世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
264 / 639

下心

しおりを挟む
「ハルアキ!」


「分かっています!」


 バヨネッタさんが宝物庫からトゥインクルステッキやナイトアマリリスを取り出す横で、俺は『空間庫』からスイッチっぽい物を取り出して、そのスイッチを押してみせる。その後展開される『聖結界』。俺を含む日本人たちが『聖結界』に覆われた。


「それは?」


 秋山さんの問いに、


「結界発生装置です」


 と俺はそれっぽくスイッチを見せた。こんな非常事態だから、『聖結界』が使える事をバラしても良いのだが、出来るなら隠しておきたい。今後の活動に支障が出るかも知れないからねえ。


 ドドドドドド…………ッッ!!


 そんな俺の横で、バヨネッタさんは最初から全開だ。トゥインクルステッキとナイトアマリリスを使って、わらわら沸いてくる凍血鬼たちを熱光線で撃ち抜いていく。その攻撃に合わせるように、俺たちはジリジリと入口へと後退する。


「凄い……!!」


「うおおおおッ!!」


 こんな時だと言うのに、『マギ*なぎ』スタッフ陣はバヨネッタさんの活躍に大はしゃぎしている。呑気なものと言うべきか、夢中になると周りが見えなくなると言うべきなのか。対して秋山さんやウチの社員たちは耳を塞いで緊張状態である。出来るならこの場から一目散に逃げ出したいだろうが、結界から外に出る勇気はない。と言ったところか。


「おかしくないか?」


 そんな中で武田が、口元に拳を当てて疑問を口にする。


「何がですか?」


「聞いた限りでは、凍血鬼って、ボス部屋にいる魔物なんだろう? いくらバヨネッタさんが強いからと言って、あんなにバタバタ倒されていくのは、ちょっと名折れと言うか、弱過ぎじゃないか?」


「何を適当な事言っているのよ! 倒せているんだから問題ないでしょ! それだけバヨネッタさんが強いって事よ!」


 武田の言に秋山さんが反論するが、


「いや、その男の言っている事は理解出来る」


 とジェイリスくんが擁護する。


「士官学校時代に凍血鬼とは何度か対峙した事があるが、あいつ一体に数十人の士官学生があたるんだ。いくら何でも弱過ぎる」


「多分、量が多い事と無関係ではないんじゃないかしら」


 アネカネが口にする。アネカネはいつの間に召喚したのか、象の牙に横乗りし、俺たちを覆う『聖結界』の周りに、二メートル級の角ウサギを四体配置していた。


「成程、大量に発生している分、一体一体の能力が減じているのか。それならあの弱さにも納得出来る」


 とジェイリスくんも首肯する。


「へえ、弱くなっているのか。なら、今の俺でも倒せちゃうんじゃないか?」


 下衆な事を口にしたのは武田だ。


「馬鹿! 変な事考えてんじゃねえよ!」


 と言っても遅かった。バチンッと『聖結界』の外に弾き飛ばされる武田。


「どぅわッ!?」


 いきなりの事態にその場の全員の目が点になる。


「どう言う事?」


 武田が、訳が分からない。と言った表情で尋ねてきた。


「この結界は、悪意や害意を弾き飛ばす仕様なんです。武田さん、この非常事態に変な事考えたでしょ?」


「変な事って! ちょっとここで株を上げたいな。と思っただけだよ!」


「それはそうなんでしょうけど、俺の結界はそれを結界内の人間に危険をもたらすものと判断したようです」


「じゃあ俺はこのままなのか!?」


「頑張って戦ってください」 


「マジかよ!?」


 だってしょうがないじゃないか。それは自分が蒔いた種だ。この『聖結界』は武田を受け付けない。一度『聖結界』を解除すれば、再度武田を取り込む事は出来るだろうが、ここで武田の為に皆を危険に晒す判断は出来ない。


「クソっ! まあ良いさ。バヨネッタさんがいるからな。ここまで凍血鬼もやって来ないだろう」


 武田は楽観的な事を口にするが、それってフラグですか? って聞きたくなるな。


 バンッ。


 と武田のフラグが早くも回収された。凍血鬼たちから氷の礫が飛んできて、『聖結界』にぶつかってぜた。


「マジかよ!?」


 言いながら武田は両手にナイフを構える。


「バヨネッタさん!?」


「数が多いのよ!」


 そう言って、更に宝物庫からバヨネットを取り出すバヨネッタさん。


「バヨネッタさんでもですか!?」


「凍血鬼だけじゃないのよ!」


 凍血鬼だけじゃない? その発言の意味はすぐに理解出来た。左右から、灰色の何かが襲い掛かってきたからだ。


「はっ!? 何こいつ!? グレイ!?」


 声を上げる秋山さん。それは灰色と言うより銀色に近いメタリックな小人だった。


「グレイじゃなくてゴブリンです」


「ゴブリン!? いや、どう見てもグレイなんですけど!?」


 驚いているところ悪いが、それに対して議論を交わしている場合じゃない。ゴブリン二体を斬り伏せているジェイリスくんを横目に、


「とにかく! 走りますよ!」


 と俺は皆に声を掛ける。周りにはグレイのようなゴブリンだけでなく、四足歩行の正にブタであるオークまでが現れていた。もうこの場で遅々としてはいられない。


「フゴッ!」


 こちらに直進してくるオークの攻撃を、半身になって躱した武田が、ナイフを逆手に持ち替えて、そのオークの背に突き刺す。するとまるで凍血鬼のように霞となって消えるオーク。おかしい。


 先程ジェイリスくんが斬り伏せたゴブリンもそうだ。霞になって消えていた。この吸血神殿は、魔物がやられたからって消えたりしない。死んだ魔物は神殿に吸収されるのだ。それなのに吸収される前に霞になって消えている。これは異常事態だろう。もしかしたら魔物たちが大量に沸いてくるのと関係しているのかも知れない。


「入口が見えてきた!」


 北見さんの声に思考は中断され、入口の方を見遣ると、その入口は今まさに閉ざされようとしていた。恐らく神殿内の異常事態に気付いたからだろう。他の入口から入った冒険者が凍血鬼たちに遭遇して、危険を知らせたのかも。


「嘘でしょッ!?」


 秋山さんが悲鳴を上げる。しょうがない。俺は『聖結界』から出ると、『聖結界』を球体に変形させ、それを入口目掛けて思いっきり蹴飛ばした。


『聖結界』内が悲鳴に包まれるが、球体になった『聖結界』はゴロゴロと吸血神殿の入口へと、一直線に転がっていき、何とか扉が閉ざされる前に神殿内から脱出に成功したのだった。


「無茶するわね」


 トゥインクルステッキに乗るバヨネッタさんが、呆れたように俺を見下ろしてくる。


「非常事態ですから、許してくれますよ」


 許してくれなかったら、とりあえず土下座しよ。


「俺、逃げられなかったんだけど」


 と既に肩で息をしている武田が、半眼で俺を見詰めてくる。


「武田さん……、頑張ってください」


「マジかよ!?」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

処理中です...