世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
299 / 638

魂と肉体

しおりを挟む
「しかし、こんな事まで教えてくれて良かったんですか?」


 敵ながらジェランの身の心配をしてしまった。


「どうせお前らはここまでだ。ドミニクに勝つ事は無理だろう。お前らが負ければ俺たちの世界が樹立し、負けたお前らは永久生の世界で永遠の責苦を受け続けるのだ」


 それはそうなる……のか?


「今更ながらドミニクが俺たちを『蘇生』させるってところはピンと来ないんですよねえ。アンゲルスタであれば、何かしらドミニクとの繋がりがあるのは理解出来ますけど、俺たちは現在は敵で、関係性としては対岸って感じですしね。永久生の世界になっているならともかく、今現在の俺たちは、死んだらそこまでなのでは?」


 からくりが分からん。


「そうね。そもそも、生物は物質的な肉体だけで存在しているのではなく、魂と言うものが存在しているわ。生物の魂は、肉体が死ぬと朽ち果てて地に還るように、その魂も昇華して天に還ると言われているの」


 説明をし始めたのはバヨネッタさんだ。魂ねえ。人は死ぬと二十一グラム軽くなるそうだ。それが魂の重さだと何かで見た記憶がある。


「つまり天国に行くって話ですか?」


「違うわ」


 違うんだ。


「肉体が地に還るようにと言ったでしょう? 天に昇って世界に溶けて、その一部となるのよ。しかも肉体が朽ちるより速い速度でね」


 そう言う感じなのか。


「それだと、益々『蘇生』が難しそうですね」


 俺の言に首肯するバヨネッタさん。魂は魂として、百年とか千年とかそのままなのかと思っていたけど、肉体より先に魂が消えるのか。


「早ければ一日もすれば魂なんて残っていないわ」


 そんなに早いのか。バヨネッタさんやゼラン仙者が、死者蘇生は無理だと言っていた理由がこれか。


「じゃあ、それこそドミニクはどうやって死者を蘇らせているんでしょう?」


「可能性としては、人造魂を死体に入れて、生き返ったように見せ掛けている場合ね」


「そんな事してもすぐバレるんじゃないですか?」


「それが意外とバレないのよ。記憶や性質は確かに魂や外界の影響を受けて、肉体から発露するものだけれど、結果としてその影響を受けた肉体に固着するのよ」


 魂がハードで肉体がソフトなのか。俺がイメージしたのはレコードだ。魂は録音の出来るレコードプレイヤーで、肉体はレコード盤。外界からの刺激は魂と言う針によって記憶や性質が肉体に刻まれ、レコードプレイヤーが駄目になっても、別の人造魂レコードプレイヤーでも再生可能なのだ。


「つまり良く出来た人造魂であれば、周囲にバレずに生前の人間と変わらない生活を送る事も可能だと?」


 首肯するバヨネッタさん。ゼラン仙者を見ても、どうやらその線でドミニクを疑っているように見える。


「どうやら面白い話をしているみたいだが、ハズレだ」


 ジェランが呆れたような視線でこちらを見ていた。


「ハズレですって? あなたにそれが言い切れるの?」


 バヨネッタさんは持論を否定されて、少し感情的に反論したが、対するジェランはいやらしく口角を上げる。


「人造魂なんて面白そうな研究に、ボクが一枚噛まずに外から眺めているだけだと思うかい?」


 成程、説得力が違う。この男に秘密にしてドミニクが人造魂を使っているとも考えられるが、だったらそもそも『搾取』なんてスキルを授けて、こんなところで非人道的な研究をさせている理由も謎になってくるな。


「じゃああなたは、ドミニクがどうやって死者を蘇らせているのか、しっかり説明出来るんですね?」


 俺の問いにジェランは鷹揚に首肯した。それに対してバヨネッタさんとゼラン仙者の目が光る。


「その話、聞かせて貰おうじゃない」


 バヨネッタさん、圧が凄いっス。研究者目線で気になるのは分かりますけど。


「魂のプールさ」


「魂のプール? ですか?」


 何それ? 新しいワードが出てきて、思わず一同で首を傾げてしまった。


「このカロエルの塔には、魂を魂のまま貯蔵しておく為の施設があるんだ。それが魂のプールだ」


 そうなんですか? と思わず一同でさっきの反対側に首を傾げてしまった。


「お前ら、正規ルートが封鎖されているから、この階に来るまで、外階段で上ってきたんだろ?」


 その通りです。と俺は首肯する。


「長いと思わなかったか?」


 思いました。


「外階段の始まる第三階層と、この第五階層の間にある第四階層が魂のプールだ。あそこには、アンゲルスタ信奉者か、このカロエルの塔で死んだ人間の魂が、自動的に貯蔵されるように設計され、ドミニクは任意にその魂のプールから、死者の魂を復活させる事が可能なのさ」


 成程、ドミニクの『蘇生』は、このカロエルの塔あっての代物なのか。


「ドミニクは将来的にこの地球上の人間全てを、永久生の世界に住まわせるつもりなんでしょう? この塔一つで、地球上の人間全てを賄えるんですか?」


「いや、この戦いが終われば、新たに塔を建立する事になるだろう。もしかしたらお前らの魂は、永遠の責苦ではなくこちらに使われるかもな」


 どう言う事?


「魂が持つ魔力量やエネルギーと言うのは、それだけ膨大なのよ。ましてやここには魂のプールなんてものがあるらしいしね」


 とバヨネッタさんの言。そうなのか。しかしそうなると、この地に生きる無辜の人々の魂も使われると言う事だ。それは許されるものじゃないだろう。


 しかしカロエルの思惑が分からないな。何故魂のプールなんてものがあるこの塔を、この地に建てる事を許可したのか。いくらドミニクがプレイヤーキャラクターだとしても、優遇し過ぎじゃなかろうか。


「カロエルがこの地に隕石を落としたと言う事に、裏を感じるわね」


 バヨネッタさんが邪推するのも分かる。ドミニクが上位存在のプレイヤーキャラクターだとしたら、その上位世界で運営である天使カロエルと接触し、意図的にこの地に隕石を落とし、アンゲルスタと言う国家の樹立を演出した。なんて事も考えてしまう。でもそれをして、天使カロエルに何の利があるんだ? いや、今それを語ってもただの妄想の域を出ないか。もう少し建設的な話をしよう。


「この塔、壊せないんですよね?」


 バヨネッタさんが首肯する。う~ん、となると、ランドロックやらティカやらが復活している可能性が……、いや、ティカはともかくランドロックは肉体が消滅しているんだった。


「もしかして『複製』のスキル持ちがいるのか」


「それか『復元』でしょうね。魂を自由に出来るのなら、魂から肉体を『復元』する事も可能でしょうから」


 とバヨネッタさん。それに対してジェランが鷹揚に頷いてみせる。どうやらバヨネッタさんの方が当たりらしい。


「これは、上階に行ったら、今までの敵が全員集合しているパターンですかね?」


「…………」


 皆して黙らないで。はあ、気が重くなる。ドミニクだけでも相手するの面倒臭そうなのに、倒したそばから復活する軍隊を相手にするとか、考えただけで辟易するな。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

最強剣士異世界で無双する

夢見叶
ファンタジー
剣道の全国大会で優勝した剣一。その大会の帰り道交通事故に遭い死んでしまった。目を覚ますとそこは白い部屋の中で1人の美しい少女がたっていた。その少女は自分を神と言い、剣一を別の世界に転生させてあげようと言うのだった。神からの提案にのり剣一は異世界に転生するのだった。 ノベルアッププラス小説大賞1次選考通過

処理中です...