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前日 19:40〜
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「全く、プロデューサーと知り合いなら、先にそう言えば良かったのに! え~と……」
官僚の名前をまるっきり覚えていないバヨネッタさん。俺も覚えていないけど。社会人失格だな。
「西山です」
どうやら文科省の官僚は、西山さんと言うらしい。すみません、今まで気にしていませんでした。
「お知り合い、プロデューサーって、まだ若いでしょうに、凄いですね」
俺は褒めたつもりだったのだが、西山さんには微妙な顔をされてしまった。何故だ?
「東野はここ最近プロデューサーに昇進したんで、上に更に総合プロデューサーとかいるんですけどね」
へえ、そうなのか。まあ確かに、二十代だろう西山さんの知り合いが、十年以上続くシリーズで、一番の古株って事はないよな。
益体のない会話で場を繋いでいると、ノックとともにガチャリと会議室のドアが開き、ウチの社員に案内されて、二人の女性と三人の男性が入ってきた。誰が誰だか分からない。多分一番若い、眼鏡を掛けた女性が東野さんなのだろう。
「いや、悪いな東野。急に呼び出して」
どうやら当たりらしく、西山さんは眼鏡の女性に話し掛ける。
「何言っているのよ西山くん! 本物の魔女さんとお話が出来るんでしょう? そんな貴重な機会、『マギ*なぎ』のスタッフとして見過ごす訳にはいかないわ!」
東野さんはかなり興奮しているらしく、西山さんと会話しながらも、バヨネッタさんの方をチラチラ気にしていた。目が血走っているのがちょっと怖い。
「でも、一人で来るのかと思ったんだが、こちらは?」
「うん。連絡を貰った時、丁度『マギ*なぎ』の打ち合わせ中だったの! もうこれでも人数絞ったんだよ! 皆来たがっちゃって大変だったんだから! こちらは……」
西山さんが尋ねると、東野さんが紹介するより先に、もう一人の女性が自己紹介を始めた。
「総合プロデューサーの南原です」
恰幅の良い女性は、スッと集団を抜け出すと、バヨネッタさんの前に手を差し出した。やるな。この人が総合プロデューサーか。
「ハジメマシテ。私ハバヨネッタヨ」
バヨネッタさんは努めて冷静を装ってその握手に応じたが、良く見れば口角が上がっているのが分かる。嬉しさが隠しきれていなかった。
「まあ、日本語が出来るのですね!」
異世界人であるバヨネッタさんが日本語をしゃべった事に、総合プロデューサーの南原さんをはじめ、全員が驚いている。
「ヤハリ、コウ言ッタ素晴ラシイ作品ハ、翻訳ナド介サズ、現地語ヲ理解シタ上デ鑑賞スルノガ一番デスカラ」
「まあ! それは嬉しいですね!」
バヨネッタさんの発言に、喜ぶ『マギ*なぎ』スタッフたち。
「お世辞抜きで本当にそうですから。バヨネッタさん、相当この作品を気に入っているんですよ」
と西山さんにも語った俺の発言に、『マギ*なぎ』スタッフから、お前誰だ? みたいな視線が向けられて、居心地悪いよ。
「これは申し遅れました。バヨネッタ様の従僕をさせて頂いている、工藤春秋と申します。以後お見知り置きを」
「はあ」
うわあ、場が白けている。やっちまったかこれは? まあ、ビジネスの場に制服着た学生が変な事言っていれば、引かれて当たり前か。
「彼は高校生ながらに、このクドウ商会の渉外部で働いている凄い子なんですよ」
西山さんのフォローで、皆の俺を見る目が変わった。良かった。痛い奴のままにならなくて。
「まずは皆さん席に着きましょう。お話はそれからと言う事で」
俺は皆に着席を促し、率先して全員にお茶出しをした。お茶が全員に行き渡ったところで俺もバヨネッタさんの横に着席し、口を開く。
「えと、南原さんと西山さんの知り合いである東野さん、プロデューサーお二人は分かりましたけど、あとの男性三人さんは、何者なのでしょう?」
俺の疑問に、男性三人が自己紹介していなかった事に気付いたようだ。いや、俺が先に席を勧めたのがいけなかったのだが。ロマンスグレーの男性が口を開いた。
「えー、中島です。『マギ*なぎ』では総監督をさせて頂いています」
おお! 総監督!
「脚本、シリーズ構成をしています、北見です」
眼鏡に細面の男性が続いて自己紹介する。脚本! シリーズ構成ってなんだ?
「アニメーターの巽です」
最後、長髪で大柄の男性はアニメーターだった。つまり絵を描いている人。
「巽はメインアニメーターの一人で、『マギ*なぎ』の変身バンクは、巽が一人で描いているんですよ」
と総監督の中島さんが補足してくれた。
「一人デ!? 今マデノシリーズ全部デスカ!?」
バヨネッタさんが横で滅茶苦茶驚いていた。そんなに凄い事なのか?
「まあ、僕の事は良いじゃないですか」
巽さんは、恥ずかしそうにその大きな身体を縮こませる。恥ずかしがり屋なのだろうか?
「そうです! それよりバヨネッタさんの話が私は聞きたいです!」
東野さんは結構バッサリいくタイプか。
「イエ、私ハ彼ノ話ヲモット聞キタイデス!」
これに対しては、バヨネッタさんの方がグイグイ行くみたいだ。
「アノ変身バンクハ素晴ラシイ! ドノシリーズノドノ魔法少女ノ変身バンクカラモ、愛ヲ感ジマス!」
そうですか。バヨネッタさんも熱いな。巽さんは大照れしているけど。
「とりあえず、バヨネッタさんはオルドランド語に戻した方が、その愛を語れるんじゃないですか?」
俺が横入りしたのが気に入らなかったのだろう。睨まれた。
「まあ、そうね。確かに私の破裂しそうなこの情熱は、まだ未熟な日本語では表現しきれないわ」
オルドランド語に戻ったバヨネッタさんに、『マギ*なぎ』スタッフが驚きの声を上げる。多分、バヨネッタさんが何をしゃべっているのか理解出来るからだろう。
「この会議室には、言語翻訳の魔道具が設置されていますから、皆さんは日本語でお話頂いて大丈夫ですよ」
「おお! 魔道具! そんな魔道具も存在するんですね!」
脚本の北見さんは俺の話を聞くなり、ノートパソコンを取り出して何やら打ち始めた。
「他にはどんな魔道具があるんですか?」
どんなと言われてもな。俺も魔道具に詳しい訳じゃないからなあ。
「オルを呼びましょう」
と北見さんの要求に応えようとするバヨネッタさん。
「今からですか?」
「当然でしょう? 今呼ばなければ何時呼ぶのよ?」
それはそうなんですけどね。俺は言われた通り、オルさんが泊まっているホテルに連絡を入れる。
「その、オル? さんと言うのはどのような方なのですか?」
東野さんが尋ねてきた。
「我々の旅仲間です」
「旅仲間、ですか?」
「私たちはある目的の場所を目指して、旅をしている最中なの」
バヨネッタさんがそう答えるが、全員が首を傾げている。まあ、端的に言われても分からんよね。って言うか、バヨネッタさんもそう言う事をポロリと言わないで欲しい。
俺は、「これはオフレコで」と付け加えた上で、
「向こうでの活動の幅を広げる為に、旅のようなものをしていると解釈して貰えば、間違いではないかと」
と告げる。
「はあ。学生をしながらですか?」
「はい。週末は向こうで過ごして、旅をしていますね」
驚く女性プロデューサー二人をよそに、男性陣は何やらヒソヒソ話し始め、北見さんのキーボードを打つ音が会議室にノイズを立てる。
「それで、そのオルさんは魔道具に詳しい人なんですね?」
と中島総監督。
「そうですね。それにオルさんには『再現』と言うスキルがありますから、何であれ大概のものは再現可能です」
「おおおお!!」
と全員が驚嘆の声を上げる。
「スキルに魔道具ですか。魔法もあるんですよね?」
「当然よ。私は魔女よ。と言うか、魔法陣や魔道具を使って行使されるのが魔法なのよ」
「おおおお!!」
ノリが良いな『マギ*なぎ』スタッフ陣。
「それに、どうやら魔女の使う魔法は、他の魔法使いが使う魔法とは系統が違うようですね」
「そうなんですね!」
北見さんのキーボードを打つ手が止まらないなあ。
「他には? 他には何かないんですか?」
なんか俺たち、スタッフ陣に褒めそやされておだてられて、上手い事口車に乗っているような気がする。
「ギフトと言うのがあるわね。これは何人か、何十人かに一人が生まれながらに持つ能力よ」
「おおおお!!」
楽しそうだなあ。バヨネッタさんもスタッフ陣も。話が尽きなさそうだ。これは俺がいなくても回りそうだな。
「じゃあ、何か両者の雰囲気も良いですし、ここは邪魔者は退室すると言う事で、俺、もう帰って良いですかね?」
と席を立ち上がると、横のバヨネッタさんに引きずり戻された。
「何を言っているの? 話はここからでしょう? 私ばかりが話してどうするのよ。私はもっと『マギ*なぎ』の話を聞きたいし、まだ企画展の話を何一つしていないわよ」
覚えていたのか。はあ。このまま忘れて『マギ*なぎ』の話題に終始してくれていれば、俺は久しぶりにベッドで寝れたのに。この瞬間、俺の三徹が確定したのでした。
官僚の名前をまるっきり覚えていないバヨネッタさん。俺も覚えていないけど。社会人失格だな。
「西山です」
どうやら文科省の官僚は、西山さんと言うらしい。すみません、今まで気にしていませんでした。
「お知り合い、プロデューサーって、まだ若いでしょうに、凄いですね」
俺は褒めたつもりだったのだが、西山さんには微妙な顔をされてしまった。何故だ?
「東野はここ最近プロデューサーに昇進したんで、上に更に総合プロデューサーとかいるんですけどね」
へえ、そうなのか。まあ確かに、二十代だろう西山さんの知り合いが、十年以上続くシリーズで、一番の古株って事はないよな。
益体のない会話で場を繋いでいると、ノックとともにガチャリと会議室のドアが開き、ウチの社員に案内されて、二人の女性と三人の男性が入ってきた。誰が誰だか分からない。多分一番若い、眼鏡を掛けた女性が東野さんなのだろう。
「いや、悪いな東野。急に呼び出して」
どうやら当たりらしく、西山さんは眼鏡の女性に話し掛ける。
「何言っているのよ西山くん! 本物の魔女さんとお話が出来るんでしょう? そんな貴重な機会、『マギ*なぎ』のスタッフとして見過ごす訳にはいかないわ!」
東野さんはかなり興奮しているらしく、西山さんと会話しながらも、バヨネッタさんの方をチラチラ気にしていた。目が血走っているのがちょっと怖い。
「でも、一人で来るのかと思ったんだが、こちらは?」
「うん。連絡を貰った時、丁度『マギ*なぎ』の打ち合わせ中だったの! もうこれでも人数絞ったんだよ! 皆来たがっちゃって大変だったんだから! こちらは……」
西山さんが尋ねると、東野さんが紹介するより先に、もう一人の女性が自己紹介を始めた。
「総合プロデューサーの南原です」
恰幅の良い女性は、スッと集団を抜け出すと、バヨネッタさんの前に手を差し出した。やるな。この人が総合プロデューサーか。
「ハジメマシテ。私ハバヨネッタヨ」
バヨネッタさんは努めて冷静を装ってその握手に応じたが、良く見れば口角が上がっているのが分かる。嬉しさが隠しきれていなかった。
「まあ、日本語が出来るのですね!」
異世界人であるバヨネッタさんが日本語をしゃべった事に、総合プロデューサーの南原さんをはじめ、全員が驚いている。
「ヤハリ、コウ言ッタ素晴ラシイ作品ハ、翻訳ナド介サズ、現地語ヲ理解シタ上デ鑑賞スルノガ一番デスカラ」
「まあ! それは嬉しいですね!」
バヨネッタさんの発言に、喜ぶ『マギ*なぎ』スタッフたち。
「お世辞抜きで本当にそうですから。バヨネッタさん、相当この作品を気に入っているんですよ」
と西山さんにも語った俺の発言に、『マギ*なぎ』スタッフから、お前誰だ? みたいな視線が向けられて、居心地悪いよ。
「これは申し遅れました。バヨネッタ様の従僕をさせて頂いている、工藤春秋と申します。以後お見知り置きを」
「はあ」
うわあ、場が白けている。やっちまったかこれは? まあ、ビジネスの場に制服着た学生が変な事言っていれば、引かれて当たり前か。
「彼は高校生ながらに、このクドウ商会の渉外部で働いている凄い子なんですよ」
西山さんのフォローで、皆の俺を見る目が変わった。良かった。痛い奴のままにならなくて。
「まずは皆さん席に着きましょう。お話はそれからと言う事で」
俺は皆に着席を促し、率先して全員にお茶出しをした。お茶が全員に行き渡ったところで俺もバヨネッタさんの横に着席し、口を開く。
「えと、南原さんと西山さんの知り合いである東野さん、プロデューサーお二人は分かりましたけど、あとの男性三人さんは、何者なのでしょう?」
俺の疑問に、男性三人が自己紹介していなかった事に気付いたようだ。いや、俺が先に席を勧めたのがいけなかったのだが。ロマンスグレーの男性が口を開いた。
「えー、中島です。『マギ*なぎ』では総監督をさせて頂いています」
おお! 総監督!
「脚本、シリーズ構成をしています、北見です」
眼鏡に細面の男性が続いて自己紹介する。脚本! シリーズ構成ってなんだ?
「アニメーターの巽です」
最後、長髪で大柄の男性はアニメーターだった。つまり絵を描いている人。
「巽はメインアニメーターの一人で、『マギ*なぎ』の変身バンクは、巽が一人で描いているんですよ」
と総監督の中島さんが補足してくれた。
「一人デ!? 今マデノシリーズ全部デスカ!?」
バヨネッタさんが横で滅茶苦茶驚いていた。そんなに凄い事なのか?
「まあ、僕の事は良いじゃないですか」
巽さんは、恥ずかしそうにその大きな身体を縮こませる。恥ずかしがり屋なのだろうか?
「そうです! それよりバヨネッタさんの話が私は聞きたいです!」
東野さんは結構バッサリいくタイプか。
「イエ、私ハ彼ノ話ヲモット聞キタイデス!」
これに対しては、バヨネッタさんの方がグイグイ行くみたいだ。
「アノ変身バンクハ素晴ラシイ! ドノシリーズノドノ魔法少女ノ変身バンクカラモ、愛ヲ感ジマス!」
そうですか。バヨネッタさんも熱いな。巽さんは大照れしているけど。
「とりあえず、バヨネッタさんはオルドランド語に戻した方が、その愛を語れるんじゃないですか?」
俺が横入りしたのが気に入らなかったのだろう。睨まれた。
「まあ、そうね。確かに私の破裂しそうなこの情熱は、まだ未熟な日本語では表現しきれないわ」
オルドランド語に戻ったバヨネッタさんに、『マギ*なぎ』スタッフが驚きの声を上げる。多分、バヨネッタさんが何をしゃべっているのか理解出来るからだろう。
「この会議室には、言語翻訳の魔道具が設置されていますから、皆さんは日本語でお話頂いて大丈夫ですよ」
「おお! 魔道具! そんな魔道具も存在するんですね!」
脚本の北見さんは俺の話を聞くなり、ノートパソコンを取り出して何やら打ち始めた。
「他にはどんな魔道具があるんですか?」
どんなと言われてもな。俺も魔道具に詳しい訳じゃないからなあ。
「オルを呼びましょう」
と北見さんの要求に応えようとするバヨネッタさん。
「今からですか?」
「当然でしょう? 今呼ばなければ何時呼ぶのよ?」
それはそうなんですけどね。俺は言われた通り、オルさんが泊まっているホテルに連絡を入れる。
「その、オル? さんと言うのはどのような方なのですか?」
東野さんが尋ねてきた。
「我々の旅仲間です」
「旅仲間、ですか?」
「私たちはある目的の場所を目指して、旅をしている最中なの」
バヨネッタさんがそう答えるが、全員が首を傾げている。まあ、端的に言われても分からんよね。って言うか、バヨネッタさんもそう言う事をポロリと言わないで欲しい。
俺は、「これはオフレコで」と付け加えた上で、
「向こうでの活動の幅を広げる為に、旅のようなものをしていると解釈して貰えば、間違いではないかと」
と告げる。
「はあ。学生をしながらですか?」
「はい。週末は向こうで過ごして、旅をしていますね」
驚く女性プロデューサー二人をよそに、男性陣は何やらヒソヒソ話し始め、北見さんのキーボードを打つ音が会議室にノイズを立てる。
「それで、そのオルさんは魔道具に詳しい人なんですね?」
と中島総監督。
「そうですね。それにオルさんには『再現』と言うスキルがありますから、何であれ大概のものは再現可能です」
「おおおお!!」
と全員が驚嘆の声を上げる。
「スキルに魔道具ですか。魔法もあるんですよね?」
「当然よ。私は魔女よ。と言うか、魔法陣や魔道具を使って行使されるのが魔法なのよ」
「おおおお!!」
ノリが良いな『マギ*なぎ』スタッフ陣。
「それに、どうやら魔女の使う魔法は、他の魔法使いが使う魔法とは系統が違うようですね」
「そうなんですね!」
北見さんのキーボードを打つ手が止まらないなあ。
「他には? 他には何かないんですか?」
なんか俺たち、スタッフ陣に褒めそやされておだてられて、上手い事口車に乗っているような気がする。
「ギフトと言うのがあるわね。これは何人か、何十人かに一人が生まれながらに持つ能力よ」
「おおおお!!」
楽しそうだなあ。バヨネッタさんもスタッフ陣も。話が尽きなさそうだ。これは俺がいなくても回りそうだな。
「じゃあ、何か両者の雰囲気も良いですし、ここは邪魔者は退室すると言う事で、俺、もう帰って良いですかね?」
と席を立ち上がると、横のバヨネッタさんに引きずり戻された。
「何を言っているの? 話はここからでしょう? 私ばかりが話してどうするのよ。私はもっと『マギ*なぎ』の話を聞きたいし、まだ企画展の話を何一つしていないわよ」
覚えていたのか。はあ。このまま忘れて『マギ*なぎ』の話題に終始してくれていれば、俺は久しぶりにベッドで寝れたのに。この瞬間、俺の三徹が確定したのでした。
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