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観た事ある
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玄関の向こうでインターホンを覗き込む美少女。初めて会うはずなのに、見た事がある気がする。どこだっただろうか? などと逡巡しない。
確かにモニターの向こうの女性は黒いエナメルのワンピースを着こなし、白金色のサラサラヘアーにコバルトブルーの瞳の美少女だが、頭にちょっと大きな角の付いたキャスケットのような帽子を被った知り合いは俺にはいない。俺は静かにインターホンのモニターを切った。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!
「うるさいな!」
「ちょっと! 切らないでよ!」
バレたか。しかし可愛い声をしている。どこかで聞いた声だ。どこだっけなあ。少し探るか。
「すみません、ウチ、訪問販売お断りなんで、他所に行ってください」
「そんな古典芸能みたいな事しないから!」
「なんですか? あなたなんて知りませんけど?」
「そんな事言って、この顔! そしてこの角! 見覚えあるんじゃないの?」
ぐっ、確かにどこかで見た覚えはあるのだが、どこだったか思い出せない。記憶力は良い方だと思っていたのだが。などと思っていると、相手の美少女はちょっとモニターから遠ざかり、自己紹介を始めた。
「はーい! みんなこんエル! 地球を征服する為に、はるばる魔界からやって来た、魔界を統べるみんなの王様! L魔王ちゃまだぞっ!」
モニターを切った。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!
「だからうるさいって!!」
「だからなんで切るのよ!」
「ちっ」
「舌打ち聞こえているわよ」
う~む。成程なるほどナルホド。L魔王ね。武田さんがカロエルの塔でジェランと話していた…………いやおかしいだろ? L魔王ってあれだろ? バーチャル動画配信者のL魔王だろ? え? え? え? ここ、現実世界なんですけど? メタバースじゃないんですけど? バーチャル動画配信者って、CGで描画されたアバターを操作して動画配信をしている人の事で、決して自ら動画に出演している訳じゃないだろう。あくまでバーチャルのはずだ。
「存在がメタ過ぎて引く」
「引かないでよ!」
自称L魔王を部屋に上げてみた。ミウラ嬢とアネカネは覚えがないようだったが、タカシと小太郎くん、百香は、なんとも言えない微妙な顔をしていた。魔王とリビングで卓を囲むなんてなんか変な感じだ。
「L様だよな?」
隣りのタカシが耳打ちしてくる。
「自称バーチャル動画配信者と同姓同名を名乗るコスプレイヤーの可能性は否定出来ないな」
「ちょっと、聞こえているわよ! ヒソヒソ話はもっと小声でやりなさいよ!」
出された紅茶で一息吐いた自称L魔王は、ビシッと俺を指差し注意してくる。
「でないと~、この地球を滅ぼしちゃうぞ!」
ウインクされた。可愛い。横でタカシが「おお!!」と声を上げている。声こそ上げていないが、小太郎くんも百香もほんのり頬を染めている。それくらい破壊力があった。そして自称L魔王は、一仕事終えたと俺が明日食べようと残しておいたフルーツタルトを一口食べて、「うう~ん」と喜んでいる。
「やっぱり本物なんじゃないか?」
確かに、今の台詞はL魔王の代名詞で俺でも知っている。それに声も顔も本人そのものなのだ。良く鍛えられたコスプレイヤーだ。
「だからコスプレイヤーじゃないってば!」
「心を読んだだと!?」
バーカ、バーカ、おたんこナス。
「誰がおたんこナスよ! って言うかあなたさっきから言葉のチョイスが古いわよ!」
ツッコミキレキレだな。
「そうでしょう。私はツッコミもボケも両方できるからね」
「で? 何者なんです? あなた」
「だからL魔王だって……」
「種族を聞いているんですよ。地球人じゃあないんでしょう? まさか本当に魔界から来た魔王だと?」
「ああ、ウソウソウソ、それはキャラ付けだから、本当の種族じゃないわ」
そう言ってL魔王は手をパタパタさせて魔王である事を否定する。
「じゃあ……」
「私の本当の名前はエルベルゼエル。あなたたちが天使と呼ぶ存在よ」
成程、天使だったのか。
「いやそれも信じられないんだけど」
「なんでよ! ハルアキなんて私含めて三回も天使に会っているじゃない! 私が天使である事くらい信じられるでしょう?」
会った事があるのと、信じる信じないは別問題だと思うけど。
「ええ!? はっ、ちょっと、あなたが変な発言をしたせいで、周りの子たちまで私を疑い始めちゃったじゃない!」
そう言われてもな。多分初めから疑っていただろうし。
「ぐぬぬ……」
そんな声を漏らしながら顔を真っ赤にするL魔王。可愛い。何やっても可愛いなこの人。
「ふふん。そうでしょう」
「…………何で天使がバーチャル動画配信者なんてやっているんですか?」
「趣味だけど?」
質問したら逆に小首を傾げられて返された。いちいち可愛いな。
「はあ、まあ、あなたがスキルなり魔法なり能力なりを持っていて、俺たちの居場所を突き止めてやって来た。と言うのは状況から推測出来ますけど、何しにやって来たんですか?」
流石に、殺しに来た。と言う事はないだろう。このマンションでも上階にある俺の部屋まで、俺たちに気付かれずにやって来た手練れだ。暗殺ならもっと巧くやるだろう。それがわざわざ顔を晒す理由が分からない。
「そうね。まずは目的から話しましょう」
言って横座りから正座に直るL魔王。それが手慣れている事から、この人が長年日本で生活しているのが感じられた。今はそんなのどうでも良いか。
「……私の目的は、あなたたちに魔王ノブナガを討ち倒して貰うお願いと協力に来たのよ」
「魔王ノブナガの打倒のお願いと協力ですか?」
思わず聞き返した俺に首肯で返すL魔王。
「え? それっておかしくない? 上位世界の天使は、今回の事には不干渉なんじゃないの?」
疑問を呈したのは百香だ。
「いや、ハルアキの説明だと、天使にも色々派閥があるらしいからな。こちらのL魔王さんは別の派閥なんだろう」
小太郎くんの説明に、L魔王が首肯すれば、百香とタカシも得心がいったらしく深く頷いてみせた。
「それで、どうして俺たちに魔王ノブナガを倒して欲しいんですか? そちらにメリットが? それともデメリットをなくす為に?」
俺が尋ねると、L魔王は一度視線を下に落としてから、いっそう真剣な眼差しでこちらを見詰めてくる。
「どちらかと言われればデメリットをなくす為ですね。それは私や同族、そして地球に住むあなた方の、です」
「我々の?」
「はい。もし魔王ノブナガが向こうの世界を手に入れれば、その影響はこちらにまで及び、地球は消滅する事となるでしょう」
穏やかじゃないなあ。いや、魔王が出てくる問題が、穏やかに済むはずもないか。
確かにモニターの向こうの女性は黒いエナメルのワンピースを着こなし、白金色のサラサラヘアーにコバルトブルーの瞳の美少女だが、頭にちょっと大きな角の付いたキャスケットのような帽子を被った知り合いは俺にはいない。俺は静かにインターホンのモニターを切った。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!
「うるさいな!」
「ちょっと! 切らないでよ!」
バレたか。しかし可愛い声をしている。どこかで聞いた声だ。どこだっけなあ。少し探るか。
「すみません、ウチ、訪問販売お断りなんで、他所に行ってください」
「そんな古典芸能みたいな事しないから!」
「なんですか? あなたなんて知りませんけど?」
「そんな事言って、この顔! そしてこの角! 見覚えあるんじゃないの?」
ぐっ、確かにどこかで見た覚えはあるのだが、どこだったか思い出せない。記憶力は良い方だと思っていたのだが。などと思っていると、相手の美少女はちょっとモニターから遠ざかり、自己紹介を始めた。
「はーい! みんなこんエル! 地球を征服する為に、はるばる魔界からやって来た、魔界を統べるみんなの王様! L魔王ちゃまだぞっ!」
モニターを切った。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!
「だからうるさいって!!」
「だからなんで切るのよ!」
「ちっ」
「舌打ち聞こえているわよ」
う~む。成程なるほどナルホド。L魔王ね。武田さんがカロエルの塔でジェランと話していた…………いやおかしいだろ? L魔王ってあれだろ? バーチャル動画配信者のL魔王だろ? え? え? え? ここ、現実世界なんですけど? メタバースじゃないんですけど? バーチャル動画配信者って、CGで描画されたアバターを操作して動画配信をしている人の事で、決して自ら動画に出演している訳じゃないだろう。あくまでバーチャルのはずだ。
「存在がメタ過ぎて引く」
「引かないでよ!」
自称L魔王を部屋に上げてみた。ミウラ嬢とアネカネは覚えがないようだったが、タカシと小太郎くん、百香は、なんとも言えない微妙な顔をしていた。魔王とリビングで卓を囲むなんてなんか変な感じだ。
「L様だよな?」
隣りのタカシが耳打ちしてくる。
「自称バーチャル動画配信者と同姓同名を名乗るコスプレイヤーの可能性は否定出来ないな」
「ちょっと、聞こえているわよ! ヒソヒソ話はもっと小声でやりなさいよ!」
出された紅茶で一息吐いた自称L魔王は、ビシッと俺を指差し注意してくる。
「でないと~、この地球を滅ぼしちゃうぞ!」
ウインクされた。可愛い。横でタカシが「おお!!」と声を上げている。声こそ上げていないが、小太郎くんも百香もほんのり頬を染めている。それくらい破壊力があった。そして自称L魔王は、一仕事終えたと俺が明日食べようと残しておいたフルーツタルトを一口食べて、「うう~ん」と喜んでいる。
「やっぱり本物なんじゃないか?」
確かに、今の台詞はL魔王の代名詞で俺でも知っている。それに声も顔も本人そのものなのだ。良く鍛えられたコスプレイヤーだ。
「だからコスプレイヤーじゃないってば!」
「心を読んだだと!?」
バーカ、バーカ、おたんこナス。
「誰がおたんこナスよ! って言うかあなたさっきから言葉のチョイスが古いわよ!」
ツッコミキレキレだな。
「そうでしょう。私はツッコミもボケも両方できるからね」
「で? 何者なんです? あなた」
「だからL魔王だって……」
「種族を聞いているんですよ。地球人じゃあないんでしょう? まさか本当に魔界から来た魔王だと?」
「ああ、ウソウソウソ、それはキャラ付けだから、本当の種族じゃないわ」
そう言ってL魔王は手をパタパタさせて魔王である事を否定する。
「じゃあ……」
「私の本当の名前はエルベルゼエル。あなたたちが天使と呼ぶ存在よ」
成程、天使だったのか。
「いやそれも信じられないんだけど」
「なんでよ! ハルアキなんて私含めて三回も天使に会っているじゃない! 私が天使である事くらい信じられるでしょう?」
会った事があるのと、信じる信じないは別問題だと思うけど。
「ええ!? はっ、ちょっと、あなたが変な発言をしたせいで、周りの子たちまで私を疑い始めちゃったじゃない!」
そう言われてもな。多分初めから疑っていただろうし。
「ぐぬぬ……」
そんな声を漏らしながら顔を真っ赤にするL魔王。可愛い。何やっても可愛いなこの人。
「ふふん。そうでしょう」
「…………何で天使がバーチャル動画配信者なんてやっているんですか?」
「趣味だけど?」
質問したら逆に小首を傾げられて返された。いちいち可愛いな。
「はあ、まあ、あなたがスキルなり魔法なり能力なりを持っていて、俺たちの居場所を突き止めてやって来た。と言うのは状況から推測出来ますけど、何しにやって来たんですか?」
流石に、殺しに来た。と言う事はないだろう。このマンションでも上階にある俺の部屋まで、俺たちに気付かれずにやって来た手練れだ。暗殺ならもっと巧くやるだろう。それがわざわざ顔を晒す理由が分からない。
「そうね。まずは目的から話しましょう」
言って横座りから正座に直るL魔王。それが手慣れている事から、この人が長年日本で生活しているのが感じられた。今はそんなのどうでも良いか。
「……私の目的は、あなたたちに魔王ノブナガを討ち倒して貰うお願いと協力に来たのよ」
「魔王ノブナガの打倒のお願いと協力ですか?」
思わず聞き返した俺に首肯で返すL魔王。
「え? それっておかしくない? 上位世界の天使は、今回の事には不干渉なんじゃないの?」
疑問を呈したのは百香だ。
「いや、ハルアキの説明だと、天使にも色々派閥があるらしいからな。こちらのL魔王さんは別の派閥なんだろう」
小太郎くんの説明に、L魔王が首肯すれば、百香とタカシも得心がいったらしく深く頷いてみせた。
「それで、どうして俺たちに魔王ノブナガを倒して欲しいんですか? そちらにメリットが? それともデメリットをなくす為に?」
俺が尋ねると、L魔王は一度視線を下に落としてから、いっそう真剣な眼差しでこちらを見詰めてくる。
「どちらかと言われればデメリットをなくす為ですね。それは私や同族、そして地球に住むあなた方の、です」
「我々の?」
「はい。もし魔王ノブナガが向こうの世界を手に入れれば、その影響はこちらにまで及び、地球は消滅する事となるでしょう」
穏やかじゃないなあ。いや、魔王が出てくる問題が、穏やかに済むはずもないか。
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