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寝耳に水
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ジョンポチ陛下たちオルドランド御一行が日本にやって来てから一週間が経った。俺はいつものように放課後にクドウ商会にやって来て、パソコンで首相の定例記者会見のライブ中継を観ていた。俺だけでなく、クドウ商会の社員スタッフ皆観ている。
高橋首相が様々なマスメディアと質疑応答を繰り返しながら、現在進行している案件を話していく。質疑応答が盛り上がる話題もあれば、記者たちがスルーするような話題もある。その中にオルドランドと国交を結ぶと言う案件を盛り込んでみたのだ。
「ええ、日本国はこの程、オルドランド国と国交を結ぶ事となりました」
高橋首相の言を、会見に来た記者たちはスルーした。オルドランドなんて国名、誰も聞いた事なかったからだ。恐らく自分たちが知らない小国家だと思われたのだろう。こうしてオルドランドとの国交締結は、暗にマスメディアや国民たちに無視される形で進行するかと思われた。それならそれで良かった。
「すみません。オルドランドとはどこにある国なのでしょうか?」
会見が次の案件に移ろうかと言う瞬間だった。高橋首相にそう尋ねたのは、SNSで政治や社会問題などを配信している会社だった。女性記者が手元のスマホを見ながら尋ねていたので、恐らくライブ中継を観ている視聴者から、「オルドランドってどこ?」とツッコミが入ったのだろう。
「オルドランドとは、モーハルドと同じ異世界にある国家です」
当然、記者から質問される事も想定していた首相は、冷静に、粛々と記者の質問に返答した。
会見場が静止画になったかのように凍り付いた後、場がざわついた。それはそうだろう。地球上のどこかの小国家だと思っていたオルドランドは、今や世界的注目の的である異世界の国家だったのだから。
その後の首相会見は、時間いっぱいオルドランドの話題で持ち切りとなった。
「どのような経緯で、モーハルド以外の異世界の国と国交を結ぶ事になったのですか?」
「桂木氏が率いる異世界調査隊がモーハルドと懇意となった事で、日本は異世界にも徐々にその名を知られる事になりました。その中で、幸運にもオルドランドと接触する機会を得て、今回国交を結ぶ運びとなりました」
「それは、桂木氏以外にも、日本には異世界に転移出来る人物が存在した。と言う事でしょうか?」
「それについてはお答え出来ませんが、オルドランドと国交を結ぶ事となり、日本、オルドランド両国で、異世界転移するスキルである『超空間転移』のスキル持ちを、八名ずつ確保する事が出来ました」
「おお~~!!」と記者たちから驚きの声が上がる。異世界に興味はあれど、現在、異世界に行くには桂木に頭を下げ、高い金額を払う以外に方法がなかったからだ。他のルートも確保したかった地球側だったが、モーハルドがそれを許さなかった。桂木はそう言った意味で、マスメディアから相当額のお金を振り込まれていた訳だが、今回、日本が八名の『超空間転移』スキル持ちを確保した事で、他のルートが開通された訳で、桂木の一人勝ち状態は瓦解した事になる。
まあ、これに関しては桂木も了承済みだった。異世界転移で自分に入ってくる金額より、転移に関わる諸々の面倒事の方が上回っていたようだ。それに今回異世界調査隊からクドウ商会に送り込まれた人間の中で、祖父江妹こと、祖父江百香と他二人、計三人が『超空間転移』のスキルを獲得出来たのも大きい。
今回、これだけ早く国交締結の話題をマスメディアに流したのには理由がある。アンゲルスタだ。あの国がどのような行動を取ってくるか分からない為に先手を打った。
メディアの扱いに不慣れな日本政府では、アンゲルスタが裏から手を回し、下手にどこかからリークされてマスメディアの晒し者になろうものなら、オルドランドとの国交締結に亀裂が入りかねない。それならば自分たちの方から早めに情報開示してしまおう。との今回の判断である。
そんな訳で今回の会見で首相が読んでいる原稿を、俺たちクドウ商会で用意した訳だが、大変だった。様々なマスメディアからの質問を想定して、予め回答を用意しておくのだ。それでも答えきれない場合も考えて、高橋首相にはイヤホンを付けてもらい、こちらで何を話すべきか話さないべきか、現場で七町さんが伝えている。
「では、今回の記者会見を終わります」
いつもより一時間長い会見が終わり、この話題は世界中を駆け巡った。この日だけで世界中、日本中から質問の電話やメール、DMが日本政府に押し寄せ、回線はパンク。一時どの回線も繋がらなくなった程である。
クドウ商会から家に帰ってからも、話題の中心はオルドランドの話で、皆で夕飯を食べている間、カナなんかは、オルドランドってどんな国なんだろう。とか、行ってみたい。とか、私が大人になる頃には自由に異世界と行き来出来る時代になっている。とか、食事かしゃべるかどっちかにしろ。と思うくらいに良く口が動いていた。
翌日。学校に行っても話題はオルドランドだった。回線がパンクした事で情報が得られず、オルドランドの情報に飢えていた世界中の人々の為に、朝、高橋首相がもう一度軽く会見をしたからだ。
そこでは俺がこれまでにオルドランド国内で撮ってきたスマホの写真や動画のスクショが使われ、どのような国か、軽く説明が行われた。これらが世に出た事で、オルドランドと言う国が眉唾でない事が保証されると思っていたが、サリィのスクショが問題になった。
逆さ亀サリィはとてもファンタジーしていたが、逆にそれが嘘臭さを醸し出してしまったようだ。空中に浮かぶ都市は、それだけ魅力的ではあるが、地球人の常識を超えていた。ネットでは、これぞ異世界! と歓迎する勢力と、あれは流石に嘘。とオルドランドと言う存在自体を怪しむ勢力に二分されたのだ。
そうして最初の首相会見から翌々日、世界各国からの記者、百名以上を引き連れ、日本政府主導で、オルドランドの首都サリィへ赴く事となったのだった。
それはたった一時間の弾丸取材であったが、サリィの北東駐屯地に転移してきた取材陣は、そこで直ぐ様飛竜に乗せられ、逆さ亀サリィの全容を見せられる事となる。
地球側からしたら、それだけで十分な撮れ高だったらしく、その日から各メディアでその映像や静止画を見ない日はない。そしてそれは日本がオルドランドと国交を結ぶ事を良しとする方向へと、日本国民の意識を向かわせ、十月には国交締結が正式なものとして日本政府から発表される事となった。
高橋首相が様々なマスメディアと質疑応答を繰り返しながら、現在進行している案件を話していく。質疑応答が盛り上がる話題もあれば、記者たちがスルーするような話題もある。その中にオルドランドと国交を結ぶと言う案件を盛り込んでみたのだ。
「ええ、日本国はこの程、オルドランド国と国交を結ぶ事となりました」
高橋首相の言を、会見に来た記者たちはスルーした。オルドランドなんて国名、誰も聞いた事なかったからだ。恐らく自分たちが知らない小国家だと思われたのだろう。こうしてオルドランドとの国交締結は、暗にマスメディアや国民たちに無視される形で進行するかと思われた。それならそれで良かった。
「すみません。オルドランドとはどこにある国なのでしょうか?」
会見が次の案件に移ろうかと言う瞬間だった。高橋首相にそう尋ねたのは、SNSで政治や社会問題などを配信している会社だった。女性記者が手元のスマホを見ながら尋ねていたので、恐らくライブ中継を観ている視聴者から、「オルドランドってどこ?」とツッコミが入ったのだろう。
「オルドランドとは、モーハルドと同じ異世界にある国家です」
当然、記者から質問される事も想定していた首相は、冷静に、粛々と記者の質問に返答した。
会見場が静止画になったかのように凍り付いた後、場がざわついた。それはそうだろう。地球上のどこかの小国家だと思っていたオルドランドは、今や世界的注目の的である異世界の国家だったのだから。
その後の首相会見は、時間いっぱいオルドランドの話題で持ち切りとなった。
「どのような経緯で、モーハルド以外の異世界の国と国交を結ぶ事になったのですか?」
「桂木氏が率いる異世界調査隊がモーハルドと懇意となった事で、日本は異世界にも徐々にその名を知られる事になりました。その中で、幸運にもオルドランドと接触する機会を得て、今回国交を結ぶ運びとなりました」
「それは、桂木氏以外にも、日本には異世界に転移出来る人物が存在した。と言う事でしょうか?」
「それについてはお答え出来ませんが、オルドランドと国交を結ぶ事となり、日本、オルドランド両国で、異世界転移するスキルである『超空間転移』のスキル持ちを、八名ずつ確保する事が出来ました」
「おお~~!!」と記者たちから驚きの声が上がる。異世界に興味はあれど、現在、異世界に行くには桂木に頭を下げ、高い金額を払う以外に方法がなかったからだ。他のルートも確保したかった地球側だったが、モーハルドがそれを許さなかった。桂木はそう言った意味で、マスメディアから相当額のお金を振り込まれていた訳だが、今回、日本が八名の『超空間転移』スキル持ちを確保した事で、他のルートが開通された訳で、桂木の一人勝ち状態は瓦解した事になる。
まあ、これに関しては桂木も了承済みだった。異世界転移で自分に入ってくる金額より、転移に関わる諸々の面倒事の方が上回っていたようだ。それに今回異世界調査隊からクドウ商会に送り込まれた人間の中で、祖父江妹こと、祖父江百香と他二人、計三人が『超空間転移』のスキルを獲得出来たのも大きい。
今回、これだけ早く国交締結の話題をマスメディアに流したのには理由がある。アンゲルスタだ。あの国がどのような行動を取ってくるか分からない為に先手を打った。
メディアの扱いに不慣れな日本政府では、アンゲルスタが裏から手を回し、下手にどこかからリークされてマスメディアの晒し者になろうものなら、オルドランドとの国交締結に亀裂が入りかねない。それならば自分たちの方から早めに情報開示してしまおう。との今回の判断である。
そんな訳で今回の会見で首相が読んでいる原稿を、俺たちクドウ商会で用意した訳だが、大変だった。様々なマスメディアからの質問を想定して、予め回答を用意しておくのだ。それでも答えきれない場合も考えて、高橋首相にはイヤホンを付けてもらい、こちらで何を話すべきか話さないべきか、現場で七町さんが伝えている。
「では、今回の記者会見を終わります」
いつもより一時間長い会見が終わり、この話題は世界中を駆け巡った。この日だけで世界中、日本中から質問の電話やメール、DMが日本政府に押し寄せ、回線はパンク。一時どの回線も繋がらなくなった程である。
クドウ商会から家に帰ってからも、話題の中心はオルドランドの話で、皆で夕飯を食べている間、カナなんかは、オルドランドってどんな国なんだろう。とか、行ってみたい。とか、私が大人になる頃には自由に異世界と行き来出来る時代になっている。とか、食事かしゃべるかどっちかにしろ。と思うくらいに良く口が動いていた。
翌日。学校に行っても話題はオルドランドだった。回線がパンクした事で情報が得られず、オルドランドの情報に飢えていた世界中の人々の為に、朝、高橋首相がもう一度軽く会見をしたからだ。
そこでは俺がこれまでにオルドランド国内で撮ってきたスマホの写真や動画のスクショが使われ、どのような国か、軽く説明が行われた。これらが世に出た事で、オルドランドと言う国が眉唾でない事が保証されると思っていたが、サリィのスクショが問題になった。
逆さ亀サリィはとてもファンタジーしていたが、逆にそれが嘘臭さを醸し出してしまったようだ。空中に浮かぶ都市は、それだけ魅力的ではあるが、地球人の常識を超えていた。ネットでは、これぞ異世界! と歓迎する勢力と、あれは流石に嘘。とオルドランドと言う存在自体を怪しむ勢力に二分されたのだ。
そうして最初の首相会見から翌々日、世界各国からの記者、百名以上を引き連れ、日本政府主導で、オルドランドの首都サリィへ赴く事となったのだった。
それはたった一時間の弾丸取材であったが、サリィの北東駐屯地に転移してきた取材陣は、そこで直ぐ様飛竜に乗せられ、逆さ亀サリィの全容を見せられる事となる。
地球側からしたら、それだけで十分な撮れ高だったらしく、その日から各メディアでその映像や静止画を見ない日はない。そしてそれは日本がオルドランドと国交を結ぶ事を良しとする方向へと、日本国民の意識を向かわせ、十月には国交締結が正式なものとして日本政府から発表される事となった。
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