世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
340 / 638

南国

しおりを挟む
 青い空、青い海、ギラつく太陽。やってきましたガーシャン! いや、南国かよ! パジャン天国の国土の広大さに驚く。冬なのに俺、いつものつなぎの上を脱いで半袖なんですけど?


「お前のモノローグは知らんが、何で俺まで連れてこられているんだ?」


 タカシはのりが悪そうだ。砂浜と海岸が半々で混ざった独特の地形をしているガーシャン海岸を前にして、うんこ座りはどうなんだ?


「半眼で見るんじゃない。肩をすくめて顔を左右に振るな」


「まあまあ。文句もそのくらいにして」


 シンヤが俺とタカシの仲を取り持ってくれた。流石勇者だ。


「なんか、くだらない理由で感心された気がするんだけど」


「ハルアキはいつもくだらない事しか考えていないだろ」


 俺の人物評酷くない?


『当たっていると思うが?』


 アニンまで!? 泣くぞ!


「それで? バイト帰りに拉致ってまでここに連れてきた理由を教えて貰おうか?」


「半眼で睨むなよ」


 俺の意趣返しが気に入らなかったらしく、タカシの眉間のシワが濃くなった。


「まあまあ。でもボクも教えて欲しいな。この街で魔王と会談をするのは半年後だよね? 今来る理由って何? 下見とか?」


 優しいシンヤは、俺たちの間に立って疑問を口にする。ガーシャンの街では既に物資搬入が始まっていて、街は賑わっているが、武器や銃器を携帯した人間が歩き回っていたり、高台に電波塔らしきものが立っていたり、雰囲気の裏に魔王戦へ向けての物々しさを感じられた。


「それもある。どんなところで会談が行われるのか、一度見ておきたかったのは確かだな」


「『それも』って事は、それ以外にも目的があるんだ?」


「暇だったから」


「へ?」


 俺が理由を口にすると、二人は鳩が豆鉄砲を食らったかのように目を点にして驚いた。受ける。そして数秒遅れで顔を真っ赤にするタカシ。


「お前、暇とかそんな理由で異世界まで友達連れてくるなよ!」


「暇じゃなかったら、こんなご時世に友達を異世界まで連れてこれないよ」


 タカシが歯ぎしりしておる。受ける。


「ハルアキ、本当の理由をちゃんと説明してよ」


 おっと、シンヤも少しイライラし始めているな。シンヤは怒らせるとタカシより怖いからなあ。まあ、ちゃんと理由を説明しますか。


「暇だ。って言うのは、本当に理由の一つなんだよ」


「ハルアキ……」


 文句を言いたそうなタカシを手で制する。


「さっきも言ったけど、俺とシンヤはこれから魔王戦に向けてレベリングをしないといけないから、本当に今だけが暇なんだ。それに異世界と地球の行き来に関しても、これからもっと規制が厳しくなるみたいだし、俺たち三人がこうやって異世界で顔を合わせられるのも、最後かも知れない」


「ハルアキ……」


 うんうん。そのなんとも言えないしんみりした顔。予想通りで受ける。


『ハルアキ、南国にやってきて気分がハイになっているな?』


 あはは、確かにそうかも。おっと、肝心な事を話しそびれるところだった。


「それでさ、どうせならもっと人数多い方が良いと思わないか?」


「へ?」


「それって?」


 二人の頭に疑問符が浮かんだところで、俺はくるりと180度反転して、青い海を、いや、その先にある魔大陸を見据える。


「ト~モ~ノ~リ~く~ん!! あ~そ~ぼ~!! おら! トモノリ! 今からそっち行くから、茶菓子用意して待っとけ~!!」


 いやあ、全力で叫ぶと心の中まで吐露するみたいでスッキリするなあ。若干街の人たちの視線が痛いけど。


『ハルアキはそれでスッキリしたかも知れないが、お友達は急展開についていけずに固まっているぞ?』


「ありゃりゃ。お~い、大丈夫かあ?」


 俺の声掛けにハッとする二人。


「ちょ!? ちょっ、ちょっ、本気か?」


「本気です」


 にっかりダブルピースをすると、また固まる二人だった。



「なあ、落ちないよなあ? これ落ちないよなあ!?」


 毎度の如く手を籠にして、その中にタカシを放り込んで魔大陸へと羽ばたいているのだが、なんだろう? 既視感がある。あ! あれだ。トホウ山に行く時のゴウマオさんがこんな感じだった。


「落ちないよ」


「本当か? 本当だろうな!?」


 この状況で友達を疑うってどう言う事? いっそ落としてやろうか?


「シンヤ! 笑っているんじゃねえよ! こっちは真剣なんだぞ! ああ、こんな事ならシンヤの雲にしておけば良かった!」


 こちらと並走するように飛ぶ雲に乗るシンヤは、怯えるタカシの姿が余程面白いのだろう。ずっと口元を抑えてくすくすと笑っている。


「じゃあ、今からでもシンヤに乗せて貰うか?」


 と俺がシンヤの方に寄ると、


「いや、待て。確か筋斗雲って心が綺麗じゃないと乗れないんじゃなかったっけ?」


 などと言い出す始末。どこのドラ◯ンボールだよ? もうその設定を覚えている人間の方が少ないよ。それに大丈夫だ。こっちの飛行雲は外道仙者から仕入れた物だから、タカシの心がどれだけ汚れていようと雲から落ちる事はない。


「あ、でもレベル制限とかあったら落ちたりするのかな?」


「ああ、あるかもね」


「ほらあ! そう言うのあったりするんじゃん!」


 喚き散らすタカシだった。



 ひとしきり喚き散らしてタカシが静かになったところで、前方に何かの影が見えてくる。魔大陸ではない。魔大陸はそれ以前から見えていたからだ。もっと黒い雲で大陸全体が覆われているかと思っていたが、案外普通の大陸っぽいので、逆に驚いた。


 そうではなく、俺たちの前方に現れたのは人影だ。空だと言うのに、人影が宙に浮いている。まあ、魔大陸なら十中八九魔族なんだろうけど。


 さて、どうしたものか。とシンヤと顔を見合わせる。俺の手の中にはタカシがいるので、戦闘は避けたいところだ。ここは二手に分かれて煙に巻くかな? でもそうなると前方の人影にこっちが追いかけ回されるパターンが思い付いちゃうんだよなあ。などと思案していると、前方の人影から声を掛けられた。


「遠路はるばるようこそおいでくださいました。魔王様はお三名様の訪問を心より歓迎なさっておいでです」


 やんわりとした女性の声だった。速度を落とし、ゆっくりと人影に近付いていくと、その風貌が見て取れた。黒いローブに黒いマント、頭には三角帽子。眼鏡を掛けた黒髪三つ編みの女性で、ほうきの上に直立している。


「私は案内を務めさせて頂きます、魔女のロコモコと申します」


 いやはやなんともクラシカルな魔女もいたものだ。そして魔族じゃなかった。そして名前が美味しそうだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

処理中です...