世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
158 / 639

家禽

しおりを挟む
「ハルアキはやはりズルいな。いつもこんなに美味しい料理を食べていたのか」


 食後にそんな話をしてくるジョンポチ陛下に、異世界集団が首肯する。余程唐揚げが舌にあったらしい。


「いや、別に毎日唐揚げ食べている訳じゃありませんよ」


 と言い訳しても聞く耳持ってくれない。


「あのカラアゲは我が国では作れないのかのう?」


「どうでしょうねえ。鶏って言う飛べない鳥を食用として飼育しているんですけど」


「ふむ。食用鳥なら南部で育てているな」


「南部で、ですか?」


 確かにサリィの周りは水麦の広大な穀倉地帯で、畜産などはしていなかったな。ビール川から離れる程畜産が盛んなのだろうか? いや、でもオルドランドの南部って海だよな?


「魚介じゃないんですか?」


「魚なら川でも捕れる」


「はあ」


 それは鳥ならどこでも捕れるのと同じなのでは?


「鳥は育てるのが難しいらしく、南部の家禽農家には、その知識が蓄えられているらしい。何でも南部でしか手に入らない飼料があるとか」


 とマスタック侯爵が教えてくれた。へえ。成程なあ。じゃあ他の地域で育てようにも南部から取り寄せになるから、飼料代が高くなっちゃうんだ。難しいところだ。


「鳥自体も美味かったが、味付けも抜群だったな」


 ソダル翁も満足の味だったらしい。


「醤油ですね。我が国独自の、豆から作った発酵調味料に漬けて、下味を付けているんです」


 うちは下味にニンニク増し増しなのでガツンとくる味付けが特徴なのだが、そう言う意味では、今日の唐揚げは漬け込みが足りなかった気がする。急な来客だったからなあ。


「ショーユ?」


 ディアンチュー嬢が首を傾げて尋ねてくる。


「魚醤の豆版みたいな調味料です」


「へえ」と全員が感心していた。今思ったが、向こうにも魚醤はあるんだな。


「調味料で言えば、異世界モノだと、マヨネーズが定番だよなあ」


 と俺はうっかり口を滑らせてしまった。


「マヨネーズ? 何だそれは? 美味しいのか?」


 耳聡いジョンポチ陛下に、問い詰められる。仕方ないので、冷蔵庫からマヨネーズを取り出して、皆に一口舐めてもらった。


「うむ。ただ酸味がある訳ではなく、まろやかなコクがあるな。美味しい」


 とジョンポチ陛下も納得の味のようだ。


「卵と酢と油と塩って言う、とても簡単な材料で作れる調味料です」


 と俺が説明すると、今度は嘆息されてしまった。


「今度は卵か。それは鳥卵なのだろう?」


「ええ。生の卵の卵黄ですね」


 と返したところで気付いた。家禽農家が南部に集まっているなら、卵の産地も南部なのだろう。清潔さは浄化魔法で大丈夫だろうし、新鮮さは『空間庫』のお陰で問題ないだろうが、南部で調達するよりは、運送業者の運賃船賃などでサリィで入手すると高くなりそうだ。サリィの産業には出来そうにないか。それなら南部でマヨネーズまで加工した方が安く済む。海の近くなら塩も取れるだろうし。ん? もしかして家禽農家が南部に多いのって……、


「もしかしたら、家禽農家が南部に多いのは、鳥のエサに貝を使っているからかも知れません」


「貝を?」


 興味深そうな顔をするジョンポチ陛下。


「成程、鳥が貝を食べるのなら、海が近い南部で育てられているのも納得だな」


 と頷くマスタック侯爵。


「貝と言っても、身ではなく外の殻の方ですけど」


 全員に首を傾げられてしまった。


「要は炭酸カルシウム、石灰ですね」


「石灰を食べさせるのか?」


 と驚くマスタック侯爵。ジョンポチ陛下はピンときていないようだ。


「鳥の卵の殻も貝の殻と同じ成分で出来ていますから、これを食べさせないと、殻がふにゃふにゃな卵になってしまうんだそうです」


 この石灰、炭酸カルシウムは本当に大事らしく、だから海に囲まれた日本では、これらが豊富で、卵の生産がほぼ百パーセントであるそうだ。


「成程のう。だがそれが分かったところで、結局、海の近い南部でしか、鳥を育てられないと言うのが分かっただけじゃな」


 とジョンポチ陛下は少し残念そうだ。


「いえいえ、そこまで嘆かなくても良いかも知れませんよ」


 俺の言葉に、ジョンポチ陛下は疑わしそうながら、微かな希望を持った目をこちらへ向けてくる。


「その鍵を握るのはエビです」


「エビ?」


「サリィではエビが毎日大量に消費されていますよね?」


 首都サリィの住民たちがエビが大好きなのは、地元の食堂で食事をして把握している。川エビ美味しかったもんなあ。


「あれだけ大量に消費されると、殻のゴミも大量に出るんじゃないですか?」


「うむ。全部吸血神殿行きではあるが、サリィの面倒事の一つではあるな。……まさかその殻が?」


「はい。エビの殻も炭酸カルシウムが含まれていますから、貝の殻程ではなくても、結構な効果が出るかも知れません」


 顔を見合わせるジョンポチ陛下とマスタック侯爵。


「う~む。首都のゴミ問題を、畜産に転嫁させる形で解決させようとはな」


 とマスタック侯爵が唸る。そんな深く考えていた訳じゃないんですけどね。


「ただ。これをすると南部の家禽農家が怒り出しそうなので、そこら辺の塩梅はそちらで気を付けてください。あと、塩は採れないと思うので、やっぱり南部から輸入ですかねえ」


 俺の言葉に、ジョンポチ陛下とマスタック侯爵は深く頷く。


「塩は専属の塩業者から買い取っているが、もしマヨネーズをサリィで作る事になると、塩の購入量を増やさなくてはならなくなるのう。やはりマヨネーズを作るなら海沿いかのう」


 まあ、そうなるか。それでも国内で様々なものが賄えるのだから流石は大国である。


「何か難しそうな話してたみたいだけど、終わったなら遊ばない?」


 オルドランド語が分からないカナだったが、上手い具合に機を読んで口を挟んでくる。そこら辺の感覚は流石だ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

処理中です...