世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
306 / 639

共通

しおりを挟む
 俺とシンヤがトドメを刺したドミニクが、砂になって崩れ落ちた。一瞬、また逃げられたのではないか、と周囲を窺うが、バヨネッタさんたちが平然としている事から、これが本当にドミニクの最期だったのだ。と腑に落ちた。


 砂になって崩れ落ちるなんて、本当に人間じゃなくなっていたんだな。と何か虚しさが心に風を吹かせたが、元々こいつとはスタート地点から違うんだった。と思い直した。同情の入る余地はないか。


『おめでとう戦士たちよ』


 壁に埋め込まれた天使カロエルが、するりと壁を抜け出し、床に着地する。その行為に身構え武器を取る俺たち。


『大丈夫です。私にあなたたちと交戦する意思はありません。むしろこの環境から解放して下さった事に、感謝さえしていますよ』


 その微笑はドミニクを思わせるもので、成程、姉弟らしいと感じさせた。そしてそれが胡散臭さに通じる。


「感謝、ねえ?」


 それはバヨネッタさんも同様のようで、後ろから聞こえる声音は、それをマジマジと感じさせた。


『ええ。ですから、あなた方地球人には、そのお礼をしなければなりませんね』


「お礼? あなたの弟を殺した我々に?」


 俺の言葉に、しかしカロエルは微笑のまま頷く。


『先程の話を聞いていたでしょう? あのドミニクは私の弟ではありません。弟が使っていたアバターに、私が用意した人工魂を埋め込んで動いていた偽物です』


「あなたが用意したと言う事は、あなたの目的の為に用意したと言う事でしょう? ならドミニクが倒されたのはあなたの目的が潰されたも同義。やはり感謝されるいわれはないわね」


 バヨネッタさんの言葉に俺も同意だ。


『いえいえ、私としてはどちらでも良かったのですよ、ドミニクがこの地球を統一しても、あなた方がドミニクを討ち倒しても。結果として私がする事は地球のステージを上げる事ですから』


「ならあなたはやるべき事をやるだけで、私たちに感謝している訳じゃあないじゃない」


 全くだ。


『バレました? まあ、私としては意外な結果ではありました。この地球であれば、私が用意したドミニクはほぼ無敵でしたから、外宇宙や異世界からの侵攻でもなければ、何であれドミニクによる地球統一は果たされ、地球はそれをベースに新たなるステージへと進む。と考えていましたから』


 そうなのか。異世界はバヨネッタさんたちの世界がある事から、その存在は確定しているけど、外宇宙云々と口にすると言う事は、宇宙人が存在すると言っているも同義だ。こんな場面だから顔には出さないが、テンション上がるな。


『なので、あなた方が私の感知しないところで、異世界と関わりを持ち、独自に交流を築いて、知らぬ間にレベルアップまで果たして私の前に現れたなんて、運営に携わる者としては、大喜びですよ』


「大喜び? それこそ意外だな。運営なら、知的生命体が無軌道な進化をしないように監視して、俺たちがあらぬ方向に進化しようとしたら、その強大な力で滅亡させるものだと思っていたけど?」


 俺の言葉に、しかしカロエルはキョトンとした顔を向ける。


『ふふふ。そう言った作品がお好きなのですか?』


 カロエルに笑われて、俺は顔が熱くなるのを感じた。確かに今の発言には俺の趣味が含まれていたかも知れない。


『まあ、ただ、あなたのおっしゃられる事もまるで的外れではありません。我々運営も一枚岩ではありませんから。望まぬ進化に一定の制裁を下す勢力はありますけど、どちらかと言えば、それはプレイヤー側の方が多いと思われますね』


 成程、確かに。ゲームのリセマラみたいに、自分の好みの進化をしなかった時に、それをリセットする輩がいる訳か。それは納得だな。


「お~い! なんか話しているけど、戦いは終わったのか!?」


 とそこに、礼拝堂の階段から、武田さんとジェランが顔を覗かせてこちらを窺っていた。


「はい! こちらの勝利です! 何かあったんですか!? 武田さん!」


 下手をすればここも戦場となっていたはずだ。そんな危険地帯に、ジェランとともにやってくるとは、余程緊急性の高い『何か』でもあったのだろうか?


「そうか、それでか」


「はあ……?」


「そっちのお姉さんは天使様か?」


「はい、そうですけど?」


 俺からカロエルが天使だと聞いた武田さんは、自らカロエルの前に進み出ると、その足下へひざまずいた。そう言えばこの人、生前はモーハルドの勇者だったんだ。天使とか信仰の対象だもんな。


「それで? 何かあったんですか?」


 長時間跪礼きれいを続ける武田さんに、痺れを切らした俺が尋ねる。


「ああ、いや、第五階層の研究室のモニターで、外の様子を見たら、空の『聖結界』が消えていたからな。それに第六階層のカメラは壊れて何も見えなくなっているしで、慌ててこっちに来たんだけど、第六階層、地獄みたいになっていたな。まあ、ドミニクを倒したんなら良いけどな」


「待ってください。空の『聖結界』が、消えていたんですか?」


「え? ああ。工藤が戦いの決着が付いたから、消したんじゃないのか?」


「俺はそんな事していません」


 ぞわりと悪寒がして、背中を冷や汗が流れる。


 パチパチパチパチパチ…………


 そこに鳴り響く拍手の音。全員の視線がそちらへ向くと、何者かが礼拝堂の壁に寄り掛かり、拍手していた。


「いやあ、お見事だとここは褒めておくよ。まさかドミニクを倒してしまうとはね」


 声音は男。身体は金糸銀糸を使った華やかでゆったりした服装に身を包み、その顔は中国の京劇を思わせる独特の仮面で覆われている。さっきまでまるで気配を感じなかったと言うのに、今ではこの男が放つ魔力の強さだけで気分が悪くなりそうだ。


 だが、そんな事は俺にはどうでも良かった。いや、俺とシンヤには、と言い換えた方が良いだろう。シンヤに目配せすれば、シンヤも目で頷き返してきた。やっぱり、この声で気付くよな。俺とシンヤが知る共通の友達、魔王トモノリだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

処理中です...