌が更に悪くなっていく。


「ちょっとあなたたち。いくら相手が魔王トモノリでも、言って良い事と悪い事があるんじゃない?」


 そこに助け船を出してきたのは浅野だった。浅野はモニターの向こうでプリプリ怒っている。が、


「ブリティッシュアフタヌーンティーを楽しんでいるやつに言われても、説得力ないのだが?」


 スコーンを載せる三段トレーまで用意して、かなり本格的なアフタヌーンティーだ。


「食は大事よ。これが楽しめなくなっているようなら、心が病んでいるから休息が必要ね」


 さいですか。俺は浅野とトモノリを交互に見遣る。


「トモノリは良いのよ。食を楽しんでいるんだから。ただ楽しみ方が私たちと違ってしまっただけよ」


 成程。そう言う捉え方もあるか。と全員でトモノリを見ると、


「その、可哀想なものを見るような視線、やめて貰えるかな」


 と肩身を狭くするのだった。


「お、お茶は不評だったけど、茶菓子には自信がある! さあ、食べてみてくれ!」


 直ぐ様復活したトモノリが、俺の前に置かれていた茶菓子を、ぐっと目の前まで持ってきた。


「分かったよ。食べるから目の前に持ってくるなよ」


 俺はトモノリからメカランと呼ばれていた茶菓子を奪い取り、それを切り分け…………切り分け…………切り……分け……、


「硬くねえ!? これ?」


「そうか?」


 首を捻るトモノリ。いや、硬いって。なんか叩くとカンカンって高い音がするし。下のゼリーの部分も硬え。


「本当だ。滅茶硬いんだけど」


 とシンヤやタカシも挑戦するが、逆にシンヤのフォークが少しひしゃげてしまった。


「どんだけ硬いんだよ! もう食べ物の硬さじゃねえよ! 鰹節だってもっと柔らかいよ!」


「そうかなあ?」


 首を捻るな。そして俺たちが苦戦しているメカランを、当然のように切り分けて、口に運ぶな。なんか俺たちが貧弱みたいじゃないか。


「くっ、こうなったら意地でも食べてやる」


 俺はフォークを放り投げ、素手でメカランを掴む。硬え。何だこれ? 感触的には鋼管と同じだぞ? 絶対食べ物じゃない。そう思いながら俺はメカランを口に運んだ。


 噛めない。当然だけど噛めない。これは人の食べ物ではない。舐めてみる。味は……少し塩味があるか? 一旦口から離す。


「どうだ?」


 不安げな顔をしたタカシが聞いてきた。


「なんか、たんぱく質の味だった」


「たんぱく質?」


「ささみかなあ?」


「ささみぃ?」


 俺の発見を聞いて、タカシとシンヤもメカランを舐めてみる。


「ああ、確かに!」


「ささみだ! ささみの味がする!」


 三人して得体の知れない物をペロペロ舐めるのは、何とも情けない図だが。


「あ、これ、下の方はささみだけど、上は牛タンだよ」


 とシンヤが口にしたので、「何!?」となった俺とタカシも、上の黒い部分を舐めてみた。


「牛タンだ」


「うわ、マジで牛タンだ。しかもレモン掛かった味しているし」


 焼肉屋かよ。


「フフッ、どうよ?」


 トモノリは、美味いだろ? と言わんばかりに腰に手を当ててふんぞり返っていた。


「いや、確かに不味くはないが、味的に茶菓子ではないだろ」


 俺の言にタカシとシンヤが頷き、またもトモノリがシューンとする。何この図。そして何だかメカランをペロペロ舐めているのもしんどくなってきた。


 ガリッ!


 俺が出した音に驚き、タカシとシンヤがこちらを見遣る。


「食べられるのか?」


 わななくタカシ。


「アニンを使ってね」


「ああ、そうか。ガイツクールを使えば良かったのか」


 そう言ってシンヤもガリゴリとメカランを食べ始める。


「二人とも、絶対後で腹壊すって」


 とタカシだけはそっと皿にメカランを戻す。


「それで? 本当にこんなピクニックがしたくて来た訳?」


 トモノリが本題に戻そうと俺に話を振ってきた。


「…………なあ、トモノリ。こう言う馬鹿みたいな日常が、ずっと続けば良いのに。とは思わないか?」


「思わないね」


 即答かよ。となると、ここからの駆け引きでどれだけ情報を引き出せるかって方向にシフトしないとなあ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

最強剣士異世界で無双する

夢見叶
ファンタジー
剣道の全国大会で優勝した剣一。その大会の帰り道交通事故に遭い死んでしまった。目を覚ますとそこは白い部屋の中で1人の美しい少女がたっていた。その少女は自分を神と言い、剣一を別の世界に転生させてあげようと言うのだった。神からの提案にのり剣一は異世界に転生するのだった。 ノベルアッププラス小説大賞1次選考通過

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

処理中です...