世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
234 / 632

透明、です?

しおりを挟む
「老けさせる、んですか?」


 良く分からない要求に、変なところで区切ってしまった。


「そうよ」


 決定事項のようにバヨネッタさんが首肯する。どうやら俺の聞き間違いではなかったようだ。


「何の為に?」


 当然の疑問を口にした俺に、答えてくれたのはゼラン仙者だ。


「モテる為だ」


「は?」


 思わずそんな無礼な返答をしてしまう。


「モテる為だ」


 俺の返答は気にならなかったのか、ゼラン仙者はもう一度同じ事を口にした。どうやら聞き間違いではなかったようだ。


 俺がバヨネッタさんに詳細な説明求めると、首を横に振られてしまった。


「この外道仙者が年を取る方法を探し回っているのは知っていたけど、まさかこんな馬鹿な理由だったとは、私も思わなかったわ」


 さいですか。


「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。私は真剣に悩んでいるのだ」


 ちっちゃな男の子が駄々をこねている。ようにしか見えない。


「モテないんですか? 可愛らしいお顔ですし、女性にモテると思うんですけど?」


 俺の発言にゼラン仙者が遠くを見る。


「確かに私はこの容姿だ。寄ってくる女はごまんといる。しかしな、事ここに及ぶ段になると、皆拒否するのだ。曰く、そんな風に見れないだの、曰く、ガツガツされると引くだの、挙げ句は俺の下半身を見て笑う始末だ。これを許せるか? いいや許せん!」


「はあ」


 成程、バヨネッタさんが外道仙者と呼ぶのも分かるな。


「今まで集めた財宝の中に、そのような効果を及ぼす物はなかったのですか?」


「多少の効果がある物はあったが、どれも壊れてしまった。私の身体は、そう言った古代の財や魔導具によってここまで大きくなったのだ」


 そうなんだ。その口振りだと、昔はもっと幼い容姿をしていたようだけど?


「ゼラン仙者って、いったい幾つで仙者になられたんですか?」


「五歳だ」


 と、その小さな胸を張るゼラン仙者。


「私は天才だからな。仙者になるなど簡単だったのだ。いや、簡単過ぎた。普通、仙者と言うのは、年を経て、酸いも甘いも噛み分けて、苦労して到達する境地なのだ。だと言うのに、私は己の才のみで仙者に到達してしまった。その結果がこれよ。笑いたければ笑えば良い」


 笑いはしないけど。いや、バヨネッタさん、人が真剣な話をしている時に、ニヤニヤするのはどうかと思いますよ?


「分かるか? ハルアキよ! これは男の尊厳を取り戻す、最優先命題なのだ!」


 ええ!? 下半身問題を最優先命題と言われましても。


「確かに私は『時間操作』のスキルを使えますけど、そんな、五歳十歳と年を取らせる事は出来ませんよ?」


「分かっているわよ。今のハルアキではレベルも実力も足りていないわ。少なくとも、全身にある五つの坩堝全てを開放させられるようにならないと」


 バヨネッタさんが言いたいのは、レベルとプレイヤースキルの事だろう。確かにレベルを上げ、全合一を完璧なものにすれば、もしかしたらいけるか? ゼラン仙者を見れば、下品に口角を上げ、俺を上から下まで見定めていた。


「今すぐに、とはいかないが、追々出来るようになるだろう。いつから修行に入る? 今日か? 今日だろう?」


 どんだけ大人になりたいんだこの人?


「あはは。ラシンシャ天、日本のお酒に興味はありませんか? こちらと同じ米酒ですよ?」


「ちっ」


 あからさまに話題を変えたら、ゼラン仙者に舌打ちされた。なんかちょっぴり傷付くのでやめて頂きたい。


「面白い。赤酒か? 黒酒か?」


 赤酒? 黒酒? 俺が『空間庫』から日本酒を取り出そうとしたら、そんな言葉がラシンシャ天から飛び出した。


「いえ、透明、です?」


 何故か俺まで疑問形に答えてしまった。


「透明だと? 赤や黒ににごっていないのか?」


 ああ。こっちの酒はにごり酒なのか。確か日本でも江戸時代まではにごり酒が主流だったけ。清酒の作り方が確立されたのはもっと前みたいだけど。あれ? でもにごり酒も白いよな?


「もしかして、お米自体が赤だったり黒だったりするんですか?」


 当然だろう。と言わんばかりにラシンシャ天が鷹揚に頷いた。赤米とか黒米とか、日本じゃ古代米だよな。パジャンでは普通に作られているんだな。


「私たちの世界では、赤米や黒米はほとんど流通していませんね。流通しているのは精米された白いお米です」


 俺はまず先にラシンシャ天に白いお米を出して見せた。


「ふむ。丸みがあって粒一つ一つも大きいな」


「はは。品種改良なんかも進んでいますから。その米を炊いて作られたのが、このおにぎりになります」


 と俺はコンビニで売っているおにぎりを、パッケージから取り出して、ラシンシャ天に献上する。


「ふむ? 何やら黒いもので包まれているが?」


「海藻です。無作法ではありますが、手掴みで簡単に食べられるようになっております」


「ふむ」


 面白いものを見て、目を輝かせるラシンシャ天だが、すぐにそれにかぶりつく事はしなかった。お付きの女官がまずナイフでおにぎりを半分に割る。


「中に何か入っていますね?」


 女官が聞いていないぞ? と睨んでくる。


「おかずですよ。鮭と言う魚です。米だけでは食も進まないでしょう? このおにぎりは、米とおかずを一度に、手軽に摂れるんです」


 女官は不審なものを見るように、俺とおにぎりとを交互に見ながら、覚悟を決めたのか、おにぎりを口にした。この女官がどうやらラシンシャ天の毒見役らしい。


「どうだ?」


 ラシンシャ天の問いに、女官は複雑な顔をしてみせた。


「……美味しいです」


 いや、全然美味しそうに見えないんですが? 美味しいのならもっと美味しそうに食べて欲しい。


「ふっはっはっはっはっ!! そうか! 美味いか!」


 だが、それを聞いて安心したのか、ラシンシャ天はおにぎりを手掴みで口に運んだ。


「うむ。美味いな。悪くない」


 どうやら日本の米は天のお口に合ったらしい。


「してハルアキよ、本題の酒はどうした?」


 と言われたので、俺は三枝さんに選んで貰った、純米吟醸酒を『空間庫』から取り出すと、ガラスのお猪口に注いだ。


「ふむ。それが日本の米酒か」


「はい。米と米こうじ、水だけで作られております」


「なんと! それだけでここまで透明な酒になるのか?」


 にごり酒を飲んでいる人からしたら、驚きの透明さだろうからなあ。


「蒸留酒ですか?」


 毒見役の女官が尋ねてきた。


「いえ、蒸留酒もありますが、これはそれとは別の製法で作られています」


 俺の言葉に女官は疑わしげだ。まあ、何でもかんでも疑ってかかる職業なのだろうけど、何かちょっと傷付くんだよなあ。


 俺の心中なんて知らない女官は、ガラスのお猪口に並々注がれたお酒を、一口分、口に含んだ。


「どうだ?」


「……美味しいです」


 だからなんでそんなに不機嫌そうなの?


「ふっはっはっはっはっ!! お前がそれだけ悔しがると言う事は、それだけ美味いと言う事だな!」


 成程。悔しがっていたのか。分かり辛いなあ。自国以外の物は認めたくないのかなあ。などと俺が考えている間に、ラシンシャ天がお猪口を呷る。


「ふむ。にごりがない分スッキリした喉越しだな。果実のようなふくよかな香りと甘み。それでいて舌を刺激する辛味。これはいけない酒だな」


「いけませんか?」


 口に合わなかっただろうか?


「美味過ぎて止まらん」


 とラシンシャ天が空になったお猪口を俺に差し出してきた。ふう、良かった。気に入って貰えたようだ。


「飲み過ぎにはご注意ください。日本酒は二日酔いになり易いそうですから」


 言いながら俺は、差し出されたお猪口にお酒を注ぐのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

処理中です...