世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
287 / 638

第二階層?

しおりを挟む
 上階に着くと、そこは薄暗い教会の中だった。大聖堂と呼んで差し支えない大きさの、伽藍堂がらんどうとした場所で、壁面や天井は天使の絵で彩られていた。


「誰もいませんね?」


 俺たちが上に上がってきた事は、アンゲルスタも知っているだろうに、何も仕掛けてこないのが、逆に怖く感じるな。そう思ったのも一瞬だった。


「囲まれているわね」


 バヨネッタさんの言に首肯する。全合一で鋭敏になった共感覚が、この大聖堂を囲むように、魔物たちが配置されてるのを感じ取ったのだ。


「倒さないと駄目、ですかね?」


 こんな場所で魔物たちの相手をしている暇はないのだ。出来ればさっさと上階に進みたい。


「駄目だろうな」


 俺の呟きに返答してくれたのは、武田さんだった。


「どうやらこの階段は、この階までしか来れない仕様らしい。次の階に行きたいなら、他の階段を探す必要があるようだ」


 その答えに溜息が出る。


「何でそんな面倒臭い仕様になっているんですか?」


「自陣を敵軍が攻め難いように作るのは当然だろう」


 とゼラン仙者に言われてしまった。それは全くその通りなのだろう。これを聞いて俺が思い出したのは、テレビ局は複雑な造りをしていると言う話だ。何でもテロなどで悪用されないように、入り組んだ造りにされているのだとか。まあ、テレビ局に行った事がないから、本当かどうかは分からないが。


「じゃあ、出ますか」


 俺たちは何を恥じる事もないので、通路を通って大聖堂の正面入口から堂々と出る事にした。


「それにしても、何で俺たちごとここを壊さないんですかね?」


 その方が手っ取り早く俺たちを始末出来ると思うのだが。


「壊さないんじゃなく、壊せないのよ」


 と横のバヨネッタさんが口にする。


「壊せない、ですか?」


「階段で上階と下階が繋がっていると言う事は、この塔は初めからそう言った仕組みで作られているのよ。だからこの建物も階段も塔の一部で、壊せば塔自体に深刻な影響を与えかねないんでしょうね。だから壊せない」


 成程。


「つまり、俺たちがこの階で探すべき場所は、この大聖堂と同じように、魔物たちが襲ってこない、壊そうとしない場所。と言う事ですね」


 バヨネッタさんが首肯する。どうやら合っているようだ。それなら簡単だろう。そう思って俺は、ヤスさんとサブさんが開いた扉から外へと出た。


「何だこりゃ?」


 俺の考えが甘かった。塔内部だから、広さはそれ程でもないだろうと軽く見ていたのだが、俺の視界に飛び込んできたそれは、そこらの街と変わらない街並みだった。塔内部だと言うのにビルが建ち並び、上を見上げれば夜空まであり、天頂には月まで見える、何ここ、別世界かな? 下手すれば外の街と同じくらい広いぞ。マジか!? だとしたら直径十キロメートルはある事になる。


「ギシャアッ!!」


 が、そんな事に現を抜かしている場合ではなかった。空からガーゴイルのような、背中に羽根を生やした悪魔のような魔物が、早速襲い掛かってきたからだ。それだけではない。地上は数々の魔物たちで埋め尽くされ、俺たちが出てきたのを、待ってました! と言わんばかりによだれを垂らして押し寄せてくる。


 だがそれは俺たちにとっては物の数に入らない。鎧袖一触とは正にこの事を言うのだろう。皆が皆、己の武器でもって魔物たちを蹴散らしていく。


「『粗製乱造』で増やした魔物たちですかね」


「そうだろうな。いくら倒しても、経験値が入らない」


 そう愚痴をこぼすのは武田さんだ。


「いや、武田さん、俺の後ろに隠れて戦っていないじゃないですか」


「今の俺に戦闘力を期待するな!」


 それはそうなんですけど。


「ハルアキ! セクシーマンの世話は勇者たちに任せて、私たちは空から次の階段を探すわよ!」


 バヨネッタさんに命令されては断る訳にはいかない。俺はしがみつく武田さんを振り払い、バイバイすると、アニンを黒い翼に変化させて広いこの階層へと飛翔する。


「では私はこちらへ行こう!」


「では私はこっちへ」


「私はあっちへ行くわ」


 空を飛べる組のリットーさん、ゼラン仙者、バヨネッタさん、そして俺は、四方へと別れ、それぞれ次の階段を探す。


「しかし本当に広いな」


『そうだな』


 こう言う時、感覚が二倍あると言うのは有利なのだろうな。アニンと二人で、第二階層? の広大なフロア探索を開始する。


 もしもこの写真を見せたところで、誰もこれが塔の内部だとは信じないだろうなあ。と『粗製乱造』で増やされたガーゴイルや飛竜たちを屠りながら、俺は第二階層を探索していた。


 空も地上も魔物たちで溢れかえり、少し進むのも、それらを掻き分けながらでなければいけない。その煩わしさにイライラしながらも、意識は地上に向けられる。


 どうやら魔物たちへの命令は簡単なもので、あの大聖堂さえ攻撃しなければ、何をしても問題ないとされているようで、ビルや家を壊して回っていた。これなら、壊していない場所を探すと言うのは簡単かも知れないな。


 そう思っていたが、第二階層は広い。更にどんどんと魔物たちが投入されて、視界が魔物で埋め尽くされていく。これでは探索どころではないな。


『先に『粗製乱造』を乱発している者を仕留めた方が早いのではないか?』


「だな」


 アニンの進言を素直に受け止め、俺は探す相手を、次の階層への階段から、『粗製乱造』の使い手へと切り替えた。


『粗製乱造』の使い手を探すのは簡単だ。魔物の多い方多い方へとあえて突き進めば、その先にいるのだから。


「見付けた!」


 大聖堂から二キロと言ったところだろうか? 緑溢れる広い公園の芝生の広場で、中央に魔物を配置し、軍服を着た十人が、どんどんと魔物を増やしていた。


「なんか、すんげえスピードで魔物が増えていっているんだけど?」


『相当レベルの高い使い手が固まっているのだろう』


 だろうね。これは探索相手をこっちに切り替えて正解だったな。とりあえず、こんな戦場で姿を晒しているんだ。死ぬ覚悟はあるのだろうから、死んでくれ。


 俺は右手にアニンの黒剣生み出すと、それを握り締め、軍人たちを急襲する。


 ガキンッ!!


 しかしアニンの黒剣は、一人の軍人の首を刎ねる前に、何者かの横槍によって止められた。


「悪いな小僧! こいつらを殺らせないのが、俺に与えられた命令なんでな!」


 二メートルはあろうかと言う軍服のその男は、自身の身長と比肩する大きな剣で、アニンの黒剣を受け止めたのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

最強魔術師、ルカの誤算~追放された元パーティーで全く合わなかった剣士職、別人と組んだら最強コンビな件~

蒼乃ロゼ
ファンタジー
 魔法学校を主席で卒業したルカ。高名な魔術師である師の勧めもあり、のんびり冒険者をしながら魔法の研究を行おうとしていた。  自身の容姿も相まって、人付き合いは苦手。  魔術師ながらソロで旅するが、依頼の都合で組んだパーティーのリーダーが最悪だった。  段取りも悪く、的確な指示も出せないうえに傲慢。  難癖をつけられ追放されたはいいが、リーダーが剣士職であったため、二度と剣士とは組むまいと思うルカ。  そんな願いも空しく、偶然謎のチャラい赤髪の剣士と組むことになった。  一人でもやれるってところを見せれば、勝手に離れていくだろう。  そう思っていたが────。 「あれー、俺たち最強コンビじゃね?」 「うるさい黙れ」 「またまたぁ、照れなくて良いから、ルカちゃん♪」 「(こんなふざけた奴と、有り得ない程息が合うなんて、絶対認めない!!!!)」  違った境遇で孤独を感じていた二人の偶然の出会い。  魔法においては最強なのに、何故か自分と思っている通りに事が進まないルカの様々な(嬉しい)誤算を経て友情を育む。  そんなお話。 ==== ※BLではないですが、メンズ多めの異世界友情冒険譚です。 ※表紙はでん様に素敵なルカ&ヴァルハイトを描いて頂きました。 ※小説家になろうでも公開中

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

処理中です...