世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
250 / 632

筒井筒?

しおりを挟む
「それで? その男は何者なんだ?」


 ラシンシャ天が、味噌仕立ての寄せ鍋から取り分けられたタラを、箸で持ち上げながら尋ねてきた。う~ん、どう話せば良いのやら。


「新聞って伝わります?」


「お前、ちょいちょい余を馬鹿にするよな?」


 そんなつもりはないのですが。と俺は首を左右に振るう。


「で? その男は新聞屋なのか?」


「はい。今回の事をすっぱ抜かれました」


「ふっはっはっはっはっ!! 間抜けだな! それで? 強請ゆすられでもしたのか?」


「いえ、井戸の底から天を恨んでいたので、ならばいっそ、天からの景色を教えてあげるのも一興かと」


「ふむ。良い余興になりそうだな。おい、男。名前を何と言う?」


「ヒエッ!?」


 悲鳴を上げる事じゃないでしょうに。でもまあ、いきなり国のトップの前に立たされれば、挙動不審にもなるよな。俺もジョンポチ帝の時は土下座したし。


「この人の名前は、セク……」


「セクシーマン様!?」


 俺が武田を紹介するより前に、後ろから声を掛けられ、俺たちは振り返った。そこにいたのは、桂木など数名を引き連れた、金糸の編み込まれた豪奢な白いローブをまとう老婆である。眉尻の垂れたとても人の良さそうな女性で、優しさが身体全体からにじみ出ていた。


「ストーノ教皇様?」


 その女性が話し掛けてきた事が意外で、俺は首を傾げて尋ね返していた。彼女はストーノ教皇。モーハルドの元首である。彼女とは、武田が留置所で気絶している間に、あいさつだけ済ませてある。


「あ、ああ、ごめんなさいね。昔の知り合いにとても良く似ていたもので、思わず話し掛けてしまったわ」


 片手を頬に当てながら、ストーノ教皇は自分でも何をしゃべっているのか分からない。とでも言いたげにキョトンとして、しかしその目は武田を見詰めていた。


「ストーノ? ストーノ……なのか?」


 武田は思わず口を出た言葉に、ハッとなって直ぐ様口を塞いだ。しかしもう遅い。


「セクシーマン様……? 本物のセクシーマン様なのですか?」


 詰め寄るストーノ教皇から目を逸らすように、武田は横を向いて押し黙る。その武田の両腕を掴むストーノ教皇。


「セクシーマン様なのですよね?」


 そう言ってストーノ教皇は武田の身体を揺する。見てられないな。


「ああ、とりあえず、落ち着いてください。説明しますから。それと、もっと笑いをこらえてください。国際問題になりますよ?」


 俺の言に店内の地球勢全員がハッとなり、慌てて真顔を取り繕う。そうして店内が落ち着いたところで、俺は武田にしがみついているストーノ教皇の手を、ゆっくりと外して、近くの席に座らせると、その対面に武田を座らせた。


「では、教皇様、改めまして。こちらの男性は武田傑さん。教皇様がおっしゃられた通り、こちらの世界に転生したセクシーマンその人です」


 俺の言葉に、驚きで武田は目をカッと見開き、ストーノ教皇は両手を口に当てる。


「まあ……………………やっぱり、セクシーマン様だったのですね」


 武田に会えた事が余程嬉しいのだろう、ストーノ教皇はその目を涙でにじませていた。対する武田は、とてもバツが悪そうだ。しかし、


「…………こう言っては何ですけど、良く、武田さんがセクシーマンだってわかりましたね?」


「そのお姿、忘れようはずもありません。この方は、私の……いいえ、あの世界の勇者様なのですから」


 そうなんだ。武田って凄かったんだな。


「って言うか武田さん、転生前もそんな姿だったんですか?」


「そんなってどんなだ?」


 武田に半眼で睨まれた。


「おいおい、本当にあのセクシーマンなのか?」


 横の卓からラシンシャ天が、こちらに顔を覗かせている。


「ラシンシャ天もご存知なのですか?」


「当然だろう。五十年前の魔王との戦いを終わらせた勇者だぞ。あの時は我が国の勇者が後塵を拝する事になり、腹が裂ける程悔しい思いをした。とお祖父様もおっしゃられていた」


 魔王との戦いを終わらせた、ねえ。ジョンポチ帝も別の卓からチラチラこちらを見ているし、それは過去にあった事実なのかも知れない。しかしなあ。俺の視線が気に食わなかったのだろう。武田は更に目を細めてこちらを睨んできていた。


「あんた、この世界で何やってんだよ」


「俺だって、こっちの世界にレベルがないとは思わなかったんだよ」


 やっぱり馬鹿だと思うこの人。いや、固定観念があったら、俺でも同じ間違いをするだろうか?


「セクシーマン様は、今は新聞に携われておられるのですか?」


 余程武田と話したかったのだろう。ストーノ教皇は胸の前で手を組みながら、まるで少女のように目をキラキラさせて、武田に話し掛けてきた。


「あ、ああ。あるニュースサイトを立ち上げてな。そこで市井からの視線に立って、正義の報道を行っているよ」


 良くそんな口からでまかせが出てくるものだ。


「まあ、素晴らしいです。こちらでも世の為人の為に日夜頑張っておられるのですね」


 ストーノ教皇がうっとりしている。なんだろう。俺の方が罪悪感を覚えるのだが?


「あ、ああ、まあな。そちらとこちらでは、戦い方が違う為、色々と困難はあるが、俺にかかれば砂山を崩すも同然よ。しかしそちらは教皇か。立派になったものだ」


 武田の言葉に、しかしストーノ教皇は首を左右に振るう。


「いえ、私なんて、ただ長く生きただけですよ。他の仲間たちは先に逝き、勇者パーティで私だけが生き延びたから、たまたま教皇の座に座らされただけです」


 ストーノ教皇は勇者パーティの一人だったのか。と言う事は前世の武田と旅をしていたって事か。それは思い入れも人一倍だろうなあ。


「そうなのか? あの頃から他の仲間たちと話していたんだがなあ。ストーノが教皇となれば、きっとモーハルドはもっと豊かになるだろうと」


 しかしそれにもストーノ教皇は首を左右に振るう。


「駄目でした。今やモーハルドはデーイッシュ派一色になろうかと言う情勢で、今回私がここに来たのも、先に派遣されたデーイッシュ派の使者の尻拭いですから。これが本当に教皇の仕事なのやら」


「そんな!? 今はデーイッシュ派が優勢なのか!?」


 驚き返す武田に、ストーノ教皇は静かに頷いた。デーイッシュ派は強硬派と呼ばれている派閥だ。確かオルドランドに派遣されて、ムチーノ侯爵と悪巧みしていたノールッド大司教もデーイッシュ派だったっけ? それでストーノ教皇は穏健派であるコニン派の出身なんだよねえ。それは国内が中々面倒臭い事になっていそうだ。


 シーンと会話が途切れたところで、俺はパンと手を打って空気を変える。


「まあ、でも、こうしてこっちの世界とも交流を持つようになった今、モーハルドの情勢がどう変わるかは水物ですからねえ。デーイッシュ派の人たちだって、国内にばかり目を向けてもいられないでしょう」


 うう、ちょっともどかしい励まし方になってしまった。でも教皇様お付きの人が後ろで目を光らせているんだよねえ。あの人絶対デーイッシュ派だよなあ。


「そうですね。すみません。久し振りにセクシーマン様と会えたと言うのに、このような話題を口にしてしまって」


「良い。辛い事があるなら、全部ぶちまけてしまえば良い」


「いや、ここ公衆の面前ですから。しかも各国のお偉いさんがそこかしこにいますから」


 ストーノ教皇を前に格好付ける武田に、俺は釘を刺す。


「そう……だったな。だがまあ、ストーノが困っているのなら、俺は出来る限り手を貸すからな」


 拳を握って口にした武田の台詞に、ストーノ教皇は嬉しそうに破顔した。


「この人の笑顔は、裏切っちゃいけない笑顔だと思いますよ」


「分かっているさ」


 そう言って武田は、ちらりと教皇様お付きの人に視線を向けてみせた。なんだ、多少は分かっているんじゃないか。まあ、この人こじらせているけど、根は真っ直ぐなんだよなあ。あとは言い寄ってくる有象無象に巧く対処出来れば良いけど、それは難しいかな? こっちで監視を付けるべきか。そうすれば有益な方向に行動を操作出来るかもなあ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

処理中です...