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責
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「地上で何かあったのか!?」
慌てた様子のアネカネに尋ねると、アネカネは深刻な表情で首肯した。
「ええ。冒険者同士で殺し合っている」
「は?」
地上の事態が想定の斜め上で、思わず変な声が出てしまった。
「日本人たちが、アンゲルスタの伏兵に攻撃を受けているとかじゃなくて?」
「そんな局所的な事態じゃないわ! 冒険者同士が誰彼構わず殺し合いをしていて、それを応援に駆け付けた軍が抑え込もうとしているの!」
何だよその状況、理解不能なんだけど?
「くっ、やはり奴らの狙いはグジーノだったか」
これを聞いたジェイリスくんが苦鳴を漏らす。
「グジーノって何?」
俺の問いに、ジェイリスくんはミウラさんを見遣ると、事ここに至っては話さない訳にはいかないと決心したのか、互いに頷き合って、口を開こうとした。
「それは道中にしましょう」
だがそれは、バヨネッタさんの一言で中断されてしまう。そのバヨネッタさんを見遣れば、既にトゥインクルステッキのチャージを始めていた。
「皆! 伏せろ!」
俺の言葉に反射的に皆がその場に伏せると、
ズドーーーンッ!!
氷に囲まれた超至近距離で、トゥインクルステッキが発射された。凍結した氷空間を、トゥインクルステッキの熱光線が鳴動しながら突き抜けていく。そしてあっという間に部屋の入口までの通路が完成したのだった。
「さあ、話は地上に戻りながらよ」
先頭をトゥインクルステッキに乗ったバヨネッタさんが飛んでいくのを、心臓をバクバクさせながら俺たちは付いて行くしかなかった。
「ここサリィの吸血神殿は、一般の冒険者は地下九階までしか降りる事が出来ない。何故なら地下十階は国の施設となっているからだ」
地下二階の迷路を、右へ左へと駆け抜けながら、ジェイリスくんが話し始めた。
「国の施設? それって研究施設? それとも……」
「牢獄だ」
そっちかあ。
「サリィの最下層の牢獄には、国家を混沌に導く人物が収監されている」
「成程、そいつらを使って、アンゲルスタはこの国を混乱に陥れようとしていた訳だ」
俺の言に、ジェイリスくんとミウラさんは複雑な表情を浮かべた。
「しかしどんなスキルなんだ?」
口を挟んできたのは武田だ。
「冒険者たちが互いに殺し合いを始めていると言う事は、『洗脳』か? 『催眠』か? 『魅了』か? その最下層の牢獄には、何人収監されていたんだ?」
矢継ぎ早の武田の問い掛けに、ジェイリスくんはゴクリと唾を飲み込んでから口を開いた。
「…………一人だ」
「一人!?」
武田が素っ頓狂な声を上げる。だが俺も同じ気分だ。一人。数の少なさに驚くが、それはつまり、たった一人の人間に、この国が転覆させられる可能性があると言う事だ。
「そいつの名前はグジーノ。そしてそいつが持つ忌むべきスキルの名は、…………『狂乱』だ」
「『狂乱』だって!?」
「嘘でしょ!?」
ジェイリスくんとミウラさん以外の全員が、驚愕の表情に変わっていた。
「『狂乱』って、魔王専用のユニークスキルじゃなかったのか!?」
俺の疑問に、しかしジェイリスくんは首を横に振るう。
「『狂乱』はレアスキルではあっても、魔王専用のユニークスキルと言う訳じゃない。歴史を振り返れば、『狂乱』の持ち主は何人か現れている。逆に『狂乱』を獲得してしまったが為に、後世に魔王として名を残した人物もいるくらいだ」
ジェイリスくんの説明の後、俺は信じられなくてバヨネッタさんの方を見てみたが、バヨネッタさんからは首肯が返ってくるばかりだった。本当なのか。
「冒険者だけが『狂乱』の支配下に置かれているのは何でだ?」
「軍は万が一グジーノが脱獄した時に備えて、魔道具で対処しているからな」
「二人も?」
「ああ」
そう言って見せてくれたのは、ミウラさんが学校で見せてくれた指輪と同じ物だった。それで防げるなら大丈夫か。いや、
「武田さん、大丈夫ですか?」
「セクシーマンには、『空識』制御の為に、同類の指輪を渡してあるわ」
とバヨネッタさんが教えてくれた。事前の対処が奏効した感じか。
「それよりもサリィに住む平民たちの方が心配だ。今頃、大混乱になっているはずだからな」
うう、簡単に地獄絵図が想像出来てしまう。
「どうやら、こんなところでまごついている場合じゃなさそうだな」
俺たちは一刻も早く神殿の外に出る為、走る速度を上げた。
ズドーーーンッ!!
トゥインクルステッキで、閉じられていた吸血神殿の入口を破壊して外に出ると、確かにそこは地獄絵図だった。冒険者たちが誰彼構わず武器を振るい、魔法で攻撃している。それは何かに酔いしれているかのようで、皆恍惚とした表情をしていた。
「工藤くん!!」
あまりの世界の変わり様に、俺が呆然と立ち竦んでいたところに、秋山さんの声が飛び込んできて、ハッとなってそちらを見遣ると、俺が施した『聖結界』の中に、確かに日本人達が身を寄せ合って固まっていた。その周りを四体の角ウサギが取り囲み、更にその周りを軍隊が取り囲んでいる。角ウサギたちは分かるが、軍隊は何だ?
「自然とこうなったのよ」
アネカネが声を掛けてきた。
「良く分からないけれど、ハルアキの『聖結界』とグジーノの『狂乱』は相性が悪いみたい。『聖結界』の周囲では、『狂乱』でおかしくなった冒険者たちの動きが鈍るのよ」
スキルに相性があるのか知らないが、それは良い情報を得た。
「それなら!!」
俺は一旦日本人の守りを軍人さんたちに任せて『聖結界』を解除すると、再度、今自分が出来る最大範囲まで『聖結界』を拡張していった。すると、『聖結界』に取り込まれた冒険者たちが、弾かれる事なく正気に戻っていく。
成程、害意や悪意のみが弾かれて言っているってところか。そこに納得した俺は、どんどん『聖結界』を拡張して、吸血神殿のある中州を覆い尽くす。
「っどうわッ、はあ!!」
魔力を一気に消費して、立ち眩みして倒れそうになったところを、バヨネッタさんと武田さんが支えてくれた。
「ヤベえんですけど」
中州は『聖結界』に覆われて大丈夫になったけど、サリィがまだ残っている。俺が最大限『聖結界』を拡大してもこれが限界だ。このままじゃあサリィで大量に死人が出る。なのに俺はここから動けそうになかった。
「問題ないわ」
言うとバヨネッタさんは俺の身体を武田さんに預けて、トゥインクルステッキで飛んでいった。
「工藤くん!」
秋山さんたち日本人が、軍人さんに護衛して貰いながら、こちらに近付いてきた。
「いったい、何がどうなっているんだ?」
アニメ監督の中島さんから質問が飛んでくる。言うべきか言わざるべきか、迷うな。
「…………テロです」
「テロ?」
「はい。ある組織が、オルドランドに対してテロ行為を始めたんです。すみません、皆さんを巻き込んでしまって」
俺はアンゲルスタの名前は伏せて、状況だけを説明した。しかし事態は理解出来たのだろう。皆が不安そうな顔になっていた。
そこに遠くから何やら音が聞こえてくる。見遣ると、巨大な円塔が立っていた。あの塔、バヨネッタさんだな。そうして次々に中州を取り囲むように塔が立っていく。最後の一棟、五つ目の塔が立ったところで、俺の魔力消費がピタリと止まる。それでも『聖結界』が維持されているところを見るに、俺の魔力を必要とせずに塔によって賄われているのだろう。
「どう? ハルアキ?」
戻ってきたバヨネッタさんが尋ねてきた。
「ダルいですけど、まあ、動けますね」
「そう。じゃあすぐにサリィに向かうわよ」
「はい」
俺の言葉に、日本人たちが動揺する。
「大丈夫ですよ。皆さんはここにいてください。それに転移門が使える人を連れてこないと帰れませんし」
「君だって巻き込まれた日本人だろう? 何故そこまでしなければならないんだ?」
すみません、これは地球人が仕出かした事なので、協力しないと言う選択肢はないのです。などと説明はしていられない。
俺は武田さんに抱えられて、軍の用意した飛竜に乗せられ、不安が隠せない日本人たちを尻目に、サリィに向かったのだった。
慌てた様子のアネカネに尋ねると、アネカネは深刻な表情で首肯した。
「ええ。冒険者同士で殺し合っている」
「は?」
地上の事態が想定の斜め上で、思わず変な声が出てしまった。
「日本人たちが、アンゲルスタの伏兵に攻撃を受けているとかじゃなくて?」
「そんな局所的な事態じゃないわ! 冒険者同士が誰彼構わず殺し合いをしていて、それを応援に駆け付けた軍が抑え込もうとしているの!」
何だよその状況、理解不能なんだけど?
「くっ、やはり奴らの狙いはグジーノだったか」
これを聞いたジェイリスくんが苦鳴を漏らす。
「グジーノって何?」
俺の問いに、ジェイリスくんはミウラさんを見遣ると、事ここに至っては話さない訳にはいかないと決心したのか、互いに頷き合って、口を開こうとした。
「それは道中にしましょう」
だがそれは、バヨネッタさんの一言で中断されてしまう。そのバヨネッタさんを見遣れば、既にトゥインクルステッキのチャージを始めていた。
「皆! 伏せろ!」
俺の言葉に反射的に皆がその場に伏せると、
ズドーーーンッ!!
氷に囲まれた超至近距離で、トゥインクルステッキが発射された。凍結した氷空間を、トゥインクルステッキの熱光線が鳴動しながら突き抜けていく。そしてあっという間に部屋の入口までの通路が完成したのだった。
「さあ、話は地上に戻りながらよ」
先頭をトゥインクルステッキに乗ったバヨネッタさんが飛んでいくのを、心臓をバクバクさせながら俺たちは付いて行くしかなかった。
「ここサリィの吸血神殿は、一般の冒険者は地下九階までしか降りる事が出来ない。何故なら地下十階は国の施設となっているからだ」
地下二階の迷路を、右へ左へと駆け抜けながら、ジェイリスくんが話し始めた。
「国の施設? それって研究施設? それとも……」
「牢獄だ」
そっちかあ。
「サリィの最下層の牢獄には、国家を混沌に導く人物が収監されている」
「成程、そいつらを使って、アンゲルスタはこの国を混乱に陥れようとしていた訳だ」
俺の言に、ジェイリスくんとミウラさんは複雑な表情を浮かべた。
「しかしどんなスキルなんだ?」
口を挟んできたのは武田だ。
「冒険者たちが互いに殺し合いを始めていると言う事は、『洗脳』か? 『催眠』か? 『魅了』か? その最下層の牢獄には、何人収監されていたんだ?」
矢継ぎ早の武田の問い掛けに、ジェイリスくんはゴクリと唾を飲み込んでから口を開いた。
「…………一人だ」
「一人!?」
武田が素っ頓狂な声を上げる。だが俺も同じ気分だ。一人。数の少なさに驚くが、それはつまり、たった一人の人間に、この国が転覆させられる可能性があると言う事だ。
「そいつの名前はグジーノ。そしてそいつが持つ忌むべきスキルの名は、…………『狂乱』だ」
「『狂乱』だって!?」
「嘘でしょ!?」
ジェイリスくんとミウラさん以外の全員が、驚愕の表情に変わっていた。
「『狂乱』って、魔王専用のユニークスキルじゃなかったのか!?」
俺の疑問に、しかしジェイリスくんは首を横に振るう。
「『狂乱』はレアスキルではあっても、魔王専用のユニークスキルと言う訳じゃない。歴史を振り返れば、『狂乱』の持ち主は何人か現れている。逆に『狂乱』を獲得してしまったが為に、後世に魔王として名を残した人物もいるくらいだ」
ジェイリスくんの説明の後、俺は信じられなくてバヨネッタさんの方を見てみたが、バヨネッタさんからは首肯が返ってくるばかりだった。本当なのか。
「冒険者だけが『狂乱』の支配下に置かれているのは何でだ?」
「軍は万が一グジーノが脱獄した時に備えて、魔道具で対処しているからな」
「二人も?」
「ああ」
そう言って見せてくれたのは、ミウラさんが学校で見せてくれた指輪と同じ物だった。それで防げるなら大丈夫か。いや、
「武田さん、大丈夫ですか?」
「セクシーマンには、『空識』制御の為に、同類の指輪を渡してあるわ」
とバヨネッタさんが教えてくれた。事前の対処が奏効した感じか。
「それよりもサリィに住む平民たちの方が心配だ。今頃、大混乱になっているはずだからな」
うう、簡単に地獄絵図が想像出来てしまう。
「どうやら、こんなところでまごついている場合じゃなさそうだな」
俺たちは一刻も早く神殿の外に出る為、走る速度を上げた。
ズドーーーンッ!!
トゥインクルステッキで、閉じられていた吸血神殿の入口を破壊して外に出ると、確かにそこは地獄絵図だった。冒険者たちが誰彼構わず武器を振るい、魔法で攻撃している。それは何かに酔いしれているかのようで、皆恍惚とした表情をしていた。
「工藤くん!!」
あまりの世界の変わり様に、俺が呆然と立ち竦んでいたところに、秋山さんの声が飛び込んできて、ハッとなってそちらを見遣ると、俺が施した『聖結界』の中に、確かに日本人達が身を寄せ合って固まっていた。その周りを四体の角ウサギが取り囲み、更にその周りを軍隊が取り囲んでいる。角ウサギたちは分かるが、軍隊は何だ?
「自然とこうなったのよ」
アネカネが声を掛けてきた。
「良く分からないけれど、ハルアキの『聖結界』とグジーノの『狂乱』は相性が悪いみたい。『聖結界』の周囲では、『狂乱』でおかしくなった冒険者たちの動きが鈍るのよ」
スキルに相性があるのか知らないが、それは良い情報を得た。
「それなら!!」
俺は一旦日本人の守りを軍人さんたちに任せて『聖結界』を解除すると、再度、今自分が出来る最大範囲まで『聖結界』を拡張していった。すると、『聖結界』に取り込まれた冒険者たちが、弾かれる事なく正気に戻っていく。
成程、害意や悪意のみが弾かれて言っているってところか。そこに納得した俺は、どんどん『聖結界』を拡張して、吸血神殿のある中州を覆い尽くす。
「っどうわッ、はあ!!」
魔力を一気に消費して、立ち眩みして倒れそうになったところを、バヨネッタさんと武田さんが支えてくれた。
「ヤベえんですけど」
中州は『聖結界』に覆われて大丈夫になったけど、サリィがまだ残っている。俺が最大限『聖結界』を拡大してもこれが限界だ。このままじゃあサリィで大量に死人が出る。なのに俺はここから動けそうになかった。
「問題ないわ」
言うとバヨネッタさんは俺の身体を武田さんに預けて、トゥインクルステッキで飛んでいった。
「工藤くん!」
秋山さんたち日本人が、軍人さんに護衛して貰いながら、こちらに近付いてきた。
「いったい、何がどうなっているんだ?」
アニメ監督の中島さんから質問が飛んでくる。言うべきか言わざるべきか、迷うな。
「…………テロです」
「テロ?」
「はい。ある組織が、オルドランドに対してテロ行為を始めたんです。すみません、皆さんを巻き込んでしまって」
俺はアンゲルスタの名前は伏せて、状況だけを説明した。しかし事態は理解出来たのだろう。皆が不安そうな顔になっていた。
そこに遠くから何やら音が聞こえてくる。見遣ると、巨大な円塔が立っていた。あの塔、バヨネッタさんだな。そうして次々に中州を取り囲むように塔が立っていく。最後の一棟、五つ目の塔が立ったところで、俺の魔力消費がピタリと止まる。それでも『聖結界』が維持されているところを見るに、俺の魔力を必要とせずに塔によって賄われているのだろう。
「どう? ハルアキ?」
戻ってきたバヨネッタさんが尋ねてきた。
「ダルいですけど、まあ、動けますね」
「そう。じゃあすぐにサリィに向かうわよ」
「はい」
俺の言葉に、日本人たちが動揺する。
「大丈夫ですよ。皆さんはここにいてください。それに転移門が使える人を連れてこないと帰れませんし」
「君だって巻き込まれた日本人だろう? 何故そこまでしなければならないんだ?」
すみません、これは地球人が仕出かした事なので、協力しないと言う選択肢はないのです。などと説明はしていられない。
俺は武田さんに抱えられて、軍の用意した飛竜に乗せられ、不安が隠せない日本人たちを尻目に、サリィに向かったのだった。
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