世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
218 / 625

パキッ。

しおりを挟む
 洞穴の階段を下る。メンバーは俺、バヨネッタさん、オルさん、リットーさん、バンジョーさん、シンヤたち勇者パーティだ。


「どこに向かっているんだ?」


 閉塞的な洞穴の階段を、無言で下る事に堪えられなくなったシンヤが話し掛けてきた。


「バヨネッタさんご用達の武器屋だよ」


 勇者パーティも、いきなり転移扉で洞穴に直結されて困惑していたらしく、俺の話を聞いて得心顔だ。


「誰かさんのせいでかなり武器を消耗してしまったからね」


 バヨネッタさんの言葉に、シュンとするシンヤ。


「す、すみません」


「もう良いわよ。別に勇者だけのせいじゃないし」


 その発言に首を傾げる勇者パーティ。


「シンヤが来る前に一戦、俺たちは大激戦を繰り広げていたんだよ。ほら、シンヤがこっちに来てすぐに倒したあの不定形物だよ」


「…………そうだったっけ? 記憶にないけど」


 シンヤはそうかもな。


「でなければ、勇者ごときにあんなに苦戦していないわよ」


 バヨネッタさんの発言に苦笑いのシンヤ。ラズゥさんはそれに対してムスッとしていた。だがまあ、大激戦二連発が大変だったのは確かだしなあ。


 俺たちは軽口を交わしながらゴルードさんの武器屋に到着した。



「また人数が増えていないか?」


 扉を開けるなり、不満気な顔を隠さないゴルードさん。


「あら? そんな事言って良いのかしら? 珍客よ? なにせパジャンの勇者御一行なのだから」


「勇者だと!?」


 驚きながら扉を全開にしたゴルードさんは、素早く目を動かし、それぞれの武器をチェックすると、照準をシンヤに定めて、ズンズンと近付いていくと、その腰にぶら下げている刀と剣をジロジロと間近で見遣る。


「お前が勇者か?」


 パジャン語で尋ねるゴルードさん。ビビりながら頷くシンヤ。と言うかゴルードさんもパジャン語しゃべれるんだな。一応客商売だからかなあ。言わずもがなオルさんもしゃべれるし、なんか皆、ちゃんと勉強しているんだよなあ。俺も勉強頑張らなければ。


「この剣が霊王剣なのは分かるが、もう一つの刀はなんだ?」


 バヨネッタさんを振り返るゴルードさん。


「キュリエリーヴよ」


「キュリエリーヴだと!?」


 バヨネッタさんの発言に、改めて刀をマジマジと見遣るゴルードさん。


「ええっと、あのう」


 その対応に困って、シンヤはこちらに助けを求めてくるが、すまん。俺にもどうしようもない。と首を横に振る。


「ゴルード、あなた客をいつまで入り口で待たせておくつもり?」


 それを知ってか知らずか、バヨネッタさんが口添えしてくれた。それにハッとしたゴルードさんは、未だシンヤの腰の物を名残り惜しそうに見遣りながらも、全員を店内に招き入れてくれた。



「それで? 今回はどんな要件なんだ?」


 店内のテーブルや椅子の置かれたスペースで、皆が席に着いたところでゴルードさんがバヨネッタさんに尋ねてきた。


「銃砲類が相当数壊れてしまってね。その補充に来たのよ」


「相当数?」


 ゴルードさんは、バヨネッタさんの言に腕を組んで片眉を上げる。


「とりあえず、バヨネットを三百丁、大砲を五十台、明日までに用意してちょうだい」


「相変わらずお前は無茶振りが過ぎるぞ」


 腕を組んだまま嘆息するゴルードさん。確かに。俺も同意する。


「だからオルを連れてきたのよ」


「僕その為に連れてこられたんですか!?」


 オルさんに事情が通じていないんですけど? バヨネッタさんって、ちょくちょく報連相を疎かにするよね?


「無茶振りが過ぎませんか?」


 俺が口を挟むと、バヨネッタさんは口の端を上げてみせる。勝算ありと言う事だろうか?


「私だってそれが無茶な数字である事は分かっているわ」


 そうなのか。


「ゴルード。あなたの事だから、何かしら対価があれば、それ相当の物を用意出来るんじゃないかしら?」


 バヨネッタさんの発言に、ゴルードさんが苦い顔をする。当たりを引いたらしい。


「ならこちらも一つ注文を出させて貰おう」


 とゴルードさんも口角を上げた。


「霊王剣ね。良いでしょう」


「いや、何が良いんですか!?」


 いきなり霊王剣の名を出されて、びっくりしたシンヤが腰を上げた。


「大丈夫よ。流石に壊したりはしないと思うわ。多分」


「多分ってなんですか!? 多分って!?」


 いきなりの事に我が剣を守ろうとするシンヤだったが、バヨネッタさんからあんな視線を送られては仕方がない。俺はシンヤに対して『時間操作』タイプAを使って、シンヤの時間を遅速させると、その腰の霊王剣を取り上げた。


「すまん、シンヤ」


「と、友達だと思っていたのに」


 などと茶番を繰り広げるが、実際のところ、それ程お互い危機感を持ってはいなかった。


 俺は素直にシンヤから取り上げた霊王剣を、ゴルードさんの前に置いた。


「ふ~む。これが最古の聖剣、霊王剣か」


 言いながら霊王剣を手に持つゴルードさん。いつの間にかオルさんがその後ろに立って覗き込んでいた。まあ確かに、ゴルードさんと同じ『再現』持ちなら、霊王剣の構造は気になるよねえ。


「キュリエリーヴは良いのですか?」


 俺の発言にビクッとなるシンヤ。


「ああ。キュリエリーヴは刃が神鎮鉄で出来ているだけで、構造はシンプルだからな。再現するのに材料がないだけで、材料さえあれば再現可能だ」


 まあ、それはそうかも知れないなあ。などとぼんやり霊王剣を触っているゴルードさんを見遣る。


 パキッ。


 そんな音が霊王剣から聞こえてきた。目がシャキンとなって霊王剣を持つゴルードさんを凝視すると、霊王剣が、柄のところで折れていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...