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「じゃあ結局家族バレしたのか」


 異世界の草原を襲い来る小ウサギに向かって、タカシが槍を突くが、小ウサギに簡単に避けられてしまう。それを俺がアニンを大鎌に変化させて屠る。


「まあ、ジョンポチ陛下御一行が我が家に来る事になった時点で、覚悟はしてたから、今更おたおたする事はなかったけどな」


「ふ~ん」


 タカシはそんな返事をしながら、横から現れた中型ネズミを槍で突く。が、またもタカシの攻撃は躱されてしまい、俺が大鎌で後処理をした。


「タカシ! マジメニ、ヤレ!」


 と後方からバヨネッタさんによる日本語の檄が飛んでくる。


「真面目にやってますよッ」


「クチゴタエ、スルナ!」


 拙い日本語だが、日本語の勉強を始めて、まだ一ヶ月と経っていないのにこれだけしゃべれるのが凄い。命令口調だけど。今まで、日本に多少興味があったっぽいバヨネッタさんが、本腰入れて日本語を勉強するようになったのは、実のところ、あの魔法少女アニメの影響が大きい。


 日本に来て魔法少女アニメに興味を持ったバヨネッタさんだったが、いかんせんキャラたちが何をしゃべっているのか、雰囲気しか分からなかった。当然だろう。今や全世界対応になっている動画配信サービスの字幕機能でも、流石にオルドランド語には対応していない。キャラが何をしゃべっているのか知りたければ、マスタック侯爵のように『言語翻訳』のギフトなりスキルを手に入れるか、自力で日本語を覚えるしかないのだ。


「タカシ! ヤルキガ、カンジラレナイゾ!」


 後方より檄を飛ばすバヨネッタさんに、


「そんな事言われても、俺は別に戦いたい訳じゃないんですよ」


 と文句を垂れるタカシだったが、


「クチゴタエ、スルナ!」


 バヨネッタさんの覚えたてでお気に入りの、「クチゴタエ、スルナ!」によって抑え込まれてしまう。


「コタロウヲ、ミナラエ!」


 と祖父江兄を指差すバヨネッタさん。その指し示す先では、祖父江兄の小太郎が、影狼たちで無双していた。


「良いなあ。俺も祝福の儀で戦闘系のスキルをお願いすれば良かった」


 それを見て愚痴をこぼすタカシだった。



 タカシの授かったスキルは『探知』だった。レベル一では半径十メートル程で様々なものを知覚出来る。例えば地形が鳥瞰図のように脳内に浮かぶとか、例えばその中に人が何人いるかだとか、それが知り合いなら、名前も脳内に浮かぶそうだ。


 だがまあ、レベル一である。出来る事もたかが知れている。バヨネッタさんの話では、『探知』のレベルを最高まで上げれば、この世界の果てで、アリがオシッコしているのも知覚出来るそうだ。なんじゃそりゃ? って感じだが、それが真実なら凄い事だ。


 タカシがこのスキルを願ったのには、至極真っ当な理由があった。それはまだ見ぬ美女との出会いを求めて…………な訳なく、勇者と魔王を探知する為だ。


 勇者と魔王。勇者はシンヤで決定だろうから、俺たちが知りたいのは、魔王がトモノリかと言う事だ。だからと言って、危険な魔王の根城に乗り込む勇気はない。なので『探知』なのだろう。これなら離れた場所からでもシンヤやトモノリのいる場所を探知出来る。はずだったのだが。


『探知』レベル一で出来るのは、せいぜいが半径十メートル程の探知。タカシは『探知』のレベルを上げる為に、やりたくもない魔物退治なんてものをしていたのだった。魔物と戦うのが怖いから『探知』のスキルを手に入れたのに、『探知』のレベルを上げる為には魔物と戦わなければならないなんて、本末転倒であった。


「しかしタカシに、真面目に友人たちの行方を探すような情があったとはな」


「俺は逆に何でハルアキは今までシンヤやトモノリたちを探そうとしていないのか、の方が信じられねえよ」


 と憮然とした視線を俺へ向けるタカシ。そう言われてもなあ。まるで俺が人でなしのようだ。


「で、その発言はどの女の子の影響なの?」


 俺の言葉に、ニヒャリと笑うタカシ。


「バレた?」


「お前がそんな事言うやつじゃない事くらい、長年の友達付き合いで十分理解しているよ」


「いやあ、ユヅキさんにこの間ガツンと言われちゃってさあ?」


 とタカシは恥ずかしそうに頬を掻く。


「ユヅキさん?」


「ほら、良く俺を車で送り迎えしてくれている」


 ああ、あの人か。確かタカシの骨折を治そうと、ヌーサンス島の崖下でタカシをレベルアップさせる為に、車で俺ん家まで送ってくれた人だ。しかしなんだな、『魅了』のスキルを持っている癖に、魅了した相手に影響されるなんて、なんともタカシらしい。


 そんなタカシは、影で出来た狼たちを従わせて、俺たち一行を襲ってくる魔物たちを次々と蹴散らす祖父江兄を羨ましそうに、そして恨めしそうに見ていた。


「別に祖父江兄だって、勿論俺だって、戦闘系のスキルじゃないぞ」


 俺の言葉に、タカシは嘆息する。


「はあ。それはそうなんだけどさあ」


 俺まで恨めしそうに見るんじゃない。



 祖父江兄のスキルは、ダッシュと言うものだ。走るダッシュではなく『奪取』である。英語でスナッチ。相手のスキルを奪うスキル。それが祖父江兄の『奪取』である。強スキルではあるが、無制限に使えるものではない。まあ、こんなスキルを無制限に使われては、この世界の人たちもたまったものじゃないだろう。


『奪取』は五レベル毎に一つのスキルを相手から奪い、自分のスキルとして使用出来ると言う強スキルだ。現在祖父江兄はレベル十二で、三つのスキルを奪取出来る。何故三つ? と思うだろうが、レベル一で一つ奪取出来るからだ。


「なんて言うか、祖父江兄、忍者って言うか、強盗か何かなんじゃ?」


 と口を滑らせるタカシに、祖父江兄が影狼の一頭を差し向けてくる。聞こえているとのアピールだ。逃げ回るタカシ。追い掛ける影狼。平和だなあ。


「小太郎くん、その辺にしておきなよ」


 俺が注意すると、パン。と祖父江兄は両手を叩き影狼を消した。


「全く、人が真面目にレベル上げしているって言うのに、前田め」


 そう言いながら祖父江兄は自身の『空間庫』からスポーツドリンクを取り出してゴクゴクと飲んでいた。


 影から作られた狼たちに『空間庫』、祖父江兄が誰を相手に『奪取』を使ったのかが分かる。アンゲルスタも、スキルのなくなったテロリストたちを返還されても扱いに困るだろうなあ。


 アンゲルスタはいちいち特殊留置所に攻撃を仕掛けてくるので、日本としては面倒臭くなってしまい、逮捕したテロリストたちをアンゲルスタに返還する事にした。しかしただで返すのも癪である。そこで役に立ったのが祖父江兄の『奪取』だ。


 たった三つじゃないか? と不思議だろうが、当然からくりがある。それは『奪取』で取得したスキルを破棄する。のではない。『奪取』で取得したスキルを、他の物に移すのだ。


 どう言う事か? 実はこの『奪取』。異世界では少数ながら需要は高い。それはスキル屋で使われているからだ。スキル屋にスキルを売りに行った人間は、『奪取』によってスキルを奪われ、スキル屋はその取得したスキルを、魔法陣の描かれた用紙に封印するのだ。ここから更にその奪取したスキルを別の人に移すには、また魔法が必要になってくるのだが、祖父江兄はここら辺一連の諸々をきっちり学習していた。流石である。


 そんな訳で祖父江兄の活躍があってテロリストたちはスキルが使えない無能へと成り下がり、アンゲルスタへと返還されたのだった。


 しかし、己の為、桂木の為にスキルアップ、レベルアップを目指す祖父江兄と、女性にちょっと上手い事を言われてその気になったけど、いざとなるとヘタれるタカシ。対照的な二人だなあ。

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