世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
191 / 632

迷宮へ潜る

しおりを挟む
「バヨネッタさ~ん、出てきてください」


 バヨネッタさんの部屋の扉を叩くが、応答はない。バヨネッタさんは闘技場でリットーさんと戦った日から、部屋に籠もりっぱなしで、お世話をするアンリさん以外に顔を見せていなかった。理由は単純だ。リットーさんに負けたからである。


 そんな事か。と思うかも知れないが、バヨネッタさんにとっては一大事だったらしく、なんと負けたショックで涙を見せた程だ。それが恥ずかしかったのかどうかは分からないが、それ以来、首都にあるマリジール公の別邸の部屋に引き籠もっている。


「なんだ!? まだ部屋にいるのか!?」


 リットーさんがやって来た。今日はリットーさんとバヨネッタさんがデレダ迷宮に挑む日だ。だと言うのに、バヨネッタさんが部屋に引き籠もったままなので、様子を見に来たのだろう。


「まだすねているのか!? あの勝負、ほぼ互角だったじゃないか! バヨネッタ殿が勝っていてもおかしくなかった! あれは良い戦いだった!」


 確かに一見互角ではあった。バヨネッタさんとリットーさんの戦いは、一時間を超える睨み合いから始まった。その時点で観客は半分以上が退席し、デイヤ公は不満を口にしていた。


 そして睨み合いから先手を打ったのはバヨネッタさんだった。時間を掛けてリットーさんを百丁以上のバヨネットで取り囲み、全方位から斉射されるバヨネッタさんの銃弾。


 それを多少の被弾は覚悟の上と、大盾に身体を隠しながらバヨネッタさん目掛けて一点突破するリットーさん。右手に持つ螺旋槍の威力は凄まじく、避けたバヨネッタさんの後ろの壁を貫き、大穴を開けた程だ。普通、闘技場の壁はそうそう壊れない。壊れても表面だけだ。観客の安全の為、分厚い石材が何重にもなっているし、魔法も掛けられているそうなのだが、それらを全部ぶっ壊すリットーさんのパワーが規格外なのだ。


 そしてそれに対抗しようと、『宝物庫』から大砲を取り出すバヨネッタさん。ジョーエルが融合して変身した巨人さえも肉片に変えた大砲である。バヨネッタさん、本気だな。と俺は思った。その後は悲劇だった。


 大砲の威力は凄まじく、やはり壁に大穴を開ける程。そんな大砲と螺旋槍のぶつかり合いである。二人が戦う程に壊れていく闘技場。その威力の凄まじさに恐れ慄いた観客たちが、一斉に闘技場から逃げ出そうとしてパニックになる現場。そんな事お構いなしに戦う二人。特別観覧室から見た光景は、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


 結果は、大砲の砲弾をまるで踊るように巧く大盾でいなしながら、バヨネッタさんへと近付き、螺旋槍でバヨネッタさんの何重もの結界を突き破ったリットーさんが、試合巧者ぶりを見せ付けて勝利した。


 バヨネッタさんも最後の螺旋槍はギリギリで躱していたし、恐らく次の一手はあっただろうが、そこで三公から「そこまで!」との言い渡しが下ったのだ。まあ、それも仕様がない事。ここまでの二人の戦いで、闘技場はほぼ全壊となっていたからだ。これ以上は街に被害が及ぶ恐れがあると考えた三公の判断だった。


 なのでリットーさんの言い分は確かに正しいのだが、勝者にそうやって気を使われるのは、中々に辛い仕打ちのように思われる。なのでリットーさんが扉に向かって何を言ったところで、暖簾に腕押し、糠に釘と言うやつでまるで出てくる様子はない。


「そうか! ならば私一人で迷宮に行く事にしよう!」


 まるで出てくる様子のないバヨネッタさんを、部屋の外に出す事を諦めたリットーさんがそう口にした瞬間、バンッと部屋の扉は音を立てて開かれ、そこには泣きはらした目をしたバヨネッタさんが憮然とした表情をしながら立っていた。


「行くわよ。行くに決まっているでしょう」


 天の岩戸に引き籠もった天照大神アマテラスを外に出す為に、神々は岩戸の前で天照大神の興味を引こうと色々やったと伝わるが、バヨネッタさんには財宝やダンジョンの話をすれば一発だったな。


「そうか!」


 しかしリットーさんはバヨネッタさんの様子に頓着していないようで、カラッとしたいつもの調子で応えるのだった。



「ここがデレダ迷宮の入口ですか」


 俺たちが三公に連れられてやって来たのは、首都から少し離れた林の中。そこは神殿跡地のような場所で、正方形の土台は一辺が二十メートルはありそうで、デザインなのか角から向かいの角まで一本の斜線が引かれ、二等辺直角三角形が二つ合わさったような感じだ。そして土台の脇に祭壇が設置されている。正方形の土台の各角には柱が建っていて、途中が光っていた。柱は十のブロックで造られているのだが、その上から四番目のブロック光っている。


「で、入口はどこにあるんですか?」


 と俺が尋ねると、


「これよ」


 とバヨネッタさんが土台を指差した。ああ、成程。土台が入口のパターンね。この土台自体が閉ざされた門って訳ね。俺もこの世界の仕掛けに慣れてきたなあ。このくらいでは驚かないからね。


 三公が祭壇まで歩いていく。何やら暗号との事なので、「開けゴマ」的な呪文なのかと思っていたら、祭壇で何かを操作していた。ああ、成程。そっち系ね。などと心の中で知ったかぶっていると、操作が終わったのだろう、正方形の土台が斜線から切り離されるようにして開いていき、その中には下へと続く螺旋階段が延びていた。下を覗くと、階段の先にまた閉ざされた門がある。ここと同じく正方形に斜線が入れられ、四隅に柱が建っていた。


「では、バヨネッタさん、リットーさん、いってらっしゃい」


 デレダ迷宮に入る事が許されたのはバヨネッタさんとリットーさんだけだ。俺たちはお見送りである。バンジョーさんはリットーさんVSウルドゥラの戦いを間近で見て、それを歌にしたかったらしく、同行出来ない事をかなり悔しがっていた。


 三公の後に続いて、バヨネッタさんとリットーさんが入口を下っていく。下っていく五人を上から見守っているだけなのだが、バンジョーさん的には無理みたいで、明後日の方を向いていた。それで良くついて行くと言えたな。


 三公はオラコラさんや配下も伴わずに下っていく。それだけデレダ迷宮に入れる人間は限られているようだ。デレダ迷宮で三公が魔物に襲われた時に守るのは、バヨネッタさんやリットーさんの役目になる。強さが求められる理由がここにある。



「もうデレダ迷宮には着きましたかね?」


「着いていてもおかしくないんじゃないかなあ」


 俺のその場の退屈を紛らわせるだけの質問に、オルさんが応えてくれた。これが何度目のやり取りかは覚えていない。下る五人を見守っていたのも最初のうちだけで、十分もしたらそれにも飽きてしまった。だからと言ってこの場を無断で離れるのもはばかられる。なにせ辺りは衛士たちによって厳重警備中だからだ。まあ、こんなデカい門が開きっぱなしじゃあ、心配なのも当然か。


 しかし冬の林は寒いので、さっさと三公には戻ってきて欲しいものだ。


 などと不遜な考えを持ったのがいけなかったのかも知れない。下から、デレダ迷宮の方から轟音が近付いてくる。何事か!? と俺たちが入口に顔を覗かせた瞬間、暗緑色の何かが入口から天へと突き抜けて行った。それを追って俺たちは空を仰ぐ。


 視界に映ったのはリットーさんの愛竜ゼストルスだった。その背に乗せているのはリットーさんではなく、三公だ。


 ゼストルスが着地するや否や、オラコラさんがマリジール公に駆け寄っていく。他の二公の配下たちも同じだ。それに一歩遅れる形で俺たちは駆け寄っていった。


 三公は三人とも顔面蒼白で、心配する周りを気にする余裕などなく、まず始めにデレダ迷宮の入口を閉じた。


「大丈夫マリジール!? 何があったの!?」


 心配するオラコラさんにマリジール公は抱き着き、そうする事で安心したのか、ぽつりと呟いた。


「あれはこの世の者では倒せない……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき
ファンタジー
霊や妖による事件が起こる国で、それらに立ち向かうため新設された部署・巫覡院(ふげきいん)。その立ち上げに抜擢されたのはまだ15歳の少女だった。 少女は期待以上の働きを見せ、どんどん怪奇事件を解決していくが、事件はなくなることなく起こり続ける。 さらにその少女自身にもなにやら秘密がいっぱいあるようで…。 新米巫覡がやがて救国の巫女姫と呼ばれるようになるまでの雑用係の少年との日常と事件録。 ーーーー 毎日更新・最終話まで執筆済み

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご
BL
歩けば十人中十人が振り向く、集団生活をすれば彼を巡って必ず諍いが起きる、騒動の中心にはいつも彼がいる、そんな美貌を持って生まれた紫川鈴(しかわすず)。 しかし彼はある事情から極道の家で育てられている。そのような環境で身についた可憐な見た目とは相反した度胸は、地方トップと評される恐ろしい不良校でも発揮されるのだった。 高校になって再会した幼なじみ、中学の時の元いじめっ子、過保護すぎるお爺様、人外とまで呼ばれる恐怖の裏番…、個性的な人達に囲まれ、トラブルしか起きようが無い不良校で過ごす美青年の、ある恋物語。 中央柳高校一年生 紫川鈴、頑張ります! ━━━━━━━━━━━━━━━ いじめ、暴力表現あり。 R-18も予定しています。 決まり次第、別の話にまとめて投稿したいと思います。 この話自体はR-15で最後まで進んでいきます。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 登場人物たちの別視点の話がいくつかあります。 黒の帳の話のタイトルをつけているので、読む際の参考にしていただければと思います。 黒の帳とあまり交わらない話は、個別のタイトルをつけています。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 〜注意〜 失恋する人物が何人か居ます。 複数カプ、複数相手のカプが登場します。 主人公がかなり酷い目に遭います。 エンドが決まっていないので、タグがあやふやです。 恋愛感情以上のクソデカ感情表現があります。 総受けとの表記がありますが、一部振られます。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 追記 登場人物紹介載せました。 ネタバレにならない程度に書いてみましたが、どうでしょうか。 この小説自体初投稿な上、初めて書いたので死ぬほど読みづらいと思います。 もっとここの紹介書いて!みたいなご意見をくださると、改善に繋がるのでありがたいです。 イラスト載せました。 デジタルに手が出せず、モノクロですが、楽しんで頂けたらと思います。 苦手な人は絶対見ないでください、自衛大事です! 別視点の人物の話を黒の帳に集合させました。 これで読みやすくなれば…と思います。

田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。 最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。 自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。 そして、その価値観がずれているということも。 これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。 ※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。 基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

処理中です...