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紫煙の魔女オラコラ。女性ながら何故か燕尾服を着た男装の麗人は、『紫煙』の二つ名を持つ通り、煙管を吹かし、乗って移動するのも巨大な煙管である。
「天災の魔女とは名乗っていないのね」
とぼそりとバヨネッタさんが呟く。
「天災、ですか?」
そう言われれば、オラコラさんは黒雲を呼び、雷を落とし、竜巻まで発生させていた。
「ええ。オラコラは竜巻に雷、暴風雨に雹雪、日照りに果ては台風まで。どんな気象をも操るのよ。その実力は魔女の中でも最強クラスよ」
うわあ、敵に回したくないなあ。
「私その二つ名好きじゃないのよ」
オラコラさんはバヨネッタさんの説明に不服そうだ。
「そんな事より、今は私たちの追っている賊、竜騎士たちの話をしましょう」
「竜騎士、ねえ」
バヨネッタさんは腕を組み、オラコラさんに話を先に進めるように促す。
「気付いているでしょうけど、こいつらは元オルドランドの貴族よ」
まあ、そうだろうなあ。
「三、四ヶ月程前の事よ。オルドランドの首都サリィで大事件が起きたのは知っているかしら?」
「現帝がムチーノ侯爵に襲われた事件ね」
頷くバヨネッタさんと俺。これにはオラコラさんも少し驚いていたが、俺たちは当事者なので、オラコラさんよりもこの事件に関しては詳しい。
「そう。その事件の影響で、オルドランドの西部は大混乱をきたしているのよ」
「それは何となく聞き及んでいるわ」
「オルドランド西部では、現在ムチーノ侯爵に与していた派閥貴族を一掃。全てお家取り潰しして、西部貴族の再編成を行っているの」
へえ。それは大変だな。
「再編成と言っても、西部は広大。編成は難航しているみたい」
貴族の利権なんかも絡んでくるだろうからなあ。
「更に悪い事に、ムチーノ派の貴族がこのゴタゴタに乗じて逃げ出した事よ」
「そっちの方が問題じゃない」
と返すバヨネッタさん。確かに、貴族にとっては領地の再編成は大事だが、平民にしてみれば、逃げ出した貴族たちが何か悪さするんじゃないか、って方が大問題だ。
「それで、今回町を襲ったのも、その落人貴族って事ですか?」
俺の質問に首肯するオラコラさん。
「軍は何をやっているのよ」
バヨネッタさんが吐き捨てるように言葉を放つ。
「軍も頑張ってはいるけれど、相手もさるものなのよ」
「飛竜ですね?」
「ええ。元々西部は飛竜の育成に力を入れていた地域。西部貴族は競うように飛竜を育てていた。つまり西部貴族は飛竜の扱いに長けていると言う訳」
厄介だなあ。
「逃げた貴族はどれ程いるの?」
「貴族とその郎党を合わせて五千人以上だそうよ」
どれだけ取り逃がしているんだよ。いや、それだけ西部貴族が強いと言う事か。今は北にも睨みを利かせないといけないから、北部から軍を持ってくる事も出来ないからなあ。対して西部貴族には生まれ育った地の利に飛竜、場合によっては領軍の抵抗まである訳で、帝国軍が攻めあぐねるのも分かるかも。
「それで困ったオルドランド軍から、オラコラに支援要請が来たって事?」
バヨネッタさんの問いに、しかしオラコラさんは首を左右に振るう。
「私のバックは公国よ」
公国。正確にはエルルランド公国。オルドランド帝国の西にある国の名である。
オルドランドに公爵家は存在しない。それは帝以外の帝室の血統は全員公国に行くからである。これは千年以上続く、かなり古くからの習わしであるそうだ。こうして帝の血統はエルルランド公国で育まれる。
逆に公国には貴族が存在しない。公国の領地を統べるのは全てオルドランド帝の血筋であるからだ。領主全員公爵と言う訳だ。位として上下がないので、様々な案件を決めるのも公爵たちによる合議制であるそうだ。政治的トップであるエルルランド公も三人いて、議会で一人のエルルランド公が賛成しても、他の二人が反対なら、その案件は通らないそうである。そんな公国が何故オルドランドの内政に干渉してきたのか。
「落人貴族たちが、オルドランドの領土を越えて、公国の土地も荒らすようになってきているのよ。だから公国の命を請けて、私がオルドランドとの折衝と落人貴族たちの討伐に乗り出しているの」
まあ、そんなところだろうと思いましたよ。
「そもそも、なんで公国に与しているのよ?」
とバヨネッタさん。確かに。バヨネッタさんとオラコラさんの話から、二人は公国の人間ではなく、魔女島と言う場所の出身のようだし。まあ、魔女島が公国にあるのなら話は別だが。その場合は他の魔女も出張ってきていてもおかしくない。
「ああ、それねえ。私の今の彼氏が、エルルランド公の一人なのよ」
「はあ!?」
なんじゃそりゃ!? バヨネッタさんと二人で驚いてしまった。
「つまり、彼氏にお願いされたから、隣国までやって来たって言うの?」
「そうとも言うわね」
バヨネッタさんの言葉に、ケロッと答えるオラコラさん。国家間レベルの大問題を、彼氏のおねだりだからと解決しようとする彼女。何と言うか話のレベルがちぐはぐだ。
「それで、どうかしら?」
とオラコラさんがバヨネッタさんに尋ねてきた。
「どうかしら、って?」
「私と手を組むって話よ」
そう言えばそんな話だった。
「手を組むって、具体的にどうしろと言うの?」
確かに、一人よりは二人、三人の方が探せる範囲は広くなるだろうけど、たかが知れているだろう。いや、軍の助力もあるか。
「まあ、私ならこの西部全域に台風を呼び寄せて、向こうを全滅させても良いんだけど、それだと被害が大き過ぎるじゃない?」
「そうね。あなたの魔法は細かい事に向いていないものね」
本当にやめて欲しい。オラコラさんが天災の魔女と呼ばれるのも分かる。他国でそんな暴れ方したら、オルドランド対魔女島の全面戦争になるぞ。それでもオラコラさんにバヨネッタさんクラスがいると考えると、戦争に勝つのが魔女島なんじゃないかと思えてくるな。
「それで、各地で暴れているこの落人貴族たちを、一ヶ所に集めて一網打尽にしようと思って」
「言いたい事は分かるけど、そんな事出来るの?」
とバヨネッタさんが尋ねる。出来れば最高の結果と言えるだろうけど、そんな都合の良い方法あるものだろうか?
「どうやら落人貴族たちは、ある人物を探して各地で暴れているみたいなの。だから、私たちが先にその人物を探し出して、「ここにいます」と噂を流せば、各地で暴れ回っている落人貴族たちも、そこに大集合。それを一網打尽にすれば良いと言う訳よ」
成程なあ。その人物って言うのがいったい何者なのか知らないが、余程恨みを買っているようだなあ。五千人から恨まれるとか、考えただけでゾッとする。
「それで、その人物って誰なの? 特徴とか名前とか分かっているの?」
「ええ。年の頃は十代後半、黒髪黒目で特徴のない顔立ち。体型はやや細みで、いつも上下一体の服を着ているそうよ」
へえ、こっちの世界で黒髪黒目は珍しいかも。そして俺と同じ年頃で上下一体の服…………ん?
「名前はハルアキ。自称『神の子』だそうよ」
そのまんま俺の事だった。うん。恨まれててもおかしくないや。
「天災の魔女とは名乗っていないのね」
とぼそりとバヨネッタさんが呟く。
「天災、ですか?」
そう言われれば、オラコラさんは黒雲を呼び、雷を落とし、竜巻まで発生させていた。
「ええ。オラコラは竜巻に雷、暴風雨に雹雪、日照りに果ては台風まで。どんな気象をも操るのよ。その実力は魔女の中でも最強クラスよ」
うわあ、敵に回したくないなあ。
「私その二つ名好きじゃないのよ」
オラコラさんはバヨネッタさんの説明に不服そうだ。
「そんな事より、今は私たちの追っている賊、竜騎士たちの話をしましょう」
「竜騎士、ねえ」
バヨネッタさんは腕を組み、オラコラさんに話を先に進めるように促す。
「気付いているでしょうけど、こいつらは元オルドランドの貴族よ」
まあ、そうだろうなあ。
「三、四ヶ月程前の事よ。オルドランドの首都サリィで大事件が起きたのは知っているかしら?」
「現帝がムチーノ侯爵に襲われた事件ね」
頷くバヨネッタさんと俺。これにはオラコラさんも少し驚いていたが、俺たちは当事者なので、オラコラさんよりもこの事件に関しては詳しい。
「そう。その事件の影響で、オルドランドの西部は大混乱をきたしているのよ」
「それは何となく聞き及んでいるわ」
「オルドランド西部では、現在ムチーノ侯爵に与していた派閥貴族を一掃。全てお家取り潰しして、西部貴族の再編成を行っているの」
へえ。それは大変だな。
「再編成と言っても、西部は広大。編成は難航しているみたい」
貴族の利権なんかも絡んでくるだろうからなあ。
「更に悪い事に、ムチーノ派の貴族がこのゴタゴタに乗じて逃げ出した事よ」
「そっちの方が問題じゃない」
と返すバヨネッタさん。確かに、貴族にとっては領地の再編成は大事だが、平民にしてみれば、逃げ出した貴族たちが何か悪さするんじゃないか、って方が大問題だ。
「それで、今回町を襲ったのも、その落人貴族って事ですか?」
俺の質問に首肯するオラコラさん。
「軍は何をやっているのよ」
バヨネッタさんが吐き捨てるように言葉を放つ。
「軍も頑張ってはいるけれど、相手もさるものなのよ」
「飛竜ですね?」
「ええ。元々西部は飛竜の育成に力を入れていた地域。西部貴族は競うように飛竜を育てていた。つまり西部貴族は飛竜の扱いに長けていると言う訳」
厄介だなあ。
「逃げた貴族はどれ程いるの?」
「貴族とその郎党を合わせて五千人以上だそうよ」
どれだけ取り逃がしているんだよ。いや、それだけ西部貴族が強いと言う事か。今は北にも睨みを利かせないといけないから、北部から軍を持ってくる事も出来ないからなあ。対して西部貴族には生まれ育った地の利に飛竜、場合によっては領軍の抵抗まである訳で、帝国軍が攻めあぐねるのも分かるかも。
「それで困ったオルドランド軍から、オラコラに支援要請が来たって事?」
バヨネッタさんの問いに、しかしオラコラさんは首を左右に振るう。
「私のバックは公国よ」
公国。正確にはエルルランド公国。オルドランド帝国の西にある国の名である。
オルドランドに公爵家は存在しない。それは帝以外の帝室の血統は全員公国に行くからである。これは千年以上続く、かなり古くからの習わしであるそうだ。こうして帝の血統はエルルランド公国で育まれる。
逆に公国には貴族が存在しない。公国の領地を統べるのは全てオルドランド帝の血筋であるからだ。領主全員公爵と言う訳だ。位として上下がないので、様々な案件を決めるのも公爵たちによる合議制であるそうだ。政治的トップであるエルルランド公も三人いて、議会で一人のエルルランド公が賛成しても、他の二人が反対なら、その案件は通らないそうである。そんな公国が何故オルドランドの内政に干渉してきたのか。
「落人貴族たちが、オルドランドの領土を越えて、公国の土地も荒らすようになってきているのよ。だから公国の命を請けて、私がオルドランドとの折衝と落人貴族たちの討伐に乗り出しているの」
まあ、そんなところだろうと思いましたよ。
「そもそも、なんで公国に与しているのよ?」
とバヨネッタさん。確かに。バヨネッタさんとオラコラさんの話から、二人は公国の人間ではなく、魔女島と言う場所の出身のようだし。まあ、魔女島が公国にあるのなら話は別だが。その場合は他の魔女も出張ってきていてもおかしくない。
「ああ、それねえ。私の今の彼氏が、エルルランド公の一人なのよ」
「はあ!?」
なんじゃそりゃ!? バヨネッタさんと二人で驚いてしまった。
「つまり、彼氏にお願いされたから、隣国までやって来たって言うの?」
「そうとも言うわね」
バヨネッタさんの言葉に、ケロッと答えるオラコラさん。国家間レベルの大問題を、彼氏のおねだりだからと解決しようとする彼女。何と言うか話のレベルがちぐはぐだ。
「それで、どうかしら?」
とオラコラさんがバヨネッタさんに尋ねてきた。
「どうかしら、って?」
「私と手を組むって話よ」
そう言えばそんな話だった。
「手を組むって、具体的にどうしろと言うの?」
確かに、一人よりは二人、三人の方が探せる範囲は広くなるだろうけど、たかが知れているだろう。いや、軍の助力もあるか。
「まあ、私ならこの西部全域に台風を呼び寄せて、向こうを全滅させても良いんだけど、それだと被害が大き過ぎるじゃない?」
「そうね。あなたの魔法は細かい事に向いていないものね」
本当にやめて欲しい。オラコラさんが天災の魔女と呼ばれるのも分かる。他国でそんな暴れ方したら、オルドランド対魔女島の全面戦争になるぞ。それでもオラコラさんにバヨネッタさんクラスがいると考えると、戦争に勝つのが魔女島なんじゃないかと思えてくるな。
「それで、各地で暴れているこの落人貴族たちを、一ヶ所に集めて一網打尽にしようと思って」
「言いたい事は分かるけど、そんな事出来るの?」
とバヨネッタさんが尋ねる。出来れば最高の結果と言えるだろうけど、そんな都合の良い方法あるものだろうか?
「どうやら落人貴族たちは、ある人物を探して各地で暴れているみたいなの。だから、私たちが先にその人物を探し出して、「ここにいます」と噂を流せば、各地で暴れ回っている落人貴族たちも、そこに大集合。それを一網打尽にすれば良いと言う訳よ」
成程なあ。その人物って言うのがいったい何者なのか知らないが、余程恨みを買っているようだなあ。五千人から恨まれるとか、考えただけでゾッとする。
「それで、その人物って誰なの? 特徴とか名前とか分かっているの?」
「ええ。年の頃は十代後半、黒髪黒目で特徴のない顔立ち。体型はやや細みで、いつも上下一体の服を着ているそうよ」
へえ、こっちの世界で黒髪黒目は珍しいかも。そして俺と同じ年頃で上下一体の服…………ん?
「名前はハルアキ。自称『神の子』だそうよ」
そのまんま俺の事だった。うん。恨まれててもおかしくないや。
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