世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
203 / 632

対勇者? 其の四

しおりを挟む
「かはっ!?」


 吐血するシンヤ(ギリード)。自身を貫くアニンの黒槍を斬り落とそうと、キュリエリーヴを振るおうとするが、そうはさせない。アニンはその身を柔らかくしなやかに変化させると、ぐるぐるとシンヤ(ギリード)の身体に巻き付いていき、シンヤ(ギリード)の動きを拘束する。これで奴はキュリエリーヴを振るわせる事も出来ない。


『くっ』


 だがこれだけで奴の動きを封じられる訳がない。すぐにその『怪力』と『加速』でアニンの拘束を振りほどく為に動き出そうとする。が、それはこちらも織り込み済みだ。俺はアニンを通してシンヤ(ギリード)単体の時間を遅速させた。


 それでもまだ動けるのは、その『怪力』と『加速』のバフの高さによるものだろう。シンヤ(ギリード)は両手の聖剣を振り回し、自身を拘束するアニンを振り解こうと躍起だ。特にその右手のキュリエリーヴの刀身をアニンに当てようとする。それだけでこの拘束が解けるからだ。


 当然リスクはある。もしも己の身体に刀身が当たれば、ギリードの『操縦』は直ぐ様解除されてしまうだろう。それでも奴にとってはリスクを取ってでも行わなければいけない、最優先事項なのだ。


 ダァンッ!


 まあ、そんな事はさせないが。俺は冷静に、痺れの取れた手で、改造ガバメントでシンヤ(ギリード)の右手を撃ち抜いた。その手から吹き飛ぶキュリエリーヴを、アニンが伸長して掴む。


『やぁ……めぇ……ろぉ……』


 時間遅速で間延びしたシンヤ(ギリード)の静止の声を無視して、アニンがキュリエリーヴをシンヤ(ギリード)に向かって振るった。


『ぎゃあああああああッ!!』


 汚い悲鳴を上げながら、悶え苦しむシンヤ(ギリード)。俺はアニンを手元に戻すと、キュリエリーヴを握り、シンヤ(ギリード)の元へとじりじりとにじり寄っていく。


『ぎゃあああああああッ!!』


 苦しむシンヤ(ギリード)は頭を抱えてその場で転がり回る。リットーさんは今のうちとでも言わんばかりにゼストルスとバンジョーさんに駆け寄って行く。バヨネッタさんは不測の事態に備えて銃砲でシンヤ(ギリード)を取り囲んでいる。


『ああああああああああああッ!!』


 シンヤ(ギリード)の最後の悲鳴のようなものが大部屋にこだますると、のけ反るシンヤの頭から、ズルリと三編みが抜け落ちた。


 何が起きたんだ? と良く観察してみると、俺が三編みだと思っていたものは、サソリとクモを足したような生き物の尾だった事が分かった。


『どうやらあれが奴の本体らしいな』


 アニンが声を掛けてくる。それは確かにそうなのかも知れないが、え? 『操縦』って物理的に取り付いて操るの? 何か魔法的回路で繋がって操るとかじゃないの? いや、両方か?


『そう言う疑問は後回しだ。お友達が傷を負って倒れているのだぞ?』


 そうだった。ハッとして俺はシンヤに駆け寄るが、シンヤの顔は死人のように真っ青で、触れる事もはばかられた。


『アッハッハッハッハッハッ! 残念だったな』


 すぐ近くの、サソリとクモを足したような生き物、ギリードが声を掛けてきた。こいつまだ生きていたのか。


『俺様の『操縦』は、対象の脳に寄生して動かす俺様オンリーの能力だ。脳に寄生された生き物が、寄生体に去られたらどうなると思う? 死ぬだけさ。アッハッハッハッハッハッ!』


 ザスッ。


 対象が虫のような節足動物だったからだろうか。『念話』でコミュニケーションが取れていたと言うのに、その身体をキュリエリーヴで突き刺す事に何の躊躇いもなかった。


 シンヤが死んだ? せっかくあの事故以来また逢えたと思ったら、また別れる事になってしまった。俺はシンヤの直ぐ側で膝を付き、床を思いっきり叩いて、声にならない声で叫んでいた。


 と、俺の耳に俺の声以外の微かな音が入ってきた。俺はガバっと顔を上げると、その音の発信源であるシンヤの口元に耳を近付ける。


 ヒュー…………ヒュー………………。


 それは声とも言えない呼吸音で、今にも止まりそうなくらい弱々しい音だった。が、生きているのなら問題ない。俺は『空間庫』からハイポーションを取り出すと、直ぐ様シンヤにブッ掛ける。


 速攻で快癒していくシンヤの身体。ハイポーションを使うのは初めてだったが、ウルドゥラに八つ裂きにされたと言う三公さえ一瞬で回復させた回復力だ。死んでさえいなければどうにでもなるだろう。


 見る見るうちに血色が良くなっていくシンヤの顔に、一先ずホッと溜息を吐く。


『馬鹿な!? 超仙丹だと!? まさかそんな物を持っていたとは!』


『念話』が頭に響いてきて振り返ると、ギリードが、身体を半分にしながらも、俺の肩に乗っていた。バヨネッタさんがこちらへピースメーカーを向ける。が俺が死角になって撃てなかった。


「くっ!」


 振り払おうと俺がギリードに触れるより先に、奴が俺に噛み付いた。


『ハッハッハッハッハッ。ハルアキ、貴様も俺様を良くここまで追い詰めたと褒めてやろう。が、後一歩足りなかったな。俺様が身体を貫かれたくらいで死ぬと思ったのか?』


 くっ、身体が動かせない。


『ハハッ、だろうな。俺様の魔法回路は既に貴様の脳に届いているのだからな。あとは貴様の身体を完全に支配してやるだけだ』


 そう言って高笑いをするギリードだったが、俺からすれば後一歩なのはギリードの方だ。


『誰の許しを得て、この身体を乗っ取るつもりだ』


 脳をじわじわと侵食していこうとするギリードの前に、アニンが立ちはだかった。


『な、何だ貴様は?』


『この身体の先住民だよ。全く、先程は良くもやってくれたものだ』


『先住民、だと? まさか俺様より先に、この身体が乗っ取られていたとはな』


 若干否定し辛い。


『まあ良い。ならば先に貴様を喰らい、その上で俺様がこの身体の支配者になってやろう』


『ほう? 出来ると思っているのか?』


 不遜なギリードの態度に、しかしアニンは泰然としている。


『当然だ。すぐに俺様と貴様の格の違いを思い知る事になるだろうよ』


 そう言ってアニンに襲い掛かろうとするギリードだったが、その攻撃は空を切る事となった。ギリードの前にいたはずのアニンの気配が消えたからだ。


『どうした? 今更怖じ気付いたか? 俺様は準備万端だ。すぐに貴様を消し去ってやる。さあ、どうし……』


 そこでギリードの意識が消えた。アニンに食べられたから。ギリードは分かっていなかった。ギリードの前でアニンの気配が消えたのではなく、ギリードをアニンが包み込んだのだ。そしてそのまま飲み込んだ。ご感想はアニン?


『げっぷ。不味い。性根の腐った味がした』


 どんな味なのかは想像出来ないが、これでギリードの脅威はなくなった。あとはシンヤが目を覚ますのを待とう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

処理中です...